Angel Beats! ~First Love~   作:ナナシの新人

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Episode35 ~卒業~

 卒業証書の制作も無事に間に合い、最後の夜。

 夕食は、食堂から大量の食材を運び、川原でバーベキューをすることに。本来校則違反なんですが、(かなで)さんも黙認してくれて開催決定。

 

「どんどん焼くぞ! 食え食えーっ!」

「こっちも焼けましたよー」

 

 料理は、私とチャーさんが中心になって振る舞う。

 SSS(スリーエス)本隊とギルドメンバーを合わせて百人強、流石に骨が折れますね。予め下ごしらえをしておいたとは言え、キッチンでの調理でないぶん疲れる。

 貰いに来る人も疎らになった頃、熊耳(くまがみ)さんが来ました。

 

「一枚貰えるか」

「はい、どうぞー」

 

 一枚といわず、焼き上がったお肉を五枚ほど紙皿へ乗せる。

 

「多いな」

「サービスっす」

「そうか。ありがたくいただくとするか。ほう、美味いな」

 

 目の前で食べて、褒めてくれた。笑顔を向けて誇らしげに返す。

 

「でしょ? 肉は、タレが決め手なんすよーっ」

友利(ともり)さん、僕にもちょうだいっ」

「はいはい、ちょっと待ってくださーい」

 

 調理を始めてすぐに並んでた戦線幹部が、二回目を貰いに来た。次から次へとお肉を求めて押し寄せて来る。これじゃあ食べてる暇はないなーと思っていると、口元にタレの絡んだお肉が現れました。誰か確かめて見ると運んでくれたのは、(かなで)さんでした。

 

奈緒(なお)、あーん」

「あ~むっ。う~ん、我ながらおいしいな~っ」

 

 久しぶりに食べたお肉を堪能しつつ、もうひと頑張り。しばらくして、高松(たかまつ)さんが代わってくれた。お肉が乗った紙皿と割り箸を持って、川縁の大きめの石を椅子の代わりにして座る。月明かりが川を照らしてキラキラと輝いていた。

 

「うわっ!」

 

 突然、冷たい何かが首スジに触れた。犯人は、岩沢(いわさわ)さん。彼女の手には、缶ジュースが二本。

 

「びっくりするじゃないっすか」

「ははっ、ほらよ」

 

 笑って誤魔化して、隣に座った岩沢(いわさわ)さん。

 

「いよいよだな」

「はい、明日ですね」

 

 明日の朝、食事を済ませたらすぐに、卒業式。お昼には、閉式の予定になっている。今夜が、本当に最後の時間。

 

「式が終わったら、演奏っすよね。どんな歌なんですか?」

「そうだな。この世界の歌、かな?」

 

 返ってきた返事は、抽象的な答え。詳しく教えてくださいとお願いしたら「明日を楽しみにしててくれ」ということだったので、楽しみにしておこうと思います。貰ったジュースを飲みながら話をしていると岩沢(いわさわ)さんは、ひさ子さんに呼ばれて、ガルデモメンバーの元へ戻っていった。

 倒れないようにジュースを置いて、お肉に箸を伸ばす。

 もう、冷えて少し固くなっていましたが、美味しい。

 

「ん?」

 

 気配を感じて、後ろを振り返る。

 冷たい瞳、腰まで伸びた長い金髪、ゆりさんと同じ様な整った前髪の女性が立っていた。

 

「今日は、結んでないんですね」

「......お前、あたしが誰か分かるのか?」

 

 妙なことを聞きますね。

 

遊佐(ゆさ)さんですよね? ちょっと雰囲気が違いますけど、イメチェンですか?」

 

 私の言葉を聞いた彼女は、盛大に項垂れた。そのまま一つタメ息を付いてから顔を上げる。遊佐(ゆさ)さんの表情(かお)は、いつもの表情(かお)に戻っていました。

 

「やはり、友利(ともり)さんは、欺けませんね」

 

 少し口角を上げて、小さく微笑む。私は、なんのことか分からずに首をかしげた。遊佐(ゆさ)さんは、お隣いいですか? と言って、岩沢(いわさわ)さんが座っていた場所に腰を落ち着けた。

 

「先程のあたし、どう思いましたか?」

「普段よりも、人間味があるように感じました。失礼ながら」

 

 素直に感想を述べる。失礼な事を言ったにも関わらず遊佐(ゆさ)さんは、口元の手をやって小さく笑った。

 

「ふふっ、その通りです。先ほどのあたしが、本来のあたしです」

「どういう意味っすか?」

SSS(スリーエス)に入隊する前のことになります。あちらに居る――」

 

 音無(おとなし)さんたちと話している、(かなで)さんに顔を向けた。

 

「天使......いえ、立華(たちばな)さんにお願いをして封じ込めて頂いた本来の人格です」

 

Angel(エンジェル) Prayer(プレイヤー)」を使って、本来の人格を一時的に封印していた。そこまでするなんて、彼女の生前に何があったんでしょうか。多少興味はありますが、過去の詮索はしない、それが戦線のルールだそうですので聞きません。

 遊佐(ゆさ)さんは、卒業を迎えるに当たって人格の封印を解除。それがちょうど四日前、ゆりさんの部屋に泊まった日。あの夜、遊佐(ゆさ)さんが居なかったのは一人静かな場所で、本来の自分と向き合うためだった。ですが――。

 

「なぜ、それをあたしに?」

「それは――」

 

 特技の気配を断ちを、何度も看破されたことが理由。地味に悔しかったらしく、卒業前にリベンジに来たとのことでした。

 赤いリボンで髪を結び、ツインテールを作った。見慣れた、遊佐(ゆさ)さんのシルエット。

 

「いいんですか?」

「はい。あたしは、今のあたしが気に入っていますので」

 

 生前の遊佐さん(人格)も、ここで長年過ごしてきた遊佐さん(人格)も嘘じゃない。どちらも、本物の遊佐(ゆさ)さんなんすね。

 

「では、失礼します」

 

 立ち上がると、スカートの裾を直してから一礼して、ガルデモメンバーの方へ歩いて行った。私は、残っているお肉を食べて手伝いへ戻る。片付けを済ませて、出たゴミを焼却炉へ持っていく。

 

「これで全部か?」

「はい、ありがとうございました」

 

 ゴミ出しを手伝ってくれた音無(おとなし)さんにお礼を言って、寮への道を歩く。彼は、昇降口前の大階段で立ち止まってグラウンドを見下ろした。

 

「俺あそこで、(かなで)に刺されたんだよな......」

「ああ~、そうでしたね。運ぶのに苦労しましたー」

 

 大変だった、と意地悪く腕をぷらぷらさせて見せると、音無(おとなし)さんは笑った。

 

「悪かったなっ。ホント、最悪な出会いだったよ。あんなことが無ければ、もっと......」

「まだ遅くないっすよ。あの(カゲ)はもう、出現しません」

「......知ってたのか?」

「バレバレです」

 

 音無(おとなし)さんは苦笑いをして、夜空を見上げた。私も空を見る。夜空はあの日と同じで、満天の星空の中に銀色に光る満月が浮かんでいた。

 

「......行ってくる」

「はい、行ってらっしゃいませ」

 

 先に歩く背中を見送って、寮の部屋へ帰る。

 机に向かって、最後の日記を書いているとドンドンッ! と、ドアが壊れるんじゃないかと思う程の大きなノックが聞こえた。ペンを置いて、席を立つ。

 

「はいはい、今出ますよー」

 

 鍵を開けると、勢いよくドアが開いた。廊下に立っていたのは、ゆりさん。よほど急いでいたのか、彼女は息を切らせ、額から汗を流していた。

 

「はぁはぁ......。上がらせてもらえるかしらっ?」

「どうぞ」

 

 とりあえず上がってもらい、息が整うのを待つ間に自販機で水のボトルを買って戻る。

 

「どうぞー」

「ありがと。いただくわ」

 

 ゆりさんは蓋を開けると一度に半分近く飲み、テーブルにボトルを置いて息を吐いた。

 

「落ち着きましたか?」

「ええ......」

「それでどうしたんすか?」

「これを見てっ」

 

 持ってきた茶封筒を、私の前に差し出した。入っていたのは、例の復元された写真。手に取って見ても、特に変わった所は見当たらない。

 

「これが、何か?」

「ふふーんっ、これを使うのよっ」

 

 得意気な表情(かお)をして差し出したのは――。 

 

「手鏡ですか?」

「そうっ。これをこうやって、赤茶髪の男子の顔に~......っと」

 

 正面を見ている男子の顔半分の位置に、垂直に立てて置いた。

 

「こっちから見てみてっ」

「ん?」

 

 反射している方に回ってやや斜めから写真を見る。

 長い前髪に隠れていた部分が消え、左右対称の顔が写し出されている。その顔に衝撃を受けた私は顔を上げて、ゆりさんを見た。彼女は、ゆっくりと頷く。

 

「あたしも、見つけた時は驚いたわ」

「......行きましょう」

「ええっ、行くわよっ」

 

 ライトを持って、女子寮を出る。

 階段を下って、大食堂の横を通り、第二連絡橋を渡って教員棟へ入る。職員室に入って、校長先生の机の後ろにある棚を開けて、転入手続きの書類を調べる。目当ての生徒の書類は、すぐに見つかりました。ライトを当てて、隅々まで確かめる。

 

「やっぱり......同じだ」

奈緒(なお)ちゃんと?」

「いいえ、あたしでなく......この人です」

 

 同じファイルの別のページを見せる。

 するとゆりさんは、腕を組んで考え込んだ。

 

「どういうことなのかしら?」

「分かりません。ですが、何かしらの関係はあるかと。明日、聞いてみようと思います」

「そうね......。じゃあ今日は、ここまでにしましょ。ハァ、お腹空いた。何か作ってもらえる?」

 

 そう言えば、川原で見掛けなかった。

 ずっと、これを調べていたんですね。

 

「はいはい、わかりました。では食堂へ行きましょー」

「お願いね」

 

 余った食材を使って、二人分の夜食を作り、消灯時間後の誰も居ない大浴場で汗を流し、廊下で別れて、自室へ戻る。机に向かい直し、日記の続きを書き上げて、ベッドで横になる。

 最後の夜。

 この世界で過ごした時間を振り返りながら、ゆっくりと眠りについた。

 

 

         * * *

 

 

「開式の辞!」

 

 高松(たかまつ)さんが司会を務め、卒業式の開式を告げる。国歌斉唱、卒業証書授与と特に問題もなく坦々と進行していく。

 

「答辞。卒業生代表、音無(おとなし)結弦(ゆづる)

「はいっ」

 

 起立した音無(おとなし)さんは、壇上に立つ。

 こほん、と咳払いをしてから話し出した。

 

「この学校に来て初めて会ったのは、仲村(なかむら)ゆりさんでした」

 

 話は彼が、この死後の世界に来てからの思い出話し。

 私の知らない、SSS(スリーエス)での活動が主な内容だった。

 

「私たちは今日をもって、この学校を卒業します......。一緒に過ごした仲間の顔は忘れてしまっても......、この、魂に刻みあった絆は忘れません。みんなと過ごせて、ほんとに良かったです、ありがとうございましたっ! 卒業生代表――音無(おとなし)結弦(ゆづる)!」

 

 最後の方は涙声でしたが無事、送辞のない答辞を終えた。

 大きな拍手が、体育館を包み込んだ。高松(たかまつ)さんは、空気を読んで拍手が鳴り止むのを待ってから進行を再開。

 

「閉式辞。これを持って、天上学園卒業式を閉幕といたします。礼!」

 

 声に合わせて深く一礼をし、卒業式は終わりを迎えた。

 余韻に浸っているのか、しばらく誰も動こうとしなかった。

 

「よしっ、じゃあやるか!」

 

 岩沢(いわさわ)さんが、この空気を一変させる。

 

「だな。入江(いりえ)関根(せきね)

「はいですーっ」

「了解ですっ。ひさ子先輩!」

「あたしを忘れないでくださいよーっ!」

 

 ガルデモメンバーが壇上へ上がる。

 一度舞台袖に下がり、楽器を持って戻ってきた。

 

『あーあー。ユイ』

『おっけーでぇーすっ!』

 

 マイクテストをして岩沢(いわさわ)さんは、メンバーに合図を送って前を向いた。

 

『お前ら、今日があたしらのラストステージだ! 盛り上がってくれよッ!』

 

 みんなは前に集まり、オオーッ! と大きな歓声を上げた。

 

『今日は、特別だ。ツインボーカルで行くぜッ! ユイ!』

『いつでも行けまーすっ!』

『Thousand Enemies! 』

 

Girls(ガールズ)Dead(デッド)Monster(モンスター)」のラストライブが始まった。

 次の曲は、ユイさんが書き下ろした新曲「一番の宝物」。

 この歌は、どんなに辛い境遇でも幸せを掴むため、目を閉じずに前に進む。そんな思いを感じる詩でした。

 日向(ひなた)さんと恋人になってから書いた曲と言うことなので、二人の詩なのかも知れませんね。

 そして、ライブで一番盛り上がる曲「Alchemy」を挟んで、いよいよ岩沢(いわさわ)さんの新曲。

 

「じゃあ行ってくるわ」

「えっ?」

(かなで)ちゃん?」

 

 一緒に聴いていた(かなで)さんが突然、ステージに上がた。なんだなんだ? と、ざわめきが起こる。

 入江(いりえ)さんと関根(せきね)さんは、上手からピアノを運んできた。ピアノの椅子に(かなで)さんが座り、鍵盤に手を置いて、岩沢(いわさわ)さんに向かって頷く。

 

『新曲だ、聞いてくれ――すべての終わりの始まり』

 

 新曲は、(かなで)さんの伴奏から始まった。

 岩沢(いわさわ)さんの透き通る歌声とピアノの伴奏、バンド演奏は喧嘩することなく交わり、絶妙なバラードに仕上がっていた。何人もの、すすり泣く声が聞こえてくる。

 この曲の歌詞は昨夜、岩沢(いわさわ)さんが言っていた通り、この世界の歌。この死後の世界で過ごし、卒業を迎える私たち全員に向けた、そんな心に響く詩でした。

 

『ふぅ......。さて、次が最後の曲だ。あたしらの始まりの歌――Crow Song!』

 

 先ほどの新曲とは打って変わって激しいロック。

 (かなで)さんが、戻ってきました。

 

「お疲れさまっす」

「素敵な演奏だったわよ」

「ありがとう」

 

 岩沢(いわさわ)さんとユイさんは、一緒に最後の歌詞を歌い。そして、演奏が終わる。

 

『お前ら! 卒業おめでとーッ!』

 

 岩沢(いわさわ)は、ピックを投げた。

 それは真っ直ぐ、私に向かって飛んでくる。

 

「わっ!」

 

 落とさない様に両手でしっかりと掴む。

 岩沢(いわさわ)さんは、拳を突き出して笑っていた。まったく。

 こうして「Girls(ガールズ)Dead(デッド)Monster(モンスター)」のラストステージは幕を閉じた。

 

 

         * * *

 

 

 ライブが終わり、卒業写真を撮るため外に出る。

 

「何で、外に出るんだ?」

「良い場所があるんすよ」

 

 疑問を口にした日向(ひなた)さんに答える。校舎の前を通り、教員棟の先にある第二連絡橋を渡る。

 

「ここでーす」

「へぇ~、スゴいわね」

「でしょ?」

 

 みんなを連れて来たのは、(かなで)さんと一緒に手入れをしていた植物園。ビニールハウスを撤去した跡地には、大輪の花を咲かせる向日葵(ひまわり)畑になっている。

 

「真夏の卒業式には、相応しいっしょ?」

「だな。よし、みんな並んでくれっ」

 

 音無(おとなし)さんが、みんなを誘導。

 男女で左右に分かれて列ぶ。チャーさんが、カメラの画面を確認ながら細かい指示し、セルフタイマーをセット、真面目な卒業写真を撮り終えた。

 今度は、この世界に残す文集の最後のページに添える写真を撮影することになったんですが......。

 

「くっつき過ぎじゃないっすかー?」

「いいじゃない、最後なんだし。ねっ? 奏ちゃん」

「うんっ」

 

 なぜか、私が中心になって両サイドにゆりさんと(かなで)さんがぴったりとくっついている。暑いっす。

 

「うわぁっ」

 

 背中に重みを感じた。振り向くと岩沢(いわさわ)さんが、私と(かなで)さんの肩に抱きついていた。

 

「......重いっす」

「ははっ、ひさ子も来いよっ」

「ああ、今行くよ」

「あたしらも! 行くぞー、みゆきちっ」

「待ってよー。しおりーんっ」

 

 ユイさんと遊佐(ゆさ)さん、椎名(しいな)さん。

 他のみんなも集まってきました。

 

「よし、撮るぞー!」

 

 また、チャーさんがタイマーをセットして戻ってくる。

 カシャッ! と、シャッターが切られた。

 

 

         * * *

 

 

「さて、俺たちは行く。じゃあな、ゆりっぺ」

「ええ、お疲れさま。チャー、みんなも!」

 

 ギルドのメンバーは各々ゆりさんにお礼を言って言葉を交わした。

 

「チャー。あなたが居なかったら、何も始まらなかった。今まで、ありがとう」

「いや、俺の方こそ。お前と......お前たちと出会えてよかった」

 

 日向(ひなた)さんたち幹部に笑顔を向けた。

 彼らもまた、笑顔で答える。

 

「奥さんと、逢えるといいわね」

「ああ、じゃあな」

 

 ギルドのメンバーは、みんな満足そうな表情(かお)をして光に包まれ消えいった。無事、卒業できたみたいです。

 みんな、それぞれ自分のタイミングで卒業して行き、残ったのはSSS(スリーエス)幹部とガルデモメンバー、(かなで)さんと熊耳(くまがみ)さん。

 

「あたしらも、行くか」

 

 岩沢(いわさわ)さんが、ゆりさんの前に立つ。

 

「お疲れさま。岩沢(いわさわ)さん」

「ゆりも、お疲れ。友利(ともり)

「はい」

「お前に会えてよかった」

 

 握手を求められた。握り返す。堅い手のひら、どれだけ練習を繰り返したら、こんなに素敵な手になるんでしょう。

 

「あたしもです」

「ありがとう。生まれ変わってもロックやるよ! じゃあ、またなっ!」

「はい、また逢いましょう!」

 

 岩沢(いわさわ)さんは、ガルデモメンバーの元へ戻りメンバーとハイタッチを交わしてから振り返る。四人は、スゴく晴れやかな表情(かお)だった。

 

「じゃあな、お前ら! 最高だったぜ!」

「またなっ!」

「ありがとうございましたー!」

「またバンドやるよっ!」

 

 ガルデモ――「Girls(ガールズ)Dead(デッド)Monster(モンスター)」は、新メンバーのユイさんを除いて、この世界から卒業して行った。

 

奈緒(なお)、ゆり」

 

 (かなで)さんが、音無(おとなし)さんを連れて来ました。

 

「二人揃って、どうしたの?」

「話したいことがあって。紹介するわ。彼が、私に命をくれた恩人――結弦(ゆづる)よ」

 

 状況が飲み込めず、隣のゆりさんを見ると彼女は目を丸くしていた。きっと今の私も、ゆりさんと同じ表情(かお)をしていると思う。(かなで)さんが言った、命をくれた恩人って、まさか......いえ、あり得ないっすっ。だって、出逢える可能性は正に天文学的数字で――。

 

「えっと、だな~」

 

 混乱している私たちに音無(おとなし)さんは、照れくさそうに頭をかきながら説明してくれた。

 

「と、いう訳なんだ」

 

 要約します。(かなで)さんは、音無(おとなし)さんを刺した日に、彼に心臓が無いことに気がついた。でも、確証が持てないまま敵対することになり、スレ違う日々を送る中で音無(おとなし)さんは、何かと(かなで)さんを気に掛けていた。

 (かなで)さんの中で疑念が確信に変わったのが「 harmonics(ハーモニクス)」の分身(コピー)と同化し、昏睡状態に陥っていた時。彼女の看病に疲れ、(かなで)さんの胸の上で眠っていた音無(おとなし)さんが、失った記憶を取り戻したから。それは(かなで)さん曰く、自分の心臓の鼓動を長時間聴いたため思い出したんじゃないか、ということです。

 

「なんていうか、スゴいわね......」

「はい、こういうのを奇跡っていうんでしょうか?」

 

 もしかしたら自分の心臓を持つ(かなで)さんに、無意識の内に惹かれていたのかも知れません。そっか、だから(かなで)さんは、大丈夫って言っていたんだ。

 

「お礼が言えて、よかったですね。(かなで)さん」

「うん、ありがとう。奈緒(なお)

 

 (かなで)さんは、とても嬉しそうな表情(かお)でお礼を言う。そんな彼女を見てゆりさんは、意味深な笑みで音無(おとなし)を揺さぶった。

 

「ふぅ~ん。で、思いを伝えあって親密な関係になった、と?」

「えっ!? えっと......」

 

 面白そうなんで乗ってみますか。

 

「この人、狼狽えてますよー」

「この反応は間違いなく黒ねっ」

結弦(ゆづる)、私たち親密な関係になったの?」

「いや、どうだろうな~」

 

 頬を人差し指でかいて誤魔化そうとしています。直井(なおい)さんの件では結構頼りになるなって思ったんですが、恋愛に関してはヘタレだったんすかね。まあ、いきなり突拍子のない告白をされたら、それどころじゃないか。

 

「はあぁーーっ!? 何でだよっ! 俺たち長年一緒に過ごしてきた仲間だろっ? 友だちだろっ?」

 

 話していると突然、大きな声が聞こえた。声が聞こえた方を見ると、日向(ひなた)さんたちが騒いでいた。

 ゆっくり話も出来ないじゃない、と抗議に向かう、ゆりさんに付いていく。

 

日向(ひなた)くんっ、落ち着いてよっ」

「あんたたち、少しは落ち着きなさい。最後くらい静かに出来ないの?」

「何を騒いでるんすか?」

 

 日向(ひなた)さんを宥めていた大山(おおやま)さんが、私たちに気がついた。

 

「あっ、ゆりっぺ、友利(ともり)さんっ。突然、日向(ひなた)くんが発狂したんだよっ」 

「いいところに来てくれたぜっ。TK(ティーケー)友利(ともり)はっ?」

 

 日向(ひなた)さんが、TK(ティーケー)さんに話を振る。いったい、なんの話なんでしょうか。

 

友利(ともり)姉さん」

「はぁーっ!? 意味わかんねぇーぜっ。なんで俺や藤巻(ふじまき)が“氏”呼びで、出会って間もない友利(ともり)が、ひさ子と同格の“姉さん”呼びなんだよーッ!?」

「きっとTK(ティーケー)は、食べ物の恩は忘れない義理堅いナイスガイなんだよっ!」

「いつも美味しいご飯をありがとうございます」

「はぁ、どういたしまして」

 

 何のことかさっぱり状況が把握出来ませんが、ものスゴい流暢な日本語でお礼を言われました。

 

「くっそー、ジェラシーッ!」

日向(ひなた)、お前がTK(ティーケー)みたいになってるぞ!」

「あさはかなり」

「はいはい。あんたたち、その辺にしておきなさい」

 

 ゆりさんが、止めに入ると多少の言い分は出ましたが、すぐに静かになりました。

 

「さて、いつまでもこうしている訳にはいかないわ。そうね......あと三十分にしましょう」

 

 ゆりさんの提案に受け入れたみんなは、思い思いに行動を始めた。散歩に出る人、話をする人。

 私は、ゆりさんと(かなで)さんと一緒に食堂へ行って話しをすることした。食堂の自販機で飲み物を買って、テーブルに着くと、ゆりさんは興味ありげな表情(かお)(かなで)さんに聞く。

 

「それで実際、音無(おとなし)くんのことどう思ってるの?」

結弦(ゆづる)? う~ん......」

 

 首を傾げる(かなで)さん。どう答えるのか興味がないと言えば嘘になる。恋話(こいばな)なんてしたことないですし。普通の女子高生みたいで、なんだか可笑しく感じる。

 

「よくわからないわ」

「嫌いじゃないでしょ?」

「うん。でも――」

 

 (かなで)さんは、正面に座るゆりさんの目をまっすぐ見詰めて言った。

 

「二人のことは、好き。でも、この好きって気持ちは異性が相手だと違うものなの?」

 

 ゆりさんは、答えに困ったのか私を見た。

 その仕草を見た(かなで)さんが、代わりに聞いてきた。

 

奈緒(なお)は、どう思う?」

「あたしは――正直、わかりません。異性を好きになったことないですから」

 

 誰も信じられない私が、恋をするなんて考えたこともないし、想像もつかない。

 

「そう。ゆりは?」

「あたしも、奈緒(なお)ちゃんと同じ。恋なんてしたことないから分からないわ。でも、やっぱり違うんじゃないかしら......」

 

 やっぱり、そうなんでしょうか。

 二人も、私と同じ様に考えている。

 

「ねぇ。約束しましょっ」

 

 ゆりさんが提案した約束、それは来世での約束。

 それを、私と(かなで)さんは頷いた。

 

 

         * * *

 

 

「みんな、心の準備はいい?」

 

 三十分後。ゆりさんは、SSS(スリーエス)が本部を構える校長室に集合した幹部メンバーに確認を取る。もう、準備は整っている、そう感じさせる穏やかな雰囲気中で、野田(のだ)さんが挙手をした。彼に注目が集まる。

 

「ゆりっぺ、最後に思いの丈を伝えさせてくれ......」

「なーに?」

 

 ゆりさんの前に立つ野田(のだ)さんからは、緊張感が伝わって来ました。一度目を閉じて大きく深呼吸をして、ゆりさんを真っ直ぐ見つめて言った。

 

「ゆりっぺ......好きだッ!」

 

 周りを気にせず、大声で告白をしました。男らしいっすね。

 

「ありがと。でも、ごめんなさい。野田(のだ)くんの気持ちには答えられないわ」

「ああ、わかっている。最後にしっかり伝えたかったんだ」

 

 野田(のだ)さんは、ゆりさんに背を向けた。

 その背中には、哀愁が漂っています。

 

野田(のだ)くん」

「ん? なっ!?」

 

 ゆりさんは、野田(のだ)さんを呼び止めて振り返ったところで頬に軽くキスをした。おおーっと、どよめきが起こる。

 

「ゆ、ゆゆ、ゆ、ゆりっぺっ?」

 

 少し赤く頬を染めて、イタズラな笑顔を見せた。

 

「お礼よ、取っておきなさいっ」

 

 真っ赤になった野田(のだ)さんの身体が、光り出しました。そして、徐々に薄くなり......。

 

「って。おい! 野田(のだ)が消えかかってんぞっ!?」

「まだ早いって! 一人で行くなっ! 高松(たかまつ)松下(まつした)五段!」

「はいっ!」

「おおよッ!」

 

 消えかかった野田(のだ)さんを、何とか思いとどまらせる事に成功しました。

 

「さぁ、みんな目を閉じなさい」

 

 目を閉じる。みんなの姿が消え、視界は暗闇に包まれた。

 ゆりさんの優しい声だけが聞こえる。

 

「あなたたちと過ごした日々は、本当にかけがえのないの無い大切な時間だったわ。あたしのワガママに、ずっと付き合ってくれてありがとう」

「なに言ってんだよ? リーダー。ここに居るヤツらは、ゆりっぺだから付いてきたんだぜ? なぁ?」

 

 日向(ひなた)さんの声が、みんなに語りかける。

 みんな、きっと相づちを打っている。もちろん、私も。

 

「ありがと......」

 

 と、小さく呟き。

 

「あえて解散宣言しないわっ。じゃあねっ、みんな! また、どこかで逢いましょう!」

 

 みんなの返事が聞こえて、そして、気配が消えた。

 私は、ゆっくりと目を開けて確認する。部屋の中に残っていたのは、私を含めて三人だった。

 私とゆりさん。そして、腕を組んで壁に寄り掛かっている男子生徒。

 

「やはり、残りましたか......」

 

 私は、彼に話し掛ける――熊耳(くまがみ)さん。

 

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