Angel Beats! ~First Love~ 作:ナナシの新人
ゆりさんに初老の男性の事を話した、数日後の放課後。
報道部の部室で、来月号の準備をしていると、その初老の男性の件で、ゆりさんが訪ねて来ました。
「
新しいパソコン......思い過ごしだったか、それならそれで――。
「ただ、ひとつ不可解なことがあるの」
「なんですか?」
「新しいパソコンの設置理由は、盗難。それも最近になって頻繁に起きているらしいわ」
「盗難......妙ですね」
先ず、あり得ない。
「
それに複数回......同一人物の犯行の可能性が高い。
「ええ。
そう考えるのが普通ですね。あるいは――。
「新しい転校生の情報は?」
「今のところありません。それに必ず、あたしが届けている訳ではないと考えるのが自然です」
「まあ、そうよね......」
チラッと、私を見た。彼女の言いたいことは分かる、私も同じことを考えていました。
「張ってみます」
「お願い」
部活動後、早めの夕食を食べての図書館へ来館。第一コンピューター室へ移動して、一番後ろ窓際の席に座り、盗難犯が現れるのを待つ。
閉館間際だったため、すぐに館内に閉館を告げる音楽とアナウンスが流れた。PCルームに居た数人の生徒は部屋を出ていく。閉館時間が過ぎ、音楽が鳴り止むと、この間の司書さんが戸締まりにやって来た。「
やがて、日は傾き夜になった。
ビデオカメラをチェックして待つも、なかなか盗難犯は現れない。消灯時間から数時間が過ぎ、午前2時を回った頃小さくと窓を叩く音がした。予想外の音に警戒しながら、窓の外を見る。窓の外には、
安堵感から小さくタメ息が漏れた。席を立ち、窓を開ける。
「こんばんは、何か用事ですか?」
「こんばんは、ゆりっぺさんから伝言です。今日は、ここまでにしましょうとのことです」
ゆりさんは、今日はもう現れないと判断した。けど今が、一番動き易い時間帯でもある。
「あと一時間と伝えてください」
「わかりました、伝えます。こちら
窓を閉めて席に戻る途中、足音に違和感を感じた。急ぎ戻って、窓を開ける。
「
「あと――。はい」
「ゆりさんを呼んでください」
「わかりました。ゆりっぺさん、至急図書館へ来てください」
ゆりさんが来るまでの間、違和感を感じた床を調べる。暗くてよく見えないけど、一画だけ周りの塗装が剥がれかけていた。何度か強めに踏みつけるてみる。他の床とは明らかに反響が違う。剥がれて出来た隙間に指を立ててみるも、びくともしない――ダメか。
「ゆりっぺさん、こちらです」
「
外から、二人の会話が聞こえた。
「ゆりさん、入ってください」
「......わかった。
「了解しました」
手を貸して、第一コンピューター室に引っ張り込み、さっき調べた床の場所へ案内する。
「ここです。叩いてみてください」
ゆりさんは、スカートからペンライトを出して床を照らしながらしゃがんで床を叩いた。続けて、前後両隣を叩いて確かめる。
「何かしら? 柱じゃなさそうね」
「はい、微かにですが反響音がします。おそらく空洞かと。それも、こちら側からではなく」
「塗装の剥がれ方から見て、内側から開けるタイプか」
塗装が剥がれいるのは繋ぎ目だけで、床面は剥がれていない。爪で引っかけてみても、しっかりと接着されていて簡単には剥がれそうにない。
「ハンドガンじゃ無理ね。一旦引きましょ、侵入準備をするわ」
「これをどうぞ」
「うわぁっ!」
ゆりさんが、悲鳴を上げた。理由は、すぐ後ろに
「犯人は、地下から第一コンピューター室へ侵入している考えて間違いないわ」
「ギルドですか?」
「可能性はあるわ」
となれば、始めに考えた可能性。
「今日は、お疲れさま。ゆっくり休んでちょうだい」
「あなたは、どうするんですか?」
私に背を向けると机に両手を付いた。まだ暗い夜空を眺めて黙ってしまいました。答えとしては十分です。
「行くんですね」
「ええ、行くわ。来ちゃダメって言っても来るんでしょ?」
「はい」
「はぁ......。三時間後、図書館の裏口で待ってるわ」
短いけど寝ておきなさい、と言ってゆりさんは、トランシーバーで連絡を取り始めた。彼女の好意に甘えて、部屋に戻ってシャワーを浴び、しばしの眠り就いた。
セットしたアラームに起こされて、
女子寮内に設置されている自販機で、運動部御用達の栄養機能食品とスポーツドリンクを複数個買って、バッグに詰め込み、約束した図書館裏口へ向かう。
裏口にはゆりさんと、見覚えのある男子――
「お待たせしました」
「あたしたちも今、来たところよ」
「ところでなぜ、
「あたしが呼んだの。念のために」
「そういう
「わかってるわ」
裏口のカギを回して、図書館に侵入。第一コンピューター室の例の床に辿り着くと、
「ビンゴっ。行くわよ、足下気をつけなさい!」
地下への入口には人工的に設置されたはしごがあり、人ひとりが上り下り出来るスペースが確保されていた。先頭のゆりさんの次にはしごを慎重に下り、地面まで高さ2メートルほどの辺りから飛び降りる。見上げると通路の天井に、この入口が作られていることがわ分かった。通路内は暗い上に、高さもある。なるほど、ここにあると知っていないと絶対に気がつかないですね。
「やっぱりギルド......向こうに行くと、体育館の出入り口よ」
降り立った場所から西側を指差して、教えてくれた。直後、
「どっちへ行くんだ?」
「こっち」
ゆりさんは、先ほど教えてくれたのとは逆へと歩き出した。
通路には、トラップの残骸と思われる物体が幾つも転がっている。
「安心なさい。予めギルドに連絡して、トラップは全て解除してあるわ」
「そうっすか。ところで、どこを目指すんですか?」
「オールドギルド。以前爆破したギルドを越えた先にあるわ」
スタートが、ここ。ここから人目が多いオールドギルドまでの間に、盗難犯の拠点がある確率が高い。まあ、犯人がギルドの人間で無ければですけど。
木組みで舗装された通路を抜け、機械的な通路を何ヵ所も進む。
「そろそろ広いエリアに出るわ。慎重に探して」
「はい」
「
「ありがとうございまーす。気が利くっすね」
「どうぞ」
「ありがと、いただくわ」
「悪いな」
二人に配って、私も食べる。
朝ごはんを食べていないからか、味気ない栄養機能食品がとても美味しく感じた。
「オールドギルトまでは、あとどのくらいですか?」
「そうね。普通に歩けば、一時間ってところよ」
探しながら歩くとなると、倍の二時間くらいはかかりそう。
飲みかけのスポーツドリンクと、集めたゴミをビニール袋に区別してバッグに片付け、再び探索再開。更に地下へ降り、今までにない広い空洞に出た。
「ここが、ギルドの爆心地。犯人が居るとすれば、ここの可能性が一番高いわ」
「確かに......」
「だだ広いな」
ギルドの爆心地はドーム型で、その中心部はクレーターのように大きくくぼんでいた。油の臭いと、ひしゃげた鉄骨が剥き出しになっている。気を付けないと、ケガでは済まされないこともあり得そう。
「手分けして行きましょう。あたしは、こっちから回る。二人は反対側からお願い。
右手に拳銃を持って、ゆりさんに見せた。
「よろしい。
「ああ、分かっている」
「じゃあ、また後で」と、ゆりさんは一人警戒しながら歩いていった。私たちも反対側へ円を描く形で進む。ギルドは、ただ広いだけではなく武器製造、倉庫も兼ねていたためか横穴も多い。身を隠すには、うってつけ場所に思えますね。幾つか横穴を見つけるも、パソコンも、人の姿も見つからない。次のエリアへと続く通路の前で、ゆりさんと合流。
「どうでした?」
「残念ながら」
ゆりさんは、首を横に振った。同じく、成果なし。
一番期待度の高かった、ギルト爆心地を抜けて、更に奥へと進む。そして「......着いたわ」と、ゆりさんは鉄の扉の前で立ち止まった。
「ここが、オールドギルドですか?」
「そうよ。結局、何も見つからなかった......。考えても仕方ないわね」
ギィーと、重たそうな扉を開いた。途端に、油と火薬の臭いが漂ってくる。扉の向こうは、作業着姿の大勢の男子が大勢で作業をしている。近くのベルトコンベアの上を流れる箱の中に、大量の弾薬が詰まっているのを確認出来た。
「あっ、ゆりっぺっ!」
「ホントだ、ゆりっぺだっ」
「あと可愛い娘が居るっ!」
「イ、イケメンも......」
作業を止めて、ゆりさんの元へ駆け寄って来た。
本当に慕われているんだと、この時改めて思った。
「ゆりっぺ」
「チャー」
本部で見たチャーさんが、男子の間を通ってゆりさんの前に立った。
「
「盗難騒動。図書館のPCが複数台被害にあってる」
「......で、犯人の目星はついているのか?」
「いいえ、まだよ。だけど、
ピクッ、とチャーさんの眉が動いた。人工的な入口と聞いて瞬時に理解したみたいです。
「なるほど。お前ら、何か気づいた事はないか?」
「知ってるか?」
「いや、そもそもパソコンなんて使わないし」
「だよな。土と水があれば――」
男子たちの会話から、心当たりはなさそう。顔からも、嘘をついている様には見えない。
「悪いが、無いみたいだ」
「そうのようね」
「力になれなくてすまない」
「ううん、いいの。きっと、ここに来るまでに見落としたんだと思うから。帰りながら探すわ」
「そうか。俺の方も、何かわかったらすぐに知らせる」
「お願い」
「さあ、帰りましょう」と、ゆりさんが踵を返すとガガッっと何か音が鳴った。ゆりさんは、ポケットからトランシーバーを取り出す。
『......っぺ......。おう......して』
ノイズの混じった通信が聞こえた。
「
『か......ち......くださ......』
「なにっ? よく聞こえないわっ!」
大きな声で話しかけるも、通信は途絶えた。
「......地上に戻るわ!」
「ゆりっぺ、この先に新しい通路を作った。はしごは長いが、地上へほぼ直通のルートだ。そこを使え!」
「ありがとっ、チャーっ。二人とも行くわよっ!」
荷物になるバッグをギルドのメンバーに預けて、ゆりさんの後を追う。
「あれねっ」
オールドギルドを抜けた先に、真新しい通路があった。ゆりさんが駆け出す。チャーさんの言った通り、先が見えないほど長いはしご。ところどころに休憩スペースはあるものの、スピード重視で二十分近く休みなく登り続け、腕が疲労が溜まり始めた時、ようやくはしごの先が見えた。力を振り絞って、登りきる。
「ここ......、こっちよっ」
ゆりさんは、すぐに現在地を把握した。
そして、通信が入る。
『ゆりっぺさん。こちら、
「聴こえるわっ。何があったのっ?」
『新たな敵性勢力が出現しました。現在、幹部及び元天使がグラウンドにて交戦中です』
――新たな敵性勢力? 今回の盗難事件と、何か関係があるかもですね。
「敵っ? どんなっ?」
『影です』
「影? どういう意味? ちゃんと教えなさいっ!」
『文字通り影としか表現出来ません。黒い影の化け物です』
どう解釈すればいいのか正直、わかりませんね......。
ゆりさんも黙ったまま顔をしかめて、思考を巡らせている様に見える。
「......わかったわ。あと十分でグラウンドへ着く。何とか持ちこたえさせてっ!」
『了解しました』
通信が切れた。
「影......どう思いますか?」
「わからない。とにかく急ぐわよっ」
全力で走って、洞窟の突き当たり出た。ゆりさんの指示で
外の景色は、川原。先日見つけた野球場へ続く橋の真下に位置する場所。上流へ向かって走り、第一連絡橋の階段を昇ると校舎は目の前にあった。昇降口前の大階段から、グラウンドを見下ろす。
「なによ......あれ?」
「あれが、影?」
「あれは......」
グラウンドの中心で、
「行きましょうっ」
「待ちなさいっ、あなたは......!」
「
「あの影に対しても常に能力を使え。俺たちの側を離れるな、流れ弾は保障出来ないぞ」
「はい、わかりました」
「......仕方ないわねっ。
「わかってますっ!」
私たちは、大階段を駆け降りた。
* * *
影の迎撃に成功した私たちは、
最初に黒い影が出現したのは今朝、図書館からギルドへ潜った直後。
しかし、その数時間後、
「どういうことなの。ねぇ、ゆりっぺっ?」
「......
「うん」
「ちょっと調べたいことがある。戦線メンバー全員、体育館で待機。
「はい」
それだけ言い残してゆりさん、
みんなは、そこに居ました。
「こんにちはー」
「あっ、
「はい、お陰さまで。もう全快です」
「よかった~。でも
「はーい。気をつけます。それで、みなさんにお話しておきたいことがあるんですが。少し、ここで待っていてもらえますか?」
「うん、いいよー」
「ありがとうございます。じゃあ、ちょっと出てきます」
部室を出て、生徒会室に入る。
「どうですか?」
「
「そうですか、影は?」
「ちょっと出ましょ」と、
「
「はい、あたしも見ました」
「おそらく、あれは......」
「“
ゆりさんは、頷いた。
項目さえ弄ることが出来るば「
それが、私とゆりさんの出した共通の答えだった。
直後「きゃーっ!」っと、大きな悲鳴が廊下に響いた。
――この悲鳴は......! 私は、駆けだした。
「みんなっ!」
部室の中に、あの黒い影が居た。みんなは、部室の隅で身を身を寄せ合って怯えている。
「
「“
「
ゆりさんに後ろから抱き締められた。直後
「はぁはぁ......」
「大丈夫?」
「は、はい......みんなは?」
「無事よ、安心なさい」
ゆりさんの言葉と、みんなの姿を見て。深呼吸をして上がった息を整える。
「ありがとうございました。もう、大丈夫です」
「そう?」
部屋の隅で震えている三人の元へ行き、しゃがんで、彼女たちに声をかける。
「大丈夫ですか?」
「と、
みんな、私に抱きついて来た。安心させるため背中をさする。しばらくすると、みんな落ち着いて来た。倒れている長机と椅子を直して、座ってもらう。
「ゆり」
「どうしたの?」
「あれ」
窓の外を見ると、あの黒い影が増殖していた。
「みんな、聞いてください」
席に戻った私は、三人に今起こっていることを伝える。
「原因は不明ですが。あの影は、人を襲います。外を見てもらえばわかりますけど、あの影は今も増殖を続けています。その発生元は、生徒が影に変わります」
不安を隠せない
「今のところ対策は、銃で撃つか。
「......どうすればいいの?」
三人の中で、一番しっかり者の
「あたしのように、
言葉に詰まる。私が口にしたくないことを、彼女は察してくれた。
「そっか......。ねぇ、みんな」
「......そうだね」
「うん......」
「
「......はい」
彼女たちは、真っ直ぐ私の目を見つめる。
「
「うん。生きてた頃は、こんな楽しい学校生活を送れるなんて思ってもみなかった」
「あたしたちは、もう充分だから」
そして最後は、みんなで声を合わせて――「
「......お礼を言うのは、あたしの方っす」
「あの子たち、人だったのね」
「はい、大切な友だちです」
ここに来て初めて、登校した日。
生きていた頃と同じ様に、教室で頬杖をつきながら外を眺めていた時に声を掛けてくれたのが、彼女たちだった。
最初は、少し話しをしただけでした。でも、他の偽りのクラスメイトとは違って、同じ人間なんだとすぐに分かった。
「何となく勉強を見てあげてるうちに話すようになって......みんなで、卒業したかったなー」
――ぽんっ、と頭に手を乗せられる感触。
「なんすか?」
「何でもないわ」
「......そっすか」
「さあ、体育館に行きましょっ。こんな神を演じるようなヤツを絶対に見つけてやりましょっ!」
「......はいっ!」
三人で、部室を出る。
私は、一度立ち止まり、もう一度部室へ振り返る。
深く深呼吸をして――よしっ! っと気合いを入れて、少し先に行く。ゆりさんと、