Angel Beats! ~First Love~ 作:ナナシの新人
朝、部屋のドアが叩かれる音で目が覚めた。
軽く伸びをして、寝ぼけ眼のままベッドを降り、ドアに向かって問いかける。
「どちらさまですか~?」
「あたしよ。例の物を持ってきたわ」
聞き覚えのある、女性の声。鍵を開けて、ドアを開く。廊下に立っていたのは、
「おはよう」
「おはよーございま~す......早いっすね」
時刻はまだ、午前五時前。早朝とは言っていましたが、まだ日も昇っていない未明。彼女は手に持った紙袋を、軽く持ち上げて見せた。
「はい、これ。早い方がいいでしょ?」
「まあ、どうぞ~」
「お邪魔するわ」
立ち話もなんなので、部屋に招き入れる。
昨夜と同じようにテーブルを挟んで座ると、
「今日は、あたしの奢りよ」
「ありがとうございます。いただきます」
昨夜のお返しみたいですね。
そして、その紙袋も一緒に差し出してきた。
手を伸ばして受け取り、袋の中を確認するとビニールに包まれた、真新しい制服が入っていた。
「着てみたら?」
「そうですね」
サイズも、気になる。
立ち上がって、空いていたハンガーに制服をかけてからパジャマを脱ぐ。背中に視線を感じた。
「ふぅ~ん、付けて寝るタイプなのね」
「......その感想は今、必要ですか?」
まったく、さっさと着替えを済ませましょう。
いつものブレザータイプの制服とは違う、コバルトブルーの鮮やかな青と白を基調とした爽やかなセーラー制服。胸元にはリボンと一体になったような赤いネクタイ、左の肩には
姿見で、襟元とスカートを整える。
「うん、似合うじゃないっ。模範生の制服より、しっくりしてるわよ」
「そうですか? この制服動きやすいですね。サイズもぴったりですし」
「そう、なら良かった。手芸部の子に微調整してもらった甲斐があったわ」
「タンスを荒らした
「別にいいじゃない、女の子同士なんだから」
まあ、そうですけど。引き出しから青いリボンを出し、口にくえて、両手で髪の毛を後ろで束ねる。
「持つわ」
「ありがとうございまーす」
束ねた髪を持ってくれた。
口に咥えたリボンで髪の毛を結んで、ポニーテールを作る。リボンがズレていないか確かめる――うん、乱れはないっす。振り返って聞く。
「どうですか?」
「ええ、遠目ならバレないわ。あとは、これで......完璧ね」
何処からか取り出した赤いフレームのメガネを私に掛けた。
「度は入って無いんですね」
「仮に、生前視力を失っていたとしても、この世界に来た時には回復しているわ。ケガや病気も同じ。じゃあ昨日の続きを始めましょ」
「はい」
頷いて座り直し、連絡手段や密会場所を決める。
「場所は絞りましょ。普段は、あたしの部屋。ここと同じで一人部屋だから安心なさい。時間は、早朝か深夜がいいわね」
「消灯後がいいと思います、人も疎らですし。早朝ですと寝過ごすこともあるかも知れません」
「確かに。でも、見回りは来るわよ?」
「それは、何とかなります」
私は、絶対に見つからない。それは既に実証済み。
「そっ。まあ、あの
「放課後は、図書館のCDコーナーがいいと思います。視聴場は人が少ないですし、居てもヘッドフォンをしていますので」
「音を消して話せばバレないし、向き合って話さなければ、教師に目を付けられる事も無いって訳ね。あとは緊急連絡だけど、その場合は、
「そうですか、わかりました。その人の特徴を教えてください」
「ツインテールの女子、左耳にインカムを付けているわ。この前、本部にいた子よ」
「はい、覚えています。あたしからの場合は、校長室へ行けばいいですか?」
「ええ。あたしはだいたい、戦線本部の校長室に居るから。ただし、無事に入るには合言葉が必要よ。ノックの後に、
「......物騒っすね」
トラップがあると聞いてはいましたけど、そこまで大掛かりな物なんっすね。しっかし即死って、いったいどんなトラップなんでしょうか。ちょっとだけ気になる。まあ、試しはしないですけど。
「
「普段は授業、放課後は部室か図書館にいます。緊急時は、そちらで。あと、あなた方がいう“天使”について教えてください」
「あら、まだ知らなかったの? 天使は――」
* * *
いつもの制服に着替え直して、朝ご飯を食べるために食堂へ向かう。食券を朝の日替わり定食に替えて、テーブルに着く。
先ほど
「うっま」
「あっ、
「ん? あ、おはようございまーす」
報道部の三人が来た。挨拶をして、一緒にテーブルを囲む。
「今日は、長時間作業できるね」
「え?」
「今日、休日だよ」
「あっ......そっか。忘れてました」
「
三人は、何故か嬉しそうに笑っている。
「では、今日は集まった記事をまとめて。午後は、お休みにしましょう」
「うん、そうだっ。昨日、野球部に行ったんだけどレギュラーは球技大会に出ないみたい」
「そうなんですか? 続きは、部室で聞かせてください。さあ、朝ご飯を食べちゃいましょう」
食べ終えた食器を片し、報道部の部室。
今週取材した内容を基に、大まかな記事を作製。
「こんな感じでどうっすか?」
「良いと思う。それぞれの部の雰囲気も伝わってくるし」
「こっちのスペースは、今度の球技大会?」
「はい。大会結果と優勝チームのインタビュー記事を掲載する予定です」
記事の殆どが、部活動の紹介。まあ、創刊号はこんなところが無難ですね。しかし、球技大会に野球部のレギュラーが出ない理由は、大会が近いかららしいですけど......この世界で大会なんてあるんすね。どこと戦うのか甚だ疑問です。
思いのほか早く仮記事が出来上がったため、少し早めに昼食を食べて三人と別れた私は一人、図書館へ向かった。目当てはもちろん、「
昨日と同じ様にヘッドフォンをして、再生ボタンを押す。目をつむり、流れてくるサウンドだけに意識を集中する。このバンドの音楽を聴いてる時だけは、すごくリラックスできる。
「よう」
「えっ?」
不意に、肩を軽く叩かれた。目を開けて、声を掛けてきた人を確認すると、ガルデモのボーカル
「
「ああ、こんにちは......って、あたしの名前知ってるのか?」
「ガルデモは、有名ですから」
事実、クラスの全員が知っていたし。「次はいつライブするんだろう?」と、待ちわびている生徒も少なくなかった。
「そっか。お前の名前も教えてくれ」
そう言えば、自己紹介をしていなかった。
「
「
「はい。やっぱり“
「あたしにも聴かせてくれ」
流れる同じ音楽を一緒に聴く。
「やっぱ、いいな、これ......」
「でしょ?」
ヘッドフォンを外して、前と同じ様に音楽の話をする。
「そうだ。新曲、完成したよ」
「そうですか、おめでとうございます」
「ありがとう。これから、ちょっといいか?」
図書館を出て、校舎の西側の駐車場へ連れていかれた。
五、六人の生徒が集まり、輪の中心からギターの音と歌声が聞こえてきた。中心に居るのは、
「あいつ、ユイって言ってな。あそこで毎日、ああしてギターを弾いて歌ってる。どう思う?」
「あまり上手くないですね」
「あははっ、だな。よれよれだっ!」
正直な感想を述べた私に、
それでも、このユイさんという方の歌は――。
「一生懸命な気持ちは伝わってきます。いいと思いますよ」
「ああ、あたしも同じ意見だ。あたしの後は、ユイしかいない」
なにかを悟った様な声色とセリフ。
「なんですか、それ。まるで居なくなるみたいな言い方ですね」
「......かもな。明日、食堂でゲリラライブをすることになった。出来たばかりの新曲も歌う。
「はい、必ず聞きにいきます」
「ああ。じゃあ、あたしは練習に行くよ」
「あの子に声を掛けなくていいんですか?」
「今のままでいい。あたしが聞いているって意識すると、変に上手く歌おうとするからな。じゃあな――」
小さく「ありがとな」と聞こえたような気がしたのは、気のせいだったんでしょうか。
私は、