Angel Beats! ~First Love~ 作:ナナシの新人
頼まれた缶コーヒーを持って部屋に入ると、
「探さなかったんですか?」
「何も無いんでしょ?」
「まぁ、そうですけど。はい、どうぞー」
「ありがと」
缶コーヒーを手渡して、机の上にある筆記用具と取材ノートを用意してから、テーブルを挟んで彼女と対面する形で座る。
「ではさっそく、取材をお願いします」
「ええ、いいわよ」
ペンを持ち、ノートを開いて、死んだ世界戦線部のリーダー
私が今、持っている
基本的に、行動は自由。ただし、授業や部活動を行うこと、
敵はあくまでも神と、その使いである天使。
戦線幹部は、17:00時に本部へ集合が義務付けられており、そこで報告や作戦会議が行われる。本部の校長室に入るには、合い言葉が必要で。合い言葉無しにノブを回すと、侵入者を排除するトラップが発動する。
合い言葉は――
あとは、実際に行った作戦の一部。
そして
欲しいのは、これら以外の情報。特に、この世界の根底に関わるような重要な情報を上手く聞き出したいところなんですが。設立に至った経緯を聞いたハズが、いつの間にか彼女の思い出話しになってしまいました。
「あの時の天使の
「そうですか」
今、聞いている話しは「オペレーション校長室ジャック」。
読んで字のごとく、校長先生を職員室へ追い出し、校長室を戦線の本部にするという作戦。職員室の変わった机の並びの理由は、この作戦が原因だったみたいです。
「で、そのあと水泳大会に参加したのよ。その時に提出したのが、あなたが持ってきた参加申請書って訳ね」
「なるほど。それで最後に『部』がついていたんですね」
「そう。部活動じゃないと参加申請は受理出来ないって。まさか、あんな昔の物を持ち出してくるだなんて思いもしなかったわ」
「死んだ世界戦線部」の謎が解けた。何か特別な意味があると想像していたんですが、単純な理由でしたね。
「あたしからも、聞いていいかしら?」
ノートに書き記していると、
「どうぞ」
「あなた......いったい何者なの?」
「ん? と言いますと?」
正直、答えようがない。
私は、私。特別な存在ではないわけですし、彼女と同じで、この死後の世界に来た人間。
「ここ数日、あなたを監視させてもらったわ」
もちろん知ってる。監視が始まることは事前に内通者から聞かされていた。だから、監視が始まってからは普段以上にクラスメイトと会話をしたし、積極的に関わりを持つよう心がけた。
「プライバシーって言葉知ってますか?」
「あなたは真面目に授業を受け、クラスメイトとの関係は良好、教師からの信頼も厚い」
「無視ですか」
「放課後には部活動を行い、充実した学園生活を送っている」
彼女は一度、目を閉じてひとつ息を吐いてから、真っ直ぐ私の目を直視して言った。
「でも、あなたは消えない。それは、あたしたちとは違い人間ではないと言うこと」
どういう意味ですか、と首を傾げて見せる。
「授業を真面目に受けたら消えるのよ。あたしたち、魂を持った人間はね」
――消える......この世界からと言うことでしょうか。
それで、授業と部活は厳禁という事か。彼女の声色からは嘘をついている様には感じない。なら、どうして私は、消えないんでしょうか。
「
なるほど。確かに、クラスメイトに聞いた時天使なる存在は知らない、と口を揃えて言っていた。今のところ分が悪い。けど、まだやりようはあります。
「あなたが言う。その
「それが、一番おかしいのよ。あたしたちは、数十年という気が遠くなるほどの長い時間を、この世界で抗い戦い続けて来た。その間一度たりとも、新しい部活は創られていない。
「偶然じゃないですか?」
「偶然? あり得ないわ。
それで、何かしらの証拠を掴むため家捜しを敢行するに至った、と。しかし私が、それに気がついた結果より疑惑を深めてしまったと言う訳ですね。
「それは、なんですか?」
「あなたは――天使よっ」
「......はあ?」
あまりにも斜め上の言葉に、すっとんきょうな声が出てしまいました。これは、さすがに予想していなかったっす。
「天使と教師は、真面目に授業を受けろと一方的に命令してくるだけ。
「さあ、答えなさいっ。あなたは、何者なのっ!? 答えないのなら
この殺気と剣幕......本気っすね。仕方ないか。
――はぁ......と、ひとつ大きなタメ息をついて、銃を構える
「あたしは、天使ではありません。あなたと同じ人間です」
「それを証明する証拠はっ?」
「机にある、ノートを取りたいんですが。いいっすか?」
「行きなさい」と、アゴでくいっと指示を出した。立ち上がり、机の棚から一冊のノートを持って元の場所に座る。
「座ってください」
「............」
「そこからじゃ見えませんよ?」
持ってきたノートを、彼女に文字が見えるように開いて、置く。最初は、こちらを警戒しながら読んでいたが途中から銃を置き、手に取って読み出した。
私が見せたノートは、日記。
この世界に来てからの出来事が細かく書いてある。ただ、一部を除いて。
「いかがですか?」
「......本当に人みたいね。日付は、トルネードの夜か。見落とす訳ね」
とても残念そうな
神への復讐が目的の彼女たちにとっては、私が天使だった方が神に近づける訳ですからね。
「信じてもらえて、なによりです」
「初めて会った時、記憶を失ってたの?」
用事で校長室を訪ねた時、死んだ自覚があるかと聞かれたのを思い出す。
「あの時はまだ、確証を持てていなかっただけです」
「なら、今はあるのね」
「まぁ......」
私は、言葉を濁した。
「その様子じゃ、素晴らしい人生ではなかったみたいね」
テーブルに置いた銃にセーフティを掛け、服の内側のホルスターにしまった。
「安心なさい。みんな、あなたと同じ。ここには理不尽な人生を歩んだ人しか来ないから。さて、じゃあこれからの事を話しましょっ」
コロッと態度が変わった。切り替えが早い人っすね。
「これから?」
「そうよ、あなたも入隊してくれないかしら? あたしたち、死んだ世界戦線へ!」
「いえ、止めておきます」
「そうっ、これからよろしくね......って止めるぅ!? はあぁーっ? 何でよっ? この流れは手を取り合う場面でしょっ!?」
バンッと机を叩いて、身を乗り出してきた。
ついでに唾も飛んだ。ウェットティッシュで拭き取りながら答える。
「あたし、クラスでは優等生で通っているんです。先生からも、よく頼まれ事をされるんですよ。ですので、学園側の情報が手に入ります。例えば、転校生とか」
「っ! なるほど......」
「相互協力がベストかと思いますが、いかがですか?」
「ええいいわ、そうしましょ。けど、気を付けなさい。下手すると消されるわよ?」
話を切り出した時と同じ、真剣な
「それで、あなたの目的は? あたしたちの目的は、この世界を創った神を見つけ出して倒す。そして、この世界を手に入れること。相互協力という事は、あなたにもあるんでしょ?」
「そうですね。あたしは......この世界が存在する理由を知りたいです」
誰がなぜ、何のために、この「死後の世界」を創造したのか。
それとも――私たちの様に、特殊な能力を持つ能力者の能力によるモノなのか。私は、それを知りたい。
「また、面倒な目的ね」
「お互い様っしょ?」
こうして私たちは、相互協力という名の同盟関係を結んだ。
そして、もう一つお願いごとする。
「あたしの事は伏せて、あなた方のいう
「そうしましょ。それからお互いの連絡の取り方だけど、いい方法があるわ」
「まぁ、いいっすけど」
「決まりね。後で、用意するからっ」
「お願いしまーす。では、取材を再開しましょう」
「えっ? 今から?」
「当たり前です。何のために来たんすか?」
若干顔がひきつってる気がしますけど、気にしないでおきましょう。
「......消えるわよ?」
「大丈夫っす。ひと月ほど、真面目に授業を受けて消えてませんから。ほら、始めますよー」
このあと
「お疲れさまでした。ところで何してんすか?」
取材ノートと筆記用具を片付けて振り返ると、
「長い長ーい取材を受けたんだから、このくらいいいでしょ。あら、可愛い下着付けてるのねっ」
「早く戻らないと、消灯の時間ですよー?」
「はいはい、わかってるわよ」
下着をタンスに戻して、立ち上がった。
「明日の早朝に持ってくるから、じゃあね。おやすみ」
「おやすみなさい」
部屋を出て行った。鍵を掛けて、机に向かう。
先ほど見せた日記を棚に戻し。その横にある、もう一冊の日記を開く。
さて、今日も記録をつけますか。