Angel Beats! ~First Love~   作:ナナシの新人

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Episode24 ~条件~

 登校前の早朝に訪ねて来た、(かなで)さん。

 ひとまず、部屋に上がって待っていてもらう。寮内に設置されている、部屋から一番近い自販機で二人分の飲み物を買って戻り、話を聞く事にした。

 

「それで、お話しとはなんでしょうか?」

結弦(ゆづる)のこと」

「ゆづるさん?」

 

 初めて聞く名前に疑問系で聞き返したの見て、(かなで)さんは分かるように言い直した。

 

「えっと、音無(おとなし)くん」

「ああ~、SSS(スリーエス)の」

 

 音無(おとなし)さんの下は、結弦(ゆづる)と言う名前んですね。

 しかし、下の名前で呼ぶだなんて知らない間に、二人の仲は進展しているみたい。お節介の甲斐があったっということでしょうか。

 

「その音無(おとなし)さんが、どうかしたんですか?」

音無(おとなし)くんの話を聞いて欲しいの」

「あたしにですか?」

「うん。音無(おとなし)くんの話を聞いてもらって、奈緒(なお)の意見を聞きたい」

 

 正直、何の話しか想像もつかない。

 ただ、(かなで)さんが、ここまで言うということは何か重大な案件であることは間違いないと思う。

 

「わかりました。いいですよ」

「ありがとう。じゃあ、お昼に時間もらえるかしら?」

「はい。場所は......そうですね、報道部の部室でいかがでしょうか。部室なら誰も来ませんし、気兼ねなく話せます」

 

 提案に、(かなで)さんは頷いた。

 その後、人もまばらな食堂で、朝ご飯を食べて教室へ登校。

 午前の授業を終え、お昼は売店でサンドイッチとジュースを買い、部室で(かなで)さんと音無(おとなし)さんを待つ間に部室で済ませた。

 そして、約束の時間ちょうどに部室のドアがノックされる。

 

「どうぞー」

 

 声をかけると、静かにドアが開いた。

 

「お邪魔するわ」

 

 先に入ってきたのは、(かなで)さん。

 彼女のあとに続いて、音無(おとなし)さんも部室に入る。

 音無(おとなし)さんは、どこか緊張した様子で表情も固い。

 

「いらっしゃいませ。テキトーに座ってください」

 

 私の正面に、(かなで)さん。彼女の隣に音無(おとなし)さんが座り、長テーブルを挟んで対面する形で話し合いの準備が調った。

 昼休みが終わるまで、あと40分弱。移動時間を考えれば30分ほど、あまり時間はない。私はさっそく、用件を聞く。

 

「では、さっそく始めましょう。それで、お話しとはなんでしょうか?」

結弦(ゆづる)

「あ、ああ。えっと......」

 

 (かなで)に促された音無(おとなし)さんは、私の顔色をうかがうように慎重に話し始めた。

 

「俺は、夢半ばで死んだ......」

 

 まあ、そうでしょうね。死後の世界に居る訳ですし、何かしらの未練や心残りがあるはず。しかし、音無(おとなし)さんの話しはこれで終わりではなく、「そう思ってた」と言葉を続けた。

 

「俺、ここに来た時、生きていた頃の記憶がなかったんだ。辛うじて覚えていたのは、苗字だけで。直井(なおい)の催眠術で、生前の記憶の一部を思い出して神を恨んだ。でも今朝、全部思い出したんだ。俺の夢は叶わなかったけど、俺の人生は......命は、きっと誰かの役に立てた――最期は報われていたんだ」

 

 ――う~ん......妙ですね。音無(おとなし)さんが本当に報われていたのなら、ここに来る理由はない。仮に記憶を失っていたから、死後の世界へ来てしまったと言うことであるのなら、一応辻褄は合いますけど。

 

「それで?」

 

 音無(おとなし)さんは(かなで)さんを見て頷いてから、私の目を真っ直ぐ見据えた。

 

「俺と同じ思いを、SSS(スリーエス)のみんなに知って欲しい。幸せな気持ちで、この学校から卒業して、次の新しい人生を生きて欲しいんだ」

 

 音無(おとなし)さんの考えを聞いた私は、右手を口元に持っていって目を閉じて深く考える。

 (かなで)さんが考えるには、ここは「生まれ変わる前にもう一度、 青春を謳歌(おうか)し直せる場所」。こんな世界でも、生前送ることが出来なかった当たり前の青春を過ごせるのなら......。

 目を開けて音無(おとなし)さんを見ると、部室に入ってきた時以上に緊張してる様に感じた。ひとつ息を吐いて答える。

 

「まあ、いいんじゃないっすか」

 

 肯定の言葉を聞いてか、安堵の表情を浮かべた。

 

「じゃあ、友利(ともり)も協力してくれ!」

「......具体的な方法は?」

「あいつらはみんな、心残りがあるからここに留まっている。だから、生前の未練を解消する手伝いをするんだ」

 

 この人、簡単に言いますね。それが、どれほど難しいことか。シンプル故に分かりやすいですけど、シンプル故に解決はとても困難な問題。

 

「なるほど、分かりました」

「よし! じゃあ、さっそく――」

 

 意気揚々と立ち上がろうとしたところを呼び止める。

 

「ただし、ひとつ条件があります」

「条件? なんだ......?」

 

 中腰だった音無(おとなし)さんは、椅子に座り直した。

 条件があると聞いた彼の表情(かお)は、少し険しい。

 

「とても単純なことです。本人の意思を確認し、同意を得ること。以上です」

「そ、それは......」

結弦(ゆづる)?」

 

 私の出した条件を聞いた途端、音無(おとなし)さんは俯いて黙り込んでしまった。心配する様に、(かなで)さんは横顔を見つめている。

 おそらく、音無(おとなし)さんは、私が提示した条件を飲めない。

 

「もし、あたしが知らない間に、あなたの行動で未練や心残りを解消出来たとしたら。最期は、あなたに感謝するかも知れません。ですが――」

 

 先日、この世界を去った山倉(やまくら)さんは、何年もの時を費やして自分の力で球技大会で初勝利を勝ち取り、思い人である岩沢(いわさわ)さんに告白した。その恋は叶わずとも、想いは届かずとも、とてもすっきりした顔で、この世界を去っていった。

 私はきっと、それが、この世界の正しい卒業のあり方なんだと思う。

 

「もし、自分の意思とは別のところで、他の誰かの勝手な意思で消されるのだとしたら、あたしは、嫌です。きっと、他の人も。当人の意思を確認せず、同意を得られないまま行おうと言うのなら、分かりますよね?」

「......ああ。直井(なおい)が催眠術で、ゆりを成仏させようとしたのと同じだ」

「そこまでとは言いませんけど。まあ、極端にいうとそういうことです」

 

 掛け時計を見る。

 私と(かなで)さんは、そろそろ移動しないと、午後の授業に間に合わない。いったん話を切り上げる。

 

音無(おとなし)さんの考えを否定はしません。ですが、条件を飲めないのなら協力も応援も出来ません」

「......少し考えてみる」

「はい。では今日は、これで。他言はしないんで安心してください」

「ああ、そうしてくれると助かるよ」

 

 席を立ち、部室を出て鍵を掛ける。

 

(かなで)、また放課後に話そう。じゃあな」

「うん、また放課後」

 

 音無(おとなし)さんは私たちに背を向け、廊下を歩いていく。私は(かなで)さんと、部室での続きを話しながら廊下を歩く。

 

(かなで)さんは、音無(おとなし)さんの手伝いをするんですよね?」

「......うん。奈緒(なお)は、反対?」

「さっきも言いましたけど、未練や心残りを解消するということに関しては理解できます。やり方さえ間違えなければですけど」

「どうすれば、いいと思う?」

「そうっすねー」

 

 (かなで)さんは分からないけど、音無(おとなし)さんはどうすればいいか、もう気づいているはず。だからこそ、私の出した条件を二つ返事で飲むことが出来なかったんだと思う。なぜならそれは、途轍もなく高い壁だから。

 

「みんなに考えを話して、ちゃんと理解してもらうこと。未練を解消したら、この世界から消えてしまうことも含めてです。そして――」

 

 そのためには、絶対に越えなければならない壁がある。

 

「一番最初に、ゆりさんに話すべきです。それ以外ないっしょ?」

「そうね。ゆりは、何て言うかしら?」

 

 SSS(スリーエス)は、ゆりさんの意思に基づき活動している。

 本気で彼らの未練を解消し、卒業させたいのなら個性の強いメンバーをまとめ上げ、導くほどの高いカリスマ性を持つリーダーであるゆりさんの協力が必要不可欠。

 彼女が首を縦に振らなければ、誰も音無(おとなし)さんの話しに耳を傾けない。となれば、ゆりさんの目を盗んで行動するしかない。しかし、それは造反とも取れる行為。

 

「正直、とても難しいと思います。それが分かってるから、あたしにだけに話しに来たんでしょ?」

「ちゃんと、ゆりに話してみるわ」

「それが良いと思います。あっ、そうだこれを」

 

 解答用紙すり替えの証拠が入ったファイルを、(かなで)さんに渡す。

 

「早ければ明日には、生徒会長に復帰出来ると思いますよ」

「うん、今から行ってくるわ」

「授業間に合いますか?」

「急げば、大丈夫。奈緒(なお)、ありがとう」

「どういたしまして」

 

 (かなで)さんはファイルを受け取ると、早足で階段を降りていった。

 そして、この日の放課後緊急の全校集会が開かれ、(かなで)さんの生徒会長復帰が正式に決まった。

 

 

           * * *

 

 

「ああ~っ、もうっ。肩こったわっ!」

「自業自得です」

「言い返せないのが、ムカつく......」

 

 夕食後、(かなで)さんがゆりさんを連れて、私の部屋を訪ねて来た。(かなで)さんが解答用紙すり替えの証拠を提出したことにより、失脚を企んだゆりさんたちSSS(スリーエス)の一部メンバーは放課後、生徒指導室で反省文を書くことになった。解放されたのは、つい先ほどのこと。

 (かなで)さんが天使で有るか否かの確信を得るためとはいえ、結果的に陥れた訳ですから自業自得ですけど。

 

「ゆり、お疲れさま。奈緒(なお)も、どうぞ」

「ありがと、(かなで)ちゃん」

「ありがとうございまーす」

 

 用意してくれた飲み物を受け取る。

 先日話し合った時と同じ形でテーブルに着くと、(かなで)さんは話を切り出した。内容は、昼に聞いた話し。未練を解消し、幸せな記憶を持って、この世界からの卒業を手助けする話し。

 

「ゆりは、どう思う?」

「......奈緒(なお)ちゃんは、どう答えたの?」

 

 ゆりさんは、私に答えを求めた。

 

「本人の意思を確認し、同意を得ること。出来ないのなら協力も応援も出来ないと答えました」

「そう......」

 

 目を閉じたゆりさんは、難しい顔で腕を組んだ。

 答えを出すことに迷っている。(かなで)さんは、神の使いである天使ではないし。昏睡状態から目を覚ましたのも好戦的な冷酷な天使ではなく、(かなで)さんだった。

 それはつまり、もう、SSS(スリーエス)が敵対する相手が居ないと言うことになると同時に、神への手がかりを失ったと言うことでもある。

 

「先ずは、音無(おとなし)くんと話してみる。それで、答えを出すわ」

「うん」

 

 無難な答え。でも、もしかしたら(かなで)さんの誤解を解く、良い機会なのかもしれない。

 

「ところで、(かなで)ちゃんは何で、あたしたちに話したの?」

「そうですね。反対される確率の方が遥かに高い訳ですし、冷酷な天使のフリをしてれば......」

 

 音無(おとなし)さんが内密に行動しても、カモフラージュ出来たはずと言おうとしたところを際切られた。

 

「だって、友だちだから」

 

 身を乗り出したゆりさんは、わしわしと(かなで)さんの頭を撫でた。(かなで)さんは、きょとんとした表情をしている。

 ――しっかし、こう面と向かってはっきり言われると少しハズいっすね。

 ゆりさんは座り直すと「さて本題の話を始めるわよ」と話題を変えた。

 

「それで、神についてだけど。何か情報はあるかしら?」

「ないわ」

「あたしも、特にありません」

「そうっ。はい、解散っ! って訳にもいかないわっ。なんでもいいの、何かないっ?」

「う~ん......」

 

 と、聞かれたものの。実在するかどうかもわからない神様を見つけ出すなんてこと――あっ、そうだ。神様と言えば......。

 ひとつ、疑問が思い浮かんだ。

 

「ここって、神社とか教会ってないんですか?」

 

 私が自分の足で散策した限り、神社、寺院、教会など宗教に関するような施設は見つけることは出来なかった。

 

「神社......教会? それよ、それだわっ。何で、そんなことに気が付かなかったのかしらっ。神様なんだから、神にまつわる場所を探せばいいんじゃないっ!」

(かなで)さんは、知っていますか?」

「う~ん......聞いたことも見たこともないわ。明日、先生に聞いてみる」

「お願いね、(かなで)ちゃんっ。明日から、本格的に忙しくなるわよっ!」

 

 こうして、実際に存在するかどうかも分からない。

 まさに雲を掴むような途方もない、神様探しが始まりを告げた。

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