Angel Beats! ~First Love~   作:ナナシの新人

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Episode27 ~仮説~

「何から始めますか?」

「そうね、先ずは草むしりから」

 

 第二連絡橋側の植物園。

 (かなで)さんが用意してくれた軍手と、お揃いの麦わら帽子を被った私は、花壇の手入れを始める。作業を開始して十分ほど、額に少し汗が滲んできた。時刻は既に16時回ってるとはいえ、まだまだ日は高い。麦わら帽子を被っていなかったら、きっと大変だった。用意してくれた(かなで)さんに感謝しつつ、作業を続ける。

 目に見える雑草を一通りむしり終えて、今度は水やり。園芸用のアタッチメントを取り付けたホースで、花壇の花々に水を撒いていると。奏さんが、花壇の隣にあるビニールハウスの撤去を始めた。

 

「片付けるんですか?」

「うん。来月から夏休みだから、夏らしい花を植えようと思って」

「そうっすか。水を撒き終えたら、手伝います」

「ありがとう」

 

 夏の厳しい日差しに負けない様に、たっぷり二回り水を撒いてホースを片付ける。フェイスタオルで汗を拭ってから、ビニールハウスの撤去を手伝う。

 (かなで)さんの反対側から脚立に乗って、止め金具を一つ一つ外して、ビニールを剥がしていく。続けて今度は、地中に埋まっているパイプを抜いていく。想像以上の重労働にも関わらず、(かなで)さんは涼しい顔をしていた。

 

「すごいっすね」

「なにが?」

 

 切りの良いところで、一時休憩。日陰のベンチに座って、自販機で買った冷茶で水分補給をしながら話す。

 

「ほら、結構奥深くまで刺さっていたじゃないですか。でも、簡単そうに作業してたんで」

「ああ......。私の“over(オーバー) drive(ドライブ)”は、パッシブだから」

 

 川釣りの時の超跳躍や、見た目とは裏腹の怪力は「Angel(エンジェル) Prayer(プレイヤー)」の賜物ということらしい。ほんと、便利なソフトウェアっすね。

 

「“Angel(エンジェル) Prayer(プレイヤー)”を使えば、あたしにも“guard(ガード) skill(スキル)”を発動したり出来るようになるんですか?」

 

 (かなで)さんは、首を横に振った。

 

奈緒(なお)は、データを編集出来ないから無理」

「ああ、なるほど」

 

 データ閲覧が不可だとイコールとして編集も出来ない。

 逆に言えば、データを閲覧可能な人は「Angel(エンジェル) Prayer(プレイヤー)」の恩恵を受けられるということ。

 

「さあ、そろそろ続きを始めましょう。急がないと、日が暮れてしまうわ」

「はい」

 

 ビニールハウスは、あと三つ。

 軍手を付け直して、二つ目の撤去に取りかかる。夕飯前に片付けられれば、いいんですが。

 

「おーい、お二人さーん!」

「ん?」

 

 声を掛けられて、脚立の上から振り返る。音無(おとなし)さんと日向(ひなた)さん、それと直井(なおい)さんの三人が、校舎の向こうから連絡橋を渡って来た。

 直井(なおい)さんが、何やら私に言いたげな表情(かお)をしている気がしますけど、無視しておきましょう。

 

「よっ」

 

 日向(ひなた)さんが、軽く手を上げる。

 

「どもっす」

「なにをしてるんだ?」

「ビニールハウスを片付けてるの」

 

 (かなで)さんが、質問に答えると「手伝おう」と音無(おとなし)さんが、手伝いを申し出てくれました。ここは素直にお言葉に甘えさせていただくことに。

 音無(おとなし)さんと日向(ひなた)さんが脚立に乗って留め具を外し、私たちが下で受け取る。残った直井(なおい)さんは脚立を支えている、音無(おとなし)さんの方だけを。

 

「手伝ってもらっておいてなんですが、未練解消の方はいいんですか?」

「ああ。実はもう、結構解決してるんだよ。(かなで)

「はい」

「そうそう、話しを聞いた内の半数くらいか? ほいっ」

「えっ?」

 

 放り投げられた金具を受け取る。

 ゆりさんが、天使や未練について話しをしたのが昨日、本格的な活動は今日から。それで既に半数近くの人の未練が解消しているとこにスゴいと思う半面、妙な不可解さを感じていると説明してくれた。

 

「それがさ。長年SSS(スリーエス)で過ごしていた間に、もう結構満足しちゃってるんだってよ」

「図らずも受け皿になってたって訳だなぁ、これが。さすが我らのリーダー様ってな」

 

 想像していた以上に、順調に進んでいる。

 となれば、あとは神。例え目標が一つになっても、それが一番の難題、先は長い。二つ目のビニールハウスの撤去が終わって、休憩。お礼に飲み物を奢って、このからの予定を聞く。

 

「そうだな。もう少し話しを聞いてから、定例会議に参加って感じだな」

「そうですか。そう言えば、日向(ひなた)さんの心残りは?」

「俺? 俺はもう、解消してるって」

「そうなんですか?」

「あれだよな。セカンドフライ」

「ああ。あれを取ってたら、たぶん消えてた」

 

 ――ああ~、あれですね。球技大会の決勝戦。

 日向(ひなた)さんのチームが、生徒会チーム相手に一点リードで迎えた九回裏ツーアウト。ランナー二・三塁、一打サヨナラの場面で最後のバッターを打ち取った、セカンドフライ。日向(ひなた)さんのグラブに収まる寸前、ユイさんがちょっかいを出して落球、サヨナラ負けを喫した。

 

「また、試合しないとな」

「いや、必要ないって。もう、いいんだ」

「そうなのか?」

「ああ......」

 

 穏やかな表情(かお)で笑う日向(ひなた)さんを見ていると。本当に、もう未練は解消しているんだって思えた。

 

「そうだ。ユイさんとは、どーなんすか~?」

「ユイ?」

「端から見てると結構、いい雰囲気に見えましたよ」

 

 ユイさんの取材に行く度に、二人で筋トレしたり、プロレス技を掛け合ったりと、いつもいちゃついていて取材出来る雰囲気じゃないですし。

 

「ユイねぇ......。ないな」

「ほんとっすか~?」

「意識したこともねぇーよ」

「なら、僕の催眠術で意識させてやろう。さぁ......僕の目を見るんだ」

「やめろ! 俺の純情な心を弄ぶなーっ!」

 

 ――あっ、逃げた。

 直井(なおい)さんの表情(かお)見る限り、悪意しか感じない。日向(ひなた)さんがユイさんに夢中になれば、音無(おとなし)さんと二人きりになれる、とか邪なことを考えてそうな表情(かお)

 

「なにやってんだか......。そうだ、友利(ともり)

「なんすか?」

熊耳(くまがみ)から伝言を預かってたんだ。18時に部室で待ってるってさ」

 

 熊耳(くまがみ)さんからの呼び出しは珍しいと言うより、初めて。もしかして「ZHIEND(ジエンド)」の録音が済んだんですかね。

 

「わかりました。ありがとうございまーす」

 

 腕時計を見る。今から行けば、ちょうどいい時間。麦わら帽子を脱いで、(かなで)さんに返す。

 

「帽子、ありがとうございました。部室へ行ってきます」

「うん、ごくろうさま。今日は、手伝ってくれてありがとう」

「いいえ。では、また」

「うん、また」

 

 四人と別れて、部室に向かっている途中ゆりさんと、第二連絡橋の真ん中で遭遇した。

 

「ゆりさん」

「あら、奈緒(なお)ちゃん。どこ行くの?」

「報道部の部室です」

「そう、じゃあ話ながら行きましょ」

 

 歩きながら結果を尋ねる。ゆりさんは黙りこんでしまった。様子から聞くまでもなく、結果を察することができる。

 ゆりさんの答えは、想像通り――。

 

竹山(たけやま)くんは、複数の解析プログラムを飛ばした。けど、何一つとして受け付けなかったわ」

「そうですか......」

 

 やはり、何か得体の知れない事態が、私にだけ起こっている。そのことを、確信させるような返事だった。

 

「でも、そこから二つの仮説を立てたわ」

「仮説ですか?」

「ええ。先ず一つ目は、最初から設定されていない」

「どういう意味っすか?」

「文字通り設定されていないのよ。だから、開いてもデータが存在しないからエラーが表示される。それなら、説明がつくわ」

「二つ目は?」

 

 何か思うことがあるのか、ゆりさんは少し言い難くそうにしている。

 

「......何者かの意思によって、あなただけが守られている」

 

 ――私を守る? 誰が、何のために? ケガも治らないのに守られているというのも違和感のある話しだと思いますけど。

 どちらにしても、ゆりさんの説明だと前者も後者もバグという可能性も否定できない。

 

「バグの可能性は?」

「最初に考えた。現時点では、何も見つかっていないわ」

「そうですか」

 

 大きく息を吐いて、「引き続き調べてみるわ」と言ったゆりさんは、くるりと踵を返した。

 

「さてと。じゃあ先に、晩ご飯行ってくるから。また後でね」

「はい、ありがとうございました」

 

 来た道を戻って行くゆりさんを見送り。歩きながら考える。一体何が私の身に起こっているのか。考えれば考えるほど分からなくなった。

 ――底なしの沼へ足を踏み込んでいる、そんな気分ですね。さて、部室へ急ぎますか。少し急ぎ足で、部室に向かった。

 

「お待たせしました」

「いや、今来たところだ。頼まれていた物だ」

「ありがとうございます!」

 

 熊耳(くまがみ)さんに渡されたのは、先日お願いしていた録音用のCD。

 

「嬉しそうだな」

「それは、もうっ」

 

 表情(かお)に出てたみたい。気をつけないと。

 

「で、お前、どうやって聴くんだ?」

「ふふーんっ。実は、ゆりさんにノーパソを貰ったんです!」

 

 告知ライブの編集に使った代物。ディスクドライブが標準装備されているため問題なし。

 

「そうか。じゃあ、俺は行く」

 

 椅子から立ち上がった熊耳(くまがみ)さんを「あっ、ちょっと待ってください」と呼び止める。

 

「どうした?」

「聞きたいことがありまして」

 

 熊耳(くまがみ)さんは、座り直した。私は彼の正面に座って、話しを切り出す。

 

「特殊能力とは、いったい何なんですか?」

隼翼(しゅんすけ)から聞いているだろ? 思春期にだけ発病する、一種の病気の様なモノだ」

「それは聞きました。発病の原因は分からないんですか?」

 

 熊耳(くまがみ)さんは頬杖を突いてから、ゆっくりと真実を話してくれた。

 特殊能力は、ある長期彗星によりもたらされたモノ。

 その彗星は、ある一定の周期で地球に近づく度に、粒子を振り撒く。その粒子は、体の奥に入り込み眠りにつく。そして、思春期の多感な時期に反応して、不思議な力をもたらし思春期を過ぎると力を失う。

 

 その長期彗星の名は――Charlotte(シャーロット)彗星。

 

「それが、組織の科学者が導き出した答えだ」

「そんなことが......」

「だが組織は、能力の発病を抑え込む薬の開発に成功した。発病していない能力者に投与することで、有効に働くことが証明されている」

「じゃあ、もう......」

 

 ――私たちの様な特殊能力者が、科学者の犠牲になる世界は......。

 

「ああ。時間は掛かるが、もう終わる」

「そうですか。よかった......」

 

 本当に、終わるんだ。じゃあ後は......。

 俯いていた顔を上げて熊耳(くまがみ)さんを見る。

 

「もうひとつ聞かせてください。熊耳(くまがみ)さんの心残りは?」

「......特に、思い当たらない」

「えっ? いや、そんなわけないっしょ?」

 

 死後の世界に居る訳ですし、何かしらの未練はあるハズ。

 それは、データを閲覧不能な私と、他のみんなとの唯一の共通点でもある。

 

「正直、裏の世界で生きていたからな。いつ死んでも仕方ないという覚悟は出来ていた」

「う~ん......」

 

 ――いわれてみれば、そうかもですね。

 けど、ならどうして? 謎は深まるばかり。

 

「もういいか? そろそろ飯に行くぞ」

「あっ、あたしも行きまーす」

 

 食堂へ移動する間も話してみましたが。結局、熊耳(くまがみ)さんの未練は解らず終いだった。

 いつものように食堂で晩ご飯を食べて。私の部屋でゆりさん、(かなで)さんと進行状況を報告し合ってから、一緒にお風呂へ。

 部屋に戻った私は、ノートパソコンのドライブに、録音してもらったCDをセットして再生ボタンを押す。スピーカーから流れる「ZHIEND(ジエンド)」の楽曲を聴きいていると、熊耳(くまがみ)さんの心残りについて、ある可能性が頭を過った。

 

 もし、本当に心残りが無いのなら。

 私が、彼を呼んだのかも知れない。私の心残りである――兄のことを安心させてくれる、その為に。

 

 この、死後の世界へ。

 

 そうでなければ、来る時期も、時代もバラバラなこの世界で出会える可能性は、ゼロに等しいですから。

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