嘲笑う吸血鬼・・・
アキト「なんか俺、イヤなヤツみたいじゃんかよ・・・」
では、どうぞ・・・・・
「・・・」
陽もとっぷりと落ちた月が輝く夜の事。
電灯の光もない薄暗いモーテルの一室で『魔術師殺し』こと衛宮切嗣は、今夜行われるアーチャー陣営との会談を前に昨夜の出来事を思い返す。
「あらら、この距離から・・・良い腕ね」
「ッ!?」
切嗣は困惑する。
最初は彼の思惑通り、キャスターのマスター『雨生龍之介』をサーモグラフィーで発見し、その腹部と頭部にスナイパーライフルから発射された鉛玉をめり込ませる事に成功した。しかし、いざそこから立ち去ろうとした時。背後を『8体目』のサーヴァントである『ガンナー』に取られてしまう。
彼はどうにかして逃走しようと画策したが、対するガンナーに敵意はない。その代わり・・・
「さて、衛宮切嗣。『私達』となんの他愛もない話をしましょう?」
ガンナーは切嗣に対して、話し合いをしたいと申し込んできたのだ。
此れには彼自身も一抹の戸惑いを感じるが、相手はサーヴァントである為に大人しく静かに頷く。
「・・・それで、話とは? 君達のマスター、間桐雁夜からの託か?」
「いいえ、違うわ。正確に言うと・・・私は使者であって、貴方は今ここで『彼』と話してもらうわ」
「・・・なんだと?」
切嗣は表情を少し僻めた。
彼等のマスター、間桐雁夜ではないのなら一体誰が自分と話がしたいのだろうか。と他にも様々な考えが彼の頭を覆ている時、ガンナーの上着の内ポケットからクラシック音楽が奏でられ始める。「噂をすれば・・・」とガンナーが内ポケットから取り出したそれは、この時代ではまだそれ程に普及していない携帯電話であった。
彼女はそれを慣れた手付きで操作し、電話の相手と少し話をすると端末のスピーカーボタンを押す。
『一仕事終わりに失礼するぜ、魔法使いさん?』
スピーカーから聞こえて来たのは、なんともフランクな男の声。切嗣はこの声の主を知っている。
「『バーサーカー』・・・!?」
『Exactly! 今回の聖杯戦争でバーサーカークラスとして召喚されちった・・・名前は言わなくてもわかるか。アインツベルンのお嬢さんを通して、もう知っている筈だしよ。カカカ♪』
通話口から聞こえて来るのは此度の聖杯戦争に置いて、全マスターと他のサーヴァントの想定外を突っ走る異端のバーサーカー『暁アキト』だ。その彼から通話とはいえ、直々に話をするのだから切嗣自身、少々身構える。
「・・・それで話とはなんだ? よもや、僕と世間話を楽しむ為に来たのか?」
『まさか。ちょっとアンタに話したい事があってな・・・『正義の味方』になりたいと願うアンタによォ~』
「ッ!?」
似たような機械音で構成された声色でも、その声は見透かしたように嫌にベットリと鼓膜に張り付いた。
加えて、まるで自分を知っている様な口ぶり。切嗣は増々、行き場のない不審感を募らせる。
『カカ♪ そんな不審がるんじゃあない。こっちはただ、話がしたいだけなんだからよ』
「・・・」
「アキト、前置きが長い。彼、不審がってこっちを睨むだけよ」
『わーってるって。まぁ、前置きはこれぐらいにしてと・・・・・さて衛宮さんや、『聖杯の器』の調子はどうだい?』
「!?」
アキトの言葉に切嗣は息を飲む。
まるで聖杯が此方の手元にあるような、まるで聖杯が
「何の・・・話だ・・・?」
『とぼけなくていいさ、衛宮さんや。あのお嬢さん・・・『アイリスフィール・フォン・アインツベルン』・・・彼女が『聖杯の器』なんでございやしょう?』
切嗣の思考は凍り付いた。
アインツベルンの中でもごく少数しか知り得ない事を、このサーヴァントはさも当たり前のように知っていたからである。
『あの糞ッタレのキャスターをセイバーの聖剣で消滅させれば、アサシンに次いで二体目のサーヴァントが聖杯に注がれる。今の所、聖杯出現は順調に進んでるんじゃあないかな~?』
「なにを知っているんだ、貴様は・・・ッ?!」
軽薄な彼の声色に切嗣は今までとは少し違う音量で声を張り上げた。が、アキトは相も変わらず嘲笑うかのように軽薄な口を叩く。
『俺もそんなに詳しい訳ではないのだけれど。そうだな~、アンタが知らない事でいうと・・・・・その聖杯の器を造ったアインツベルンのせいで、聖杯が汚染されているって事ぐらいかな?』
「!。なんだと、一体どういう意味だ!!?」
「聖杯が汚染されている」とはどういう事なのか。それも聖杯の器を造り上げたアインツベルンのせいでとは。増々切嗣の頭は混乱する。
一体このサーヴァントは聖杯戦争のなにを・・・いや、
バシャァアンッ!
「?!」
「わッ!?」
その時である。自身のマスターを殺された事で、キャスターがまた暴れ始めた。その動きによって、強いうねり波が切嗣達の乗っているクルーザーを大きく揺らした。
『あの野郎~・・・シェルス、退却だ。気をつけろよ』
「Ja-!」
「くッ! 待て、まだ話は!!」
『最後に衛宮さんや、アンタに二つ言っておく』
「二つッ?」
『アンタにとって本当に大切なモノはなんなのか。そして・・・俺は『聖杯』には興味がないけれど・・・『聖杯の器』には興味があるんだぜ?』
その声を切嗣に聞かせるとシェルスは背中に血飛沫のような翼を広げ、夜空へと飛翔する。その速さたるや、放たれた矢の様だ。
「・・・ヤツは・・・ヤツは一体、なんだ・・・?!!」
空を駆け行く紅の矢を眺めながら切嗣はただ、そう呟くだけであった。
『魔術師の落ちこぼれと言われた間桐雁夜が有するサーヴァント、バーサーカー。
その力は余りにも未知数であり、加えてまるで何もかもを知っているかのような口ぶりで他陣営を嘲笑う。例えそれがマスターである間桐雁夜でさえもバーサーカーの本性は知り得はしない。』
「馬鹿馬鹿しい・・・なにが・・・なにが『本当に大切なモノはなんなのか』だ・・・!」
アキトを改めて考察した切嗣は、吐き捨てるように拳を固く握りしめる。
彼の聖杯に託す願いは『恒久的な平和の実現』。その願いを叶える為に彼はどんなモノであっても犠牲にする覚悟を持ってここに来ている。それが例え愛する人を犠牲にしてであっても。
そうして衛宮切嗣はアーチャーのマスター、遠坂時臣が設けた会談を舞弥の腕時計に施された盗聴器で聞く為の準備へと移った。
←続く
『覚悟』とは?