今度こそは短く纏めたい。
アキト「・・・できんのか?」
てな訳で・・・・・今回もどうぞ・・・
「私は・・・我が故郷の救済を願う。聖杯をもってして、ブリテンの滅びの運命を変える」
ライダーに聞かれ、自らの聖杯への願いを語ったセイバーの宣言にしばし座は静まり返った。いや、静まり返るというよりは『白けている』と言うのが正しい。
その沈黙に驚いたのは、他でもないセイバー自身だった。
同意や反論があるものと身構えていたというのに、まるで理解できない言葉で語られたかのように反応がない。
「・・・・・なぁ、騎士王。もしかしで余の聞き間違いかもしれないが・・・今、貴様は『運命を変える』と言ったか? それは過去の歴史を覆すと?」
ようやく口を開いたライダーも、困惑した顔で尋ねている。自分の耳に聞こえた言葉をもう一度確認するように。
「そうだ。例え奇跡をもってしても叶わぬ願いであろうと、聖杯が真に万能であるならば、必ずや―――・・・?」
断言しようとしていたセイバーの言葉尻が浮く。ここに至って漸くセイバーは、場に横たわる微妙な空気に気づいたらしい。
「えぇと・・・セイバー? 確かめておくが、そのブリテンとかいう国が滅んだというのは貴様の時代の話であろう? 貴様の治世であったのだろう?」
「そうだ! だからこそ、私は許せない。だからこそ悔やむのだ。あの結末を変えたいのだ。他でもない、私の責であるが故に・・・」
「・・・ククク・・・!」
不意に、哄笑が轟いた。
まるで、お笑い番組の芸人を楽しむ子供のような笑い。そして、どうしようもなく尊厳など踏みにじるかのように何の遠慮もない笑いが。
「アーチャー、何がおかしい!?」
怒気に染まった表情で問いかけるセイバー。
しかし、アーチャーはその剣幕を意に介さず、ただただ笑い転げ、息切れまじりに言葉を漏らす。
「自ら王を名乗り・・・皆から王と讃えられて・・・そんな輩が、『悔やむ』だと? ハッ!これが笑わずにいられるか? 傑作だ!セイバー、お前は極上の道化だな!」
「ちょっと待て・・・ちょっと待っておれ騎士王。貴様、よりによって、自らが歴史に刻んだ行いを否定するというのか?」
そうやって笑い続けるアーチャーの横で、あからさまに不機嫌そうな様子でもう一度確認するようにライダーが口を開く。
「そうとも。何故訝る? 何故笑う? 王として身命を捧げた故国が滅んだのだ。それを悼むのがどうしておかしい?」
「おいおい、聞いたかライダー! この騎士王とか名乗る小娘は、よりにもよって! 『故国に身命を捧げた』・・・のだとさ!」
遂に我慢ならなくなり、爆笑するアーチャーに応じる事なく。ライダーは黙したまま、ますます憂いの面持ちを深めていく。アキトやシェルスも何か思うところがあるのか、黙ったままだ。
その沈黙はセイバーにとって、笑われるのと同じ屈辱なのだろう。彼らのそれは確実に、セイバーの願いを否定しているのと同義なのだから。
「笑われる筋合いが何処にある? 王たるものならば、身を挺して、治める国の繁栄を願う筈!」
「いいや違う。王が捧げるのではない。国が、民草が、その身命を王に捧げるのだ。断じてその逆はあり得ない」
沈黙していたライダーの言葉にセイバーは尚も言う。自らの宣言が正しいと弁論するように。
「何を・・・・・それでは暴君の治世ではないか! ライダー、アーチャー、貴様らこそ王の風上にも置けぬ外道だぞ!」
「そうだ。我らは『暴君』であるがゆえに英雄だ。だが、自らの行いをその結末を悔やむ王がいるとしたら・・・それはただの『暗君』だ。暴君よりもなお始末が悪い」
「(『暴君であるがゆえに英雄』・・・か、言い得て妙だな・・・)」
そこまで言って、セイバーは冷静さを取り戻す。
笑い転げているアーチャーとは違って、ライダーは問答の形でセイバーを否定しようとしている。それを知ってか、知らずか、セイバーは果敢にもそれに応じた。
「・・・では貴様は全く悔やまなかったと言うのか? 征服王イスカンダル、貴様とて、世継ぎを葬られ、築き上げた帝国は三つに引き裂かれて終わった筈だ。その結末に貴様は、何の悔いもないというのか?」
「ない」
「ッ!?」
即答だった。
問いかけに対して、考える暇もない程に即行であった。
「余の決断、余に従った臣下たちの生き様の果てであるならば・・・その滅びは必定だ。悼みはしよう。涙も流そう。だが、決して悔やみはしない」
「そんな・・・!」
「ましてそれを覆すなど! そんな愚行は、余と共に時代を築いたすべての者達に対する侮辱であるッ!!」
「滅びを良しとするのは武人だけだ。力なき者を守らずしてどうする?! 正しき統制、正しき治世。それこそが王の本懐だろう!」
釈然と言い放つライダーにセイバーは自身の本心を、王としての在り方を負けじと言い放つ。
「・・・で? 王たる貴様は、正しさの下僕か?」
「それでいい・・・理想に殉じてこそ『王』だ」
ライダーは嘆息を吐露しながら金の杯を手に取り、中身を回す。
「・・・そんな生き方は『人』ではない」
「王として国を治めるのなら人の生き方など、望めない。」
セイバーは尚も持論を展開していく。それが、古代マケドニアの王の勘に触る事を知っていながらも。
「・・・征服王・・・高々、我が身の可愛さの余りに聖杯を求めるという貴様には、わかるまい。飽くなき欲望を満たす為だけに覇王となった貴様には!」
「無欲な王など飾り物にも劣るわい!!」
「ッ、何を言うか!」
その言葉で遂に冷静だったライダーが眉間に皺を寄せて、声を荒らげた。セイバーは、その怒号に一歩身を引きながらも歯向かう。
「セイバーよ」
「なんだ?!」
「『理想に殉じる』と言ったな? なるほど、往年の貴様は『清廉』にして、『潔白』な聖者であった事だろう。さぞや高貴で汚しがたい姿であったことだろう。だがな・・・『殉教』などという『棘の道』に一体誰が憧れる? 焦がれる程の夢を見る?!!」
「ッ!」
冷静にされど強い口調で言い放つライダーの眼差しは、セイバーの心の奥底まで射貫くような物であった。
ゴォオッと宴の場に風が吹き付ける。
「王とはな・・・誰よりも強欲に、誰よりも剛掌し、誰よりも激怒する。清濁含めて、人の臨界を極めたる者」
彼の言葉を肯定するように浅い雲に隠れていた満月が、その姿を現す。
「そうあるからこそ臣下は王を羨望し、王に魅せられる。一人一人の民草の心に『また、我も王たらん』と憧憬の火が灯る」
ここで言われているセイバーに変わって、今までを聞いていた。そして、血を啜った事で彼女の半生を読み取っていたアキトは、いつでもセイバーを擁護できた。
「騎士道の誉高き王よ。確かに貴様の掲げた『正義』と『理想』は国を救い、一度は臣民を救済したもやもしれん・・・」
しかし、それは出来なかった。
何故ならライダーの語る『王の在り方』というのは・・・まさに自らを救い、導いて来た、あの『首領』そのものであったのだから。
「だがなぁ・・・ただ救われてきた連中が、どういう末路を辿ったのか・・・知らない貴様ではあるまい」
「ッなんだと・・・?!」
また、雲が月を覆い隠す。骸に覆われた彼女の最後の記憶を隠す様に。
『あの場所』で、力なく剣を地面に刺す自身を思い出さない様に。
「貴様は臣下を救うばかりで、『導く』事をしなかった。王の欲の形を示す事もなく、導かれずに路頭に迷う民を顧みず、ただ一人で澄まし顔のまま、小奇麗な理想とやらを追い続けただけよ。故に貴様は、生粋の王ではない。己の為ではなく、人の為の・・・王と言う『偶像』に縛られていた・・・・・『小娘』にすぎん」
「あ・・・あぁ・・・」
最も信頼していた臣下に裏切られ、子に裏切られ、守っていた国を滅ぼされたあの瞬間をセイバーは思い出していた。
『カムランの丘』の上で焦土とかし、血に染まった大地を見た・・・あの時を。
「わ・・・私は・・・・・私は・・・!」
騎士王という存在の否定とも言い換えられるこの言葉に返せないということは、セイバーの中で何かが折れたと言うことなのだろう。
それを見ながらアキトは何か、心苦しさのような気持ち悪さを覚えていた。
彼の知っている『Stay night』のセイバーの聖杯にかける願いは『王の選定のやり直し』。
その『願い』を余計に知っている為に後味の悪い『ナニか』が、彼の心を覆った。
「(『決まった』・・・わね・・・)」
もうセイバーに反論する気力は、雲散霧消のそれと化した。
『何も言えない・・・もう何も・・・』とセイバーは、力なく地面を見つめるばかりだった。
「・・・いや・・・・・そんな事はないんじゃあないかな」
「・・・え?」
ところが、ここでライダーの言葉に異論を唱える者が一人。
「マスター・・・!?」
この聖杯戦争で、最も警戒されている筈であろう。変わり種の狂戦士の主が、ボソリと呟いた。
←続く
次回・・・山羊と吸血鬼に触発されたインスタントが喋る。