P4〜ふたりぼっちの子供〜   作:葱定

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6.11 改訂


3:After a calm comes a storm.

 クマの服の案を残りの面子に放り投げた悠は、結局二人を含めた三人で菊池の家を訪問する事となった。本当なら陽介と完二、更にクマという男面子の中に一人残されるりせを考慮して、どちらかに残ってもらう筈だったのだが、妙に盛り上がった女子二人を説得……というか、話に割って入るのが面倒になった結果であった。りせ本人が「大丈夫だよ!」と言ってくれたのを信じたいのだが、取り敢えず雪子と千枝には後で大いに反省して貰おうと悠は決めた。

 そんな若干憂鬱な心持ちで目的地まで来てみれば、当の菊池家の周辺を見て呆然とする。同じ光景を見た千枝も、ドン引きと言った風に引き攣った声を上げた。

 

「うっわー……」

 

「これ、会えるのかな……」

 

 前に囲まれていたのよりは少なかったが、それでも目につく記者であろう不審者たちを、同じく見留めた雪子も僅かに眉を顰める。テレビの取材などでマスコミを見慣れた雪子も引くような図だったらしい。だがそんな事などお構いなしに、悠は一直線に菊池の家へと向かって行った。周囲の視線を存分に集めながら進む悠に、少し気後れしつつも雪子と千枝も後へと続く。マスコミも流石に無関係なのは理解してかこれと言った妨害も無く、三人は彼の家の玄関まで辿り着いた。そして呼び鈴を鳴らせば、至極一般的なチャイムが鳴った後、少しのノイズ音と共にスピーカーを通した声が響いた。

 

『はい──』

 

 インターホン越しに聞こえた女性の声は、何処か疲れたような響きを伴っている様子だった。

 

「あの、八高の、菊池さんの友達なんですが」

『えっ……あ、はい。少し待ってくれるかしら』

「はい」

 

 どう切り出せばいいか思案しながら口に出せば、声の主──多分千景の叔母であろう女性は、そういい置いてからインターホンを切ったようだった。ほんの少しの間を置いて、扉の向こうからパタパタと言う足音が聞こえてくる。それから鍵の開く音の後、玄関は無事押し開かれた。

 

「ええと、千景のお友達……あなた、確か堂島さんの所の……」

 

 外を覗いた父母と同じかそれより若い年齢の女性は、悠たちを見て顔を綻ばせた。その千景に友人が居た事にあからさまにほっとした様子に、悠は小さく頭を下げながら小さな罪悪感を感じた。

 

「不躾に押し掛けてしまってすみません」

「この前千景を送ってくれたの、あなたよね?」

「覚えていてくれたんですか」

「珍しかったから……とにかく、一度上がって頂戴」

 

 菊池夫人は少しばかり疲れたように笑った後、急かすように悠たちを扉の内側へと招き入れる。四人が入るには少々手狭な玄関に、夫人がこんな風に急かす理由を察してしまい少し複雑な気分になった。三人が入ったのを確かめると、彼女は機敏な動きで扉を閉めて鍵を掛けた。

 

「ごめんなさいね。最近ちょっと騒がしくて」

 

 うんざりといった様子でそう告げながら、夫人は三人分のスリッパを並べる。それから悠たちを家の中へと促した。

 

「マスコミ、ですか……」

「お察しします……」

 

 千枝が顔を顰めながら言えば、被害を被った経験のある雪子が心底気の毒そうに声をかけた。二人の言葉に曖昧に笑って、彼女は答える。

 

「早く落ちついてくれればいいのだけどね」

 

 リビングへと三人を案内しながらぼやく菊池夫人は、大分精神的にキている様子である。そんな様子ながらも三人がソファへかけるのを見届けてから、隣接しているキッチンへと引っ込んで行った。それから彼女は戸を開閉させる生活音を響かせて、暫くしてから切子グラスを三つ、お盆に乗せて三人の元へと戻って来た。

 

「暑い中わざわざごめんなさいね。今、千景を呼んでくるから、少し待ってて頂戴ね」

 

 言いながらテーブルに置かれたグラスから、氷が涼し気な音を立てる。お願いしますと悠が軽く頭を下げると、菊池夫人は先ほどより落ちついた様子でリビングを出て行った。それを見送ってから、漸く千枝が口を開く。

 

「優しそうな叔母さんだね」

「うん、そうだね……大分疲れてたみたいだけど」

「外のアレの所為だろうな」

 

 千枝の言葉に同意した雪子が、僅かに目を伏せて付け足した。玄関での一連の様子から張りつめているのだと察したのだろう。その言葉で同じく外の様子を思い出した悠も、何とも言えない気持ちでぼやいた。あれでも千景が一言コメントをした為に、少しは減ったのだろう。それでも結構な人数が居たようにも思えるが。

 

「事件の話題とか、そういうのも分かるっちゃ分かるけど……聞かれる側の事考えると、あーいうのどうなんだろ」

 

 露骨に嫌そうな顔をして呟いた千枝に、雪子も何とも言えない顔をした。千枝が言わんとする所を理解はできるが、それを求めないかと言われるとまた違うのだ。当事者として立てば腹も立つのは知っているが、無関係な立場であるなら知りたいと思うのが人の性というものである。

 

「知りたいと思う人がいる限り、なくならないと思うな……」

「こういうの、なんて言ったっけ……マスメディア、じゃなくて……」

 

 神妙な顔をして呟いた雪子に続けて、何か言おうとした悠が唸る。ここまで出て来てるんだがと言わんばかりに悩む様子に、千枝も雪子も悠を見た。眉間に軽く握った拳を当てて唸っていた悠が、はっとしたように顔を上げる。

 

「あー……そうだ、メディアスクラムだ」

「メディア……なに?」

 

 思い出せてすっきりしたよ言わんばかりに頷く悠に、不可解そうな目で眺めながら千枝が尋ねる。

 

「メディアスクラム。えっと、報道過熱……取材対象につきまとって、必要以上の報道合戦をするって意味だった筈」

「あー……」

「よく知ってるね」

 

 改めて説明を受けた千枝が、分かったような分からないような声を上げた。妙に感心したように雪子が褒めれば、千枝が首を傾げる。

 

「えっと、それでメディアスクラム? とやらは分かったけど、それがどうしたの?」

「まあ……褒められた状態じゃないよねって事。意訳するならマスゴミだよな」

「マスゴ……」

「ぶっ……くくく」

 

 しれっとすました顔から放たれた言葉に、納得しそうになるやら呆れるやら。そのあんまりと言えばな物言いに、千枝は言葉を失った。雪子はと言えば、妙なツボにヒットしたらしく、笑いを抑えるのに必死な様子である。

 

「あら、何か楽しそうね?」

 

 そこに千景を伴わずに菊池夫人が戻って来た。それを見た悠は千景には会えそうにないと判断する。

 

「えっと、あの番組を見て来た、のかしら……?」

「はい」

 

 少し言い辛そうに話す菊池夫人に素直に返せば、やっぱりと言う顔をする。それならば話は早いとばかりに、彼女は申し訳なさそうな顔をして言ったのだ。

 

「千景ね、あの番組見てから部屋から出て来ないのよ。あなた達が来た事も伝えたのだけど、今は会いたくないみたいなの」

 

 あの子、またちょっと不安定になっちゃって。そう告げられた言葉は予想内のもので、悠はそうですかとだけ返した。出来れば会っておきたかったのが、取り敢えずはまだ無事だと言うことでいいのだろう。尤もそんな精神状態の相手に対してなんと言葉を掛ければいいのか分からなかったので、会えないと言う事実に少しほっとしたと言うのも無くはないのだが。

 

「でもあの子、ちゃんと友達が出来てたのね……今、あんな状態でしょう? 話とか出来なくて」

 

 神妙な顔をしていた三人の気持ちをほぐすように、夫人は話題を変えた。けれどその何処かほっとした様子で告げられた言葉に、逆に悠たちの方が少々気まずい気分になる。

 

「あの、本人に聞けなくて気になってたんですけど……」

「え? ああ……なんで話せないのかって?」

 

 気まずさを代弁するように問われて、頷いていいのか判断に困った。その反応を肯定と見て取った菊池夫人は、小さく笑った後、溜め息を吐きながら目を伏せる。

 

「確かに本人には聞けない話だわね」

 

 それから顔を上げて、三人を見回し苦笑した。

 

「その様子だと何も聞いていないのね。……無理もないか、あの子もまだ立ち直ってないし。あれを見た後じゃ、尚更聞きに行くのも躊躇われるでしょうし、ね」

「ごめんなさい……」

 

 思わずと言った風に雪子が謝った。それが何に対しての謝罪だったのか、悠には判断がつかなかったのだが。流れから、夫人は踏み込んだ事を謝っているように感じたようだ。

 

「ニュースを見てるなら、多分聞いた事あるでしょうけど……あの子ね、両親と妹を亡くしていてね。それからまだ立ち直れていないの。特に妹──双子だったんだけど、その子が亡くなった事による精神的なショック、らしいんだけど」

「あの、本当に聞いてしまってよかったんでしょうか」

 

 自分から振った話題ではあったが、本人以外から聞いてもいいものだったのか。予想はしていたものの、余りに重い話に気後れしてしまった悠が尋ね返す。それに夫人は柔らかく、それでいて少し困ったように微笑んだ。

 

「いいのよ。あの子と接してたらそのうち分かる話でしょ。というか……その、まだ聞いていないんでしょう? そっちの方が私から言うの、どうかと思うし……その、友達で居てあげて頂戴ね」

 

 雪子と千枝をちらちらと見ながら言われた台詞に、三人は思わず首を傾げる。

 

「何か含みのある言い方ですけど……その方が気になるっていうか……」

「千枝」

 

 視線を向けられた千枝が聞きたそうに言うが、雪子がそれを嗜める。本人も意思表示をしただけで、踏み込むのはどうかと思ったのか素直に口を噤んだ。

 

「いいえ、気になる言い方してしまった私も悪かったわ。ごめんなさいね……あの子から言い出すのを待ってあげてくれるかしら」

「そのつもりなので大丈夫です。あの、菊池、明日は学校に来ますか?」

 

 フォローするように言って悠が尋ねると、夫人は少し困った様子で口を開く。

 

「本人次第、かしらね……出来るだけ行かせるようにはするけど」

「そうですか……突然お邪魔してしまってすみませんでした」

「いいえ。わざわざ来てくれたのに、ごめんなさいね」

 

 そう言って暇させて貰う事にした三人は、菊池夫人に礼を言ってから家を出る。三人を玄関まで送った夫人は笑っていたけれど、扉を閉めて直ぐに鍵をかけたようだった。家の外を見れば、それも無理のない話だろう。

 

「あーあ、会えなかったね」

「でも部屋には居たみたいだし……てか、あの家の回りじゃ、目撃されずに入れるとか、無理だと思うな」

 

 ジュネスまで向かう道すがら、回りに人がいない事を確認しつつ、声を潜めて雪子が言う。ざっと見た限りでもうんざりするような、ある意味安心出来るような、そんな光景を思い出したらしい千枝がぼやく。

 

「それは同意だわ。あんだけいれば、どっかで目撃されるっしょ」

「全くだ」

 

 ある意味では安全なのかもしれないと、そんな話をしながら、三人は残りのメンバーの待つであろうジュネスのフードコートを目指した。

どちらにせよ、明後日の雨の日まで待ってみなければどうしようもないだろう。結局自分たちにある手がかりは、現時点ではマヨナカテレビだけなのだ。

 

 

 

 悠たちが菊池の自宅へと向かったのと同時刻。フードコートに残された面子──つまり陽介と完二とりせ、そしてクマは一先ず涼むのも兼ねてクマの服を見にジュネスの服売り場へと来ていた。ここに辿り着くまでにもクマが騒いだのだが、全力で陽介に叱られてしまい今は少し大人しくなっている。

 

「ね、クマ、これとか似合うんじゃない?」

「そうクマかー?」

 

 ショッピングなどが好きな女性に漏れず、そう言う事が好きなりせが自分の好みに沿ってクマに服を選んでは勧めて行く。そのセンスに陽介と完二はドン引きするが、クマは満更ではない様子である。男二人からすれば、フリル付きのシャツなんて死んでもごめんである。

 

「お前ら、ちったあ値段も気にしてくれませんかね」

 

 誰が払うと思ってるんだとぼやくのは陽介だ。当然持ち合わせなどないクマが払える訳も無く、この中で一番の年長かつバイトもしている陽介が払う事になったのだ。予想外の出費に頭が痛くなりつつ、それでも楽しそうでなによりだと思ってしまう辺りがお人好しである。

 

「しかし花村先輩も太っ腹ですね」

「そこは流石にお前らには払わせらんないだろ」

 

 感心したような完二の言葉に陽介は苦笑する。も、と言う辺りが誰を指しているのかを陽介自身も分かっているからである。テレビの中の世界を探索する代金の、足りない部分を相棒のバイト代から賄われている事は、既に陽介も知る所だった。その事に対しても一悶着あったのだが、言霊使い級の悠に巧く丸め込まれた気しかしていない。妙な所で頑固な悠に受け取らせられなかった分だと思えば、必要経費だと割り切れるというものだ。

 

「しかし、りせちゃんの買い物に付き合うってんなら話は違うんだけどさ……クマのって時点で張り合いがないよな。しかもなげーし……」

「あー……確かに何でクマの服にこんなに時間かかってんだとは思うっつーか……」

 

 楽しそうにクマに服を当てては変えてを繰り返すりせと満更でもないクマを尻目に、男二人は既にグロッキーになっている。何が楽しくて同性(?)の服を楽しく選んでやらねばならんのだ。

 

「完二、花村先輩、見てー!」

「どうクマ? 似合ってるデショ?」

 

 そう声を掛けられて、二人揃ってクマを見れば、どこの貴族だと言わんばかりにふんだんにフリルを遇われた服を纏ったクマに、二人は揃って口を噤んだ。センス云々、似合う云々より先に、それを着れるお前が凄いよと言った心境である。

 

「……あー、いいんじゃねえの」

「……うん、いいんじゃないか? で、それで決まりな訳?」

「決まりクマ!」

 

 二人して言葉に詰まって適当に返してしまったが、当の本人は特に気にしなかった様子である。クマに着せたまま会計に向かい、そこで陽介は改めて目を剥く事になる。

 

「お前ら俺のおごりだからって値段見ずに選んだだろ……」

 

 思わずぼやいて、陽介は溜め息と共に肩を落とした。

 それからフードコートへと戻って、悠たちが戻って来るのを待っていたのだが、そこに予想外の来訪者が訪れたのである。

 

「おや、皆さんお揃いではないんですね」

「お前、完二ん時の……」

 

 紺色のキャスケット帽に夏らしいワイシャツを着た少年が、陽介たちを訪ねて来たのである。尤も残りの三人もいるものだと思っていた様子であったが、残念ながら三人はまだ戻ってはいない。

 

「やはり久慈川さんも一緒だったんですか。ふむ……ああ、僕は白鐘直斗。例の連続殺人について調べています」

「!」

 

 少年は、豆腐店まで足を運んだ後だったらしい。そしてりせを連れ出したのが陽介たちだというのも予想の範疇だったらしく、少し考えてから陽介たちの疑念を含んだ視線に答えるように名を名乗った。そして告げられた事に、陽介は少なからず衝撃を受けた。

 

「全員揃っていないのは残念ですが……そうですね、少し意見を聞かせて下さい。諸岡金四郎さんは、皆さんの学校の先生ですよね」

「……そうだぜ」

「第二の被害者と同じ学校の人間と世間は騒いでいるようですが、重要なのはそこじゃない。もっと気になる、おかしな点があるんです」

 

 警戒を隠そうともせずに答える陽介に悪びれもせずに、いや警戒を見せたからこそ、直斗は陽介に話してみせる気になったのだろう。陽介を真っ直ぐに見つめて、直斗ははっきりと言葉を紡いだ。

 

「この人、テレビで報道された人じゃないんですよね」

 

 その一言に、陽介の眉が僅かに跳ねた。しかし陽介は口を開かず、直斗の方も様子を伺うように陽介を見つめる。探るようなその視線に居心地の悪さと、同時に反発心のようなものを覚え、陽介は直斗と正面から睨み合った。その張りつめた空気を感じたのか、りせや完二、クマも口を挟む事が出来なかった。

 

「まあいい。今日の所はこれで引き上げます。次は、他の方もお揃いだといいんですけどね」

 

 先に切り上げたのは。陽介が何も話さないと悟ったらしい直斗だった。小さな溜め息と共に、それではと残しさっさと行ってしまった直斗は、本当に彼らに会いに来ただけだったらしい。直斗が居なくなった事で張りつめていた空気がなくなり、陽介も漸く息を吐いた。

 

「あの子、何度も私に話を聞きに来たの。でもペルソナの事とか言っても仕方ないし、ここで先輩たちに保護してもらったって事にしたんだけど……」

「妥当なとこだよな。普通ンな事言ったって狂人扱いされるだけだしよ」

 

 直斗が完全にいなくなったのを確認してから、りせが言い辛そうに話す。それに理解を示した陽介がフォローすると、りせは少し表情を緩めた。だがそれを見ても陽介の表情は晴れない。

 自分たちと同じ結論を出している奴が居た──しかもその相手が探偵である。普段なら自信にも繋がりそうなものだったが、状況が状況である。ああもあからさまに犯人である事を疑われてしまっては、喜ぶなんて出来る筈もない。

 

(取り敢えず、これは悠たちに報告だな)

 

 どうにも重い報告が出来てしまったが、共有しておくべき事だろう。しかし成る程、自分たちが端から見れば怪しいのだと突きつけられた気がして、陽介は漏れる溜息を止める事が出来なかった。

 

 そして悪い報告とは続くもので。

 翌日の月曜日、千景が学校に来なかったのである。

 

「菊池さん、来なかったね」

 

 放課後、フードコートに集まった一同は深刻な顔を付き合わせていた。理由は雪子が語った通りだ。人に会いたくないという理由で休んだならばいいが、もしもう攫われてしまっていたならば。そう考えるとまた防げなかったのかと、気分も沈んでしまうのだ。

 

「まだ攫われたと決まった訳じゃない。だが菊池がもう攫われていると仮定して、一昨日のテレビに映ったのが本当に菊池だったとすると、諸岡先生の件が本当に同一の事件だったのか分からなくなる」

「だよなあ……クマは誰も来なかったって言ってるしよ」

「入ったか入らないか位なら、まだクマだって分かるクマよ」

 

 否定しながらも仮定してしまうのは、悠自身がもう何れかの方法でテレビの中に入れられてしまったのだと思っているからかもしれない。陽介が言ったのを、クマが自信を持って言い切った。鼻が利かなくなって来ている自覚はあるようだが、まだ人の気配を感じる事は出来るらしい。

 

「死体が見つかったのは霧の日で、現場の様子も山野アナや先輩の時と同じってニュースで言ってたね」

「そこだけで見ると諸岡先生のも一連の事件って思うけど、でもマヨナカテレビに映ってたのは別の人……ホントの所はどうなんだろう」

 

 千枝の言うように、現場の状況だけで見れば同一の犯行と考えるのが妥当に見える。だが、現在進行形でマヨナカテレビの方が進んでいる状況を見れば、本当に同じとしてみていいのかは疑問だった。悩むように目を伏せた雪子が呟く。

 

「テレビで話題になった人が狙われるんだよね? その諸岡先生って、テレビに映ってたの?」

「マヨナカテレビだけじゃなくて、普通のテレビにも出てなかったよ」

 

 りせの疑問に、千枝が自信を持って言い切った。意外とニュースもこまめにチェックしているようだ。それとは別に、完二が大きな溜め息をついてぼやく。

 

「うちの学校から被害者が二人とか……警察、うちの人間で目星つけてんだろうな……」

 

 暴走族の件などで警察の世話になった事のある完二からしてみれば堪ったものではない。思わずぼやいてしまうのも仕方ないだろう。その完二のぼやきを受けて、陽介が神妙な顔で内心を打ち明けた。

 

「俺さあ、実はモロキンが犯人なんじゃないかって思ってたとこある。だってうちから二人目って言うけど、実際はもっとだろ? それにアイツ、「死んで当然」とかすげえ言ってたしさ……でも今は疑って悪かったなって、さ……」

「……決して悪い先生ではなかったんだがな。一部心証が悪かったのは確かだし、仕方ないだろ」

 

 陽介が二人目の犠牲者である小西先輩に特別な感情を抱いていたのを、悠は知っている。それを知っていれば、自分の好きだった人を悪く言われて、そう思ってしまう気持ちも分からなくはなかった。そして死者に対する負い目でまた陽介が凹むのを、黙って見ていられなかった悠がフォローする。だが言っているのが余りにも薄っぺらいのを自覚していて、悠は苦虫を噛み潰す思いだった。

 

「どっちにせよ、うちの学校に関係あるってのが今のとこ有力でしょ。ならやるしかないよ」

 

 そんなお通夜になっている陽介と悠を見て、仕切り直すように千枝が言った。その先の言葉を続ける前に、一つの言葉が割り込んだ。

 

「その必要はありません」

 

 聞いた事のある声に、その場に居た全員の視線が一斉にそちらを向く。そこには先日の、白鐘直斗がこっちに向かって歩み寄って来ていたのである。直斗は今度は全員が揃っているのを確認すると、小さく頷いてから再び口を開いた。

 

「諸岡さんについての調査はもう、必要ありませんよ」

「なんで、」

「容疑者が固まったんです。後はもう、警察に任せるべきだ」

 

 りせの言葉を最後まで待たず、直斗は理由を切り出した。直斗の言葉は尤もであったが、それに印象が良くなかった陽介が噛み付く。

 

「何でンな事知ってんだよ」

「僕が県警本部の要請で来ている“特別捜査協力員の探偵”だからですね」

 

 そんな陽介を面白くなさそうに一瞥してから、直斗は自分の身分を明らかにした。一同はその若さに驚いたが、その反応も直斗にとっては慣れたものだったのだろう。特に何の反応もせず、続きを話し出す。

 

「容疑者は高校生の“少年”だそうですので、僕も名前は知りません。メディアにも伏せられていますが、皆さんの学校の生徒でもないです。それに今回の容疑者の手配、警察は余程の確信があるみたいですよ。今までの事件と容疑者の少年との関連も周囲の証言ではっきりしてますし、逮捕も時間の問題でしょうね」

「成る程、それは分かった。だが、なんでそれを教えに来た?」

 

 言いたい事を言う直斗に切り込んだのは、悠だった。直斗の言い分は納得できるものだったが、それを自分たちに伝えに来る直斗の意図が分からなかったのである。

 

「皆さんの遊びももうすぐ終わりになるので、伝えておいた方がいいと思ったんです」

「わざわざどうも」

「……関わった事は否定しないんですね」

 

 トゲのある直斗の言葉に、陽介が露骨に嫌な顔をして反射で返す。それに直斗は澄まし顔を崩さないまま、小さく息を吐いた。

 

「てか、遊びはそっちじゃないの?」

 

 黙って成り行きを見守っていたりせが、直斗の言葉にどうしても引っ掛かりを覚えたのだろう。露骨な喧嘩腰で、直斗に突っかかった。

 

「探偵なんて言って、結局謎解いてるだけでしょ? そっちのが全然、遊びじゃん」

「……こっちは大事な人殺されてんだ。ンな事遊びで出来っかよ」

 

 りせの言葉にと釣られるように、陽介も苦々しい顔で苦言を呈する。英雄願望はあったかも知れないが、それとて軽い気持ちで望んでいるつもりはなかった。

 

「それに……約束もしたし、な」

 

 初めの頃にテレビの中に入った時の事を思い出しながら、悠はクマを見た。テレビの中に人を放り込んでいる人を止める、クマとの約束がなかったらきっとここまで来なかったと思ったからだ。クマと目が合って笑えば、クマは感極まったように「センセイ……」と零す。

 

「……そうかもしれませんね」

 

 そんなこちらの様子を眺めていた直斗が小さくそう漏らし、息を吐く。それから「では、失礼します」と残し、昨日と同じように踵を返す。まるで嵐のようなその来訪に、一同は何とも言えないものを各々感じていたのだろう。

 

「なんつーか……今日の所はもう解散っスかね」

「……だね。うん。今日の所は解散して、明日のマヨナカテレビを見てから動こう」

 

 白けてしまったとばかりに完二が言えば、雪子もそれに同意した。その提案に反対の意見も出ず、その日はそのまま解散する事になったのである。

 




改定後→クマたちのショッピングと直斗描写の追加(番長と千枝ちゃん抜き)
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