書き直しました
『あ、出た! あのね、商店街の外れで死体が見つかったって!』
日曜の朝からかかって来た千枝からの電話は、目が覚めてから何度か耳にしたサイレンの音の原因を悠に悟らせた。
「本当か?!」
『こんな嘘つかないって! あたしたち、ちゃんと助けたよね?!』
「助けられたはずだ。だから里中、少し落ちつけ」
『こんな時に落ちついてられないよ!』
「ここで慌ててどうなる。昨日連絡した通り、一先ずジュネスでいいか?」
『そ、そうだね……うん。フードコートにいるから』
「あと他のみんなにも連絡を頼む」
『分かった。なるべく早く来てね』
パニックになっている千枝を一喝してから、悠は電話を切る。それから文字通りに部屋を飛び出した。千枝に頼んで他のメンバーはフードコートへ向かっているのを前提に、悠はまず商店街へと向かったのである。
何時もは閑散としている筈の商店街は、ある意味で騒然としていた。死体が上がったというので、当然と言えば当然の反応なのだろう。そんな騒ぎをよそに、悠は丸久豆腐店へと真っ直ぐに向かって行った。目的は当然、りせの安否の確認である。被害者が誰か分からない今、取り敢えずりせの無事を確認するべきだと思ったのである。
「すみません」
九時をやっと回ったばかりだというのに、既に開店していた店の暖簾をくぐれば、店番をしていたりせの祖母が悠を見つけて声を上げる。
「はいはい……おや、いらっしゃい」
「おはようございます。あの、りせさんは居ますか?」
「ちょっと待っておくれね……りせー、お客さんだよー」
度々利用する悠の顔を、りせの祖母は覚えていたようだった。軽く挨拶をして一番の目的であるりせの事を尋ねれば、何度も訪ねて来ていた事を覚えていたのだろう。彼女は大きく声を張り上げて、店の奥の住居にいるりせを呼んだ。それに答えるように、奥からりせの声が聞こえてくる。これで悠の目的は、ほぼ達成で来たと言っても過言ではない。
「なーに、おばあちゃん……あっ」
店内と住居を分ける為の暖簾をくぐって出て来たりせは、悠を見て小さく声を上げた。それを確認した悠はりせの祖母に小さく頭を下げてから、りせの傍へと歩を進めた。
「朝からごめん。今朝の事件のこと聞いて、心配になったから」
「えっと、その……ありがとうございます。おばあちゃん、ごめん、ちょっと出てくるね!」
「はいはい、いってらっしゃい。あんまり遅くなるんじゃないよ」
悠の純粋に心配した言葉を聞いて、しどろもどろになりながらもりせは礼を返した。それから彼女は祖母へと外出の断りを入れる。行方知れず事件の前より少しばかり元気になった様子の彼女に、祖母は優しい顔に少しの心配を覗かせて送り出す。
「はぁい。行こ、私も少し話したい事、あるんだ」
「分かった。なら、ジュネスに行こう。他のみんなも集まってる筈だから」
悠の手を取って促すりせに、悠もりせに話す事を決めた。それから二人で連れたって、ジュネスのフードコートへと向かったのである。
フードコートの捜査本部には既に陽介を含めてて集まっており、りせを連れた悠の登場に一同は面食らったようだった。
「悪い、遅くなった」
「悠、おっせえって、ちょっ……!」
「えっ、りせちゃん連れて来たの?!」
「えーっと、お邪魔します?」
「もう体は大丈夫?」
「はい、おかげさまで」
平然と遅れた事を謝る悠に反応して振り向いた陽介は、次の瞬間に言葉を失った。予想していなかった人物を見つけたので、その反応もまあ仕方ないだろう。その言葉の続きを引き受けたように千枝が声を上げれば、本人が居心地悪そうに呟いた。それを受けて思い出したように雪子が体調を気遣う。りせの登場に唖然としていた完二は完全に乗り遅れた。
「里中から電話をもらって、りせの安否の確認を優先した。あと話したい事があるそうだから、連れて来た。それに巻き込まれた以上、彼女にも知る権利もあると思うし」
「ああ、うん……まあ、そうだわな。昨日の電話でも言ってたし」
悠の説明に、陽介が頭を掻きながら返す。彼とより親しくなってみて分かったが、やはり悠はマイペースだとこういう時に痛感する。
「それで、そっちは何の話をしていたんだ?」
「あ、うん。えっと花村が現場を見に行って来て」
「そうそう。まあ、実際には見れなかったんだけどさ。アパートの屋上に手摺から逆さまに吊るされてたって。それで、その被害者がモロキンだって話なんだよ」
悠が現れるまでにも盛り上がっていたのだろう。話しながら、再度陽介のテンションが上がっていく。
「えっと、知り合い?」
「うちのクラスの担任だ」
誰だか分からないと声を上げたりせに、悠が短く説明する。言いながら考えるのは、昨日のマヨナカテレビの事である。
「昨日のマヨナカテレビ、見たか?」
「そう、それ。あれ、諸岡先生に見えなかったよねって、今話してた所なの」
「はっきりとは見えなかったっすけど、大人の男にしちゃ小柄だった気がするっス」
悠と同じ事を、みんな考えていたらしい。雪子が答え、それを補足するように完二が口を開く。
「シルエットがスカートっぽかったから、女の子かなって」
「言われてみりゃそんな気もするな……」
千枝の言葉に、昨日の映像を思い出すように唸りながら陽介が呟く。
「今までのパターンから考えてその人物には一応の心当たりがあったんだが、少なくとも諸岡先生ではなかった。それに体格諸々からも、あれは諸岡先生ではないと見ていいと思うんだが、どうだろう」
各々考えに耽っていた面々は一瞬、悠の後半の言葉を意識した。が、遅れて一斉に悠を見る。
「心当たりって、まじで?!」
「まじだ。里中から電話をもらって、真っ先に心配したのはりせだが、りせが無事ならそっちも確認しようと思っていた。まあ、思ったより時間がかかったし、りせも連れて来る事になったから、こっちとの合流を優先したんだが」
そして被害者が諸岡であると分かったので、その心当たりが一先ずは無事らしいと当たりをつけた訳である。
「つか、それって誰だよ」
「うん、それもあるんだが……まずりせと話さないか?」
「えーっと、水挿すようで申し訳ないんだけど、そうしてもらえると嬉しいかな」
陽介の言葉をぶった切って、悠がそう主張した。それに何処か所在無さげに立っていたりせが、苦笑いしながら願い出たのである。
「やっぱり覚えてない、か」
「力になれなくてごめんなさい」
りせの話を聞いた陽介が残念そうに呟いたのを聞いて、その当人が申し訳なさそうな顔をした。
「ううん、りせちゃんが悪いんじゃないから。そんな顔しないで」
「今のはちょっと花村の言い方が悪かっただけだし」
即座にフォローを入れた雪子に同意するように千枝が陽介を睨んだ。睨まれた陽介自身、失言だった自覚があるので、軽くりせに謝罪する。陽介としてもりせを責める意図があった訳ではなく、単に先の二人が殆ど覚えていなかった事を思い出しただけなのである。
「でも、私のあの力は先輩たちの役に立てる、よね?」
クマとの影の戦いにおいてナビを努めたりせは、自分の力の役割を自覚していた。それ故に他の仲間たちのサポートはできるはずだと、そう思ったのである。
「力になってくれるなら、心強いが……いいのか?」
「うん。助けてもらったのもあるけど、私も先輩たちの力になりたいから」
犯人を捕まえたいというりせの主張に、一同が反対する訳もないのだ。彼らはその願いの元に、こうして集まっているのだから。
「じゃあクマの奴にも紹介してやらなくっちゃな」
「だね……って、あ! クマくんなら何か知ってるんじゃない?」
ウインクして見せた花村の言葉に同意しかけて、千枝が声を上げた。それに悠が頷く。
「確かに。クマだったら昨日、人が入ったか分かるかもな」
「あー、鼻が詰まってるっつっても、それ位は分かりそうっスもんね」
「りせちゃんも紹介しなきゃだし、話を聞きに行ってみようよ」
クマが鼻が利かないと落ち込んでいたのを思い出しつつも、完二もそれに同意する。そして雪子の言葉を受けて、六人となった自称特別捜査隊一同は家電売り場へと向かったのである。
「なんだぁ? 珍しく店員がいんな……ちょっと話聞いてくるわ」
『むこうの世界』への出入り口にしているテレビの近くには、本当に珍しい事にスタッフが何人か集まって話をしているようだった。それに気付いた陽介が、そのスタッフたちに声をかける。
「すんません、何かあったんすか?」
「あ、陽介君。丁度いい所に! 向こうの売り場に着ぐるみがいるんだけど、店長からキャンペーンかなにかの話、聞いてる?」
「着ぐるみ?」
「熊田さんっていうらしいんだけど……」
その名前を聞いて何か思うものがあったらしい陽介は、そのままスタッフを言いくるめて追い払うってしまった。その手腕たるや、伊達にバイトリーダーをやっていないという事だろう。
「くまだ、ね……」
「って、ああっ!?」
「なに、完二君……って、いた!」
何か嫌な予感がしたらしい陽介がそのまま呟けば、何となく辺りを見回した完二が声を上げた。それに釣られて見た千枝も声を上げる。
「クマだな」
「まじで居たし……」
同じくそちらを見た悠は、マッサージ機に座って寛いでいるクマを発見した。それに苦虫を噛み潰したような顔をした陽介が呻く。
「クマ君、こっちに出て来れたんだね」
「てかすっごいリラックスしてるね」
今までクマがこちら側に来た事が無かった事を思い出して雪子が少しズレた事を言う。気持ちよさそうに揺られているクマを見て、りせが思わず苦笑した。こちらの気も知らないで、という奴だろう。人目も憚らずに騒いだクマが人目を集めてしまったので、一先ず場所を変えざるを得なくなったのは、仕方のない話だろう。
閑話休題。
人目を避けるようにフードコートへと舞い戻った頃には既に日も高くなっていた。故に一同は何時ものパラソル席ではなく、日陰を求めて大人数の屋根のある席に着いた。七月のまだ初めと言えど、真昼の日差しはなかなか厳しいものがあるのである。
「で、ホントに誰も来なかったんだな?」
「陽介もシツコイクマね、そう言ってるクマよ」
確かめるように陽介がクマを問いつめると、何度も聞かれたクマが辟易としたように答えた。クマが言うには、霧が晴れるまで中に居たが誰も来なかったとの事である。
「てことは、そもそもモロキンはテレビに入れられてないってことか?」
「じゃあこっちで殺されたって事? なんで犯人はその先生だけテレビに入れなかったんだろ……」
「マヨナカテレビも同時に映ってたって言うのも気になるな」
クマの証言から分かったのは、誰もテレビの中に入っていない、つまり諸岡はテレビに入れられずに殺されたと言う事である。そして、昨日のマヨナカテレビに映った人物も、まだテレビの中に入っていないという事だった。
「片方は犯行予告して、もう片方は予告無し……そもそも、諸岡先生ってテレビに映ってたっけ?」
目を伏せて考えていた雪子が、自分は心当たりがないのだがと他の面々に尋ねた。それを受けてクマ以外が頭を悩ませる。
「昼間も夜中も、テレビに映ってなかった、と思う」
「テレビに入れても殺せないと思ったとしても、その直ぐ後……この場合前か? に予告出してるのも腑に落ちねえっスよ」
「だよね……どうしてもその先生を殺したかったとか?」
思い当たるものが無かった千枝が唸るようにして言えば、完二が疑問に思った事をそのまま口に出した。それに確かに、とりせも頷く。
「この際、諸岡先生の事は置いておこう。今は昨日のマヨナカテレビに映った人物の方を考えるのが先だと思う」
そう切り出した悠に、反対する者はいなかった。死者よりも、まだ見ぬ被害者を助ける方を優先するのは当然の事でもあった。
「そういえば鳴上君、心当たりがあるとか言ってたよね」
「ああ、言ったな」
思い出したように雪子が問えば、それを当たり前のように悠は肯定する。
「で、誰なんだよ」
「……他県で起こった殺害事件の犯人が捕まったっていう、多分全国版だと思うんだが……知ってるか?」
「ああ……! 結構やってる奴でしょ! ワイドショーとか!」
言い出し辛そうに悠が口にした事件に、千枝が食い付いた。その事件自体は三月末と結構前の事になるのだが、その犯人が捕まったのは一週間にも満たない程度前の話だ。被害が大きかったのと、なかなか捕まらなかったと言う事で、事件へのマスコミの食い付きは半端なかった。三月末に散々検証番組だのなんだのを取り上げていたのを、今になってまた持ち出して来たのである。
「そう、それ。で、ここいらのローカル番組じゃなかったんだが、残された遺族にコメントを求めて流した番組があったんだ」
「見た見た! 声変わってるのにすっごい嫌がってたの分かった奴だ!」
「……一般人なんでしょ? 可哀想……」
悠と千枝の言葉にりせが眉根を寄せた。その感想は、芸能人という映される職業ならではのものと言えるだろう。その感想に「そうだな」と返しながら、悠は逸れてしまった話を戻す。
「俺はそれが誰だか知ってる」
「…………はい?」
「……えっと、鳴上君の向こうでの友達……とか?」
「その場に居合わせた」
「……いや、うん。うちの制服っぽいなーとは思ってたけどさ……あの噂マジだったんだ……」
悠の言い出し辛そうにしていた理由を受け答えから悟って、陽介はなんとも言えない気持ちになる。そしてこの面子の中で一番噂話に関心のある千枝が、何とも言えない風に呟いた。
「それで、一緒にその場に居た一条と長瀬には口止めしたんだけど。その、誰かに話さないで欲しい。まあ、何処かから広がるかもしれないけど……」
「うっす」
「まあ……だよな」
「分かった」
「うん、分かった」
「当たり前だよ」
「はーい、クマ」
全員が同意したのを確認して、悠は溜め息を吐いた。こういう事を本人外の口から言うのは、どうしてか陰口の様相をしているのだろう。
「菊池千景。向こうの事件に関しての情報元は叔父さんだから、嘘はないと思う」
「菊池……あ、隣りのクラスの転校生の子?」
少し考えてから、思い出したように雪子が問い返す。それに悠が頷くと、陽介があー、と情けない声を上げた。
「いや、あの噂、マジな訳か……」
「ねえ、それどんな噂なの?」
明日学校に転校して来る予定のりせには「あの噂」が分からなかった。それに答えたのは千枝だ。
「あたしが知ってるのは事件に巻き込まれて、それが原因でこっちに越して来たらしいってやつ」
「あ、俺が知ってるのは親が殺されて引き取られた子って奴ッスね」
千枝と完二が口々に言えば、へー、とかあー、とかの声が上がる。
「完二、お前、なんでそんな詳しく知ってんの」
「"井戸端会議"って奴でオフクロが仕入れて来たんス」
陽介が何となくで尋ねれば、最近一緒にメシ食うようになったんでそん時に、と何処か照れくさそうに言われた。家族仲が良好なようで何よりである。
「あれ、でも菊池さんって話せなくなかったっけ?」
思い出したように言った雪子の台詞に、全員の視線が悠に集まる。
「俺もそう聞いていたし、実際そうみたいなんだが……あの時は何か人が変わったようだったけど、間違いなく彼女がそう言っていた」
それに陽介みたいだったと付け加えれば、心外そうに「俺ェ?」と当人が声を上げる。
「そう」
「え、なに。明るいとかそんな感じだったわけ?」
「いや。犯人ぜってー許さねえとか言ってる時の」
「あー……」
悠の説明に千枝が納得したような何とも言い難い声を上げる。二人に対し陽介は反論しようと試みたものの、結局詰まって黙り込んだ。どうやら自覚があったようである。
「じゃあ菊池先輩って人のとこに、話聞きにいきゃいいんスか?」
「んー、難しいんじゃないかな」
逸れてしまった話を戻す為に完二が経験則から今後をまとめると、りせが困ったような顔をして話す。
「聞いてる話し、今街にいるマスコミってその人目当てってことでしょ? なら、取り合ってもらえないんじゃないかな……」
自分の時を思い出してそう言うりせの言葉には説得力があった。引退したとはいえ自分は芸能人だったというのもあるが、無関係の市民にマスコミに応じる義務なんてないのだし、ノイローゼみたいになってるかもとりせは言う。その言葉を受けて悠は千景の様子を思い出した。言われてみれば、あの様子はそういうものが原因なのかもしれない。
「とりあえず、あの場を見た俺は心配して様子を見に行くのは不自然じゃないと思う」
「だな」
仮にも家まで送り届けたので、あの番組を見て心配したと言うのは割と普通の事だろう。そう思って提案すれば、陽介がそれに同意した。
「あとは女子なら友達って事で行けると思うんだが……りせは今回は見合わせてくれ」
「はぁい」
「っつー事は天城先輩か里中先輩って事っスね?」
「里中は駄目だろ」
「なんでよー! でも雪子が行くならあたしも行くかんね!」
悠の案にりせは特に不満そうでもなく了解の意を示した。それから差し引いた案を完二が口に出せば、陽介が即座に返す。間髪入れずに千枝が不満の声を上げれば、苦い顔をした陽介が千枝を横目で睨めつけた。
「あのな、お前、遊びに行くんじゃねえんだぞ。分かってんのかよ」
「そんなん分かってるし!」
「じゃあなんでお前も行くなんて言うんだっつーの」
「そりゃ……だって気になるじゃん」
「ほら、だから遊びじゃないんだって。大体、お前時々妙に鋭いけどさ、感覚でもの言ってんだろ? そんな奴が聞くだにナイーブな相手の地雷踏まない自信ある訳?」
売り言葉に買い言葉で口喧嘩の様相を呈して来たが、陽介の言葉に少々自覚のあった千枝はぐっと呻いて黙り込む。一応陽介なりに考えたらしいその言葉に返したのは千枝ではなく、横で聞いていた雪子だ。
「千枝はちゃんと気を使える子だから、大丈夫」
自分で自分の言葉に頷いて、更に雪子はいい募る。
「気を使えるし、優しいし、千枝はいい子だよ」
「ゆ、雪子……」
感激したように声を上げて、千枝は雪子を見つめる。それに雪子も微笑んで見つめ返す。
「諦めが肝心だぞ、陽介」
「……相棒、成仏しろよ」
陽介の肩を叩いてそう言えば、陽介は悠に向かって手を合わせた。勝手に殺すなと陽介を小突いて、二人の世界を形成している千枝と雪子を不思議なものを眺める一年生たちとクマを見る。
「えーっと、千枝チャンはいい子って話クマ?」
「うん、大体合ってる」
自分の知らない所の話に付いて行けていなかったらしいクマが、困ったように悠に尋ねた。それに悠は真顔で返す。うん、大体間違ってはいない。
そんな様子を見ていたクマが大きく溜め息を吐いたので、どうしたと悠が逆に問う。するとクマが少しばかり参った様子で答えた。
「これの中、スゴク蒸れて熱いクマよ」
「まあ……着ぐるみだしな」
お察しとばかりに悠の向こう側から陽介が言えば、がくりと俯いていたクマが叫んだ。
「あーもーあっつーい! 取ろ」
その台詞に慌てたのは陽介である。この場では陽介と悠だけがクマの中身を知っていた。
「おっまえなあ……って、カラッポの中身見せてお子様にトラウマ残すような事すんなって!」
「クマもうカラッポじゃないクマよ!」
言うが早いか頭を取ろうとしたクマの頭を押し込んで、陽介が叫ぶ。それに言い返して、クマはいそいそと頭を外し始める。
「カラッポ?」
不思議そうにりせが首を傾げるが、返されるのは苦笑ばかりである。そうこうしている間に、クマは大きなジッパーを開き切る。
「ふー、いい風!」
中から現われた金髪碧眼の、正に美少年と言った風体のクマに、一同は大きく溜めてから盛大に叫んだ。
「えー!?」
「ちょ、おまっ! 中身あったのか?!」
「生えたクマよ」
「どんだけあり得ねえ生物だよ!」
「クマ、クマじゃなかったの?」
大騒ぎしている一同を見ながら、悠は小さく頷いた。
「取り敢えず、クマには服かな」
明らかに中身が裸っぽいクマには、先ず着るものを与えるのが先決だろう。
別に千枝ちゃんが嫌いと言う訳でないですよ
ただ彼女は素で地雷を踏み抜くのが巧そうだなあと思ってるだけです
千枝ちゃんかわいいよ千枝ちゃん