Angel Beats! ~First Love~ 作:ナナシの新人
誰かと、約束をしたのを憶えている。
それは遠い昔、それとも遠い未来。
いつ? だれと? どこで? どうしても思い出せない。
それでも、とても大切な人たちとの約束という事だけは色褪せることなく、しっかりと憶えている。
その約束は――。
もし、生まれ変わったら......。
* * *
ふと、目を開くと天井が見える。
頭の近くでは、連続した機械音が鳴り響いていた。仰向けで横になっている身体を捻って、枕元にある目覚まし時計のスイッチを停止させる。ベッドを降りて、カーテンを引くと暖かい朝日が部屋に射し込んだ。
窓を開けて、部屋の空気を入れ換える。
気持ちの良い陽気と朝の空気を身体に浴びながら、軽くの伸びをして、キッチンで朝ご飯の準備。出来上がったトーストと目玉焼きを、オレンジジュースで流し込み、歯磨きと洗顔をして寝室に戻って制服に袖を通す。
着慣れたハズの制服が、何故か懐かしく感じる。気のせいか。化粧台の引き出しから出した淡いグリーンのリボンで髪を束ねる。一通りの準備が済んだ。
部屋を出る前に、スタンドミラーで服装に乱れがないかをチェック。
「あれ? あたし......」
いつからポニーテールにする様になったんだっけ? 小学生の頃は違ったような気がするんですけど。
「うーん......、ん? わぁっ!」
考えていると、いつもの登校時間を過ぎていた。スクールバックと音楽プレーヤーを持って、急いで家を出る。玄関の外は、上から下まで多くの扉が並んでいた。
ここは私が通う学校、星ノ海学園に併設されるマンション。その一室に私の部屋がある。ここで一人暮らしを始めてもう、三年になる。エレベーターに乗って、一階に降りるのを待つ間にガラスに反射した姿を見ながら前髪を手ぐし整える。アナウンスが流れ扉が開く、エレベーターを降りて、エントランスを抜けて、オートロックの玄関を出る。
マンション前の学園へと続く通学路には、大勢の生徒が歩いてた。私もその列に入り、通学路を歩く。歩き始めて数分で、校門に辿り着いた。
いつもなら校門を潜る前に、向かいのコンビニでお昼ご飯を買うんですが、今日は時間に余裕がない。お昼は諦めて、教室へ向かう。
横開きの扉をスライドさせて教室に入ると、一瞬クラスメイトの視線が、私に向いた。ですが、すぐに視線を逸らしてチラチラと私を見ながら小声で話し始めた。
まあ、いつものことなので気にもなりませんが。ただ鬱陶しいので、耳にイヤフォンを付けて、音楽プレーヤーの再生ボタンを押す。
流れる楽曲は「
机に頬杖を突いて、窓の外を眺めながら、大好きなポストロックバンドの演奏を聴いて、授業が始まるのを待った。
* * *
昼休み。お昼ご飯を調達するため向かいのコンビニへ急いだ。お弁当とお茶を買って教室に戻り、一人でお昼を食べてる。そして、放課後になると生徒会室へ向かう。
生徒会室一番奥の席に座って、書類に目を通していると二人の男子が入ってきた。
「おや、お早いですね」
「で、今日は、どうするんだ?」
先に声を掛けてきたメガネの男子は、
二人とも生徒会に所属する、ビジネスパートナーといったところでしょうか。本来なら、もう一人居るんですが今日は欠席の様です。
「特にすることは無いです。お好きにどうぞ」
「なら、帰っていいか?」
あまりの責任感の無さに呆れて、タメ息が漏れる。
「せめて、四時までは居てください」
「......わかったよっ」
「
二人はのんきに、オセロで遊び始めた。遊んでいる二人のことば放って置いて、書類に目を通していると時刻は16時を回った。
「今日は、来そうにないな。解散にしましょう」
「はい。了解です」
「やれやれ」
「では、我々はお先に失礼させていただきます」
「はーい、お疲れさまでーす。ああ、そうだ。お聞きたいことがあるんですが」
扉に向かっていた二人が振り向く。
メガネを中指で直しながら
「はい、なんでしょうか?」
「あたしって、いつもポニーテールでしたか?」
顔を見合わせてから、
「私の記憶では、初めてお会いした時から、その髪型だったかと思いますが?」
「そうっすか」
「なんだ、ボケたか?」
小バカにする様な言い方をした
「いてぇーっ!? な、なにすんだよっ?」
「チョークの粉で白くなってたんで払ってあげたんですよ」
「ローキックは払うとは言わないっ!」
「まあまあ。
ブツブツと文句を垂れる
私は、書類をファイルし、戸締まりをしてから下校。自宅にバッグを置いて、スマホと財布、ビデオカメラを持って、駅へ向かう。電車に揺られて、都心までやって来た。
ビデオカメラを片手に最近、何か変わったことがないか聞き込みをして回る。
調査をして二時間弱、太陽は傾き、空がオレンジ色に染まり始めた。今日の調査は、終了。本屋で雑誌を数冊購入してから、駅近くのカフェで少し早い夕御飯を食べて雑誌を開く。
「ふーん......」
適当に開いた雑誌は、未確認飛行物体に未確認生物の特集が組まれていた。俗に言うオカルト雑誌。流し読みながら、特殊能力者の手懸かりになるような記事を探していると。
「あっ、ゆさりんの特集っ」
「どれ~?」
「ほんとだーっ」
隣のテーブルで、同い年位の女子三人組の会話が聞こえてきました。
――ゆさりん? ああー、
他の雑誌の表紙に、もう一人の生徒会メンバーが写っている。特集の内容は彼女だけではなく、柔道の世界大会に出場した学生、プロ入りが期待される高校生、ユース所属選手のトップリーグデビュー、高校生実業家など、私と同年代の活躍を伝えるものでした。
「あたし、あのバンドも好きなんだー」
「あのガールズバンドのグループっ」
「そうそうっ。ガル――」
時計を見ると、ちょうど電車の時間。さて、帰りますか。雑誌を片付けて席を立ち、レジで会計をしていると、近くのテーブルから鼻唄が聞こえてきた。
横目で見ると、男女のカップルが食事をしていました。歌っていたのは、綺麗な髪をしたまるで天使みたいに清楚な感じの女性。
「その歌、よく口ずさんでるよな」
「うん」
赤茶髪の男性が、彼女に尋ねる。
「聞き覚えがあるんだけど、誰の歌だっけ?」
「うーん......。昔から好きなんだけど、私もよく覚えていないわ」
私も、昔何処かで聞いたことがあるような気がする。気のせいか。
「お待たせ致しました。レシートのお返しです」
「ありがとうございまーす。ごちそうさまでしたー」
「ありがとうございましたーっ」
店を出ると空は暗く、少し肌寒い風が吹いていた。
駅へと続く道は、大勢の人で溢れて返っている。駅前ビルのビジョンに五人組のバンドが映し出されていた。紹介されているバンド名の聞き覚えがあった。ああ、このバンドか。カフェで、三人組が話していたガールズバンド。
信号が青に替わる。私は背を向けて足を踏み出した。その時、聴いたことのある歌声が流れた。
足を止めて振り返り、ビジョンに映るガールズバンドの演奏に釘付けになった。初めて見るバンド、初めて聴く演奏にも関わらず、凄く懐かしい感覚が私を包み込む。
演奏を聴いていると信号が点滅に変わった。急いで近い方の歩道へ戻る。信号が赤になるのと、ほぼ同時に歩道へ辿り着いた。
「あっ、すみませんっ」
「いいのよ。あたしも急いでたから」
歩道で女性とぶつかってしまいました。その弾みで彼女が付けていたカチューシャが地面に落ちる。拾って汚れを払うと少し欠けていた。
「すみません......」
「大丈夫よ。このくらい」
右側が少し欠けたカチューシャを頭に付けようとした。すぐに止める。
「いや、危ないっすよ。えっと......」
近くにお店は見当たらない。何か代わりになる物を探す。鞄の中になら、ヘアゴムがあるけど。あいにく今は、持ち合わせていない。
私はどうしてか、髪を結んでいる淡いグリーンのリボンを解いていた。
「あの。よかったら使ってください」
「いいの?」
「はい。家も近いですし、色違いのリボンもありますから」
「そう、ありがとっ。どう? 似合うかしら?」
渡したリボンをカチューシャの欠けた部分を結んで、頭に付けるとウインクをした。
「とても似合っています」
本当に似合う。
まるで、元々彼女が身に付けるためにあったかの様に感じるほど――。
「ありがとっ」
彼女は、お礼を言うと軽く首を傾げて私を見た。
私も同じ様にして、彼女を見る。
深い赤紫色の綺麗な髪、エメラルド色に輝く瞳の整った顔立ち。
そして――酷く懐かしさを覚える声色。
「あなた......」
「あの......」
私たちの声は、まるで示し合わせたみたいにぴったりと重なった。
「お姉ちゃーんっ」
声のした方を見ると、小学生くらいの小さな女の子が二人と男の子がベンチに座って手を振っていた。この女性と似ている気がする。
「はいはい、今行くわよーっ。リボン、ありがとっ」
「いいえ」
女性は、
私は、信号が青になったのを確認してから、彼女とは反対方向の駅への道を歩き出す。
「ねぇっ!」
背中から、あの人の声が聞こえた。振り返る。
「また、どこかで会えるといいわねっ!」
「はいっ、またどこかで!」
もう誰も信じないと誓った私からは、信じられない返事だった。
この日の夜、夢を見た。
あの、約束をした時の夢を――。
* * *
翌日、午前の授業が終わりお昼ご飯を食べていると机に置いたスマホが振動した。箸を置いて画面を操作する。「今向かっている」とメッセージが届いていた。
食べていたお弁当をビニールにしまって、生徒会メンバー全員に招集を掛けてから生徒会室へ向かう。生徒会室には、まだ誰も来ていない。いつもの席に座って待っていると、
「今日の
「そうですか? ありがとうございまーす」
今日は、いつものポニーテールではなく、子どもの頃によくしていたツーサイドアップ。化粧台の棚に青いリボンがあったと思ったんですが、なぜか見つからずヘアゴムを使って昔していた髪型にしました。
しっかし、すごくしっくりくるんですよね、この髪型。何ででしょう。
しばらくして、
メッセージを送ってきた協力者を待っている間、私は昨夜の夢を思い出していた。
『ねぇ。約束しましょっ』
『何を約束するの?』
『来世のことよ』
『来世ですか?』
『あたしと――ちゃんは、来世。
『わかりました』
『うん。私もいいわ』
『いい返事ね。じゃあ、約束。もし、生まれ変わったら――』
――バタンッ! と、大きな音で現実に引き戻される。
顔を上げると、協力者は既に退室した後だった。
「
まずった。全然頭に入ってないっす。仕方なしに、
「場所は、どこだ?」
「ここです」
地図上を指差した場所を確認。
「よし! きたっ! これを見てください!」
先日買った雑誌を開いて見せ、
校庭で立ち止まって、空を見上げる。
初夏の太陽が眩しかった。
花壇には、早咲きの
もう、夏も近いですね。
「お待たせしました。では行きましょー」
校門で待っていた三人に声を掛け、駅への道を歩く。
夢の約束。
私に、約束を果たせるかは正直わからない。
だけど、もし――。
『もし、生まれ変わったら――その時は、素敵な恋をしましょっ!』
私は歩きながら、顔も、名前も思い出せないけど。
約束した、彼女たちに誓う。
もし、その時が来たら――素敵な恋をします、と。
Angel Beats! -First Love-完結です。
最後までお付き合いいただきありがとうございました!
簡単にですが設定です。
各キャラの一人称は全て、漫画版『Charlotte』及び『Angel Beats! Heaven's Door』を参考にさせていただきました。
なお、エピローグで