Angel Beats! ~First Love~   作:ナナシの新人

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Episode34 ~真実~

 卒業式の準備も終わり、当日まで一週間を切った、ある日の夜。

 

「えっと~......これ? あっ、当たったーっ」

「くそ~、みゆきちめ~」

「なかなか、やるな。ほら、岩沢(いわさわ)

「ああ、あたしか。これにするか」

 

 見事に数字を合わせて喜ぶ入江(いりえ)さんとは対照的に、悔しがる関根(せきね)さん。仲良しの二人に、岩沢(いわさわ)さんとひさ子さんを加え、彼女たちは四人で「ババ抜き」をしている。

 

奈緒(なお)ちゃんの番よ」

「あっ、はい。これと――」

 

 テーブルの上に散らばったトランプを捲る。私は、ゆりさん、(かなで)さん、椎名(しいな)さんの四人で真剣衰弱をしている。ちなみ場所は、ゆりさんの部屋。彼女の部屋も、私や(かなで)さんと同じ一人部屋なのですが。元は二人部屋で、ルームメイトを追い出した過去があるそう。

 

「これ。はい、アタリ」

「......解せないわ」

「なにがっすか?」

 

 ゆりさんは、各々の手にあるペアの数を見ながら、難しい表情(かお)をして呟いた。

 

「あなたたち......何で、そんなに強いのよっ」

 

 ――バンッ! と、勢いよくテーブルに両手を付いた。

 

「私は、ほぼ全部覚えている」

「あたしは、八割ほど」

「私は、七割くらい。前に、奈緒(なお)からコツを教わったわ」

「コツ? なによ、それ。そんなのがあるのっ?」

 

 教えてあげて、と(かなで)さんが私を見た。

 

「簡単に説明すると、ただ数字を覚えるんじゃなくて捲った時の状況を踏まえて記憶するんです。例えば......これ」

 

 ゆりさんの右手前にあるトランプを捲る。カードは、ハートの8。

 

「これは(かなで)さんが、わざわざ遠くから捲ったカードです。で、これはいつも右手で捲っていた椎名(しいな)さんが唯一左手で捲ったカード、スペードの8。これで、ペア。次は、ゆりさんが右手で捲ったあと左手で戻したカードっす。これと合うのが、あたしが最初に捲ったカード。こんな感じで、仕草とかを含めて覚えるんすよ」

「知らないカードが出たら?」

「その時は、あたしと(かなで)さんとで三回捲ったカードで、相手のチャンスを減らすんです」

「なるほどね......。よっし、続きやるわよっ」

 

 やる気になったゆりさんは、すぐにコツをモノにして接戦が続いた。マンネリ化してきたところで、ガルデモメンバーたちを含めてシャッフル、大口を叩いて参加した関根(せきね)さんは、一組も合わせられずに返り討ちに合うなど盛り上がりました。

 そして――。

 

『はぁ~......気持ちいいわ』

『ほんとね』

 

 みんなで、大浴場へ来た。

 湯船に浸かりながら私は、(かなで)さんに聞く。

 

『もうすぐ卒業式ですけど、(かなで)さんは......』

『そうよね。(かなで)ちゃんのは、ねぇ?』

 

 (かなで)さんの心残り、生きる時間をくれた恩人へのお礼。それは、未だ叶わないまま。その人と巡り逢える可能性は、開発者がもう一度愛した女性と再会する確率と同じくらいと言っても過言では無い。

 

『私は、大丈夫。ちゃんと、みんなと一緒に卒業するわ』

『......そうっすか』

 

 (かなで)さんは、そう答えましたが、未練が残ったまま卒業出来るんでしょうか。お風呂を上がり、再びゆりさんの部屋に集合、今度は各自布団を持参してです。日向(ひなた)さんたちと一緒に居たユイさんも、こちらに合流。

 

「流石に、九人も居ると狭いわね」

「だな。どうする? あたしらは、ガルデモ(あたしら)で別の部屋にするか?」

 

 ひさ子さんから提案があったんですが、もう残り時間も僅かということもあり結局、みんなで雑魚寝することになりました。

 

「やっぱり、ちょっと狭いな」

「でも、なんだか楽しいわ」

 

 私の左隣で横になっている岩沢(いわさわ)さんが言うと、彼女の隣の(かなで)さんが答えた。(かなで)さんの気持ちは何となくわかる。こうして、大勢で寝るのは小学校の修学旅行以来かな? 中学以降は、こんなことを考えることなんて一度もなかった。

 

「あっ、入江(いりえ)さん。枝毛が」

「えっ、ホントですか?」

「座ってください」

 

 持ってきたポーチからクシを出して、右隣の入江(いりえ)さんの髪をとかす。(かなで)さんよりも長い、キレイなロングストレート。

 

「ガルデモのみなさんの心残りは、いいんすか?」

「えっと......あたしたちは、もういいかなって」

「あたしらは、納得組さ。音無(おとなし)の話を聞いて、妙に納得しちゃったんだよ」

「あれで踏ん切りがついたんだな、これがっ!」

「毎日が、文化祭みたいで......楽しかったな~」

「だなっ。けど、岩沢(いわさわ)先輩が卒業式で新曲をやるってんで、こうして残ってる訳ですよっ」

「お前ら......そうだったのかよ」

 

 三人の気持ちを知った岩沢(いわさわ)さんは、複雑そうな表情をしています。そんな岩沢(いわさわ)さんにひさ子さんは、微笑んで優しい声で言う。

 

「そんな表情(かお)するなよ、岩沢(いわさわ)。あたしらは、好きで残ってるんだ。お前の最後の曲を、卒業式で演奏してさ。みんな一緒に、ここを卒業しようぜ」

「ひさ子......。ああ、だなっ!」

 

 二人は、横になったままコツンと拳を合わせた。

 

「で、ユイはどうなの? 日向(ひなた)くんと、別れることになる訳だけど、ちゃんと卒業できるの?」

 

 普段から使っているベッドの上から、ゆりさんが聞く。私が初めてギルドに降りた日、ユイさんと日向(ひなた)さんは恋人同士になったそうです。

 第二コンピューター室で男子生徒(NPC)の言った「愛が芽生えた」とは、彼女たちのことだったんですね。思えば、(カゲ)が出現したのもの同じ日ですし、二人とも残ったままだったからプログラムを発動させたと考えれば、合点がいきます。

 

「えっ、あたしですかー? ふっふーん、あたしは~、生まれ変わっても、先輩が見つけてくれるそうなんですよっ。これがっ」

 

 得意気に話す、ユイさん。この子は、心配無さそうっすね。

 ゆりさんと一緒のベッドで寝ている椎名(しいな)さんは、以前一度消えかけたことがあったそうですが、ゆりさんのお願いで残っていると聞きましたし。みんな、卒業への準備は整いかけているみたいです。あとは――。

 

 

         * * *

 

 

 翌朝、各々部屋に戻る。制服に着替えた私は、料理をしやすいように髪をポニーテールに結び、大食堂で人数分の朝食の用意を始める。

 返却されたお皿を業務用の食洗機にかけている間に自分の朝ご飯を済ませ、一息ついていると、竹山(たけやま)さんがやって来た。席を立って、食器を流しに片付けてから竹山(たけやま)さんの朝食を用意。

 

「どうぞー」

「ありがとうございます。いただきます」

 

 テーブルに朝食の乗ったトレイを置いて、流しの食器を洗っていると、竹山(たけやま)さんが話しかけきた。

 

友利(ともり)さん。ゆりっぺさんがどこに居るか、ご存じですか?」

「ゆりさんっすか? ゆりさんでしたら、ギルドへ行くと言っていましたよ」

「そうですか」

 

 正確には、例の研究室にですけど。ゆりさんの所在がギルドと聞いて、竹山(たけやま)さんは少し困った様子。

 

「何か用事があったんすか?」

「はい。頼まれていた写真(モノ)が出来たんで、渡そうかと思ったんですが」

「あたしが届けますよ。忙しいんしょ?」

「助かります。では、これを......」

 

 竹山(たけやま)さんは、制服のポケットから出した茶封筒をカウンターに置いた。食べ終えた食器も一緒に受け取り、片付けてからエプロンを脱いで、茶封筒を届けに行く。

 購買部で飲み物とお菓子、お手拭きを買って、研究室への最短ルートの入り口から地下へ降りる。

 

「ん~?」

 

 第二コンピューター室に入って、研究室へ続く穴に潜ると天井に照明が点った。ずいぶん歩きやすくなった通路を進んで、研究室に到着。部屋の中も明かりが灯っていた。

 ゆりさんはそこで、本棚を調べていました。

 

「どうっすか、新しい発見はありましたか?」

「残念ながら」

 

 小さなタメ息付いて、持っていた本を棚に戻してから、私に顔を向ける。

 

「それで、何か用事?」

竹山(たけやま)さんから、これを預かって来ました」

「あっ、出来たのねっ」

 

 預かった茶封筒を見せると、ゆりさんのテンションが上がった。パンパンッと埃まみれの手を叩いて、茶封筒に手を伸ばす。

 

「ありがとっ」

「いえ。向こうで、お茶をしながら見ましょう」

「そうしましょっ」

 

 研究室を出て、隣の第二コンピューター室へ戻り、無造作にパソコンが積まれていたテーブルを椅子にして座って、持ってきたお手拭きを渡す。

 

「通路も、部屋も明るかったですけど、あの電気どうしたんすか?」

「ああ、あれ? 元々あったのを直したのよ」

 

 手を拭きながら教えてくれた。切れていた電灯を新しい物に取り替え、電気はこの第二コンピューター室から引いたそう。

 ゆりさんはさっそく、茶封筒の中を確認。私も、お菓子を摘まみながら一緒に見る。出てきたのは、二枚の写真。

 

「これは、原本ね」

 

 先に出てきたのは、復元を頼んだ元の写真。ずらして後ろの写真を確認する。復元されてた写真は、カラーで復元されていた。

 

「すごいっすね」

「ホント、いい仕事してくれるわっ。って、嘘でしょっ?」

「えぇーっ?」

 

 顔が髪で隠れていた男子は、赤茶髪で模範生の制服を着ている。驚いたのは、もう一人の、背中まで伸びた髪の長い人。この人も、同じ模範生の制服を着ていました。ただ、その制服は――。

 

「完全に盲点だったわ。髪の長さで、女の子とばかり......まさか、男子だったなんて!」

 

 ゆりさんの言うように元の写真では、劣化で位置関係や服装がしっかりと解らなかったんですが。復元されてた写真では、赤茶髪の男子よりも部屋の奥の方の椅子に座っていたため、彼よりも細身に見えていただけで。そして、下がスカートでは無かったため男子だと判明した。

 

「そっか。だから、あんな書き方を......」

「なに? どうしたの?」

「あの日記の文章です。変だなって思っていたんです」

 

 ゆりさんに待っていてもらい、研究室から日記を持って急いで戻る。

 

「この日記によると、開発者が“Angel(エンジェル) Prayer(プレイヤー)”を作り始めたのは、愛した少女がこの世界を卒業してからです。けど、この文章“あれから、どれだけの月日が経過しただろうか。あいつがここから去った今も、俺は一人、世界のマテリアルに介入出来るソフトウェアの開発を続けている”と、書かれています」

 

 少女が卒業したあとに製作を始めたのなら、普通こんな書き方はしません。

 

「つまり、ここに書かれている“あいつ”は、愛した少女ではなく、この写真に写っている、どちらかの男子である可能性が高いかと」

「そうなると開発者には、仲間が......協力者が居たってことになるわね」

 

 返事をする代わりに、頷いて答える。

 

「じゃあ行きましょう」

「どこへ?」

「生徒会室。この写真とレイアウトは少し違うけど、窓の外にグラウンドの照明が見えるわ。撮影場所は、生徒会室よ」

 

 長い長いはしごを登り、地上へ出て、生徒会室に移動。

 ドアにはカギが掛かっていたため、音楽室に居る(かなで)さんにカギを借りて、生徒会室へ入る。

 

「今の生徒会室に照らし合わせると......この長髪の男子は、副会長の席に座っているわ」

「となると、こっちの赤茶髪の男子が、開発者の可能性が高いですね」

「席が変わってなければね」

「とりあえず、調べてみましょう。生徒会長だったのなら歴代会長の名簿に名前があるはずです」

「名前? わからないわよ」

「その人の名前は、わからなくても~っと」

 

 棚に保管されている分厚い名簿を引っ張り出し、今年度のページを開いて置く。

 

「こういうことっす」

「なるほどね」

 

 前年度のページ、その前も、生徒会長に欄には「立華(たちばな)(かなで)」と記入されていました。開発者も、彼女と同じ様に長年生徒会長を務めていたのなら、名前がわからなくても特定することは可能なはず。手分けして、名簿を調べる。

 

「どう? それらしい人は見つかった?」

「いえ。(かなで)さん以外は、最長でも二年です。ゆりさんの方は?」

「こっちは長くて三年。おそらく、あたしたちと同じ人間ね。他はキッチリ、一年で交代してるから一般生徒(NPC)ね」

 

 こっちの名簿も、(かなで)さんの前は殆ど一年間隔。つまり、一般生徒(NPC)が務めていたと推測できます。

 

「はぁ~、見つからないわね。次は......あれ?」

「どうしたんすか?」

「ここの間だけ抜けてる」

 

 棚を見る。確かに、ゆりさんが調べていた名簿の一つ前のナンバーが抜け落ちていました。もしかして、開発者が一般生徒(NPC)になる前に処分したとか、でも何のために――必要性を考えても思い付かない。

 結局、開発者の正体は謎のまま、卒業式を明後日に控えることになった。

 

 

         * * *

 

 

「卒業式を明日に控える中、みんなに集まってもらったのは他でもないわ......」

 

 卒業式前日の朝。全員を体育館に集めたゆりさんは、神妙な表情(かお)をして、ステージに立った。

 

「ついに......、ついに完成したわ! あたしたちの卒業文集と卒アルよ!」

 

 卒業文集と卒業アルバムを掲げ、完成を高らかに宣言。

 文集とアルバムが詰まった箱を置いて開いた。

 

「ほらほらっ、あんたたち取りに来なさいっ!」

 

 各々手に取り眺め始めた。私も事前にもらった、文集を見る。

 

 タイトルは――「死後の世界日誌」。

 

 ゆりさんと(かなで)さんと、私の三人で考えたタイトル。その表紙を見た日向(ひなた)さんが、ボソッと呟いたのが聞こえた。

 

「“死後の世界日誌”って、ひねりゼロだな」

「解りやすくていいでしょ? これは、あたしたちだけの為のモノじゃないんだからっ」

 

 そう。これは、この世界に来た人たちの道しるべになる物なんですから。SSS(スリーエス)のみんなは、文集やアルバムを眺めながら「こんなことあったな~」と、懐かしそうに話している。

 みんなの楽しそうな表情(かお)を見ていると、作って良かったなーと本当に思えました。

 

「なあ、ところで――」

 

 音無(おとなし)さんがゆりさんに向けて放った一言は、私たちを凍りつかせる言葉だった。

 

「卒業証書は、どうなってるんだ?」

 

 一瞬の間が開いて、ゆりさんは頭を抱えて叫んだ。

 

「うわあぁーっ! 忘れてたぁーっ!」

「いやっ、一番大切なことを忘れるなよっ!」

「し、仕方ないじゃないっ、編集作業とかで忙しかったのよっ!」

 

 こんな時に言い争っていても何も始まりません。

 二人の間に入って、言い争いを止める。

 

「それより、急いで作りましょう」

「そ、そうね。こんなことしてる場合じゃないわっ。みんな、名前をフルネームで書いて!」

 

 手分けして、メモ帳とペンを回して名前を書いてもらう。現在残っている人数と名前の数を確認する。何度数えても、あと一人分が足りない。

 

「ちょっと、書いてないの誰よっ?」

 

 ゆりさんの言葉を聞いても誰も名乗り出ません。

 

「いいか?」

「はい、音無(おとなし)くん」

熊耳(くまがみ)が、居ない」

 

 ステージに上って見渡す。

 あの特徴的な長髪は、体育館のどこにも見当たりませんでした。

 

「確かに、居ませんね」

「あいつ、どこに行ったのよっ!?」

「いいかー?」

 

 また、音無(おとなし)が挙手をした。ゆりさんは、不機嫌そうに目を細めて聞く。

 

「今度は、なによっ?」

熊耳(くまがみ)なら今朝、図書館に行くから代わりに受け取っておいてくれって――」

「あ・ん・た・ねぇ......。それを、先に言いなさいよっ!」

 

 ゆりさんが、キレた。(かなで)さんと日向(ひなた)さんが、なだめる。

 

「ゆり、落ち着いて」

「そうだぜ、ゆりっぺ。早く呼んでこねぇーと間に合わないぜ?」

 

 日向(ひなた)さんの言う様に時間はあまり残っていません。卒業式の翌日にはNPCが復帰する様に、プログラムが組まれている。今から全員分の日程を変更するのは間に合わない。

 

「あたしが呼びにいきます。ゆりさんは、卒業証書の製作を始めて下さい」

「はぁ......了解、よろしく。(かなで)ちゃん、生徒会室を借りるわ。竹山(たけやま)くん、手伝って」

「うん。わかった」

「はい。あと僕のことは、クラ――」

「では、行ってきまーす」

 

 早足で体育館を出る。熊耳(くまがみ)さんが居るという、図書館に向かっている途中で気が付きました。本人から聞かなくても、パソコンで生徒の名簿を見れば早いということに。

 そこで私は、図書館よりも近い教員棟の職員室へ目的地を変更した。

 

「失礼しまーす」

 

 誰も居ない、職員室。それでも一応、挨拶をしてから中に入る。一番手前の教員の机にある、ノートパソコンを立ち上げる。

 

「パスワードか......」

 

 しくじりました。そりゃロックが掛かってますよね。

 仕方なしに職員室を出ようとした時、校長先生の机が目に留まった。

 ――そうだ、転入手続きの書類を調べればいいんだ。

 

「えっと~......あったっ」

 

 校長先生の生徒用席の後ろの棚にあった箱の中に、年度別のファイルが丁寧に保管されていました。今年度のファイルをパラパラと捲って、熊耳(くまがみ)さんを探す。

 私の名前が書かれた書類がありました。同じ時期に来たと言っていましたし、近くにあるハズです。思った通り、彼の書類はすぐ次のページにありました。日付を見ると、私よりも二三日早く来ていたみたい。

 さっそく、名前を調べる。本名は、熊耳(くまがみ)――っと。メモ帳に熊耳(くまがみ)さんのフルネームを書いて、メモ帳を閉じる。

 ファイルを閉じようとした時、備考欄に何かが書かれている事に気が付いた。急がないといけないのですが、興味本意で何が書かれているのか、好奇心の方が勝って目を通す。

 

「なるほど、それで......」

 

 私の書類と見比べて見る。ほぼ同じことが書かれていました。唯一違うところは「特」と、判子が押されていたということ。

 

「“特”? 特殊能力のことなら、熊耳(くまがみ)さんにも押されているはず......」

 

 ですが、熊耳(くまがみ)さんの書類には押されていません。備考欄を確認する。やはり文章が書かれていました。

 そこに書かれていたことは、私が抱いていた全ての疑問を氷解させる言葉でした。

 

「そっか、あたしは......」

 

 あの男子生徒(NPC)が言った通り、この死後の世界で存在してはいけない人間だったんだ。

 今までにない、大きなタメ息が漏れた。

 

「はぁ......」

 

 (かなで)さんは、重要な選択を話してくれた。友だちと言ってくれて......覚悟を決めた。二人には、ちゃんと話そう。

 ファイルから書類を取り出して、コピー機にセットしてスタートボタンを押そうとしたら、ガラッと横開きのドアが開きました。

 

奈緒(なお)?」

「あれ、奈緒(なお)ちゃん? どうして、ここに?」

 

 計った様なタイミングで二人が来ました。

 手を止めて、質問に答える。

 

「図書館で熊耳(くまがみ)さんを探すよりも、ここで調べた方が早いと思いまして。二人は、どうしたんすか?」

「賞状を取りに来たの」

「あと、コレ」

 

 ゆりさんが、円筒状の蓋を外すとポンッと音が鳴った。ああ、賞状入れですね。どちらも必須のアイテムです。

 コピー機に目線を向けてから、二人をみる。

 

「あの、少し時間をいただけますか?」

「......重大な用事みたいね。あたしは、いいわよ」

 

 (かなで)さんも頷いてくれた。書類を持って、校長室へ移動。トラップは既に撤去済み。もう、合言葉を言う必要もありません。ソファーに腰掛けて、テーブルに書類を置く。

 

「これを見てください」

 

 ゆりさんは、(かなで)さんにも見えるように書類を持った。

 

奈緒(なお)ちゃんの転入手続きね。これが、どうかしたの?」

「備考欄を読んでください」

「備考欄?」

 

 書類の一番下部にある備考欄に視線を落とした。無言で目だけを動かしている。

 しばらくして、パサッとテーブルに書類を置いたゆりさんは、ソファーに深く身体を預けた。

 

「そう、なるほど、そういうことだったのね。奈緒(なお)ちゃんのケガが直ぐに治らなかった理由も納得がいった。あなたにとっては、“普通のこと”だったのね」

 

 異常こそが正常な世界で、私だけは異常だった。

 

「アイツの言った通り......か」

「誰?」

 

 (かなで)さんが、小さく首をかしげる。

 ゆりさんの言うアイツは、第二コンピューター室の男子生徒(NPC)(かなで)さんは、実際見ていないため簡単に説明。

 

「あたしが、銃を撃ち続けている間こう言っていたわ。“友利(ともり)奈緒(なお)は、僕のようなNPCとも、あなたたちとも違う特別な存在。この世界で唯一の()を持ち、この世界に居る存在です”ってね......」

 

 書類の備考欄にも、あの男子(NPC)が言ったことと同じ様なことが書かれていました。

 

 なぜ、こうなったのかは分かりません。

 ですが、私は......。

 

 現実世界の私は、まだ生きているにも関わらず。

 この死後の世界に来てしまった、特異な人間だった。

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