Angel Beats! ~First Love~ 作:ナナシの新人
「さて、
笑顔で優しく話しかけたゆりさんですが、目の奥は笑っていません。
「構わないが、先にやることがある。少し待っていろ」
「どこへ行くんすか?」
校長室を出ようとした
「生徒会室だ」
「一緒に行ってもいいっすか?」
来てもいいと、許可をもらえたの付いていくことに。
教員棟を出て、学習棟A内にある生徒会へやって来た。
「それで、話しはなんだ?」
「この写真に、見覚えはあるかしら?」
ゆりさんは復元された写真を、
「ほぅ......。どこで見つけた?」
「オールドギルドの先。あの
「そうか、懐かしいな」
――釣れた。と言うよりも、
「その写真の後ろ向いている男子は、
「ああ、間違いなく俺だ。なんだ、そんなことを聞くために、お前たちは残ったのか? 物好きだな」
あっさりと認めました。しかも、少し小バカにしたような笑顔で。あまりにも予想外の反応に、ゆりさんを見ると目が合った。彼女は目をつむり、肩をすくめてタメ息をついた。私も今、似たような心境です。
「これでもう、心残りはないだろ?」
起動したパソコンと私たちを一緒に視界に入れるように斜めに座り直し、ケーブルをデジカメに繋ぎながら言った。あのデジカメ、どうするんでしょうか? 疑問に想っていると、
「それだけじゃないわ、もう一つあるのよ。
「あ、はい。これです」
考え事をしていたところを呼ばれて、ちょっと驚いた。私は気を取り直し、職員室のファイルから引き抜いた転校手続きの書類をテーブルに置き、備考欄を指差して尋ねる。
「ここなんですが。
「ん? そのまま言葉通りに捉えればいい」
「えっと......それはつまり、
先ほどのやり取りから
「ああ、そうだ」
そして答えは、やはり予想通りの答え。
「どういうことなのよっ?」
ゆりさんは身を乗り出してグイっと、顔を近づけて距離を詰めた。
「なんで逃げんのよ? やましいことでもあんのっ?」
「近いと話しづらいだろ」
「......それもそうね」
「で、どういうことなの?」
「話す必要があるのか?」
「ええ、気になって成仏出来ないわっ!」
「あたしも興味があります。教えていただけますか?」
「まあ、お前がそう言うのなら話してやってもいいが」
「お願いします」
――仕方ないなと言って席を立ち、扉の方へ歩きだした。
「長くなるぞ。飲み物を買ってくるが何がいい?」
「kEyコーヒーでお願いしまーす」
「あたしも、
「わかった。少し待ってろ」
「どう思う?」
「さあ? 正直、まだ何もわかりません。想定外のことばかりです」
「そうよね......。それにしても彼、あなたには優しいわね」
「そうっすか?」
海外のテロリストに巻き込んだことを、まだ気にしているんでしょうか。今日話せばいいと思い、現実の私は死んでいないとまだ伝えていません。あとでちゃんと話さないと、
「ほら」
「ありがとうございます」
「ありがと」
私たちに缶コーヒーを渡してから、プリンターの電源を入れて椅子に座る。
「あのー、さっきから何してるんすか?」
「見ての通り、写真の現像だが?」
それは見ればわかりますけど、デジカメ繋いでますし。
「さて、じゃ始めるか。ゆり」
「なに?」
「お前は、“特殊能力”といわれる力を持つ人間が存在する、と言ったら信じられるか?」
ゆりさんを試すように聞いた。
そこから全てが始まると言う訳ですね。
「信じるわ。と言うのも、
「そうか、なら話しは早いな」
「俺は、二度死んでいる」
「復学」と記述されていたので想定していましたが、衝撃的な告白です。
「それは今の、
「答えは、前者。死んだ俺は、間違いなく同一人物だ」
意味がわかりませんね。なぜ、同じ人が二度も......まさか。
ある人の言葉が、私の頭の中を駆け巡る。考えるより先に言葉にしていた。
「......“
「フッ、その通りだ」
「たいむりーぷ? って、なに?」
ゆりさんは、首を傾げる。
私が、彼女と
私自身も“
「
「はい」
小さく頷いて、答える。
「そこから説明する必要があるか、まあいい。“
「
「
「まあな」
実際は、偽名を考えるのが面倒だったから知り合いの名前を名乗っていた、なんて言えませんね。
「
「えっ?」
「殺され......」
恐ろしいことをさらっと言いますね、この人。
「強力な特殊能力である“
「半壊......。まさか、
「科学者によって、
それが、一度目の転校。
「その時は、まだお前たちは居なかった。事態を飲み込めなかった俺に、声を掛けてくれたのが――こいつだ」
最初に渡した写真の赤茶髪の男子を指差した。
「こいつは、自分を生徒会長と名乗り。話を聞いて俺は、死んだと理解した。それは同時に、
「ん? でも
「それは、この世界の特徴。ここに来る時代は、バラバラだからな」
――なるほど。
つまり、二度死んだからといって。同じ時間軸の世界に戻ってくるとは限らない。
「こいつは、未練を解消すればここから成仏出来ると教えてくれた。だが、俺の未練は晴れることは決してない。なぜなら、
その人が愛し合った少女。
やはり、この生徒会長が「
「その待っている人とは、生徒会長が愛した女子生徒ですよね?」
「その通りだ」
「そのあとは、どうなったんすか?」
「話を聞いた時には、十数年もの月日が経過していたんだ、こいつの心は、既に少し病んでいた。いや、実際は思考が変わっていっただな。そこで、俺は話をしてやった」
「話ですか?」
ああ、と頷く。
「特殊能力の話をな。こいつは興味深そうに、俺の話を聞いていた」
当時の事を思い出してか、とても懐かしそうに話す。
「話しをしてから何日かして突然言い出したんだ。特殊能力を開発してやる、とな。その時俺の特殊能力、特殊能力者発見能力が発動した。能力者は目の前にいる生徒会長。能力は――創造」
あまりにも衝撃的な告白に私は、大きな声で
「創造っ? どんな能力っすかっ!?」
「教えて、
ゆりさんも私と同じ様に詰め寄る。
「落ち着け、今から話してやる。温いな」
椅子に戻り、暢気にコーヒーを飲む
「読んで字のごとく、世界を創造・改変できる能力だ」
「とんでもない能力っすね......」
「なんだか“
確かに。この死後の世界のマテリアルに干渉することが出来る「
「しかし、能力は使えなかった。既に能力を失っていたんだ」
「どういうこと?」
「特殊能力は“Charlotte”という名の“彗星”の粒子が作用してもたらす思春期特有病気のようなモノだ。思春期を過ぎれば、失われる特性を持つ」
私が保護された時、
「この生徒会長は、既に思春期を過ぎていた?」
「もしくは死んでいるからだろうな」
「......は? ちょっと待ってください。
「あれは、嘘だ」
悪気もなく、さらっと言ってのけた。
「なぜ、そんな嘘を?」
「お前には、普通に過ごして、ここを卒業してもらいたかった。それだけだ」
「う~ん......、意味がわからないんですが」
「
「はい、そうっすね」
「ごめんね。
ゆりさんが、話しの続きを催促しました。そうだなと言って、私のことを後回しにして続きを話す。
「能力を使えないと知ったあいつは、自身の特殊能力をソフトウェアに変換する研究を始めた。それの完成体が、
それが、あの壁一面に貼られた数式の書かれたメモ。少しずつ謎が解けて来ました。
「だが、俺は完成を見届けられなかった」
「それは、どうして?」
ゆりさんの質問に、窓の外を見ながら答える。
「この世界から弾かれた。確信は無いが、“
「そっか。だから、
「たぶんな。だが、今回は使えない。おそらく、もう二度と“
「なぜですか?」
「
「では、
「
本当に“
ですが、それはそれで疑問が残ります。なぜ、
「
「前に来た時は、特殊能力者を数人見つけることが出来た。だが、学年にかかわらず全員能力は使えなかった。そして今回は、誰も見つけられない。この世界では、特殊能力を
「誰も死なないし、誰も病まない、ですか......」
おそらく、と一度小さく首を縦に振った。
それで、本来生きている私には能力が使える。話の筋は通りますね。
「気になってたんだけど、記憶はどうなってるの?」
確かに、話から推察すると
「前回の記憶は、ここへ来てから徐々に思い出した。生きていた頃の記憶に関しては、“
間は全て抜け落ちている訳ではなく、ただ本当に知らないということだそう。
「なるほどね......」
「満足したか?」
「八割方ね。それで、
以前は特に思い付かないと言っていましたけど、どうなんでしょう。
「来た当初はわからなかったが、こいつのことだろう。前回は、最後まで見届けられなかったからな」
「前回は?」
「もう、気づいているだろうが。こいつは、
この男子の写真に手鏡を使って反転させた顔は、
「......マジなんですか?」
「ああ。ここに来てすぐ、三年の廊下でこいつとすれ違った。この写真と同じ姿でな」
「
「いや、同一人物だ。間違いない」
断言する
「なぜ、わかるの?」
「名前が以前の頃と同じだったのと、気になって監視をしていた。何日か見ていたが、毎日同じ行動とっていた。しかし、俺が
「じゃあ、あたしが死んでいないということも......」
「ああ、知っていた。隠していてすまなかった」
私たちよりも早く、真実を掴んでいたなんて......。
「本当は、姿を見せるつもりはなかった。見つけた時のお前は、星ノ海学園に居た頃と違って充実した生活を送っている様に見えたからな。たが、お前は意図して能力を使った。それで危険が迫る可能性があると感じ、姿を見せた」
「だから、協力をしてくれたんですね」
「ああ、そうだ。さて、お前らも手伝ってくれ」
「何をですか?」
「さっき撮った写真ね」
「これのために残ったんすか?」
「理由の一つではある。お前ら、文集を作るんだろ? 全員が去ったら誰が仕上げをするつもりだったんだ」
正論ですね。まあ、
「ほら、文集だ」
「ありがとうございまーす」
「ありがと」
テーブルに積まれている三冊の文集から一冊ずつ渡してくれた。現像された中から最初と最後のページにある空きポケットに入れる写真を選ぶ。
「どれが、いいっすかね?」
「そうね~」
「どこに置くんだ?」
質問には、ゆりさんが答えた。
「図書館と学生寮よ」
「なら、全部別々の写真で良いだろう」
「それもそうね。あたしは、図書館のを作るわ。写真も比較的真面目なのをチョイスする。二人は、男女の寮の分をお願い」
「わかりました」
私は、女子寮の文集を担当。女子が多く写っているのを選んで、ポケットに入れて、落ちない様にしっかり封をして完成。出来上がった文集を持って、寮へ向かう。男女の寮のエントランスに生徒会公認で作った文集とアルバムの専用スペース。そこに完成した文集を置いて、今度は図書館へ。
「これで......おしまい」
最後の仕事を終えたゆりさんは、ゆっくり伸びをした。
「ふぅ~」
「長い間、お疲れさまでした」
「......うん、ありがと。さあ、あたしたちも行きましょう」
そうですね、と答えたんですが。私は、卒業出来るんでしょうか。不安を察してくれたのは、
「
「はい、わかりました」
目をつむって心を落ち着かせる。しばらくして目を開けると視界には、ゆりさんと
やはり、と言いますか。何も起こりませんでした。
「残って正解だったわね。
「ああ、そうだな」
「
「そうだな......」
腕を組んで真剣に考えてくれている。嬉しいような、申し訳ないような、複雑な心境っす。
「悪い。特に思いつかない」
「そう。お昼食べながら打開策を考えましょ。
「もちろんっす」
食堂で、遅いお昼を食べながら考える。
私に未練があるとすれば、兄のことですが。
「安心なさい。来れたんだから帰る方法も必ずあるわ」
「そうだ。俺たちと違って、お前は生きているんだからな」
二人とも優しい言葉を掛けてくれました。その後も色々と考えたんですが結局、何も思い付かず時間だけが過ぎていく。
「ゆり、銃はあるか?」
「無いわ、全部処分した。どうして?」
「ここで死んだら去れるかと」
「なに言ってんのよっ、洒落にならないわっ」
ゆりさんが怒ってくれましたが、この人とんでもないこと言いますね。私に向けて銃を撃つつもりっすかっ。
「はぁ......大声出したら一気に疲れたわ。ちょっと気分転換しましょう」
「そうだな。図書館でも行くか」
「あっ、あたしも行きまーす」
こんな時は、大好きな「
「あ、あーっ!」
「なにっ? どうしたの?」
急に大声を出した私に、ゆりさんが驚きながら訊いてきた。
「“
「“
あの時は、
「戻れるかも知れないな」
「はいっ」
「さっそく行きましょ、図書館へ!」
図書館の視聴覚コーナーへ向かう途中、
「他の未練って、なんだったんですか?」
「お前を見届けることだ。俺は、お前の護衛だからな」
「そっすか」
「あたしからも、いい?」
「なんだ?」
「プログラムされた
「さあな、俺にはわからん」
「器を残したんじゃないでしょうか」
「器?」
「はい。愛した彼女を忘れられないから、この世界から消えることが出来ない。だから、“
私の推測を聞いた
「なるほどな。それなら、ゆりがパソコンを破壊したことで、成仏する前に
「そうね。それに、あの
「辻褄は合うな」
推測が当たっているとしたら、開発者が探していた彼女の生まれ変わり――それは、
そう考えると――。
「まるで、奇跡ね」
「はい、スゴいっす」
「もしかしたら
「ああ~、そうかもっ。
笑顔のゆりさん。
「なんすか、それっ」
「照れない、照れないっ。さあ着いたわ」
図書館の視聴覚コーナーに到着。「
「今度こそ、本当にお別れね」
「はい」
「ねぇ、
「もちろんです」
私とゆりさん、
ここで過ごした日々を忘れずに覚えて要られるんでしょうか。正直、自信はありません。
「不安?」
「まあ......」
ゆりさんは、カチューシャについている黄緑色の鮮やかなリボンを解いた。
「ちょっと後ろ向いて」
言われた通りに背中を向ける。ゆりさんは、私の髪を解くと、リボンでポニーテールを作ってくれた。
「うん、似合うわっ」
「いただいて、いいんですか?」
返事の前に、抱きつかれた。
とても温かくて、優しい匂いがする。
「ええ。だから、約束――」
「はい、必ず守ります」
離れて、私は一人椅子に座る。
「ゆりさん、
「あたしの方こそ、ありがとっ。またどこかで必ず会いましょ!」
「じゃあな。
「はい、必ず――」
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フィードバック音から始まる激しいサウンドとボーカルの歌声。
目の前から、二人の姿が消えていく。
今回は、頭痛は起こらない。
きっと、この世界での役目を終えたからだと。なぜかそう、確信を持てた。
次の瞬間、優しい光に包まれ。
――私は、この死後の世界での意識を閉じた。