Angel Beats! ~First Love~ 作:ナナシの新人
「はい、お待ちどおさま。焼き肉定食ね」
「おおーっ、ありがとうございまーすっ」
大食堂のカウンターで注文した定食を受け取り、空いている席を探す。夕食時とあって、空席は少ない。立ち止まって上へ視線を向ける。二階席のテーブルは、
カウンターから遠く離れた入り口付近の四人掛けのテーブルに、空いている席を見つけた。混んでいるにも関わらず、そのテーブルだけが空いている。私は迷わず、その席へと向かった。
「こんばんはー、相席いいですか?」
先客が顔を上げる。私と似た背格好の女子――
「どうぞ、ご自由に」
「失礼しまーす」
無事に許可を貰えた。彼女の正面の席に座る。
「いただきますっ」
手を合わせて定食に箸を伸ばす。
一番最初はもちろん、お肉っ! 甘辛いタレとお肉の脂が絶妙に絡み合う。柔らかくも歯ごたえがあって、お肉を食べていると感じられる。学食とはとても思えないクオリティー!
「んぅ~んっ!」
「ふふっ、おいしそうに食べるわね」
顔を上げて、
初めて見る、とても穏やかで優しい笑顔。私にはとても、
「
「ええ」
彼女の目の前には、見るからに辛そうな真っ赤な
「美味しいですか?」
「ええ、美味いわっ」
レンゲを止める事なく、一心不乱に食べ続けている。そこまで美味しいのなら今度、頼んでみようかな? 私も止まっていた箸を進める。
「ここって、死後の世界なんですよね?」
「ええ、そうよ」
それとなく、探りを入れてみますか。
「なら、神様とかいるんですか?」
「さぁ? 私は、見たことないわ」
「そうですか。あっ、そう言えば、あの人たち......」
二階席を占拠している
「
「私は、天使なんかじゃないわ。ただの生徒会長」
「ですよねー」
* * *
お風呂に入り、一度部屋に戻ってから
姿見で乱れをチェックして、消灯時間を待ってからビデオカメラを持って、部屋を出る。
「誰も......居ないっと」
寮の廊下は、消灯時間後も非常灯が点っている事もあってある程度明るい。少し早足で廊下を進む。階段を上り、
女性教師に意識を集中しながら、部屋へ向かい歩き出す。
徐々に距離が縮まり、擦れ違う。教師は私に気づく事なく、そのまま階段の方へと歩いていった。無事に、
「
カチャっと鍵が解除された音が聞こえて、ゆっくりとドアが開く。部屋の中から顔を見せた
「......入って」
「お邪魔しまーす」
部屋に入ると、彼女はカギを掛けた。
私の部屋で話した時と同じ様に、テーブルを挟んで座る。消灯時間後のため、部屋の灯りは付いていない、その代わりにカーテンを開けて、月明かりで光を確保している。
「あなたね......あたしの部屋にトラップはないわよっ!」
「いいじゃないっすか、わかりやすいっしょ?」
「ハァ......まあ、いいわ。さっそく始めましょう」
先日取り決めた情報交換。とは言っても、昨日今日で新しい情報はお互いほとんどなく、結局一問一答をすることになりました。
「新しくこの世界に来る人は全員同じ場所で目覚めるんですか?」
「いいえ、人それぞれよ。強いて言えば、校舎付近が多いかしらね。あなたはどこで?」
「校舎の昇降口近くのベンチです」
「ああ~、
現れる場所は、基本的にランダム。校舎近辺が比較的多いらしく、時々見回っているそう。それであの日、
「そうだ、あなたが教えてくれた転校生だけど。かなり使える逸材だったわ」
「そうですか。それは、よかったです」
「ええ、お陰でリベンジが出来そうよ......フッフッフ」
ニヤリと小悪魔の様な笑みを浮かべる
「リベンジ?」
「聞いて驚きなさいっ。天使エリアへ侵入して、データを盗むのよっ!」
「大きな声を出すとバレますよ?」
扉の外から足音と「今、声が聞こえた気が......」と、女性の声が聞こえた。
「天使エリアとは、何ですか?」
「女子寮にある、天使の部屋よ」
「
「そう。彼女の部屋には、パソコンがあるのよ。一般生徒は自前のパソコンを所持出来ない。つまり、神に関するデータを隠してあるんじゃないかってこと。それで、あなたが見つけた転校生が役に立つって訳よ」
なるほど......神に繋がるかは定かではないですけど。生徒会長なら、私たちが知らない学園内部の情報を知らされている可能性があるという訳ですか。確かに、ゼロではない。かなり薄い可能性だとは想いますけど。
「今回は、相当大掛かりなオペレーションになるわ。ガルデモの新曲も出来たって言うし、明日さっそく遂行よっ。けど、ひとつ大問題があるのよね」
「
「ええ。今までは、生徒が多い時間帯を狙って食堂でゲリラライブをしていた。だけど、あなたの言う様に今回は、長時間の拘束が必要。だから、寮から遠い体育館で演奏予定。どれだけ集まって盛り上がってくれるか......」
確かに、元々人が居る場所で実行するのと、居ない場所に集めて実行するのとでは勝手が違う。いい方法は無いかと肘をついて手のひらにアゴを乗せた時、ある物が視界に入った。これは使えますね。
「いい方法があります」
「ほんと? 教えてもらえるかしら?」
「これを使います」
右手に持った物を彼女に見せて説明すると、
* * *
翌日の放課後、報道部の部室へ行き部活動に勤しむ。
「さぁ、今日もがんばりましょー」
「うんっ、今日は球技大会の取材だよね?」
「その予定だったんですけど。急遽予定を変更して、ある人たちの取材に行くことになりました」
三人とも、小さく首を傾げる。
「どこへ行くの?」
「それは、着いてからのお楽しみです。こっちでーす」
ドアを開けて、部室を出る。目的地は、学習棟Aの最上階。
天上学園の校舎は、学習棟A.B.Cと計三棟連なって建っている。それぞれの校舎は渡り廊下で繋がっていて。私が目を覚ましたベンチがある、グラウンドへ降りられる大階段前の校舎が学習棟Aになります。
「こんにちはー」
学習棟Aの最上階の空き教室の扉を開くと、教室内に居た四人が一斉にこちらを向いた。
「えっ?」
「えっと......」
「誰だよ? あんたら......」
「ん?
四人のうちの一人が、私に気づいた。
その人は、ガルデモのボーカル、
「こんにちは、
「ああ、こんにちは。演奏を聞きに来てくれたのか?」
「そうしたいんですが、今日は仕事で来ました」
「仕事?」
ガルデモの四人が、顔を見合わせる。
「あたしが、依頼したのよ」
私たちとは逆の扉から、
「ゆりが?」
「どういう事だよ? ゆり」
ポニーテールの女子が問いただす。
「
「な、何でだよっ! 今日のライブは、新曲を披露する予定なんだぜっ?」
「日を改めるだけよ。もっと多くの人に、あなたたちの演奏を聴いて貰うためにねっ」
* * *
「いい? 今日中に撮り終えるわよっ。
「任せろ、ゆりっぺー!」
「もう少し右に寄ってください!」
「なんだと......貴様ァ、この俺に指図するつも――」
「彼女の指示に従って、日が暮れたらお終いよ!」
「ぐっ......くそぅ......」
「ひさ子さん、もう少し上を向いてアゴを引いてください。顔に影が出来ちゃってます」
「あ、ああ......これでいいか?」
「はい、大丈夫です。
「うっ、
「まあまあ、しおりん、元気出して」
「
「りょーかい!」
みんな、テキパキと動いてくれています。
これは、監督とカメラマンの責任重大ですね。
「
「ああ、いつでもいいぜ!」
「こっちも、オッケーっす」
「じゃあ行くわよ? オペレーションスタート!」
これが昨夜、私が提案した人を集めるための方法「
今回は、いつものゲリラライブと違って多くの人を集めるためビラ配りなどを行っていた。しかし、ビラ貼りでは見てもらえる人数に限りがあるし、生徒会に剥がされたり、止められたりと妨害される可能性が高い。
そこで私が提案したのが、ガルデモ本人が登場するプロモーションビデオを制作し、
これなら、教師が居ない時間を見計らって一度に大勢の人に宣伝が出来る。
「カット! どう?」
演奏の終わりと同時に、
「ちゃんと撮れてます。問題ありません」
「よしっ! じゃあ最後、
「あ、ああ」
「あ、明後日19時。体育館で逢えるのを待ってるぜー!」
「カーット! ダメダメ! 表情が硬い、セリフも噛んでたわよ!」
「んなこと言ったってよ......」
「そんなんじゃ誰も興味持ってくれないわよ。もっと、こう訴えかける様に!」
「訴えかける? 難しい注文だな......」
「うーん、ライブの延長で話してみてはどうでしょう。MCみたいな感じで」
「それよ!」
「MCか......オーケー。わかった、やってみる」
ギターを弾き、曲の終わりの入りで宣伝のセリフを言った。
「オッケー! 今の感じで、次は明後日を明日に変えて撮ったら終了よっ」
その後、明日のパターンを撮って撮影は無事に終了した。
ここからは私の仕事、編集作業が待っています。期限は明日の夕刻、急がないと。
* * *
今日は朝から、自室で編集作業。
私は、この世界に来て初めて授業をサボりました。担任の先生には、報道部のみんなが上手く言ってくれるそうです。
昨日撮影した「
『はい。これ、使って』
『これ、ノートパソコンじゃないっすかっ?』
『編集作業に必要でしょ』
と、
「腹減ったっす......」
朝六時から、飲まず食わずで正午を迎えた。
買いに行く時間もなく。そのまま作業を続けているとドアをノックする音、来客のようですね。
「どうぞー」
手が離せないため、座ったまま応対する。
「よっ」
「うん? あっ、
顔を上げて入ってきた人を確認すると、
「ほらよ、差し入れだ」
「おおっ、ありがとうございますっ。助かります!」
ビニール袋の中は、惣菜パンと飲み物。
ありがたくいただく。左手でパンを食べながら、右手でキーボードを叩く。
「どうだ?」
「間に合わせますよ」
「そうか。作業にBGMは必要ないか?」
「そうですね。効率を上げるのには最適だと思います」
「リクエストは?」
「お任せしまーす」
「ふっ......オーケー」
彼女が奏でた音楽は、食堂で聴いたエレキギターの激しいロックではなく、アコースティックギターのバラードだった。
私は、その演奏と透き通るような歌声をBGMに作業を再開した。