Angel Beats! ~First Love~   作:ナナシの新人

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Episode36 ~奇跡~

「さて、熊耳(くまがみ)くん。卒業する前に、お話しましょっ」

 

 笑顔で優しく話しかけたゆりさんですが、目の奥は笑っていません。

 

「構わないが、先にやることがある。少し待っていろ」

「どこへ行くんすか?」

 

 校長室を出ようとした熊耳(くまがみ)さんに尋ねる。

 

「生徒会室だ」

「一緒に行ってもいいっすか?」

 

 来てもいいと、許可をもらえたの付いていくことに。

 教員棟を出て、学習棟A内にある生徒会へやって来た。熊耳(くまがみ)さんは生徒会長の席にある、パソコンを立ち上げると、副会長の席に座った。私たちは、彼と話をしやすい席に並んで座る。

 

「それで、話しはなんだ?」

「この写真に、見覚えはあるかしら?」

 

 ゆりさんは復元された写真を、熊耳(くまがみ)さんの前に置く。手に取ると、懐かしむように微笑みを浮かべた。

 

「ほぅ......。どこで見つけた?」

「オールドギルドの先。あの(カゲ)を産み出した黒幕......って言っても、“Angel(エンジェル) Prayer(プレイヤー)”でプログラムされた男子生徒(NPC)だったんだけど。そいつが根城にしていた部屋から通じる、研究室よ」

「そうか、懐かしいな」

 

 ――釣れた。と言うよりも、熊耳(くまがみ)さんの表情や声色からは、最初から隠すつもりはなど微塵もないといった様に感じた。

 

「その写真の後ろ向いている男子は、熊耳(くまがみ)さんですか?」

「ああ、間違いなく俺だ。なんだ、そんなことを聞くために、お前たちは残ったのか? 物好きだな」

 

 あっさりと認めました。しかも、少し小バカにしたような笑顔で。あまりにも予想外の反応に、ゆりさんを見ると目が合った。彼女は目をつむり、肩をすくめてタメ息をついた。私も今、似たような心境です。

 

「これでもう、心残りはないだろ?」

 

 起動したパソコンと私たちを一緒に視界に入れるように斜めに座り直し、ケーブルをデジカメに繋ぎながら言った。あのデジカメ、どうするんでしょうか? 疑問に想っていると、熊耳(くまがみ)さんはマウスを使って操作を始めた。

 

「それだけじゃないわ、もう一つあるのよ。奈緒(なお)ちゃん、お願い」

「あ、はい。これです」

 

 考え事をしていたところを呼ばれて、ちょっと驚いた。私は気を取り直し、職員室のファイルから引き抜いた転校手続きの書類をテーブルに置き、備考欄を指差して尋ねる。

 

「ここなんですが。熊耳(くまがみ)さんの転校届けの備考欄には、こう書かれています。“復学”、と。これは、どういう意味ですか?」

「ん? そのまま言葉通りに捉えればいい」

「えっと......それはつまり、熊耳(くまがみ)さんは今回以外にも、天上学園に来たことがあるということですか?」

 

 先ほどのやり取りから熊耳(くまがみ)さんの答えは、ある程度予想していたとはいえ、妙に恐る恐る聞く形になってしまいました。

 

「ああ、そうだ」

 

 そして答えは、やはり予想通りの答え。

 

「どういうことなのよっ?」

 

 ゆりさんは身を乗り出してグイっと、顔を近づけて距離を詰めた。熊耳(くまがみ)さんは、逆に椅子を引いて距離を取る。その対応に、ゆりさんは目を細めた。

 

「なんで逃げんのよ? やましいことでもあんのっ?」

「近いと話しづらいだろ」

「......それもそうね」

 

 熊耳(くまがみ)さんの意見を聞いて納得したゆりさんは、元の位置に戻り改めて聞き直す。

 

「で、どういうことなの?」

「話す必要があるのか?」

「ええ、気になって成仏出来ないわっ!」

 

 熊耳(くまがみ)さんは、めんどくさそうに私を見る。

 

「あたしも興味があります。教えていただけますか?」

「まあ、お前がそう言うのなら話してやってもいいが」

「お願いします」

 

 ――仕方ないなと言って席を立ち、扉の方へ歩きだした。

 

「長くなるぞ。飲み物を買ってくるが何がいい?」

「kEyコーヒーでお願いしまーす」

「あたしも、奈緒(なお)ちゃんと同じの」

「わかった。少し待ってろ」

 

 熊耳(くまがみ)さんが、生徒会室を出たのを見計らってゆりさんが、話しかけてきました。

 

「どう思う?」

「さあ? 正直、まだ何もわかりません。想定外のことばかりです」

「そうよね......。それにしても彼、あなたには優しいわね」

「そうっすか?」

 

 海外のテロリストに巻き込んだことを、まだ気にしているんでしょうか。今日話せばいいと思い、現実の私は死んでいないとまだ伝えていません。あとでちゃんと話さないと、熊耳(くまがみ)さんに負い目を背負わせ縛ってしまっては、あまりにも酷ですから......と考えていると、熊耳(くまがみ)さんが戻ってきた。

 

「ほら」

「ありがとうございます」

「ありがと」

 

 私たちに缶コーヒーを渡してから、プリンターの電源を入れて椅子に座る。熊耳(くまがみ)さんは、無糖の缶コーヒーをひと口飲んでから再びパソコンを操作。すると、プリンターが音を立てて動き出した。

 

「あのー、さっきから何してるんすか?」

「見ての通り、写真の現像だが?」

 

 それは見ればわかりますけど、デジカメ繋いでますし。

 

「さて、じゃ始めるか。ゆり」

「なに?」

「お前は、“特殊能力”といわれる力を持つ人間が存在する、と言ったら信じられるか?」

 

 ゆりさんを試すように聞いた。

 そこから全てが始まると言う訳ですね。

 

「信じるわ。と言うのも、奈緒(なお)ちゃんから全部聴いてる。あなたも、奈緒(なお)ちゃんと同じ特殊能力者で、生前は上司だったんでしょ?」

「そうか、なら話しは早いな」

 

 熊耳(くまがみ)さんは笑みを見せた。どこなく嬉しそうに見えるのは、私の気のせいでしょうか。

 

「俺は、二度死んでいる」

 

「復学」と記述されていたので想定していましたが、衝撃的な告白です。

 

「それは今の、熊耳(くまがみ)くん? それとも、前世の熊耳(くまがみ)くんなの?」

「答えは、前者。死んだ俺は、間違いなく同一人物だ」

 

 意味がわかりませんね。なぜ、同じ人が二度も......まさか。

 ある人の言葉が、私の頭の中を駆け巡る。考えるより先に言葉にしていた。

 

「......“時空移動(タイムリープ)”ですか?」

「フッ、その通りだ」

「たいむりーぷ? って、なに?」

 

 ゆりさんは、首を傾げる。

 私が、彼女と(かなで)さんに話したのは自分の能力と生活についてだけで、自分以外のことは殆ど話していない。

 私自身も“時空移動(タイムリープ)”については、恩人の実の弟に当たる乙坂(おとさか)さんが、自分は未来からやって来たと自己申告したのを聞いただけで、実際に経験した記憶がないので、よくわからないのが正直なところ。

 

友利(ともり)にも、そこは詳しくは話していなかったな」

「はい」

 

 小さく頷いて、答える。

 

「そこから説明する必要があるか、まあいい。“時空移動(タイムリープ)”は、特殊能力の一つ。俺たちの組織――特殊能力者を、科学者から保護する組織をまとめていたリーダー、乙坂(おとさか)隼翼(しゅんすけ)が有していた特殊能力だ」

隼翼(しゅんすけ)さんの能力......」

 

 乙坂(おとさか)さんは、兄の隼翼(しゅんすけ)さんの能力を使って未来から過去へ戻ってきたんですね。

 

乙坂(おとさか)隼翼(しゅんすけ)......どこかでって、あなたが使ってた偽名じゃないっ。実在していた人だったのっ!」

「まあな」

 

 実際は、偽名を考えるのが面倒だったから知り合いの名前を名乗っていた、なんて言えませんね。

 

隼翼(しゅんすけ)が、最初の“時空移動(タイムリープ)”を使った時俺は、既に殺されていた」

「えっ?」

「殺され......」

 

 恐ろしいことをさらっと言いますね、この人。

 

「強力な特殊能力である“時空移動(タイムリープ)”を恐れた科学者たちは、時空を戻されないため、隼翼(しゅんすけ)を独房で拘束した。俺たちは、世界を変えるため長い時間を掛けて、隼翼(しゅんすけ)の救出計画を立てた。手始めに、組織による無慈悲な研究に疑問を持つ科学者を一人味方につけた。彼から情報を貰いながら、計画を実行できる機会(チャンス)を待った。そして、その時が訪れた。先ず俺は、俺への監視が唯一緩む昼食時を狙い、隼翼(しゅんすけ)の弟に接触し、隼翼(しゅんすけ)を救出する手筈を記した紙を渡すことに成功した。その日の夜、大きな衝撃と共に施設の一部が半壊した」

「半壊......。まさか、歩未(あゆみ)ちゃんですか?」

 

 歩未(あゆみ)ちゃんは、隼翼(しゅんすけ)さんと乙坂(おとさか)さんの妹。彼女も特殊能力者で、能力は崩壊。どんな能力か今までわかりませんでしたが、特殊能力者を集めている施設なら相当頑丈に作られているはず。それを半壊させる程の力ですか。

 

「科学者によって、歩未(あゆみ)の能力が無理矢理引き出された。能力は、崩壊。その強力な力は、たかが人間に抑えることは出来ず暴走した、と味方になってくれた科学者が教えてくれた。彼に独房から解放してもらった俺は、瓦礫の下敷きになっていた警備員の銃を奪い、仲間たちと合流した。俺たちは、隼翼(しゅんすけ)を助けに行った弟への注意を逸らすため、警備の元へ飛び出し、銃撃戦を挑み死んだ。そして次、目覚めた時は――天上学園だった」

 

 それが、一度目の転校。熊耳(くまがみ)さんは、ゆりさんに顔を向けた。

 

「その時は、まだお前たちは居なかった。事態を飲み込めなかった俺に、声を掛けてくれたのが――こいつだ」

 

 最初に渡した写真の赤茶髪の男子を指差した。

 

「こいつは、自分を生徒会長と名乗り。話を聞いて俺は、死んだと理解した。それは同時に、隼翼(しゅんすけ)の救出に失敗したということだ」

「ん? でも熊耳(くまがみ)くんは、奈緒(なお)ちゃんを知ってるんでしょ。失敗したんなら出会ってすらいないじゃないの?」

「それは、この世界の特徴。ここに来る時代は、バラバラだからな」

 

 ――なるほど。椎名(しいな)さんは、あたしたちとは違う時代から来た人だと、ゆりさんも言っていましたね。現代の日本ではあり得ない教育を受けていたとか。

 つまり、二度死んだからといって。同じ時間軸の世界に戻ってくるとは限らない。

 

「こいつは、未練を解消すればここから成仏出来ると教えてくれた。だが、俺の未練は晴れることは決してない。なぜなら、隼翼(しゅんすけ)の救出に失敗したことが未練だったからだ。こいつは、生徒会に入れと俺を誘った。俺自身、特にする事もなかったから暇潰し感覚で入ることにした。半月ほどが経過し、三年生は卒業の日を迎えた。生徒会長も、俺も三年だったが俺たちは消えなかった。卒業式が終わり、生徒会室で寂しげに夕日を眺めていたこいつに、俺は聞いた。お前の未練はなんだ、と。答えは、人を待っているだった」

 

 その人が愛し合った少女。

 やはり、この生徒会長が「Angel(エンジェル) Prayer(プレイヤー)」の開発者。

 

「その待っている人とは、生徒会長が愛した女子生徒ですよね?」

 

 熊耳(くまがみ)さんは、一瞬驚いた表情(かお)を見せた。

 

「その通りだ」

「そのあとは、どうなったんすか?」

「話を聞いた時には、十数年もの月日が経過していたんだ、こいつの心は、既に少し病んでいた。いや、実際は思考が変わっていっただな。そこで、俺は話をしてやった」

「話ですか?」

 

 ああ、と頷く。

 

「特殊能力の話をな。こいつは興味深そうに、俺の話を聞いていた」

 

 当時の事を思い出してか、とても懐かしそうに話す。

 

「話しをしてから何日かして突然言い出したんだ。特殊能力を開発してやる、とな。その時俺の特殊能力、特殊能力者発見能力が発動した。能力者は目の前にいる生徒会長。能力は――創造」

 

 あまりにも衝撃的な告白に私は、大きな声で熊耳(くまがみ)さんに詰め寄った。

 

「創造っ? どんな能力っすかっ!?」

「教えて、熊耳(くまがみ)くんっ」

 

 ゆりさんも私と同じ様に詰め寄る。

 熊耳(くまがみ)さんは、表情一つ変えることなく、缶コーヒーに手を伸ばした。

 

「落ち着け、今から話してやる。温いな」

 

 椅子に戻り、暢気にコーヒーを飲む熊耳(くまがみ)さんを二人で目を細めて見る。彼は気にするそぶりも見せず、ゆっくり飲み干してから続きを話してくれました。

 

「読んで字のごとく、世界を創造・改変できる能力だ」

「とんでもない能力っすね......」

「なんだか“Angel(エンジェル) Prayer(プレイヤー)”みたいな能力ね」

 

 確かに。この死後の世界のマテリアルに干渉することが出来る「Angel(エンジェル) Prayer(プレイヤー)」と酷似しています。

 

「しかし、能力は使えなかった。既に能力を失っていたんだ」

「どういうこと?」

「特殊能力は“Charlotte”という名の“彗星”の粒子が作用してもたらす思春期特有病気のようなモノだ。思春期を過ぎれば、失われる特性を持つ」

 

 私が保護された時、隼翼(しゅんすけ)さんから個人差はあるとはいえ、高校を卒業する頃には能力を失ってしまうと最初に説明された。

 

「この生徒会長は、既に思春期を過ぎていた?」

「もしくは死んでいるからだろうな」

「......は? ちょっと待ってください。熊耳(くまがみ)さんは、能力を使えるんすよね?」

 

 熊耳(くまがみ)さんは能力を使った私を特殊能力で見つけたと、それに死んだ自覚もあると言っていました。なら、手続きの書類に私と同じ「特」の印が押されていないと、矛盾が生じてしまいます。

 

「あれは、嘘だ」

 

 悪気もなく、さらっと言ってのけた。

 

「なぜ、そんな嘘を?」

「お前には、普通に過ごして、ここを卒業してもらいたかった。それだけだ」

「う~ん......、意味がわからないんですが」

奈緒(なお)ちゃん、今は」

「はい、そうっすね」

「ごめんね。熊耳(くまがみ)くん、お願い」

 

 ゆりさんが、話しの続きを催促しました。そうだなと言って、私のことを後回しにして続きを話す。

 

「能力を使えないと知ったあいつは、自身の特殊能力をソフトウェアに変換する研究を始めた。それの完成体が、立華(たちばな)が使っていた“Angel(エンジェル) Prayer(プレイヤー)”だ。長年待ち続けるあいつに、没頭できることがあれば多少気も晴れると考えて、俺も手伝った」

 

 それが、あの壁一面に貼られた数式の書かれたメモ。少しずつ謎が解けて来ました。

 

「だが、俺は完成を見届けられなかった」

「それは、どうして?」

 

 ゆりさんの質問に、窓の外を見ながら答える。

 

「この世界から弾かれた。確信は無いが、“時空移動(タイムリープ)”だろう」

「そっか。だから、熊耳(くまがみ)さんは能力が使えた。本来死ぬ予定ではなかったから」

「たぶんな。だが、今回は使えない。おそらく、もう二度と“時空移動(タイムリープ)”は起こらないからだろう」

「なぜですか?」

 

 隼翼(しゅんすけ)さんなら、熊耳(くまがみ)さんを助けるために“時空移動(タイムリープ)”を使わない理由はないと思います。

 

隼翼(しゅんすけ)は、能力を使えないんだ。視力を失っているからな。“時空移動(タイムリープ)”には、大きな代償を伴っていた。時を遡る度に視力は落ちていき、最終的に視力を完全に失う。“時空移動(タイムリープ)”は、目に光が射さないと発動出来ない」

「では、乙坂(おとさか)さんが“時空移動(タイムリープ)”を使って戻ってこれたのは」

隼翼(しゅんすけ)の“時空移動(タイムリープ)”を“略奪”で奪った。俺は、そう聞いている」

 

 本当に“時空移動(タイムリープ)”して来たんだ。

 ですが、それはそれで疑問が残ります。なぜ、乙坂(おとさか)さんは、“時空移動(タイムリープ)”を使わないんでしょうか。熊耳(くまがみ)さんが能力を使えないのなら――あれ? とある疑問が頭に浮かんだ。

 

熊耳(くまがみ)さん、どうして能力が使えないとわかるんですか?」

「前に来た時は、特殊能力者を数人見つけることが出来た。だが、学年にかかわらず全員能力は使えなかった。そして今回は、誰も見つけられない。この世界では、特殊能力を()()と捉えられたんだろ」

「誰も死なないし、誰も病まない、ですか......」

 

 おそらく、と一度小さく首を縦に振った。

 それで、本来生きている私には能力が使える。話の筋は通りますね。

 

「気になってたんだけど、記憶はどうなってるの?」

 

 確かに、話から推察すると隼翼(しゅんすけ)さんは何度も“時空移動(タイムリープ)”を行っていると見て間違いないと思います。

 

「前回の記憶は、ここへ来てから徐々に思い出した。生きていた頃の記憶に関しては、“時空移動(タイムリープ)”前と弟の“時空移動(タイムリープ)”後の記憶だけだ」

 

 間は全て抜け落ちている訳ではなく、ただ本当に知らないということだそう。

 

「なるほどね......」

「満足したか?」

「八割方ね。それで、熊耳(くまがみ)くんの未練はなーに?」

 

 以前は特に思い付かないと言っていましたけど、どうなんでしょう。熊耳(くまがみ)さんは、写真を手に持って言った。

 

「来た当初はわからなかったが、こいつのことだろう。前回は、最後まで見届けられなかったからな」

「前回は?」

「もう、気づいているだろうが。こいつは、音無(おとなし)の前世だ」

 

 この男子の写真に手鏡を使って反転させた顔は、音無(おとなし)さんに酷似していましたし、転校手続きの書類にも熊耳(くまがみ)さんと同じく「復学」とあったことから関係がありそうとは思っていましたけど。

 

「......マジなんですか?」

「ああ。ここに来てすぐ、三年の廊下でこいつとすれ違った。この写真と同じ姿でな」

音無(おとなし)くんは、こんなに髪長くないわよ。別人じゃない?」

「いや、同一人物だ。間違いない」

 

 断言する熊耳(くまがみ)さん。ゆりさんは、理由(わけ)を聞く。

 

「なぜ、わかるの?」

「名前が以前の頃と同じだったのと、気になって監視をしていた。何日か見ていたが、毎日同じ行動とっていた。しかし、俺が友利(ともり)に姿を見せた前日、普段とは違う行動をとった。食後、寮へ戻らず昇降口の前に姿を見せ、そして倒れた。確認すると、今の音無(おとなし)の姿に変わっていた。俺は、すぐに職員室へ向かい書類を調べた、音無(おとなし)の書類には、俺と同じく“復学”と記載されていた。その時、友利(ともり)が来ていることも知った」

「じゃあ、あたしが死んでいないということも......」

「ああ、知っていた。隠していてすまなかった」

 

 私たちよりも早く、真実を掴んでいたなんて......。

 

「本当は、姿を見せるつもりはなかった。見つけた時のお前は、星ノ海学園に居た頃と違って充実した生活を送っている様に見えたからな。たが、お前は意図して能力を使った。それで危険が迫る可能性があると感じ、姿を見せた」

「だから、協力をしてくれたんですね」

「ああ、そうだ。さて、お前らも手伝ってくれ」

「何をですか?」

 

 熊耳(くまがみ)さんは、プリンターの印刷物を机に置いた。それは写真でした。

 

「さっき撮った写真ね」

「これのために残ったんすか?」

「理由の一つではある。お前ら、文集を作るんだろ? 全員が去ったら誰が仕上げをするつもりだったんだ」

 

 正論ですね。まあ、熊耳(くまがみ)さんの件がなかったら私が残るつもりでしたけど。

 

「ほら、文集だ」

「ありがとうございまーす」

「ありがと」

 

 テーブルに積まれている三冊の文集から一冊ずつ渡してくれた。現像された中から最初と最後のページにある空きポケットに入れる写真を選ぶ。

 

「どれが、いいっすかね?」

「そうね~」

「どこに置くんだ?」

 

 質問には、ゆりさんが答えた。

 

「図書館と学生寮よ」

「なら、全部別々の写真で良いだろう」

「それもそうね。あたしは、図書館のを作るわ。写真も比較的真面目なのをチョイスする。二人は、男女の寮の分をお願い」

「わかりました」

 

 私は、女子寮の文集を担当。女子が多く写っているのを選んで、ポケットに入れて、落ちない様にしっかり封をして完成。出来上がった文集を持って、寮へ向かう。男女の寮のエントランスに生徒会公認で作った文集とアルバムの専用スペース。そこに完成した文集を置いて、今度は図書館へ。

 

「これで......おしまい」

 

 最後の仕事を終えたゆりさんは、ゆっくり伸びをした。

 

「ふぅ~」

「長い間、お疲れさまでした」

「......うん、ありがと。さあ、あたしたちも行きましょう」

 

 そうですね、と答えたんですが。私は、卒業出来るんでしょうか。不安を察してくれたのは、熊耳(くまがみ)さん。

 

友利(ともり)、試してみろ。無事に去れたら、俺たちもすぐに後を追う」

「はい、わかりました」

 

 目をつむって心を落ち着かせる。しばらくして目を開けると視界には、ゆりさんと熊耳(くまがみ)さんが居ました。

 やはり、と言いますか。何も起こりませんでした。

 

「残って正解だったわね。奈緒(なお)ちゃん一人を、ここに残して行く訳にはいかないわ」

「ああ、そうだな」

熊耳(くまがみ)くんの時は、前兆とかなかったの?」

「そうだな......」

 

 腕を組んで真剣に考えてくれている。嬉しいような、申し訳ないような、複雑な心境っす。

 

「悪い。特に思いつかない」

「そう。お昼食べながら打開策を考えましょ。奈緒(なお)ちゃん、またお願いしてもいいかしら?」

「もちろんっす」

 

 食堂で、遅いお昼を食べながら考える。

 私に未練があるとすれば、兄のことですが。熊耳(くまがみ)さんも心配しなくていいと言ってくれた。そもそも私は、死んでいない。

 

「安心なさい。来れたんだから帰る方法も必ずあるわ」

「そうだ。俺たちと違って、お前は生きているんだからな」

 

 二人とも優しい言葉を掛けてくれました。その後も色々と考えたんですが結局、何も思い付かず時間だけが過ぎていく。

 

「ゆり、銃はあるか?」

「無いわ、全部処分した。どうして?」

「ここで死んだら去れるかと」

「なに言ってんのよっ、洒落にならないわっ」

 

 ゆりさんが怒ってくれましたが、この人とんでもないこと言いますね。私に向けて銃を撃つつもりっすかっ。

 

「はぁ......大声出したら一気に疲れたわ。ちょっと気分転換しましょう」

「そうだな。図書館でも行くか」

「あっ、あたしも行きまーす」

 

 こんな時は、大好きな「ZHIEND(ジエンド)」を聴いて、リフレッシュするのが一番なんっすよ。ん? 「ZHIEND(ジエンド)」......銃、引き金――。

 

「あ、あーっ!」

「なにっ? どうしたの?」

 

 急に大声を出した私に、ゆりさんが驚きながら訊いてきた。

 

「“ZHIEND(ジエンド)”っす!」

「“ZHIEND(ジエンド)”って確か、あなたがよく聴いているバンドだったわね。それが、どうした......の、そうだわっ。岩沢(いわさわ)さんが言ってたっ!」

 

 SSS(スリーエス)(かなで)さんを救出に行っていた時に聴いた、新曲の「Trigger(トリガー)」を聴いていた時、私は意識を失った。

 あの時は、岩沢(いわさわ)さんに呼び戻されたましたけど、もしかしたら――。

 

「戻れるかも知れないな」

「はいっ」

「さっそく行きましょ、図書館へ!」

 

 図書館の視聴覚コーナーへ向かう途中、熊耳(くまがみ)さんに疑問に思っていたことを聞く。

 

「他の未練って、なんだったんですか?」

「お前を見届けることだ。俺は、お前の護衛だからな」

「そっすか」

「あたしからも、いい?」

「なんだ?」

「プログラムされた男子(NPC)とが言っていたんだけど。開発者は、自らを一般生徒(NPC)にしたと言っていたわ。どうして、生まれ変われたの?」

「さあな、俺にはわからん」

 

 (カゲ)によるリセット。高松(たかまつ)さんは、消えた訳ではなく、姿を残したまま男子生徒(NPC)化した。だとしたら。

 

「器を残したんじゃないでしょうか」

「器?」

「はい。愛した彼女を忘れられないから、この世界から消えることが出来ない。だから、“Angel(エンジェル) Prayer(プレイヤー)”を使い、ある一定の時間を掛けて魂だけを強制的に成仏させるプログラムを組んだ。どんな来世を送っても、再び天上学園へ戻って、彼女を探せる様に身体(NPC)を残して......」

 

 私の推測を聞いた熊耳(くまがみ)さんは、納得した様子で言った。

 

「なるほどな。それなら、ゆりがパソコンを破壊したことで、成仏する前に高松(たかまつ)が戻って来れたと説明がつく」

「そうね。それに、あの男子(NPC)が言っていた、稀に記憶喪失でここにやって来る人が居る。それが、みんな開発者の生まれ変わりだったなら、何度も繰り返していた。最愛の彼女と巡り会える、その日まで......」

「辻褄は合うな」

 

 推測が当たっているとしたら、開発者が探していた彼女の生まれ変わり――それは、(かなで)さん。二人は再び出会い、そして、一緒に卒業すること出来た。

 そう考えると――。

 

「まるで、奇跡ね」

「はい、スゴいっす」

「もしかしたら友利(ともり)は、あいつらを導くために、ここへ来たのかもな」

「ああ~、そうかもっ。(かなで)ちゃんと仲良くなれたのも、奈緒(なお)ちゃんのお陰だし。まさに神の使い、天使ねっ」

 

 笑顔のゆりさん。熊耳(くまがみ)さんは鼻で笑った。ムカつくっす。

 

「なんすか、それっ」

「照れない、照れないっ。さあ着いたわ」

 

 図書館の視聴覚コーナーに到着。「ZHIEND(ジエンド)」の新譜「Trigger(トリガー)」をセットする。

 

「今度こそ、本当にお別れね」

「はい」

「ねぇ、奈緒(なお)ちゃん。(かなで)ちゃんとした約束覚えてる?」

「もちろんです」

 

 SSS(スリーエス)本部に行く前の最後三十分。

 私とゆりさん、(かなで)さんの三人である約束をした。

 ここで過ごした日々を忘れずに覚えて要られるんでしょうか。正直、自信はありません。

 

「不安?」

「まあ......」

 

 ゆりさんは、カチューシャについている黄緑色の鮮やかなリボンを解いた。

 

「ちょっと後ろ向いて」

 

 言われた通りに背中を向ける。ゆりさんは、私の髪を解くと、リボンでポニーテールを作ってくれた。

 

「うん、似合うわっ」

「いただいて、いいんですか?」

 

 返事の前に、抱きつかれた。

 とても温かくて、優しい匂いがする。

 

「ええ。だから、約束――」

「はい、必ず守ります」

 

 離れて、私は一人椅子に座る。

 

「ゆりさん、熊耳(くまがみ)さん。お世話になりました、ありがとうございました」

「あたしの方こそ、ありがとっ。またどこかで必ず会いましょ!」

「じゃあな。隼翼(しゅんすけ)に、よろしく言っておいてくれ」

「はい、必ず――」

 

 ヘッドフォンをして、再生ボタンを押す。

 フィードバック音から始まる激しいサウンドとボーカルの歌声。

 目の前から、二人の姿が消えていく。

 今回は、頭痛は起こらない。

 きっと、この世界での役目を終えたからだと。なぜかそう、確信を持てた。

 

 次の瞬間、優しい光に包まれ。

 ――私は、この死後の世界での意識を閉じた。

 

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