Angel Beats! ~First Love~ 作:ナナシの新人
第二コンピューター室のドアは閉ざされているにも関わらず、激しい銃声の嵐が漏れ聞こえてくる。しばらくして、銃声は鳴り止み、周囲に静寂が訪れた。
閉じられた扉のドアノブに手を掛け、ゆっくりと開く。第二コンピューター室の内部は、無惨にも破壊されたパソコンの残骸で溢れ返っていて、先ほどまでと同じ部屋なのかと見間違えるほど荒れ果てていた。
その部屋の中心、両手に銃を持ったままのゆりさんが一人、座り込んでいた。彼女の横にしゃがんで、声を掛ける。
「ゆりさん」
「あたし......
顔を上げたゆりさんは、今にも泣き出しそうな
それはまるで、今まで我慢していた想いを涙という形にして流しているかのようだった。
しばらく泣き続けたゆりさんは、小さな寝息を立てて眠りについた。起きないようにゆっくり、膝の上に頭を移動させる。
寝顔を見ると、目の回りが真っ赤に染まっていて、涙の通り道がくっきりと出来上がっていた。ポケットからハンカチを出して軽く押し当てる感じで涙を拭いていると、勢いよくドアが開いた。
「
「二人はっ?」
「ゆりっぺ! 無事かっ!?」
「神にひれ伏せっ!」
臨戦態勢のまま、四人が入って来ました。人指し指を立て「静かにしてください」と合図を送る。
男子三人は慌てて銃をしまい。
「ゆりは?」
「大丈夫っす。疲れて眠っているだけです」
「そう」
「ゆり、かわいい」
「そうっすね。さて、帰りましょう。地上へ」
眠っているゆりさんを
「
「あっ、はい。すぐ行きます」
後ろ髪を引かれながらも、第二コンピューター室を後にした。
* * *
「う~ん......」
規則正しかった寝息が変わったのを聞いて、パタンっと読んでいた本を閉じる。ベッドに眠っている少女は、ゆっくりと目を開けた。
「おはよーございまーす」
「......
目が合うと、私の名前を呼んだ。どうやら意識はしっかりしているみたい。サイドテーブルにあるトランシーバーを手に取って、
「ここは?」
「医務室です。あっ、
『了解しました』
「みんなは、無事なの?」
「はい。今、卒業式の準備をしています」
「卒業式?」
少し不思議そうに首を傾げる。なぜそうなったのか経緯を話していると、開けっぱなしになっているドアから、四人の生徒が医務室へ入ってきた。
「よっ。ゆりっぺ!」
「もう、いいのか?」
先に入ってきたのは、
「ゆり、大丈夫?」
「平気よ、ありがと。
「さて。ではあたしは、これで」
本を持って椅子から立ち上がる。
「どこ行くの?」
「食堂へお昼ご飯を作りに行きます。今は、誰も居なんで」
「そうなの?」
「ああ。NPCは、教職員も含めて、全員
因みに、大食堂の食材はいくら使っても、次の日になると自然に補充されています。まったく、便利な世界ですね。
「そうだ。何か、リクエストはありますか?」
「
ゆりさんに聞いたつもりが、
「はいはい、用意しておきますよ。ゆりさんは?」
「う~ん......そうね。また、あのお粥が食べたい」
ゆりさんがリクエストしたのは、なめ茸をトッピングしたお粥。
「わかりました。出来たら持ってきます」
医務室を出た私は、大食堂へ向かった。手を洗ってから厨房に立ち、チャーさんを始めとした料理が得意な人たちと昼食を作り始めた。
出来上がった昼食を医務室で休んでいるゆりさんに届けた後、報道部へと足を伸ばした。カギを回して、ドアを開けて、部室の中へ入る。
いつも。みんなの明るい話し声で騒がしかった部室はしんと静まり返っている。カーテンと窓を開けると、夏の日差しと生温い風が部室に入ってきた。棚を整理していると、作りかけの紙面が出てきた。結局、創刊号しか出せなかったな。
未完成の紙面と備品を箱に片付け、テーブルの上に置き、戸締まりをしてから部室を出てる。
「
「ん? ああ、
話し掛けてきた
「なにしてたの?」
「部室の掃除をしていました。みんな卒業したので、報道部は解散です」
「そう」
「
「私は、
持っていたファイルから楽譜を見せて教えてくれました。
「
「うん。一緒に来る?」
気を使わせてしまったのか、見学に誘ってくれた。
「行きたいんすけど。今からちょっと、調べたいことがありまして」
「調べたいこと?」
誘いを断って、卒業式の準備の指揮を執るチャーさんにライトを借りる。第一連絡橋に向かって歩く。隣にはなぜか、
「何でいるんすか?」
「手伝おうと思って」
「いいでしょ? 暇なのよ」
「はぁ? まあ、いいっすけど」
第一連絡橋から川原に降りて、野球場へ続く橋の下の出入口にまで来た。
「ギルドへ降りるの?」
「はい、気になったことがありまして」
ここが目的地へ一番の近道。
少し歩いて、目的地の第二コンピューター室に到着。
「ここでーす」
「ここ......」
ドアを開けて入る。部屋の中は、荒れたままになっていた。壊れたパソコンを退かすのを手伝ってもらって、先日、風の流れを感じた場所にスペースを作る。
「ここに手を当ててみてください」
「ここ? 風......?」
「ホントね。
「うん。“
出現させた「
「“
唱えると轟音が鳴り響き、引き抜くと「
ライトで中を照らす。狭いのは入り口だけで、先には洞窟が続いていた。
「道があります」
「そう......行きましょ」
「はい」
ゆりさんを先頭に穴の入り口を潜る。入り口の先は、通路になっていた。少し歩くと人工的に作られた階段が現れた。脆く崩れやすくなっている階段を慎重に下ると、突き当たりに六畳程の空間が広がった。大きな棚には多くの古ぼけた本と劣化した紙の束、机の上には機械がある。形状から見ておそらく、パソコン。
壁には数式の書かれたメモが無数に貼り付けれていて、地面にも剥がれ落ちたものと思われるメモらしき紙が幾つも散らばっていた。
「ここで、何か研究をしていたみたいね」
「はい。この数式――意味は解りませんけど、おそらく......“
「奇遇ね、あたしも同じ意見よ」
第二コンピューター室で「
「二人とも、これを見て」
棚を調べていた
「全文英語ね。
「はい、読めます」
所々消えかかっている部分もありますが、前後の文章から推測して繋げば辛うじて読めます。
「“あれから、どれだけの月日が経過しただろうか。あいつがここから去った今も、俺は一人、世界のマテリアルに介入出来るソフトウェアの開発を続けている”」
「日記?」
「そうみたいね。続きは?」
「えっと......」
開発者の物と思われる日記には「
一人残された開発者は、天上学園生徒会長を務めながら、先に卒業してしまった少女と再び巡り会う時を待ち続け、死後の世界に来た迷える人たちの世話を焼いていた。
しかし、その時間はあまりにも長く、自分自身が正気を保てなくなることを自覚し「
「“俺は、あとどれだけの時間を待ち続ければ――と、また会えるのだろう?”」
文章から見て、ここは待ち続けた少女のこと。名前の部分は擦りきれてて読めない。
ここから先のページは、開発者の心境が徐々に変化していく様が克明に綴られていた。意味を成さない言葉が、文章にならない文字が少しずつ増えていき、最後に――「もう、疲れた」と一言綴られ、そこで日記は終わっていた。
「気の遠くなるほどの時間......辛かったでしょうね」
永遠の様な時間、変わらない日常。確かに、気が狂うのも理解できます。
もしかしたら彼は、消えたくても消えることが出来なかったのかも知れない。だとしたら「
しっかし、この文章......。
「私たちが卒業したら、この人と同じ考えの人が出てくるかしら?」
「可能性はあるわ。今までは、あたしたちや
もし、私たちが一度に全員で、ここから卒業してしまえば。
この世界の存在理由を伝える人が居なくなってしまう。そうなれば、この開発者と同じ悲劇の道を歩む人が生まれるかも知れない。いい方法がないか思考を巡らせる。
「日記......」
「ん? なーに?」
無意識に出た言葉に、ゆりさんが反応した。
「えっと、あたし、ここに来てから毎日日記をつけているんです」
「ああ~、前に見せてもらった日記ね」
「はい」
私が人だと、ゆりさんに信じてもらえるきっかけになった日記。
「今までのことを記録して残しておけば、この世界の存在理由を伝えることが出来るんじゃないかと思いまして」
「なるほど、いい考えだと思うわっ」
「うん、私も賛成」
二人とも提案に賛成してくれた。さっそく、記録を作るため地上に戻る準備を始める。日誌を閉じて、棚に戻そうとしたところで――
「これ、なにかしら?」
日記に挟まっていた、紙切れを引き抜いた。それは写真だった。長い年月による劣化で、色褪せているため色彩は識別出来ませんが、二人の人が写っている。
制服から見て一人は前髪が長く、顔の半分が隠れている男子生徒。もう一人は後ろ姿、椅子に座って、背中まで伸びた長い髪を束ねているところを見ると――。
「開発者と......」
「開発者の愛した少女でしょうか?」
ゆりさんは、目を閉じて腕を組んだ。
「とりあえず、帰りましょ。今は、みんなに協力を頼まないと、卒業式までに間に合わないわ」
「そうね。
「はい、帰りましょう」
研究室を出る。行きは飛び降りてショートカットした長い長いはしごを昇って、ようやく地上に戻った。第一連絡橋まで戻ると「この写真、預かっていい?」と、ゆりさんが言った。
「いいっすけど、どうするんですか?」
「
「わかりました。お願いします」
「じゃあ、先に体育館へ行っててっ」
ゆりさんは写真を持って、走って行く。
「
「音楽室へ行くわ。
昇降口の前で
「おや、
「ああ、どもっす」
長い木の板を、肩に二本担いでいた
しかし、
「よく持てますね」
「この通り、鍛えていますからっ」
夏服の制服から鍛え上げられた腕が見え隠れしている。これ見よがしに筋肉を見せつけてくるのには正直、少しひきました。
「そうだ。
「体育館に、ですか?」
「はい。じきに、ゆりさんが来ますので」
「ゆりっぺさんが......わかりました。これを届けたら、伝えて回ります」
「ありがとうございます。お願いしまーす」
準備を進めている人たちに声をかけながら、体育館に入って待っていると、少ししてゆりさんが到着。彼女は、前に集まった時と同じ様にステージの上に立った。
「お疲れさま、準備は順調みたいねっ。チャー、準備はあと何日かかる予定?」
「そうだな。今のペースなら、予定日の十日前には終わるだろう」
「そっ、なら大丈夫ね。みんなに提案があるの」
ゆりさんは、地下で話した日記......卒業文集の製作を提案した。疑問の声が上がりましたが、理由を説明すると納得して協力を約束してくれました。話は終わり。みんな、作業に戻っていく。私も夕食の準備のため、食堂に向かう。
ステージから飛び降りたゆりさんが、早足で隣に来ました。話しをしながら歩く。
「卒業文集と一緒に卒業アルバムも作ろう思うんだけど」
「いいアイデアと思います」
卒業式には必需品ですし、見る側も写真があった方が説得力が違うと思う。
「それで、カメラマンをお願い出来るかしら?」
「はい、いいっすよ。でも今から、夕食の準備があるんで......」
スカートのポケットから部室のカギを出して、ゆりさんに手渡す。
「どうぞ、部室のカギです」
「ありがと。用意しておくわ」
校舎に入って行ったゆりさんを見送って、食堂へ向かう。
部室のカギ――もう使うことは無いと思っていたんですが、立ち止まって、大きく息一呼吸。
――よっし! 報道部、最後の大仕事っすね。
翌日から私とゆりさんは、カメラを使った卒業アルバム作りを始めた。準備の様子を撮影しながら見て回り、カメラを向けると手を止めて、結構乗り気な目線をくれる。作業中の自然な姿も撮りたいんすけど、楽しそうですし、まあいいか。
卒業式まであと12日。卒業の日が近付いてきました。