Angel Beats! ~First Love~   作:ナナシの新人

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Episode4 ~取材~

「それでは本日も活動を開始しましょう。みなさんは、運動部をお願いします。写真もバシバシ撮っちゃってください」

「うん、任せてー」

 

 取材へと向かう三人を見送り、私も部室を出る。

 

「今日は、と。美術部と文芸部へ行きますか」

 

 報道部が発足してから、五日。運動部と文化部、それぞれ二ヶ所を目安に休日を除いて取材活動を行っている。運動部の活動は敷地内の屋外施設へ散らばっているため、転校して来た私より詳しいからと言って、みんなが担当してくれることになった、という事で。私は、基本的に校舎内や部活棟で活動している文化部を中心に担当する事になった。

 

「こんにちはー、報道部の者です」

 

 まずは、美術部。軽くノックをして、部室に入る。さすが美術部なだけあって、部室内にはデッサン用の石膏や絵画などが飾られていた。部長に許可を貰い、ビデオカメラを回しながら話を聞いたり、活動の様子を撮影させてもらった。一時間程で取材を終える。

 

「ありがとーございました」

 

 美術部の部室を出て、次は文芸部へ足を運ぶ。

 同じようにノックをして、部室に入る。

 

「こんにちはー、報道部の者です。部長さんは、いらっしゃいますか?」

「部長なら、図書館へ調べ物に行ってますよ」

 

 教えてくれた女子部員に、部長の特徴を教えてもらう。

 

「そうですか、ありがとうございまーす。お邪魔しました」

 

 部室を出て、扉を閉める。

 

「図書館か、確か......」

 

 天上学園に来て二日目の放課後に敷地内を散策した時の事を思い出しながら、図書館を目指す。図書館は校舎から離れた場所にあるため部室棟から学習棟へ移動し、昇降口で靴に履き替えて外に出る。大階段を下りると、すぐに建物が見えた。

 自動ドアを潜って、館内に入る。

 高い吹き抜けの天上、壁一面の設置された本棚、紙とインクの匂い。二階にも、びっしりと本が収納されていた。大きな図書館だけあって利用している生徒も多い、というほどではないけれどそれなりに居る。それにしても。

 

「広いっすね......」

 

 散策した時は、外から窓越しに見ただけだったから図書館内に実際に入るのは初めて。外観の大きさから、ある程度広いと予想していたけど想像以上に広かった。

 この中から、たった一人の生徒を見つける事は困難を極めることは必至。まぁ、文芸部の部長ですし、よく利用しているはず。そこで私は、貸し出しなどを行っているカウンターへ行き、担当職員に聞いてみる事にした。

 

「文芸部の部長さんを探して居るんですが、見かけませんでしたか?」

「あ~、彼女なら、いつも――」

 

 教えてもらったエリアに行くと、文芸部の女子が言っていた特徴と一致する女子生徒を発見。声を掛ける。

 

「こんにちは」

「え、はい、こんにちは。あなたは?」

「報道部の者です。友利(ともり)といいます。文芸部の子の聞いたら、ここに居ると聞きまして。取材をお願いしたく許可をいただきに来ました。お願いできますか?」

 

 事情を説明すると、小さく頷いてくれた。

 

「わかりました、ご協力します。ですが、少し時間をいただけますか。もう少し調べたい事があって」

「勿論です。では、あたしも少し見て回っています。転校して来たばかりで、ここに来るの初めてなんです。広いですよねー」

「あ、そうなのですね。でしたら、入り口にある館内マップを使うといいですよ」

 

 三十分後にカウンターの前で落ち合う約束をして、彼女と別れる。一度入り口まで戻り、手に取ったマップを広げる。図書館内は様々なエリアに区別されていた。

 小説等を主にしたエリア、参考書や文学書などの学習書エリア、医学や心理学、洋書、PCルームなど一通りの物が揃っている。それに漫画や雑誌、CDやDVDなどの娯楽関連の物もあるもみたいで、とても充実している。

 

「CDか、もしかしたら......」

 

 あるかもしれない。そう思った私は、娯楽エリアへ向かった。様々年代の漫画や雑誌が揃っている。そこを越えた先に、目当てのCDコーナーの洋楽の棚を見つけた。アルファベット順に陳列されているため最後文字「Z」の棚からアーティスト名のCDを探す。

 

「え~っと......おっ、あったー!」

 

 大声を出してしまった事で他の生徒の注目を浴びてしまった。少し頭を下げて謝ってから、見つけたCDを手に取る。何度も。何度も繰り返し聴いたCD――「ZHIEND(ジエンド)」のアルバム。

 

「あるんだ......ここにもっ!」

 

 大好きなポストロックバンドのCDを見つけた私は、さっそく隣接されている視聴エリアの空いている椅子に座って、CDをセット。ヘッドフォンを付けて再生ボタンを押した。演奏が再生されるまでの僅かな時間がもどかしい。一瞬の間が開いて、演奏が始まった。ボーカルの澄み切った歌声と、それを際立たせる繊細なサウンド。まるで広大な草原で、木々や草花、風や大気を感じながら一人静かに佇んでいる、そんな感覚に陥る。

 

「......やっぱっ、すごいっす」

 

 目を瞑り、しばらく余韻に浸る。

 ふと時計を見ると、約束の時間が後五分に迫っていた。

 急いでCDを片付け、早足でカウンターへ向かう。文芸部の部長も、ちょうどやって来たところだった。取材がてら話しを聞きながら一緒に文芸部の部室の戻り、美術部の時と同じように取材をして報道部へ戻る。その途中、声を掛けられた。

 

「なあ、ちょっと待ってくれっ」

「ん?」

 

 振り返ると、SSS(スリーエス)のセーラー服を着た女子。

 この人は確か......前に見たことがある。肩にかかるくらいの赤い髪、キリッとした目。

 

「今、お前が口ずさんでた歌、誰の歌だ? ぜひ教えてくれっ」

 

 そして、なによりこの声。

 学食で、ゲリラライブをしていた「Girls(ガールズ)Dead(デッド)Monster(モンスター)」のボーカル、岩沢(いわさわ)さん。

 無意識のうちに、さっき聴いていた「ZHIEND(ジエンド)」の曲を口ずさんでたみたい。これから、少し気をつけるようにしよう。

 

「“ZHIEND(ジエンド)”っていう海外のバンドです」

「“ZHIEND(ジエンド)”......聞いたことないな。なあ、そのバンドについて教えてくれっ」

 

 突然、頼まれても「ZHIEND(ジエンド)」の魅力を言葉にして全部を表現する事は、私には出来ない。だから、ガルデモのボーカルを図書館に連れていって、実際に聴いてもらう事にした。

 

「すっげーな、このバンド......!」

「わかりますかっ?」

「ああ、もちろんだ! なんつーかな、こう......」

「孤独感?」

「そう、それだっ。広い大地で一人で居るみたいな、そんな感じだっ」

「おおっ! わかってるっすねっ」

「いてーよ」

 

 肩に軽くパンチを入れると、彼女は笑いながら言葉を返した。

 私は、ただ単純に嬉しかった。

 こんな世界で、同じ感性を持っている人に出会えたことが嬉しかった。

 

「“ZHIEND(ジエンド)”の音楽は、すごく......すごく広大で、ひたすら孤独なんです。それは作詞と作曲をこなすボーカルが、両目の光を失っているからだと思うんです。世界のどこにも存在しないはずの景色がどこまでも広がっていく、そんなイメージで......」

「ああ、わかる」

 

 私たちは時間を忘れて「ZHIEND(ジエンド)」や、彼女たち「Girls(ガールズ)Dead(デッド)Monster(モンスター)」についての話をして過ごした。けれど、それは唐突に終わりの時を迎えた。閉館を告げるアナウンスが図書館内に響き渡ったからだ。

 

「もう、そんな時間なのか?」

「みたいですね。すみません、長い間話しに付き合っていただいて」

「いや、有意義な時間だったよ。このバンドの曲を聴けたお陰で、今なら行き詰まってた新曲が書ける気がする」

「そうですか、ならよかったです。完成したら聴かせてください」

「ああ、もちろんだ。じゃあな」

 

 彼女は、教員棟の方へ歩いていった。おそらく校長室に行くのだろう。私は校舎へ入り、部室棟の報道部へ戻る。私よりも先に帰っていた三人は、作業をしていました。

 

「あ、友利(ともり)さん。おかえり」

「ただいまっす。お待たせしました」

「ううん。私たちも、さっき戻ってきたばかりだから」

 

 佐々木(ささき)さんの言葉に、二人も笑顔で頷いた。

 私も作業を始める。ビデオカメラをノートパソコンに繋いで、撮影したインタビューを流しながら記事に使えそうな箇所をピックアップしていく。時計を見て、切りのいいところで終了を提案。

 

「今日は、ここまでにしましょう」

「そうだね。じゃあ晩ごはん行こ」

「お先にどうぞ。戸締まりと、電源を落としてから行きますので」

 

 ノートパソコンの電源を落とし、充電していたデジカメとビデオカメラを棚に片付けてから、食堂へ向かう。夕食を食べながらガルデモのボーカルと話した事を伝えると、みんな羨ましそうだった。

 新曲の事は、内緒。きっとそうしておいた方が聴いた時の感動も大きいと思いますから。

 

 

         * * *

 

 

「よっ、と......」

 

 脱衣所で、上着を脱ぎ、ツーサイドアップにしている髪を解いて後ろでまとめる。脱いだスカートと下着も、上着と同じカゴの中に畳んでしまって。タオルなどを持って浴室へ入る。

 女子寮の大浴場。

 一度に大勢の生徒が入るため、かなりの広さを誇る大浴場。足を伸ばせる湯船、炭酸泉やミストサウナ、水風呂なども完備された快適な空間は、とても学生寮の浴室室とは思えないほど豪華な造り。かけ湯をしてから、広い湯船に入る。

 

『はぁ~......気持ちいい......』

 

 思わず声が漏れた。

 浴室独特のエコーのかかった声。いつも同じ時間帯に入っている、クラスの女子たちとお喋りをしながら疲れた身体を癒やす。身体が温まったところで、シャワー前の備え付けの椅子に座って、髪の毛を洗う。

 

『シャンプー貸してくれる?』

 

 シャンプーの泡を流し終えるのを見計らった様に、隣から声が聞こえた。

 

『どうぞー』

『ありがと。あら、あなた......友利(ともり)さん、だったわよね?』

 

 声の主は、SSS(スリーエス)のリーダー仲村(なかむら)さん。

 

『はい、友利(ともり)です』

『あたしは――』

仲村(なかむら)ゆりさん、ですよね?』

『......自己紹介した覚えは無いんだけど?』

『あなた方は、有名ですから』

 

 実際、生徒会や教師たちも手を焼いている。

 柔いスポンジで身体を洗いながら周りを確認すると、先日後をつけた椎名(しいな)さんが、湯船に浸かっているのを見つけた。それに、この時間帯には見かけない女子が数人いる。おそらく、全員がSSS(スリーエス)のメンバー。周りは固めた、といったところでしょうか。

 探りを入れるため私は、隣に座り髪を流している仲村(なかむら)さんに話しかけた。

 

『初めてですね。大浴場(ここ)で会うのは』

『そうね。いつもは、もう少し遅い時間に入ってるから』

『そうなんですね』

『ところで、取材はどうなってるの? あれから来ないから気にしてたのよ?』

 

 彼女の方から、切り出して来た。

 ――釣れた。思っていたよりも行動を起こすのが早かったですが、想定の範囲内。彼女たちSSS(スリーエス)は、思惑通りに動いてくれた。

 

『すみません。近いうちに伺うつもりだったんですけど、いろいろと忙しかったので。都合のいい日はありますか?』

『いつでも。なんだったら、お風呂から上がってからでもいいわよ』

『そうですか。では、お願いします』

『ええ、わかったわ』

 

 お互いに髪と身体、顔を洗い流して脱衣所に出て、パジャマに着替える。

 

「それで、取材はどこでするのかしら? ゆっくり話すのなら――」

「あたしの部屋にしましょう」

「食堂にでも......あなたの部屋?」

 

 一瞬、驚いたように目が見開いたが、すぐに冷静に聞き返してきた。この反応は間違いなく黒ですね。

 

「はい、筆記用具が必要ですから。それに――男子に家捜しされるのは嫌です」

「はぁ......。遊佐(ゆさ)さん。作戦中止、待機中の男子を女子寮から撤退させて」

 

 大きなタメ息をついて、隠し持っていたトランシーバーに話しかけた。すぐに「了解です」と返事が返って来た。

 

「これで満足かしら?」

「はい。では、行きましょう。こっちでーす」

 

 仲村(なかむら)さんを自室へ案内する。

 

「ここです」

 

 部屋の鍵を回して、扉を開く。

 

「お邪魔するわ」

「どうぞー。あたしは飲み物を買ってきますので、テキトーにくつろいでいてください」

「あなた、自分で作戦を潰しておきながら。あたしを、部屋にひとりにするの?」

「家捜しされて困る事はありませんから。ただ、男子に、タンスやクローゼットを荒らされるのは流石に抵抗があります。それとも、一緒に買いにいきますか?」

「......kEyコーヒーをお願い。赤い方の」

「はーい」

 

 部屋のドアを閉めて、寮内の一階に設置されている自販機へ。

 

「kEyコーヒーの赤いの、っと」

 

 小銭を入れてコーヒーのボタンを押す。

 

「報告出来なくて悪かった」

 

 窓の外から謝罪の言葉が聞こえた。

 バレない様にそちらには視線を向けず、頼まれたコーヒーを取り出し、自分の分を買いながら話す。

 

「いえ、お風呂に居ましたから仕方ないです。それに、二人で話しを出来るいい機会になりましたから」

「そうか。また何かあったら前と同じ方法で連絡する。じゃあな」

「はーい。そうだ、転校生の件ありがとうございました」

 

 お礼を言ったけど、もう既に姿は無かった。

 まあ、女子寮の近くに男子が長居することはリスクが高いし、当然ですけど。

 私は缶コーヒーを二つ持って、部屋に戻った。

 

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