Angel Beats! ~First Love~   作:ナナシの新人

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Episode3 ~取引~

「ん~っ、うっまっ!」

 

 食堂で夕食を食べていると、テーブルを挟んで正面に座っている佐々木(ささき)さんが聞いてきた。

 

「何か、いいことあったの?」

「ん? 別に何もないっすよ。ここのご飯、お美味しいですよね」

「だよね~」

 

 私の意見に、三浦(みうら)さんも同意してくれた。今日まで、この食堂でいろいろな料理(もの)も食べてきたけど全部美味しい。

 

「でも、ハズレもあるんだよ」

「え? そうなんですか?」

「確か、麻婆豆腐(マーボーどうふ)だったけ?」

「そうそう。すんごい激辛で、ご飯が一緒じゃないと食べられないって噂なんだよ」

「へぇ、そうなんですねー」

 

 偶然にも私は、アタリメニューを引き続けていたみたい。

 その後も、四人で話ながら夕食を食べていると、突然、食堂の照明が落ちた。停電でしょうか。いったん箸を置いて、照明が戻るのを待つ。すると、二階席へ行くための階段の踊り場にスポットライトが当てられ、指定外のセーラー服を着た女子生徒四人が、楽器と共に姿を現した。

 

「あっ、“ガルデモ”だ!」

「ガルデモ?」

「うん。“Girls(ガールズ) Dead(デッド) Monster(モンスター)”。略して、ガルデモ。こうして不定期に、食堂でライブをしてるの」

 

 斎藤(さいとう)さんが、彼女たちについて教えてくれた。

 立華(たちばな)さんが言っていた、ゲリラライブをする生徒たちというのは、あの人たちのことだったんですね。

 

「おいっ、ガルデモだっ!」

「ライブ始まったよっ!」

 

 食堂にいる生徒たちが次々と、彼女たちの方へ駆け寄って行く。その間に、他の二人は急いで残りの夕食を食べ進めていた。

 

「私たちも、早く食べちゃお!」

 

 急に急ぎ出した、三人。それを不思議に思っていると......。

 

「ライブのクライマックスに演出で強風が吹くの。それで食券がいっぱい舞って、ご飯の上にも降ってくるんだよ。友利(ともり)さんはうどんだから、たぶん悲惨な事になるよっ!」

「えっ! マジっすかっ? 急ぎましょうっ」

 

 私も、急いで箸を進める。

 この世界に来た日、夜空に雪のように舞っていた食券はこのガールズバンドが原因だったみたいです。と言うことは......バンドを見る。

 

『じゃあ、いくぜっ! Crow Song!』

 

 観客に呼び掛け、演奏が始まった。大きな歓声が上がる。

 とても女子だけのバンドとは思えない激しい演奏と、訴え掛けるようなメッセージ性の強い歌詞。なにより、ボーカルを務める肩よりやや長い赤髪の女子の圧倒的な歌唱力。

 

「この声......」

 

 彼女の声は、私の大好きなバンドのボーカルにとてもよく似ている。心地良い歌声に目を瞑り聞き入っていると、外から物音が聞こえた。

 

「今、何か聞こえませんでしたか?」

「えっ! なにっ?」

 

 大音量の演奏と歓声で、上手く声が通らない。だけど今、確かに聞こえた。演奏に混ざった、乾いた発破音。気を取られていると、演奏の終演を迎えるのを知らせる様に食堂内に強風が巻き起こった。生徒たちが持っていた食券が宙を舞い、ガラス扉や窓の隙間から食堂の外へ飛んで行く。

 そして、飛び切らなかった食券が、私のうどんの器の中に数枚降ってきた。

 

「あ~あ......」

「......抗議に行ってきますっ」

 

 立ち上がろうとしたところを止められた。

 

「ダメっ! 今行くと、巻き込まれるよっ」

「それはどう言う......」

 

 意味でしょうか、と聞こうとした時、食堂の入り口から男性教師が怒鳴り声を上げて入ってきて、生徒たちをかき分けて踊り場へと向かって行く。

 

「行こっ」

「あっ、はい」

 

 食器を片して、食堂の外へ。

 女子寮へ帰る間、ずっと「ガルデモ」の話題で持ちきりだった。閉鎖的な寮生活。彼女たちの演奏が、心の拠り所になっている生徒も多いみたいで。みんなも好きみたいです。

 

 

         * * *

 

 

 食堂の騒ぎから、一週間後の放課後。

 私は、部活動設立の書類を持って生徒会室に出向き、生徒会長の立華(たちばな)さんに書類を提出した。

 書類に目を通した彼女は、判子を押して――。

 

「はい。了承」

「ありがとうございまーす」

 

 五人目の部員を確保した事で、報道部は正式に許可をされ、活動する権利を得た。これでようやくスタートラインに立つことが出来る。

 

「でも、顧問の先生は居なくていいんですか?」

「心配ないわ。あたしが見つけておいたから」

「どうして、そこまでしてくれるんですか?」

「生徒会は生徒の為にあるの。だから、手を貸すのは当然のことよ」

 

 立華(たちばな)さんは、戸棚から茶封筒を持ってきた。

 

「はい。これが、部室の鍵。必要になりそうな物は用意しておいたから」

「ありがとうございますっ」

 

 茶封筒を受け取り、お礼を伝えて、生徒会室を出る。

 廊下では、三人が待っていてくれた。私は彼女たちに、茶封筒を見せる。

 

「報道部、無事に設立っすっ」

「やったねっ。友利(ともり)さんっ」

「はい、ありがとうございますっ。ではさっそく、部室に行きましょー」

 

 校舎を出て、部室棟へと向かう。

 一番奥に「報道部」と表記された、プレートを見つけた。

 

「じゃあ、開けますよー」

 

 茶封筒から鍵を出して鍵穴に差し込み回す。カチャっとロックの外れた音がした。ノブを下ろして、部屋の中に入る。

 真新しい部室の中には、長机が二台と人数分の椅子。

 机の上には、天上学園の資料とノートパソコンが一台が設置されおり。入って左側には、ホワイトボード。反対の右側には、大きな戸棚があり、筆記用具と空のファイルが数十個用意されていた。

 

「スゴいね!」

「はい、想像以上です」

 

 まさか、ノートパソコンまで用意してくれているなんて思わなかった。

 

友利(ともり)さん、ここ座ってっ」

 

 ノートパソコンが設置されている前の椅子を引いて、私を呼んだ。そこへ行って座る。みんなも、それぞれ席に着いた。ついに、報道部活動開始。

 

「はい、ぶちょーっ」

「はい、佐々木(ささき)さん」

「報道部って、具体的に何するんですか?」

 

 そう言えば、詳しい説明をしていなかった。

 部活動設立のために提出した書類のコピーを、三人に見えるように置く。

 

「ここに書いてある通り月に一度、テーマを決めて記事を発行することが主な活動内容です。ただ今月は、もう一週間しかないので創刊号の発行は来月末を目指します。簡単に言うと、部活動や学校行事に関わるを物事を取材をして記事にまとめる、ですね」

「なるほど~」

「それなら、球技大会がいいと思うよ」

 

 確かに、記事にするには持ってこいの学校行事。創刊号に相応しい紙面になると思う。

 

「そうですね。記事にしやすいですし、いいと思います。どうでしょうか?」

 

 三人とも頷き、紙面の内容が決まった。

 

「ところで、この人は来ないの?」

 

 三浦(みうら)さんは、部員の名前が書かれているスペースの一番下に記されている男子の名前を指差した。

 

「ああ~、その人は、名前を貸してくれただけですので。基本ここには顔を出しません」

「そうなんだ~」

 

 少し残念そうに感じる。

 

「まあ、用事がある時は向こうから来ますので楽しみにしておいてください。因みに、結構イケメンですよ」

 

 きゃーっと、黄色い声を上げて三人のテンションが上がった。こう言うところは、やっぱり年頃の女子っすね。一通りの説明が済んだところで今日は解散。

 三人と別れた私は「手段」を得るため一人、教員棟へ向かう。職員室のドアをノックしてから入る。

 

「失礼しまーす」

 

 顧問の先生に引き受けてくれたお礼を言って、視聴覚室にあるビデオカメラとデジカメの使用許可を貰った。真面目に授業や手伝いをこなしていた甲斐もあり、話はスムーズ進んだ。これで「手段」を獲得。ビデオカメラとデジカメを持って部室に戻る途中、男子生徒とすれ違った。

 部室棟の出入り口に落ちていた小さく折り畳まれた紙くずを拾い、部室にデジカメを置いてから、再び教員棟へ向かう。教員棟の女子トイレの個室に入り、折り畳まれた紙を広げ、書かれている内容を確認しながら、その時が来るのを待った。

 ――なるほど......さすが、良い仕事をしてくれる。

 しばらくして、誰かがトイレに入ってきた。

 話し声は無く、ドアを閉める音はひとつだけ。静かにトイレを出た私は、入り口の前でビデオカメラを回しながらトイレから出てきた女子の後ろを付いて歩く。

 前を歩いているのは、指定外のセーラー服を着た女子生徒。

 腰まで伸びるロングヘアーに長いスカーフを首に巻き、なぜか指先で竹箒を柄を立てながら歩いている。

 彼女は、校長室の前に立つと。

 

神も仏も天使も無し(カミモホトケモテンシモナシ)

 

 カチッと何かが外れる音がして、竹箒を立てていない方の手でドアを開けて、校長室へ入っていく。

 ――神も仏も天使も無し(カミモホトケモテンシモナシ)

 それが初めてここに来た時聞かれた、合言葉。

 スカーフを巻いた女子の後に続いて、校長室へ潜入した。

 

 

         * * *

 

 

 校長室は部室と違い、豪華なソファーなどがある。

 中に居るのは、尾行していた女子――椎名(しいな)さんを含めて、全部で五人。

 背丈よりも長いハルバートを持った男子、野田(のだ)さん。先日、銃を持っていた男子、日向(ひなた)さん。ツインテールで耳にインカムを装着している女子、通信士の遊佐(ゆさ)さん。

 そして、この組織をまとめるリーダー、校長の椅子に座っている――仲村 (なかむら)さん。

 実際に部屋に居たのは思ったより少ないけど、容姿の特徴は情報通り。椎名(しいな)さん以外の四人は私を見ながら、不思議そうな表情(かお)をしている。

 

「おい、椎名(しいな)っち。誰だよ、その子?」

「......ん?」

 

 日向(ひなた)さんの問いかけに、彼女はきょとんと首を傾げた。

 

「こんにちはー」

「――っ!?」

 

 後ろから声をかけたためか、椎名(しいな)さんは部屋の隅まで飛び引いた。しかも、竹箒を落とさずに。

 

「スゴい跳躍力と、バランス感覚っすねー」

「なんだッ、貴様ッ!」

 

 野田(のだ)さんに、ハルバートの刃を向けられる。

 

「待ちなさいっ! その子は、一般生徒(NPC)よっ!」

「なっ!? チッ!」

 

 仲村(なかむら)さんの言葉を聞いて、渋々とハルバートを下ろした。

 彼女が言った「NPC」とは「ノン・プレイヤー・キャラクター」の略称。この世界に来た私たちとは違い、元々この世界に用意された人間を指す言葉。

 

「あなた、前も言ったけど。ここに、校長は居ないわ」

「知ってます。今日は、別の用件で来ました」

「そう。いったい何の用かしら......?」

「報道部の者です。あなた方の取材に来ました」

 

 仲村(なかむら)さんは、軽く息を吐き両肘を突いて組んだ手の甲にアゴを乗せ威圧する用な形で会話を始めた。

 

「......報道部? そんな部、知らないわ」

「そりゃそうですよ。今日の放課後、つい先ほど出来たばかりですから」

「そう。けど、受ける理由が無いわね。大人しく引きなさい」

「そちらに理由は無くても、こちらには“権利”があります」

 

 一枚の用紙を、彼女が座る机に置く。

 

「いかがですかー?」

「......また、えらく懐かしい物を持って来たわね」

 

 その紙は「死んだ世界戦線部」と書かれた、水泳大会への参加申請書。「死んだ世界戦線」通称「SSS(スリーエス)」は、仲村(なかむら)さんがリーダーを務める、この世界を創った神に抗う為の組織。

 

「一度でも()()として活動している以上、こちらには取材する“権利”があります」

「そうね。けど、こっちには取材を受ける“義務”は無いわ」

 

 この返しも、計算通り。

 

「まっ、そう言うでしょうね。ですので、ギブアンドテイクと行きましょう。こちらも情報を提供します。それが、あなた方に有益かどうかは分かりませんけど」

「......取引のつもり? そうね、情報の内容いかんによっては考えてもいいわ」

 

 ――釣れた。どうせ無理だと思っている。

 

「第一コンピューター室」

「それが、なに......?」

「そこに最近、転校して来た男子生徒が居ます。放課後になると毎日ように閉館時間ギリギリまでパソコンを操作しています。おかっぱ頭でメガネをかけた小柄な男子です」

「――なっ!? 日向(ひなた)くん!」

「あ、ああっ!」

 

 日向(ひなた)さんは、仲村(なかむら)さんが投げたトランシーバーを受け取ると走って校長室を出ていった。しばらくして、遊佐(ゆさ)さんに通信が入る。

 

「はい、遊佐(ゆさ)です。はい、わかりました。ゆりっぺさん、間違いありません」

「そう......ありがと」

 

 一度目を伏せた仲村(なかむら)さんは改めて、私に向き直した。

 

「あなたがもたらしてくれた情報は、戦線(あたしたち)にとって有益な情報(もの)だった。取材を受けてあげるわ。それで、何を聞きたいの?」

 

 周りを見る。かなりの警戒心と言うより、野田(のだ)さんと椎名(しいな)さんの二人からは殺気に近い視線を感じる。

 

「今日のところは止めて起きます。活動時間ギリギリですので。後日、日を改めてお伺いさせてもらいます」

「......わかったわ」

 

 踵を返して、扉へ向かう。

 

「あなた、名前は?」

友利(ともり)と言います。それでは、また後日」

 

 振り返って答えてた私は、開きっぱなしになっている校長室を後にした。

 

 ――さて、思惑通りに動いてくれるといいんですけど。

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