Angel Beats! ~First Love~   作:ナナシの新人

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Episode25 ~決意~

 昼休み。大食堂は、いつもと同じように大勢の生徒たちであふれかえっていた。券売機で購入した食券をカウンターでご飯に替えて、空いているテーブルを探す。上に視線を向ける。二階は相変わらず、SSS(スリーエス)の生徒たちが占領していた。

 私も今は、SSS(スリーエス)のメンバーなんで行ってもいいんですが。あいにく今は、学園指定の制服を着ているため一階で空いている席を探すことに。運良く、すぐに見つかった空席にトレイを置いて、手を合わせる。

 

「いただきまーすっ」

 

 今日のメニューは、(かなで)さんイチオシの麻婆豆腐(マーボーどうふ)。噂では激辛で、お米なしでは食べられないそうなので、一緒にお米も用意した。

 レンゲで、すくって見る。白い豆腐まで真っ赤に染まっていて、見るからに辛そうなのが伝わって来る。頼んだことを後悔しそうになったが時既に遅し、意を決して口に運ぶ。

 

「よし......。あ、あーんっ」

「相席、いいかしら?」

「ん?」

 

 口に入る寸前のレンゲをお皿へ戻して、声の主を確認。

 トレイを持った、(かなで)さんだった。

 

「どうぞー」

「ありがとう。奈緒(なお)も、麻婆豆腐(マーボーどうふ)なのね」

 

 (かなで)さんは私の正面に座ると、目の前にある麻婆豆腐(マーボーどうふ)のお皿に食いついた。

 

「はい。(かなで)さんが、おいしいって言っていたので食べてみようかと」

「そう。どうだった?」

「これからっす」

 

 再びレンゲを持ち上げて、麻婆豆腐(マーボーどうふ)と対峙。改めて見ると、さっきの意気込みが揺らぎそうになる色と匂いを放っている。気合いを入れ直して、思い切ってレンゲを口に入れる。

 麻婆豆腐(マーボーどうふ)の見た目を裏切らない激辛っ! 確かに辛い、でも香辛料と挽き肉の脂がマッチしていて豆腐との相性も抜群。不思議と、クセになりそうな味付け。

 

「おいしいっす!」

「そう。奈緒(なお)にも気に入ってもらえてよかったわ」

「もう一口......っ!?」

 

 もう一口運ぼうと思ったら、猛烈な辛さが口の中に広がった。急いで水を飲む。

 

「ぷはぁ~......おいしいんすけど、あたしには、お米が無いと無理みたいです......」

「そう。......うまいわ」

 

 この激辛を、お米なしで食べれるなんて......しかも汗一つかいてないないし。私は素直に、麻婆豆腐丼にして食べることにした。

 

「ん?」

 

 気配を感じて振り向くと、いつかの様に遊佐(ゆさ)さんが立っている。そして、また目を丸くしていた。

 

遊佐(ゆさ)さん、用事ですか?」

「はい、ゆりっぺさんから伝言です。定例会議に参加してほしいとのことです。......そちらの天使も」

「私も?」

 

 無表情のまま(かなで)さんに一度目をやって、小さく頷いた。

 

「わかりました。伺います」

「お願いします。それでは、失礼します」

 

 遊佐(ゆさ)さんは、足音を立てずにすっと人混みに紛れて消えていく。

 しかし、私にだけではなく、(かなで)さんにも声が掛かると言うことは、音無(おとなし)さんの件である可能性が濃厚。

 

(かなで)さん、“guard(ガード)skill(スキル)”の方は?」

「とりあえず、“handsonic(ハンドソニック)”と“over(オーバー)drive(ドライブ)”は復旧したわ。他は、もう少し掛かりそう」

「そうっすか」

 

 ゆりさんから、変更後のログインパスワードを教えてもらったとは言え、新たにプログラミングし直すのは大変みたいですね。

 午後の授業を終え、部室へ向かい、ビデオカメラを持って聞き込みを行う。聞き込みの内容は、神社や教会の有無について。手当たり次第に十人ほどに聞いてみたところ、誰も知らないとのことだった。

 もしかしたら、郷土資料があるかもと思って図書館へ足を運ぶと。熊耳(くまがみ)さんが、図書館内のベンチに足を組んで雑誌を読んでいた。

 

熊耳(くまがみ)さん」

「ん? ああ、お前か。どうした?」

「お願いしたいことがありまして」

 

 図書館内の購買で売っている録音用のCDを渡して、「ZHIEND(ジエンド)」のアルバムの録音をお願いする。

 

岩沢(いわさわ)との約束は?」

「内緒でお願いしまーす。それに、そのアルバムなら問題無いと思います。今まで何度も聴いてますので」

 

 ここに来てから、何度も聴いた「ZHIEND(ジエンド)」のアルバム。事実、岩沢(いわさわ)さんと一緒に聴いた時は何も起こらなかったし、大丈夫だと想う。

 

「わかった。じゃあ、異変が起きたっていう新曲は除いて録音しておいてやる」

「はい、お願いしまーす。では、部室に戻りますので」

 

 図書館を出て部室に戻り、作業をしていた三人に用事があることを伝えて、普段よりも少し早めに部活動を早めに切り上げる。ビデオカメラを持ったまま、女子寮の自室へ戻ってSSS(スリーエス)の制服に着替えてから、(かなで)さんを迎えに彼女の部屋へ。部屋のドアをノックをすると返事はなく、待ち構えていたようにドアが開いた。

 

「じゃあ行きましょー」

「うん」

 

 二人で、SSS(スリーエス)の本部へ向かう。

 定例会議開始時間の17時ちょうどに、本部を構える校長室のドアの前に立つ。

 

神も仏も天使も無し(カミモホトケモテンシモナシ)

 

 合言葉を言う。すぐにカチッとトラップが解除された音がして、ゆりさんが出迎えてくれた。

 

「来たわね。いらっしゃい、二人とも」

「誰が来たんだ? ゆりっぺ......天使ッ!?」

 

 日向(ひなた)さんの言葉を聞いて「何ィ!?」「遂に本部(ここ)乗り込んで来やがったかッ!?」と、既に集合していたSSS(スリーエス)の幹部たちは、すぐさま臨戦体勢に入った。

 

「止めなさい。彼女は、あたしが呼んだの」

「どう言うことだよっ、ゆりっぺっ!?」

「だから、それを今から説明するのよ。わかったら、銃を下ろしなさい」

 

 臨戦態勢に入っていた幹部メンバーたちは、ゆりさんの命令を聞き入れて武器を下ろした。私は空いている、ソファーに座り。(かなで)さんは、ゆりさんの隣に立つ。武器は下ろしたものの、ピリピリとした緊張感が伝わってくる。

 

「さて、全員揃ったことだし、いつも通り定例会議を始めるわよ。高松(たかまつ)くん」

「はい。本日の報告ですが、緊急事態が発生しました」

 

 眼鏡をくいっと触り、神妙な表情(かお)で話し出した。

 

「戦線史上最大の危機と言えます。本部に、天使が襲来しました!」

「はい、報告ご苦労様。じゃあ説明するわ」

 

 ゆりさんは、高松(たかまつ)さんを簡単に流す。

 

「今日、ここに集まってもらったのは他でもない。今まで幾多の戦闘を繰り広げてきた“天使”について重大な報告がある」

「そっか。だから今日は、チャーも居るんだね」

「ええ、その通りよ。大山(おおやま)くん」

 

 ――チャーさん。地下で戦線の武器製造を引き受けているギルドを仕切ってる人。顔を動かして、本部内を見回すと。入り口付近の壁に寄りかかっているひげを蓄えた作業着姿の男性が居た。あと、遊佐(ゆさ)さんも居る。

 ゆりさんは、一人一人の顔を見てから、ゆっくりと話し出した。

 

「天使は、天使ではなく。あたしたちと同じように生前未練を残し、この死後の世界に来た魂を持った人間だったのよ」

 

 SSS(彼ら)にとってあまりにも唐突、かつ衝撃的な告白にまるで氷ついた様な沈黙が訪れる。

 

「何の冗談だ、ゆりっぺっ!?」

「そうだよっ、何度も刺されたんだよっ? 主に野田(のだ)くんがっ!」

 

 怒号に近い声が飛び交う。

 

「ゆり。どういう訳か説明してくれ」

 

 チャーさんが、冷静に聞いた。

 

「ええ、もちろん最初からそのつもりよ。(かなで)ちゃん」

「“handsonic(ハンドソニック)”」

 

 (かなで)さんの腕から、半透明の刃が出現した。

 威圧感のある刃に、メンバーの警戒心が一気に高まる。

 

「彼女の、この力。あたしたちは、神から与えられた能力(モノ)だと思っていた。けど、違ったのよ」

「どういう意味だよ?」

 

 戦線全員の意見を代表する形で、日向(ひなた)さんが聞く。

 

「この力は、プログラムされたものだった。“Angel(エンジェル)Prayer(プレイヤー)”、天使エリアへ侵入したメンバーは覚えてるわよね? 竹山(たけやま)くん」

「はい、僕が説明します。あと僕のことは、ク――」

「いいから、さっさと説明しろよ!」

 

 藤巻(ふじまき)さんから、野次が飛ぶ。竹山(たけやま)さんは渋々と「Angel(エンジェル)Prayer(プレイヤー)」についての説明を始めた。

 

「簡単に説明すると“Angel(エンジェル)Prayer(プレイヤー)”とは、プログラムを組む事で様々な能力を得ることが出来るソフトウェアです」

「――って、事は......」

「そう。つまり、彼女の“guard(ガード)skill(スキル)”は、神から与えられた能力(モノ)ではなく。そのソフトウェアで、自ら開発した能力(モノ)だったのよ。方法は違うけど、あたしたちが土くれから武器を作り出したのと同じようにね」

「マジかよ......。けど、だったら何で俺たちと対立する必要が有ったんだ?」

「彼女なりの理由があった。そうよね?」

 

 (かなで)さんは、問い掛けに頷いた。

 その理由は、生徒会長としての義務。ただ、それだけ。私は、(かなで)さん本人からそう聞いている。

 

「そういう訳で彼女は、天使じゃないわ。あたしは、彼女の生前の未練についても直接聞いた」

「ゆりっぺが言うなら、俺は信じる」

「わたしもだ」

 

 野田(のだ)さんと椎名(しいな)さんは、無条件でゆりさんを信用。他の幹部たちは、冷静に受け止められないでいた。

 

「俺は正直、まだ混乱してる。けど、人間だったとしても、今は狂暴な天使なんだろ? なあ? 音無(おとなし)

 

 日向(ひなた)さんが、音無(おとなし)さんに聞いた。

 そう。これが今、一番ネックになっている問題。

 昨日の朝、目覚めた(かなで)さんは、冷酷な天使の意識が勝ったと。音無(おとなし)さんが、SSS(スリーエス)に虚偽の報告してしまっている。

 

音無(おとなし)くん。今朝、あたしに話したあなたの想いを話なさい」

「......ああ。みんな、聞いてくれ」

 

 ゆりさんの隣に立ち。私に話したこと、同じ思いの丈をぶつけた。目覚めた(かなで)さんに、冷酷な天使を演じるよう頼んだことも含めてすべて。

 

「貴様ッ! 俺たちを消し去るのが目的だったのかッ!?」

音無(おとなし)、お前......」

「違うッ! 俺、友利(ともり)に言われて考えたんだ......。それで、わかった。最初にやろうとしたことは、俺の自己満足だったんだって――」

 

 音無(おとなし)さんは、罪悪感を感じたのかうつむいた。

 

「けど、今は違う!」

 

 顔を上げてた音無(おとなし)さんは、迷いの無い力強く真っ直ぐな眼差しを向ける。

 

「みんなに俺と同じ思いをして貰いたい。そして、みんなで一緒に、ここから卒業したいんだッ!」

音無(おとなし)の気持ちはわかる。仮にここから消えることになるなら、俺だってみんなで消えたいさ。けど、未練を、心残りを解消したら消えちまうんだろ?」

 

 日向(ひなた)さんの意見に音無(おとなし)さんは、首を横に振る。

 

「それは、わからない......。けど俺は、今もここに居る」

 

 確かに心残りが解消されている音無(おとなし)さんが、まだここに居るのは不可解。本来なら山倉(やまくら)さんの様に消えているはず――と言うことは......。

 

「新しい心残りが出来たんじゃないんすか?」

友利(ともり)?」

「生前の心残りが消えてもなお、ここに存在しているとなれば、新たに心残りが出来たと考えるのが自然かと」

「どうなんだ、音無(おとなし)?」

 

 日向(ひなた)さんの問いかけに、音無(おとなし)さんは目を閉じて考え込む。

 

「そうかも、しれない......。いや、そうだ。記憶を取り戻した時俺は、みんなにも幸せな想いを持って、ここから卒業してもらいたい。そう、心から思った!」

「なら、確定ね。それが、新しい未練よ。その想いが、あなたを死後の世界に縛り付けてる」

「じゃあ、みんなも心残りを解消しても、何か新しい心残りを見つけられれば――」

「消えずに残れるってことね」

 

 ざわつく本部内に「聞いてっ」と、ゆりさんの声が響き渡り、彼女に注目が集まる。

 

「もう、戦線が敵対する天使は居ない。唯一だった、神への手懸かりも完全に失われたわ。ここから先は、個々の判断に委ねる」

「お前は、どうする?」

 

 熊耳(くまがみ)さんが、ゆりさんに問いかけた。

 彼と私、(かなで)さん以外が、ゆりさんの答えを固唾を呑んで待っている。

 

「あたし? あたしは、本来の目的を遂行する。理不尽な人生を敷いた神を必ず見つけ出す。そのために(かなで)ちゃんが、協力を約束してくれたわ」

「うん」

「もう、ここから先は強制しない。今まで散々振り回しておいて、今さら自分で決めろだなんて身勝手にもほどがあるけど......」

 

 静まり返る、本部内。

 沈黙を破ったのは、日向(ひなた)さんだった。

 

「水くせえぜ、リーダー。俺たちから始まった戦線だろ? だから最初に、初期メンバーの俺たちに話したんだろ?」

日向(ひなた)くん......」

 

 カチャ、っとドアが開く音が聞こえた。チャーさんが、廊下に出ていた。彼の背中に向かって、大山(おおやま)さんが声をかける。

 

「チャー、行っちゃうの?」

「ああ。天使が人だったのなら、俺がやることは一つだ」

「戦線を抜けるのかよッ!?」

「そんなっ、待ってよっ」

 

 藤巻(ふじまき)さんと大山(おおやま)さんが呼び止める。振り向いたチャーさんは笑っていた。

 

「勘違いするな、神を倒す武器を作る。そこの元天使よりも遥かに強敵だろうからな。地下の連中には、俺から話して各々選ばせる」

「ええ、お願いするわ」

「ああ、じゃあな」

 

 そのまま、扉を閉しめる。

 

「他のみんなは......まだ決められないわよね。何日かかってもいいわ。誰の意見にも流されず、自分で考えて答えを出して。以上、解散っ!」

 

 ゆりさんの解散宣言。

 けど、誰も校長室を出ようとはしない。

 

「どうしたのよ? 解散よ」

「もう答えは決まってるっての。なあ?」

 

 みんな、チャーさんと同じように反応だった。

 ――ホント、スゴいリーダーっすね。この人。嫌われ者だった生前の私とは、まるで正反対。

 

「あんたたち......。音無(おとなし)くんの意見は、どうすんのよ?」

「ああ、それな。まあ、いいんじゃねぇか。もう、新しい心残りが出来ちまった訳だし」

「何よ、それ......?」

 

 ゆりさんは首をかしげて、日向(ひなた)さんに聞く。

 

「決まってんだろ? 神を見つけ出して、みんなで一緒に死後の世界(ここ)から卒業する。そうしなきゃ、ゆりっぺの未練も、音無(おとなし)の未練も解消出来ないんだろ?」

日向(ひなた)......」

日向(ひなた)くん。あなた、ほんとバカね......」

 

 ――ほんと......キザな台詞っすね。

 顔を上げたゆりさんは、キリッとした表情(かお)で両手を腰に添えた。

 

「これより、我々死んだ世界戦線は本格的に神探しを開始するっ! みんな、あたしについてきなさい!」

 

 改めて、決意を表明した。

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