Angel Beats! ~First Love~ 作:ナナシの新人
卒業証書の制作も無事に間に合い、最後の夜。
夕食は、食堂から大量の食材を運び、川原でバーベキューをすることに。本来校則違反なんですが、
「どんどん焼くぞ! 食え食えーっ!」
「こっちも焼けましたよー」
料理は、私とチャーさんが中心になって振る舞う。
貰いに来る人も疎らになった頃、
「一枚貰えるか」
「はい、どうぞー」
一枚といわず、焼き上がったお肉を五枚ほど紙皿へ乗せる。
「多いな」
「サービスっす」
「そうか。ありがたくいただくとするか。ほう、美味いな」
目の前で食べて、褒めてくれた。笑顔を向けて誇らしげに返す。
「でしょ? 肉は、タレが決め手なんすよーっ」
「
「はいはい、ちょっと待ってくださーい」
調理を始めてすぐに並んでた戦線幹部が、二回目を貰いに来た。次から次へとお肉を求めて押し寄せて来る。これじゃあ食べてる暇はないなーと思っていると、口元にタレの絡んだお肉が現れました。誰か確かめて見ると運んでくれたのは、
「
「あ~むっ。う~ん、我ながらおいしいな~っ」
久しぶりに食べたお肉を堪能しつつ、もうひと頑張り。しばらくして、
「うわっ!」
突然、冷たい何かが首スジに触れた。犯人は、
「びっくりするじゃないっすか」
「ははっ、ほらよ」
笑って誤魔化して、隣に座った
「いよいよだな」
「はい、明日ですね」
明日の朝、食事を済ませたらすぐに、卒業式。お昼には、閉式の予定になっている。今夜が、本当に最後の時間。
「式が終わったら、演奏っすよね。どんな歌なんですか?」
「そうだな。この世界の歌、かな?」
返ってきた返事は、抽象的な答え。詳しく教えてくださいとお願いしたら「明日を楽しみにしててくれ」ということだったので、楽しみにしておこうと思います。貰ったジュースを飲みながら話をしていると
倒れないようにジュースを置いて、お肉に箸を伸ばす。
もう、冷えて少し固くなっていましたが、美味しい。
「ん?」
気配を感じて、後ろを振り返る。
冷たい瞳、腰まで伸びた長い金髪、ゆりさんと同じ様な整った前髪の女性が立っていた。
「今日は、結んでないんですね」
「......お前、あたしが誰か分かるのか?」
妙なことを聞きますね。
「
私の言葉を聞いた彼女は、盛大に項垂れた。そのまま一つタメ息を付いてから顔を上げる。
「やはり、
少し口角を上げて、小さく微笑む。私は、なんのことか分からずに首をかしげた。
「先程のあたし、どう思いましたか?」
「普段よりも、人間味があるように感じました。失礼ながら」
素直に感想を述べる。失礼な事を言ったにも関わらず
「ふふっ、その通りです。先ほどのあたしが、本来のあたしです」
「どういう意味っすか?」
「
「天使......いえ、
「
「なぜ、それをあたしに?」
「それは――」
特技の気配を断ちを、何度も看破されたことが理由。地味に悔しかったらしく、卒業前にリベンジに来たとのことでした。
赤いリボンで髪を結び、ツインテールを作った。見慣れた、
「いいんですか?」
「はい。あたしは、今のあたしが気に入っていますので」
生前の
「では、失礼します」
立ち上がると、スカートの裾を直してから一礼して、ガルデモメンバーの方へ歩いて行った。私は、残っているお肉を食べて手伝いへ戻る。片付けを済ませて、出たゴミを焼却炉へ持っていく。
「これで全部か?」
「はい、ありがとうございました」
ゴミ出しを手伝ってくれた
「俺あそこで、
「ああ~、そうでしたね。運ぶのに苦労しましたー」
大変だった、と意地悪く腕をぷらぷらさせて見せると、
「悪かったなっ。ホント、最悪な出会いだったよ。あんなことが無ければ、もっと......」
「まだ遅くないっすよ。あの
「......知ってたのか?」
「バレバレです」
「......行ってくる」
「はい、行ってらっしゃいませ」
先に歩く背中を見送って、寮の部屋へ帰る。
机に向かって、最後の日記を書いているとドンドンッ! と、ドアが壊れるんじゃないかと思う程の大きなノックが聞こえた。ペンを置いて、席を立つ。
「はいはい、今出ますよー」
鍵を開けると、勢いよくドアが開いた。廊下に立っていたのは、ゆりさん。よほど急いでいたのか、彼女は息を切らせ、額から汗を流していた。
「はぁはぁ......。上がらせてもらえるかしらっ?」
「どうぞ」
とりあえず上がってもらい、息が整うのを待つ間に自販機で水のボトルを買って戻る。
「どうぞー」
「ありがと。いただくわ」
ゆりさんは蓋を開けると一度に半分近く飲み、テーブルにボトルを置いて息を吐いた。
「落ち着きましたか?」
「ええ......」
「それでどうしたんすか?」
「これを見てっ」
持ってきた茶封筒を、私の前に差し出した。入っていたのは、例の復元された写真。手に取って見ても、特に変わった所は見当たらない。
「これが、何か?」
「ふふーんっ、これを使うのよっ」
得意気な
「手鏡ですか?」
「そうっ。これをこうやって、赤茶髪の男子の顔に~......っと」
正面を見ている男子の顔半分の位置に、垂直に立てて置いた。
「こっちから見てみてっ」
「ん?」
反射している方に回ってやや斜めから写真を見る。
長い前髪に隠れていた部分が消え、左右対称の顔が写し出されている。その顔に衝撃を受けた私は顔を上げて、ゆりさんを見た。彼女は、ゆっくりと頷く。
「あたしも、見つけた時は驚いたわ」
「......行きましょう」
「ええっ、行くわよっ」
ライトを持って、女子寮を出る。
階段を下って、大食堂の横を通り、第二連絡橋を渡って教員棟へ入る。職員室に入って、校長先生の机の後ろにある棚を開けて、転入手続きの書類を調べる。目当ての生徒の書類は、すぐに見つかりました。ライトを当てて、隅々まで確かめる。
「やっぱり......同じだ」
「
「いいえ、あたしでなく......この人です」
同じファイルの別のページを見せる。
するとゆりさんは、腕を組んで考え込んだ。
「どういうことなのかしら?」
「分かりません。ですが、何かしらの関係はあるかと。明日、聞いてみようと思います」
「そうね......。じゃあ今日は、ここまでにしましょ。ハァ、お腹空いた。何か作ってもらえる?」
そう言えば、川原で見掛けなかった。
ずっと、これを調べていたんですね。
「はいはい、わかりました。では食堂へ行きましょー」
「お願いね」
余った食材を使って、二人分の夜食を作り、消灯時間後の誰も居ない大浴場で汗を流し、廊下で別れて、自室へ戻る。机に向かい直し、日記の続きを書き上げて、ベッドで横になる。
最後の夜。
この世界で過ごした時間を振り返りながら、ゆっくりと眠りについた。
* * *
「開式の辞!」
「答辞。卒業生代表、
「はいっ」
起立した
こほん、と咳払いをしてから話し出した。
「この学校に来て初めて会ったのは、
話は彼が、この死後の世界に来てからの思い出話し。
私の知らない、
「私たちは今日をもって、この学校を卒業します......。一緒に過ごした仲間の顔は忘れてしまっても......、この、魂に刻みあった絆は忘れません。みんなと過ごせて、ほんとに良かったです、ありがとうございましたっ! 卒業生代表――
最後の方は涙声でしたが無事、送辞のない答辞を終えた。
大きな拍手が、体育館を包み込んだ。
「閉式辞。これを持って、天上学園卒業式を閉幕といたします。礼!」
声に合わせて深く一礼をし、卒業式は終わりを迎えた。
余韻に浸っているのか、しばらく誰も動こうとしなかった。
「よしっ、じゃあやるか!」
「だな。
「はいですーっ」
「了解ですっ。ひさ子先輩!」
「あたしを忘れないでくださいよーっ!」
ガルデモメンバーが壇上へ上がる。
一度舞台袖に下がり、楽器を持って戻ってきた。
『あーあー。ユイ』
『おっけーでぇーすっ!』
マイクテストをして
『お前ら、今日があたしらのラストステージだ! 盛り上がってくれよッ!』
みんなは前に集まり、オオーッ! と大きな歓声を上げた。
『今日は、特別だ。ツインボーカルで行くぜッ! ユイ!』
『いつでも行けまーすっ!』
『Thousand Enemies! 』
「
次の曲は、ユイさんが書き下ろした新曲「一番の宝物」。
この歌は、どんなに辛い境遇でも幸せを掴むため、目を閉じずに前に進む。そんな思いを感じる詩でした。
そして、ライブで一番盛り上がる曲「Alchemy」を挟んで、いよいよ
「じゃあ行ってくるわ」
「えっ?」
「
一緒に聴いていた
『新曲だ、聞いてくれ――すべての終わりの始まり』
新曲は、
この曲の歌詞は昨夜、
『ふぅ......。さて、次が最後の曲だ。あたしらの始まりの歌――Crow Song!』
先ほどの新曲とは打って変わって激しいロック。
「お疲れさまっす」
「素敵な演奏だったわよ」
「ありがとう」
『お前ら! 卒業おめでとーッ!』
それは真っ直ぐ、私に向かって飛んでくる。
「わっ!」
落とさない様に両手でしっかりと掴む。
こうして「
* * *
ライブが終わり、卒業写真を撮るため外に出る。
「何で、外に出るんだ?」
「良い場所があるんすよ」
疑問を口にした
「ここでーす」
「へぇ~、スゴいわね」
「でしょ?」
みんなを連れて来たのは、
「真夏の卒業式には、相応しいっしょ?」
「だな。よし、みんな並んでくれっ」
男女で左右に分かれて列ぶ。チャーさんが、カメラの画面を確認ながら細かい指示し、セルフタイマーをセット、真面目な卒業写真を撮り終えた。
今度は、この世界に残す文集の最後のページに添える写真を撮影することになったんですが......。
「くっつき過ぎじゃないっすかー?」
「いいじゃない、最後なんだし。ねっ? 奏ちゃん」
「うんっ」
なぜか、私が中心になって両サイドにゆりさんと
「うわぁっ」
背中に重みを感じた。振り向くと
「......重いっす」
「ははっ、ひさ子も来いよっ」
「ああ、今行くよ」
「あたしらも! 行くぞー、みゆきちっ」
「待ってよー。しおりーんっ」
ユイさんと
他のみんなも集まってきました。
「よし、撮るぞー!」
また、チャーさんがタイマーをセットして戻ってくる。
カシャッ! と、シャッターが切られた。
* * *
「さて、俺たちは行く。じゃあな、ゆりっぺ」
「ええ、お疲れさま。チャー、みんなも!」
ギルドのメンバーは各々ゆりさんにお礼を言って言葉を交わした。
「チャー。あなたが居なかったら、何も始まらなかった。今まで、ありがとう」
「いや、俺の方こそ。お前と......お前たちと出会えてよかった」
彼らもまた、笑顔で答える。
「奥さんと、逢えるといいわね」
「ああ、じゃあな」
ギルドのメンバーは、みんな満足そうな
みんな、それぞれ自分のタイミングで卒業して行き、残ったのは
「あたしらも、行くか」
「お疲れさま。
「ゆりも、お疲れ。
「はい」
「お前に会えてよかった」
握手を求められた。握り返す。堅い手のひら、どれだけ練習を繰り返したら、こんなに素敵な手になるんでしょう。
「あたしもです」
「ありがとう。生まれ変わってもロックやるよ! じゃあ、またなっ!」
「はい、また逢いましょう!」
「じゃあな、お前ら! 最高だったぜ!」
「またなっ!」
「ありがとうございましたー!」
「またバンドやるよっ!」
ガルデモ――「
「
「二人揃って、どうしたの?」
「話したいことがあって。紹介するわ。彼が、私に命をくれた恩人――
状況が飲み込めず、隣のゆりさんを見ると彼女は目を丸くしていた。きっと今の私も、ゆりさんと同じ
「えっと、だな~」
混乱している私たちに
「と、いう訳なんだ」
要約します。
「なんていうか、スゴいわね......」
「はい、こういうのを奇跡っていうんでしょうか?」
もしかしたら自分の心臓を持つ
「お礼が言えて、よかったですね。
「うん、ありがとう。
「ふぅ~ん。で、思いを伝えあって親密な関係になった、と?」
「えっ!? えっと......」
面白そうなんで乗ってみますか。
「この人、狼狽えてますよー」
「この反応は間違いなく黒ねっ」
「
「いや、どうだろうな~」
頬を人差し指でかいて誤魔化そうとしています。
「はあぁーーっ!? 何でだよっ! 俺たち長年一緒に過ごしてきた仲間だろっ? 友だちだろっ?」
話していると突然、大きな声が聞こえた。声が聞こえた方を見ると、
ゆっくり話も出来ないじゃない、と抗議に向かう、ゆりさんに付いていく。
「
「あんたたち、少しは落ち着きなさい。最後くらい静かに出来ないの?」
「何を騒いでるんすか?」
「あっ、ゆりっぺ、
「いいところに来てくれたぜっ。
「
「はぁーっ!? 意味わかんねぇーぜっ。なんで俺や
「きっと
「いつも美味しいご飯をありがとうございます」
「はぁ、どういたしまして」
何のことかさっぱり状況が把握出来ませんが、ものスゴい流暢な日本語でお礼を言われました。
「くっそー、ジェラシーッ!」
「
「あさはかなり」
「はいはい。あんたたち、その辺にしておきなさい」
ゆりさんが、止めに入ると多少の言い分は出ましたが、すぐに静かになりました。
「さて、いつまでもこうしている訳にはいかないわ。そうね......あと三十分にしましょう」
ゆりさんの提案に受け入れたみんなは、思い思いに行動を始めた。散歩に出る人、話をする人。
私は、ゆりさんと
「それで実際、
「
首を傾げる
「よくわからないわ」
「嫌いじゃないでしょ?」
「うん。でも――」
「二人のことは、好き。でも、この好きって気持ちは異性が相手だと違うものなの?」
ゆりさんは、答えに困ったのか私を見た。
その仕草を見た
「
「あたしは――正直、わかりません。異性を好きになったことないですから」
誰も信じられない私が、恋をするなんて考えたこともないし、想像もつかない。
「そう。ゆりは?」
「あたしも、
やっぱり、そうなんでしょうか。
二人も、私と同じ様に考えている。
「ねぇ。約束しましょっ」
ゆりさんが提案した約束、それは来世での約束。
それを、私と
* * *
「みんな、心の準備はいい?」
三十分後。ゆりさんは、
「ゆりっぺ、最後に思いの丈を伝えさせてくれ......」
「なーに?」
ゆりさんの前に立つ
「ゆりっぺ......好きだッ!」
周りを気にせず、大声で告白をしました。男らしいっすね。
「ありがと。でも、ごめんなさい。
「ああ、わかっている。最後にしっかり伝えたかったんだ」
その背中には、哀愁が漂っています。
「
「ん? なっ!?」
ゆりさんは、
「ゆ、ゆゆ、ゆ、ゆりっぺっ?」
少し赤く頬を染めて、イタズラな笑顔を見せた。
「お礼よ、取っておきなさいっ」
真っ赤になった
「って。おい!
「まだ早いって! 一人で行くなっ!
「はいっ!」
「おおよッ!」
消えかかった
「さぁ、みんな目を閉じなさい」
目を閉じる。みんなの姿が消え、視界は暗闇に包まれた。
ゆりさんの優しい声だけが聞こえる。
「あなたたちと過ごした日々は、本当にかけがえのないの無い大切な時間だったわ。あたしのワガママに、ずっと付き合ってくれてありがとう」
「なに言ってんだよ? リーダー。ここに居るヤツらは、ゆりっぺだから付いてきたんだぜ? なぁ?」
みんな、きっと相づちを打っている。もちろん、私も。
「ありがと......」
と、小さく呟き。
「あえて解散宣言しないわっ。じゃあねっ、みんな! また、どこかで逢いましょう!」
みんなの返事が聞こえて、そして、気配が消えた。
私は、ゆっくりと目を開けて確認する。部屋の中に残っていたのは、私を含めて三人だった。
私とゆりさん。そして、腕を組んで壁に寄り掛かっている男子生徒。
「やはり、残りましたか......」
私は、彼に話し掛ける――