Angel Beats! ~First Love~   作:ナナシの新人

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Episode28 ~演奏~

 今日は休日、時間を気にせずに眠っていられるはずが、妙な寝苦しさで、普段よりも早い時間に目が覚めてしまった。額には、べっとりとした寝汗。

 ――うわぁ......下着も。

 襟を引っ張ってみると、胸元や下着まで湿っていた。

 ベットを降りて、着替えを用意し、自室に備え付けのシャワールームで汗を流す。

 

『はぁ......』

 

 少し低めに設定した水温のシャワーが、寝起きの気だるい身体を冷ましてくれた。バスタオルで、身体に付いた水滴を拭き取り、下着を身に付ける。

 そのまま痛まないように髪をふいていると、部屋のドアがノックされた。

 

「ん? はーいっ」

 

 急いでキャミソールとスカートを履いて、まだ濡れている頭にタオルを巻き付け、玄関のドアを開く。来客は、ゆりさんだった。

 

「おはよう。お風呂、入ってたの?」

「おはようございまーす。少し寝苦しかったので」

「昨夜、蒸し暑かったもんね」

 

 とりあえず、上がってもらう。

 ゆりさんは部屋の奥には行かずに、シャワールーム入っていった。脱衣所に用意しておいたドライヤーを持ってくると、ぽんぽんっと軽く勉強机の椅子を叩いて、私を呼ぶ。

 

「ここ座って、乾かしてあげる」

「ありがとーございまーす」

 

 お礼を言って、椅子に座る。ドライヤーの熱風が髪をなびかせながら徐々に濡れた髪が乾いていくのを感じる。

 

奈緒(なお)ちゃんの髪、ふわふわね。巻いてるの?」

「いえ、癖っ毛です」

「へぇ、ナチュラルウェーブなのね」

「ゆりさんや(かなで)さんみたいに、キレイだったらよかったんですけど」

「そう? あたしは好きよ。あなたの髪」

 

 (かなで)さんにも、前に同じようなことを言われた気がする。

 

「それで今日は、どうしたんですか?」

「戦線の食券が、不足ぎみなの。それで今夜、トルネードを決行することにした」

 

 ――オペレーショントルネード。食堂で、生徒から食券を巻き上げるアレですね。

 

「そこであなたに、(かなで)ちゃんの足止めを頼みたいの。生徒会長に復帰したからには、黙って見過ごすにはいかないでしょ? 立場的に」

「まあ、いいっすけど」

「ありがと、よろしくね」

 

 ドライヤーの風を冷風に切り替えて、優しく髪を手ぐしで整えてくれる。火照った髪に、とても心地良い。

 

「ひとつ聞いてもいいっすか?」

「なーに?」

「どうして、食券を巻き上げるんですか? 奨学金がありますよね」

「......それはね。戦線の理念よっ!」

 

 ゆりさんが提唱する、死んだ世界戦線の理念。

 生前、理不尽な人生を敷いた神への復讐を掲げる死んだ戦線。生徒に用意された奨学金は、その神のほどこしを受けることになるとの理由で。自動的にではなく、能動的に動いて必要な物を手に入れる、を信念しているそうですが。けど、それは――。

 

「下着とか、必需品は?」

「もちろん、買うわ」

「それ、意味あるんっすか?」

「気持ちの問題よっ」

 

 理念に理屈は関係ないらしい。

 私たちは、そのまま一緒に食堂で朝ご飯を食べたあと女子寮の購買部に足を運んだ。

 

「何を買うの?」

「リボンです」

「ああ~、結局見つかってなかったのね」

「はい。まあヘアゴムでもいいんですけど、結構気に入っていたんで。すみませーん」

 

 店内に並ぶ商品をぱっと見たところ、青いリボンが見当たらなかったため店員さんに尋ねる。

 

「このリボンで、青いのはありませんか?」

「ちょっと待ってね。在庫を調べて見るから」

 

 店員さんは、後ろの棚を調べてくれた。

 

「ごめんなさいね、品切れみたい。来月には、入荷出来るようにしておくから」

「そうっすか。ありがとうございました」

 

 対応してくれた店員さんにお礼を言ってから購買部を出る。

 すると「買わないの?」と、ゆりさんは首をかしげた。

 

「もう一度探してみます。見つからなかった時は来月まで待つか、他の色のを買います」

「そう。じゃあ、探すの手伝うわ」

「いいんですか?」

「協力の前払いってことで。それに、河原は立ち入り禁止区域だから、もしかしたら、神への手懸かりが見つかるかも知れないしね」

 

 と言ってくれたので、一緒に探すことになった。

 先日と同じく、学生寮寄りの第一連絡橋沿いの階段から、川原に降りる。川釣りをしたのは、ここから少し上流のポイント。リボンが風に流されたのは第二連絡橋の近くのため、下流へ向かって歩く。

 二つの橋の間に差し掛かった時「きえぇーいっ!」と奇妙な叫び声が聞こえた。奇声の出所の近くまで行くと、長い棒の様な物を振り回している、上半身裸の男子が居た。

 ――ひくなっ! 教室で脱ぎだした高松(たかまつ)さんといい、変態が多いですね。

 

「あら、野田(のだ)くんじゃない」

「ん? ゆ、ゆりっぺっ! な、なぜここにっ?」

 

 奇声を上げる変態は、野田(のだ)さんだった。振り回していた棒状の物は、いつも持っている愛用のハルバート。

 それにしても、野田(のだ)さんは私の存在を完全に無視。彼の視界には、ゆりさんしか入っていない様子。

 

「探し物をしているのよ。奈緒(なお)ちゃんとね」

 

 ここで初めて、私の存在を認識。

 そして「俺も手伝おう」と申し出た。

 

「鍛練は、いいの?」

「なに。ゆりっぺのためならっ!」

「そっ。とりあえず服きなさい」

 

 ゆりさんに言われ、すぐに汗を拭いて上着を羽織った野田(のだ)さんが仲間に加わり、第二連絡橋の真下に到着。青いリボンを探していることを伝えて、手分けして探すことになった。

 

「どうっすかー?」

「こっちはないわね。野田(のだ)くんの方は、どう?」

「それらしき物は見当たらないぞ」

 

 二人も見つからないみたい。

 リボンを飛ばしたのは、もう数日前のこと。風に流されたか、川に落ちたのかもしれない。

 

「お二人とも、ありがとうございました」

「いいの?」

「はい。今度は、神への手がかりを探しましょう」

「そうね。野田(のだ)くんも、手伝ってくれる?」

「もちろんだ! ゆりっぺ!」

 

 大きな岩をひっぺ返したりしながら、野球場へ続く橋の下まで来た。そこで、不自然な風の流れを感じた私は、入念に調べて見ると、影と岩で隠された人工的な入口があるのを発見した。すぐに。ゆりさんを呼ぶ。

 

「ゆりさん、ここっ!」

「ん? ああ、そこは、ギルドへ降りる入口よ」

「ギルドへ?」

「対天使......。(かなで)ちゃんと敵対していた時、ギルド内部で戦闘が起きる有事を想定して作った、離脱用の出入口の内の一つという訳」

 

 この入口は、直井(なおい)さんの騒動の時にひさ子さんが、ギルドへ降りる入口は幾つかあるって言っていた内の一つだった。

 しかし、体育館から遠く離れたこんな場所に出入口があるなんて、ギルドはかなりの広さがあるらしい。その後も、見落としがないようにくまなく探したが。結局、何も見つからなかった。第一連絡橋まで引き返して階段を上がり、大食堂で、一緒にリボンを探してくれたお礼で二人にお昼をごちそうして、食堂の入口で二人と別れた私は一人、ユイさんの取材へと向かった。

 彼女は、いつもの様に体育館の近くの駐車場に居た。

 

「ユイさん」

「あっ、また来てくれたんですねーっ」

 

 今日のユイさんはギターではなく、体操着姿で金属バットを握っていた。

 

「悪いんですけどー。今日は、路上ライブしてないんですよ」

「そうみたいっすね。野球の練習ですか?」

「その通りっ。さっきまで、ひなっち先輩に素振りを見てもらっていたんですよー」

「そうなんですかー」

 

 ――やっぱり仲いいんすね。

 適当に相づちを打ちながら周りを見る。今日は、他の生徒(NPC)も居ないみたいですし、ゆっくり取材出来そう。ビデオカメラを構えて、取材の許可をもらう。

 

「この間の続き、お願いできますか?」

「おっ、アレですねっ」

 

 ユイさんは、ノリノリで取材に応じてくれた。

 立ったままするのも何なので、校舎前のベンチに移動して取材開始。

 

「では、最初の質問でーす。路上ライブを始めたきっかけを教えていただけますか?」

「それはもちろん、ガルデモっ! 死後(こっち)の世界に来て初めて、生のライブを聴いたんです。すごい衝撃的でした......こう、ビリビリ! って感じで。身体の芯まで震えて響き渡る様な歌をすぐ近くで感じて......。あたしも、あんな風に歌いたいって! それで、ボーカルの岩沢(いわさわ)さんに憧れて、あたしも歌い始めたんですっ」

 

 きっかけになった出来事を満面の笑顔で話してくれていたユイさんでしたが、その向日葵(ひまわり)のような笑顔はみるみる曇っていき、終いに俯いてしまった。

 

「でも、急に岩沢(いわさわ)さんの活動休止が決まって......」

 

 ぽつり、と呟いた後。勢いよく顔を上げて、両手で握り拳を作る。

 

「あたし、すぐに岩沢(いわさわ)さんの所へ行ったんです。どうしてガルデモ辞めちゃうんですかっ? って聞いたら『辞める訳じゃない。新曲を作るんだ』って。その話しを聞いて、新曲楽しみだな~っ! って思っていたら......何て言ったと思いますかぁー?」

 

 ベンチに手を付いて、ずいっと顔を寄せてきた。

 しっかし、感情表現が豊かと言いますか、コロコロ表情が変わる人っすね。

 

「ガルデモのボーカルをやって欲しい、ですか?」

「その通りっ! もちろん最初は、そんなの無理無理っ! あたしなんかに、岩沢(いわさわ)さんの代わりなんて出来ませんっ! って答えたんですけど『代わりになろう何て考えなくていい、誰かのマネなんてするな。ユイの好きな様に歌え、それがロックだっ!』って......マジかっけーっすよねっ、惚れ直しましたっ」

 

 私から離れると腕を組んで、うんうんっと一人で納得して頷いている。

 

「それで正式に、二代目のボーカルとして認めて貰うために戦線本部へ乗り込んだんですか?」

「はい。気がついたら、ギターとラジカセ抱えて乗り込んでましたーっ」

 

 ユイさんを見ていると、その時の光景が目に浮かぶ。

 それで調子に乗りすぎた結果が、悶絶パフォーマンス、と。これで、日向(ひなた)さんが言っていた話と繋がった。

 

「ユイーっ」

「おーいっ、練習するぞーっ」

「早く来ーいっ。ひさ子さんに殺されるぞーっ」

 

 次の話を聞こうとしたところで、頭上から彼女を呼ぶ三つ声が聞こえてた。

 

「はーいっ。今、行きまーっす!」

 

 学習棟A最上階のベランダから顔を出すガルデモメンバーにユイさんは、手を振って答えた。昇降口へ駆けていくユイさんを見送って、私は図書館へ足を運んだ。

 館内に入り、何か手がかりになる文書はないかと郷土資料を捲る。何冊か調べて見たが、一般的な郷土資料のそれといっていい内容で、特に気になる記事はない。資料を片付けて館外に出る、すると――。

 

友利(ともり)

「あ、どもっす」

 

 バッタリ、岩沢(いわさわ)さんに出会った。

 彼女は早足で寄って来て心配するように「“ZHIEND(ジエンド)”は聴いてないよなっ?」と血相を変える。

 

「今、ここに居る。それが答えになりませんか?」

「あ、ああ。そうだな、安心した」

 

 ――まあ、実際は部屋のパソコンで聴いてるんですけど。新曲を聴いた時の様な異変は起こっていないで問題無いと思います。

 

「あたしは、郷土資料を調べていたんですが。岩沢(いわさわ)さんは?」

「ピアノの弾き方を調べに来たんだ」

「ピアノですか?」

 

 ロックにピアノ......意外な組合わせ。まるで――。

 

「ポストロックですね」

「そう、まさにそれだっ。“ZHIEND(ジエンド)”を聴いて、ロックは自由なんだって改めて思った。今度の新曲にピアノのサウンドを取り入れてみようと思って調べに来たんだ」

「そうですか。一緒に探しますよ」

「ああ、ありがとな。じゃあ、行こうぜ」

 

 図書館に戻る。岩沢(いわさわ)さんは来たことがあるのか、二階の楽器関係の棚から初心者用のピアノ入門書を手に取って開いた。

 

「ふーん......」

 

 しばらく流し読んで、ぱたんっと静かに本を閉じた。読み始めて僅か五分足らずの出来事。こんなに早く読み終わるなんて、音楽に携わっている人は違いますね、と感心していると。

 

「ふぅ......さっぱりわからない。友利(ともり)は、わからない?」

 

 本を受け取って開く。はっきり言って、分からない。長年音楽を演奏してきた岩沢(いわさわ)さんがわからないですから、素人の私に分かるわけない。

 

「弾ける人に教わった方が、早いと思いますよ?」

「だな。けど、ガルデモにはキーボードとかシンセサイザー使えるヤツいないし。誰か知らないか?」

「う~ん......」

 

 ――あの子たちの中に、ピアノを弾ける子居るかな? 聞いてみるか。

 

「明日、知り合いに聞いてみます」

「悪いな」

「いいえ」

 

 教員棟の前で岩沢(いわさわ)さんと別れて、花壇へ向かう。(かなで)さんは今日も、一人で花壇の手入れをしていた。しゃがんでいる背中に声を掛ける。

 

「こんにちはー」

「ん? あっ、奈緒(なお)。こんにちは」

 

 そのまま手伝いをしながら、もしかしたら知っているかもと思いダメ元で聞いてみた。

 

(かなで)さんの知ってる人で、ピアノを弾ける方は居ますか?」

「居るわ」

「マジっすかっ、紹介していただけませんか?」

 

 手を止めて、状況が飲み込めていない(かなで)さんに事情を話す。(かなで)さんは、少し考えて「わかった。いいわ」と返事をしてくれた。

 

「ありがとうございます」

「別に構わないわ。音楽室で待ってて、あとで行くから」

 

 ――はいっ、と返事をし、切りの良いところで作業を切り上げて、空き教室に居る岩沢(いわさわ)さんを呼びに行く。彼女は、本当かっ? と、笑顔を見せた。

 指定された音楽室の扉に手を掛けと、反動があった。どうやら、ドアにはカギが掛かっている。しばらくして、(かなで)さんがやって来た、彼女一人で。

 

「お待たせ」

「天使っ? いや、元天使か......」

 

 (かなで)さんは、驚く岩沢(いわさわ)さんを気にすることなく、音楽室のカギを開けて入るように促す。

 

「さあ、始めましょう」

 

 不思議に思った私は、(かなで)さんに確認する。

 

「え~と、もしかして、ピアノを弾ける方とは......」

「うん。私」

「マジかっ!?」

 

 私より先に、岩沢(いわさわ)さんが反応した。

 (かなで)さんは確かに「居る」と、答えましたけど。まさか、彼女本人とは頭になかった。

 

「一曲弾いて見せてくれ」

 

 岩沢(いわさわ)さんのリクエストに、小さく頷いた。

 椅子に座って、鍵盤に手を添える。一呼吸間を置き、演奏が始まった。

 ピアノの柔らかな音色が音楽室に響く。

 この曲、聞いたことがある。演奏に合わせて、岩沢(いわさわ)さんが歌い出した。そうだ、この曲、歌は――「My Song」。

 

「どうかしら?」

 

 演奏が終わると、岩沢(いわさわ)さんに感想を求めた。

 

「体育館のライブで聴いただけだよな?」

「うん」

「そっか......完璧だった!」

「そう。よかったわ」

 

 岩沢(いわさわ)さんは一歩前に出て、(かなで)さんをまっすぐ見据えた。

 

「頼む! あたしに、お前の力を貸してくれ!」

「最初から、そのつもりだけど?」

 

 私からも(かなで)さんにお礼の言葉を伝え、使用時間を聞く。

 

「一応、消灯時間まで許可をもらっておいたわ」

「だそうですが。岩沢(いわさわ)さん、どうしますか?」

「消灯まで頼む!」

「無理。ご飯食べたいし、お風呂にも入りたい」

 

 どうしても、そこは譲れないみたいです。

 

「でしたら、消灯一時間前まででいかがですか? 夕食は、あたしが用意しますので」

「あたしは、奈緒(なお)の提案ならいいわ」

「仕方ないか、わかった。あたしも、それでいい」

「決まりですね。では、夕食を用意してきます」

 

 踵を返して、音楽室の扉に手を掛ける。

 もう既に、鍵盤の音と二人の話し声が聞こえた。

 扉を閉めて、廊下に出る。そう言えば、ちょうどトルネード回避になりましたね。

 (かなで)さんに、ちょっぴり申し訳なさを覚えつつ。私は、夕食を調達するため売店へ向かった。

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