Angel Beats! ~First Love~   作:ナナシの新人

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Episode6 ~感想~

 朝、部屋のドアが叩かれる音で目が覚めた。

 軽く伸びをして、寝ぼけ眼のままベッドを降り、ドアに向かって問いかける。

 

「どちらさまですか~?」

「あたしよ。例の物を持ってきたわ」

 

 聞き覚えのある、女性の声。鍵を開けて、ドアを開く。廊下に立っていたのは、SSS(スリーエス)のリーダー仲村(なかむら)さん。昨夜の約束通り、訪ねて来てくれたみたいですが。

 

「おはよう」

「おはよーございま~す......早いっすね」

 

 時刻はまだ、午前五時前。早朝とは言っていましたが、まだ日も昇っていない未明。彼女は手に持った紙袋を、軽く持ち上げて見せた。

 

「はい、これ。早い方がいいでしょ?」

「まあ、どうぞ~」

「お邪魔するわ」

 

 立ち話もなんなので、部屋に招き入れる。

 昨夜と同じようにテーブルを挟んで座ると、仲村(なかむら)さんは紙袋の中から缶コーヒーを二本取り出して、テーブルに置く。

 

「今日は、あたしの奢りよ」

「ありがとうございます。いただきます」

 

 昨夜のお返しみたいですね。

 そして、その紙袋も一緒に差し出してきた。

 手を伸ばして受け取り、袋の中を確認するとビニールに包まれた、真新しい制服が入っていた。

 

「着てみたら?」

「そうですね」

 

 サイズも、気になる。

 立ち上がって、空いていたハンガーに制服をかけてからパジャマを脱ぐ。背中に視線を感じた。

 

「ふぅ~ん、付けて寝るタイプなのね」

「......その感想は今、必要ですか?」

 

 まったく、さっさと着替えを済ませましょう。

 いつものブレザータイプの制服とは違う、コバルトブルーの鮮やかな青と白を基調とした爽やかなセーラー制服。胸元にはリボンと一体になったような赤いネクタイ、左の肩にはSSS(スリーエス)の部隊章が付いている。

 姿見で、襟元とスカートを整える。

 

「うん、似合うじゃないっ。模範生の制服より、しっくりしてるわよ」

「そうですか? この制服動きやすいですね。サイズもぴったりですし」

「そう、なら良かった。手芸部の子に微調整してもらった甲斐があったわ」

「タンスを荒らした理由(わけ)は、それですか......。普通に聞かれれば答えますよ?」

「別にいいじゃない、女の子同士なんだから」

 

 まあ、そうですけど。引き出しから青いリボンを出し、口にくえて、両手で髪の毛を後ろで束ねる。

 

「持つわ」

「ありがとうございまーす」

 

 束ねた髪を持ってくれた。

 口に咥えたリボンで髪の毛を結んで、ポニーテールを作る。リボンがズレていないか確かめる――うん、乱れはないっす。振り返って聞く。

 

「どうですか?」

「ええ、遠目ならバレないわ。あとは、これで......完璧ね」

 

 何処からか取り出した赤いフレームのメガネを私に掛けた。

 

「度は入って無いんですね」

「仮に、生前視力を失っていたとしても、この世界に来た時には回復しているわ。ケガや病気も同じ。じゃあ昨日の続きを始めましょ」

「はい」

 

 頷いて座り直し、連絡手段や密会場所を決める。

 

「場所は絞りましょ。普段は、あたしの部屋。ここと同じで一人部屋だから安心なさい。時間は、早朝か深夜がいいわね」

「消灯後がいいと思います、人も疎らですし。早朝ですと寝過ごすこともあるかも知れません」

「確かに。でも、見回りは来るわよ?」

「それは、何とかなります」

 

 私は、絶対に見つからない。それは既に実証済み。

 

「そっ。まあ、あの椎名(しいな)さんを尾行するくらいだし、教師に見つかるわけないか」

「放課後は、図書館のCDコーナーがいいと思います。視聴場は人が少ないですし、居てもヘッドフォンをしていますので」

「音を消して話せばバレないし、向き合って話さなければ、教師に目を付けられる事も無いって訳ね。あとは緊急連絡だけど、その場合は、遊佐(ゆさ)さんにお願いする。彼女は口が固いから信頼できるわ」

 

 遊佐(ゆさ)さんは、神出鬼没の通信士。確かに、うってつけですね。

 

「そうですか、わかりました。その人の特徴を教えてください」

「ツインテールの女子、左耳にインカムを付けているわ。この前、本部にいた子よ」

「はい、覚えています。あたしからの場合は、校長室へ行けばいいですか?」

「ええ。あたしはだいたい、戦線本部の校長室に居るから。ただし、無事に入るには合言葉が必要よ。ノックの後に、神も仏も天使も無し(カミモホトケモテンシモナシ)。これを言わないで開けようとすると対天使用の即死トラップで教員棟の外へ吹っ飛ぶわ」

「......物騒っすね」

 

 トラップがあると聞いてはいましたけど、そこまで大掛かりな物なんっすね。しっかし即死って、いったいどんなトラップなんでしょうか。ちょっとだけ気になる。まあ、試しはしないですけど。

 

遊佐(ゆさ)さんを使いに出す時は、本当に緊急の時だけ。あなたからは?」

「普段は授業、放課後は部室か図書館にいます。緊急時は、そちらで。あと、あなた方がいう“天使”について教えてください」

「あら、まだ知らなかったの? 天使は――」

 

 

         * * *

 

 

 いつもの制服に着替え直して、朝ご飯を食べるために食堂へ向かう。食券を朝の日替わり定食に替えて、テーブルに着く。

 先ほど仲村(なかむら)さんから教えてもらった天使の存在。

 

 SSS(スリーエス)が長年戦っている「天使」の正体は、天上学園生徒会長――立華(たちばな)(かなで)

 

 立華(たちばな)さんは、私が、この世界に来て何もわからない時いろいろと良くしてくれた人。部活の顧問の先生や、部室の備品まで。正直、信じられない。けれど、仲村(なかむら)さんの言ってた「彼女は、神から与えられたとしか思えない特殊な能力を持っているわ」と言う言葉。特殊な能力、私たちと同じ特殊能力者なんでしょうか? 考えながら、朝定食を食べる。

 

「うっま」

「あっ、友利(ともり)さんっ」

「ん? あ、おはようございまーす」

 

 報道部の三人が来た。挨拶をして、一緒にテーブルを囲む。

 

「今日は、長時間作業できるね」

「え?」

「今日、休日だよ」

「あっ......そっか。忘れてました」

友利(ともり)さんでもそう言う事あるんだー」

 

 三人は、何故か嬉しそうに笑っている。

 

「では、今日は集まった記事をまとめて。午後は、お休みにしましょう」

「うん、そうだっ。昨日、野球部に行ったんだけどレギュラーは球技大会に出ないみたい」

「そうなんですか? 続きは、部室で聞かせてください。さあ、朝ご飯を食べちゃいましょう」

 

 食べ終えた食器を片し、報道部の部室。

 今週取材した内容を基に、大まかな記事を作製。

 

「こんな感じでどうっすか?」

「良いと思う。それぞれの部の雰囲気も伝わってくるし」

「こっちのスペースは、今度の球技大会?」

「はい。大会結果と優勝チームのインタビュー記事を掲載する予定です」

 

 記事の殆どが、部活動の紹介。まあ、創刊号はこんなところが無難ですね。しかし、球技大会に野球部のレギュラーが出ない理由は、大会が近いかららしいですけど......この世界で大会なんてあるんすね。どこと戦うのか甚だ疑問です。

 思いのほか早く仮記事が出来上がったため、少し早めに昼食を食べて三人と別れた私は一人、図書館へ向かった。目当てはもちろん、「ZHIEND(ジエンド)」のアルバムを聴くこと。

 昨日と同じ様にヘッドフォンをして、再生ボタンを押す。目をつむり、流れてくるサウンドだけに意識を集中する。このバンドの音楽を聴いてる時だけは、すごくリラックスできる。

 

「よう」

「えっ?」

 

 不意に、肩を軽く叩かれた。目を開けて、声を掛けてきた人を確認すると、ガルデモのボーカル岩沢(いわさわ)さんだった。

 

岩沢(いわさわ)さん、こんにちはー」

「ああ、こんにちは......って、あたしの名前知ってるのか?」

「ガルデモは、有名ですから」

 

 事実、クラスの全員が知っていたし。「次はいつライブするんだろう?」と、待ちわびている生徒も少なくなかった。

 

「そっか。お前の名前も教えてくれ」

 

 そう言えば、自己紹介をしていなかった。

 

友利(ともり)です」

友利(ともり)だな。今日も、“ZHIEND(ジエンド)”を聴いてるのか?」

「はい。やっぱり“ZHIEND(ジエンド)”の音楽は最高っす」

「あたしにも聴かせてくれ」

 

 岩沢(いわさわ)さんは隣に座り、その席のヘッドフォンを私が聴いている機械の空いているジャックに繋いだ。

 流れる同じ音楽を一緒に聴く。

 

「やっぱ、いいな、これ......」

「でしょ?」

 

 ヘッドフォンを外して、前と同じ様に音楽の話をする。

 

「そうだ。新曲、完成したよ」

「そうですか、おめでとうございます」

「ありがとう。これから、ちょっといいか?」

 

 図書館を出て、校舎の西側の駐車場へ連れていかれた。

 五、六人の生徒が集まり、輪の中心からギターの音と歌声が聞こえてきた。中心に居るのは、SSS(スリーエス)のセーラー服を着た女子生徒。

 

「あいつ、ユイって言ってな。あそこで毎日、ああしてギターを弾いて歌ってる。どう思う?」

「あまり上手くないですね」

「あははっ、だな。よれよれだっ!」

 

 正直な感想を述べた私に、岩沢(いわさわ)さんは笑って同意した。「ZHIEND(ジエンド)」の演奏を聴いた直後ですから、比べてしまうのは酷ですけど。

 それでも、このユイさんという方の歌は――。

 

「一生懸命な気持ちは伝わってきます。いいと思いますよ」

「ああ、あたしも同じ意見だ。あたしの後は、ユイしかいない」

 

 なにかを悟った様な声色とセリフ。

 

「なんですか、それ。まるで居なくなるみたいな言い方ですね」

「......かもな。明日、食堂でゲリラライブをすることになった。出来たばかりの新曲も歌う。友利(ともり)に、聞いてほしい」

「はい、必ず聞きにいきます」

「ああ。じゃあ、あたしは練習に行くよ」

「あの子に声を掛けなくていいんですか?」

「今のままでいい。あたしが聞いているって意識すると、変に上手く歌おうとするからな。じゃあな――」

 

 小さく「ありがとな」と聞こえたような気がしたのは、気のせいだったんでしょうか。

 私は、岩沢(いわさわ)さんを見送ったあとも、ユイと呼ばれた少女の演奏をしばらく聞き続けた。

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