最下位は雄英高校から除籍処分。
相澤が嘘を言っているようには見えなかった。
8種目……俺が個性で高い評価をたたき出せるのは半分あるかないか。
これが多いのかは分からない。
俺がAクラスで知っている個性は蛙吹と爆豪の二人だけだ。
もし全員が半分以上桁違いな結果を出されれば俺が最下位なんてこともあり得る。
不安を覚えつつ、軽く柔軟体操を行っておく。
最初は50m走。残念だが俺の個性で速度をあげるなんてことはできない。
地面を錬成して地面ごと移動するなんてことも考えたがそんなことするのなら
自力で走ったほうが速いだろう。
「ね、ねぇ。神薙君」
「ん? どうしたよ、緑谷」
オドオドとした表情で近づいてきた緑谷。
まだ俺たちの順番は先だ。
「あ、相澤先生の言ったことって、本当かな……?」
除籍の話か? と聞けば小さく頷いた。
「どうだろうな、あれは本気の目だったと思うぜ」
「ど、どうしよう……」
「なんだよ、落ち着いてやりゃ最下位なんてな――あ、緑谷。お前……」
緑谷は無個性だ。個性を使って結果を出してく中、一人だけ高校生並みの結果。
つまり緑谷は――
「こ、個性の事なら大丈夫。でも、上手く調整ができなくって……」
「え、お前個性あんの?」
うん。と緑谷は頷いた。
どういうこった。個性の発現はもれなく4歳までだぞ?
それとも今まで嘘をついて――?いや、緑谷はそんな奴じゃない。
何かをして勝ち取ってここにいるんだろう。
詳しくは聞かない。
「調整、ねぇ」
「――次。上鳴と神薙」
顎に手を当てて考えようとした所、相澤から指名が入る。
んじゃ行ってくる、と手を振って位置につく。
隣には金髪に黒の雷マークのメッシュが入った少年――上鳴がいた。
ゴール地点の機械が光を発し、合図を送る。
『ヨーイ……START!』
一気に駆ける。今回は完璧に自力の力で行くしかない。
共に走った上鳴を抜いて先にゴールへと向かう。
『――5秒12!』
「ふぅ……」
呼吸を整え息をつく。1秒ほど遅れて上鳴が追いついた。
「いやー、速いなアンタ」
「そうか? まぁ平均より少し上って感じ、かな」
聞けば上鳴の個性は電気系統――電気を纏う、放電する個性らしい。
それって結構きつくね? 今回そんなに個性を使う種目はないのでは?
そんな視線に気づいたのか、上鳴は困った笑みを浮かべた。
「そーなんだよ。だから正直不安なんだよなぁ」
「まぁ全力でやってくしかねーな」
「だよな……次は握力か」
全員が終わり、次はグラウンドから体育館へ。
普通の握力計だ。個性使ってなんでもしていいのだろうか。
周りをみてどんな風にやっているのか少し観察する。
「すげぇ!! 540キロて!! アンタゴリラ!? タコか!!」
「タコって、エロいよね………」
数本の腕で纏めて掴み、540キロをたたき出した少年。
恐らく四肢を増やす個性か何かだろうか。
やっぱりこれも自力で――
「――ふんっ!!」
ゴキンという音。振り返れば、ポニーテールの少女が
万力らしきもので握力計を挟み、測定……いや、あれは測定なの?
相澤先生は何も言ってないからセーフなのか?
――なら。
パン、と手を合わせて握力計に触れる。一瞬光るが、特に変化はない。
改めてそれを手に持ち、思いっきり握りしめる。
『999』
「ま、こんなもんか」
ぶっちゃけセーフか怪しいよねこれ。
ただ中身弄って表記を変えてるだけだし。実際50もいかないだろう。
相澤先生へ視線を送れば、頷いて終わり。あ、セーフなんスか。
「えーっと、神薙? お前どうだった?」
「上鳴。そっちは?」
握力計を握ったまま歩いてきた上鳴。
同時に結果を見せ合う。
「999!?」
「え、測定不能ってお前握力やばくね?」
ここでお互いに種明かし。
上鳴は軽く放電を行い、機械が狂ってくれるよう祈ったらしい。
それでぶっ壊れたらどーすんだよ。
続いて立ち幅跳び。
ほぼ全員が2m後半を普通に超えてくあたり雄英の凄さを知る。
相澤先生が俺の名前を呼ぶ。
手を合わせて地面に触れる。
作り出したのは石で作り上げた長い棒だ。
その棒を持ったまま砂場目の前へと走り、地面へその棒を突き刺す。
棒高跳びの要領で高く飛んで行く。
砂場を軽く超えて着地した。
結果は『測定不能』取り敢えずはOKだ。
続いて四種目めの反復横飛び。流石にこれはどうしようもできないな。
周りには石や砂、地面しか錬成できないし、道具も作れない。
ここも短距離と同じく自力でやっていくしかないだろう。
中でも小さい少年が凄まじかった。
左から右へブヨブヨ跳ね回って100回を軽く超えていた。
俺の結果は67と中々に微妙な結果に終わってしまって悔しい。
半分が終わり、後半戦。次はボール投げだ。
ここも残念ながら個性は使えない。
せいぜいボールを軽くする程度……。
「セイ!!」
気の抜けた投げ方。緑谷と話していた子、確か麗日だったか。
彼女の投げたボールが落ちてくることはなかった。
数分後、機械が示した数値は『∞』
「
「すげぇ!! ∞が出たぞーー!!!」
ほぼ全員が何かしら一つで大記録を出していた。
ただ一人――緑谷を除いて。ちなみに俺の結果は55でした。
微妙すぎる。
爆豪がさっきと同じく705mを叩きだした後、緑谷がボールを掴む。
「緑谷、どうすんだ」
「大丈夫かしら、あの子」
吃驚した。いつの間にか隣に蛙吹が立っていた。
口に手を当てながら彼女を口を開く。
「あの子、今のところ最下位に近いわ」
「だよなぁ……」
でも、アイツはこんなところで諦めるような奴じゃないだろ。
「緑谷くんはこのままだとマズいぞ……?」
「ったりめーだ、無個性のザコだぞ!」
二人の会話に俺は視線を向けた。
飯田に爆豪の二人がそろって緑谷を見ている。
「無個性!? 彼が入試時に何を成したか知らんのか!?」
「は?」
気が付けば足が飯田のほうへ向かっていた。
彼は恐らく、入試の時の会場が緑谷と同じだったのだろう。
「飯田……だよな。緑谷の入試の時の話聞いていいか?」
「君は確か……」
「神薙唯だ。よろしく」
お互い握手を交わして彼に詳しく話を聞く。
恐らく緑谷は入試の時になにかをやらかしたのだろうなぁ。
「入試の時、0Pの敵がいただろう? それを彼が――」
緑谷が投げた。結果は46m。
俺よりも低いぞ。チャンスはあと一回しかない。
相澤先生が緑谷へと近づき、何やら話している。
「――抹消ヒーロー、イレイザー・ヘッド!!!」
緑谷が声を張り上げた。
相澤先生が抹消ヒーロー? 視線で消すっていう……なんで緑谷はそれに気づいた?
個性を使おうとして消された、ということか。
話が終わったようだ。相澤先生が離れ、目薬をさす。
緑谷の口が動いているが、何を言っているか分からない。
「指導を受けていたようだが」
「除籍宣告だろ」
鼻を鳴らしてそういう爆豪。
爆豪の発言を否定できないのが悲しい。
緑谷が大きく振りかぶって――
「
――ボールを天高く投げた。
緑谷の人差し指が腫れ上がり変色している。
大丈夫か、あれ。それと結果は……?
デモンストレーションの時と違い、相澤先生が見せることはない。
だが、あんなに遠くに飛んで行ったんだ。500mは優に超えているだろう。
「先生……! まだ……動けます!」
目に大きく涙をため、汗を流しながら右手を握りしめる。
相澤先生が少し笑ったような気がした。
「やっとヒーローらしい記録だしたよー」
麗日が両腕を上げてわーっと喜んでいた。
「指が腫れ上がっているぞ。入試の時といい……おかしな個性だ……」
「スマートじゃないよね」
「…………!!!」
緑谷の心配をして損したな。
麗日じゃないが、やっと記録を出して一安心だ。
それよりも爆豪の顔がやばい。しちゃいけない顔してるんだけど。
緑谷の個性……増強型か? それに体が耐えられずにあんな風になったのか?
くそう、問いただしたい、けど我慢だ我慢。
「どーいうわけだこら! ワケを言えデクてめェ!!!」
「うわあああ!!!」
片手を爆破させながら緑谷へと急接近していく爆豪。
咄嗟に手を合わせて地面を錬成、土壁を出そうとする、が。
「あ、あれ?」
構築はしっかりしてたはずなんだが。
気づけば爆豪は布のような何かに捕まっていた。
「炭素繊維に特殊合金の鋼線を編み込んだ『捕縛武器』だ。
ったく、何度も個性使わすなよ……俺はドライアイなんだ」
「個性が個性なだけにもったいねぇ!!」
つい口から出てしまった。
そうか、俺も先生の個性に引っかかったのか。
道理で何も起きないはずだ。
逆立っていた髪が元に戻り、相澤先生の目も戻る。
相澤先生の個性、中々に厄介だな。個性ばっかに頼って
個性が封じられたら、と考えるともっと体術とかも覚えたほうがいいか?
「時間がもったいない。次、準備しろ」
「指、大丈夫?」
「うわ、超腫れ上がってんじゃねぇか」
麗日と共に緑谷の様子を伺う。随分と痛そうだけど大丈夫か?
見ているこっちが痛いくらいだ。包帯とかあったらよかったんだけどな。
残念ながら応急処置をする暇もないようだった。
すぐに次の種目が始まる。
残りの持久走、長座体前屈、上体起こしは平均的な結果に終わった。
つーか持久走が一番ひどかったぞ。
ポニーテールの子何かバイク乗ってのぶっちぎりの一位。
あれのどこが個性なの?
「んじゃパパッと結果発表。トータルは単純に各種目の評点を
合計した数だ。口頭で説明すんのは時間の無駄なので一括開示する」
パッ、と空中に合計点順に表示された。と思いきや相澤先生はそれを切った。
「
「………………」
意味が……わからない。先生は何を、言って……?
「君らの最大限を引き出す――
先生が鼻で笑った数秒後
「はああああああああああああああああああ!!!???」
絶叫の大合唱だった。完璧に信じ込んでたぞ。
上鳴も口をアングリ開けてるし蛙吹も舌少し出てるぞしまえ。
「あんなのウソに決まってるじゃない……ちょっと考えればわかりますわ」
「えっ!? 分かってたの!?」
ポニーテールの子に反応してしまった。
だってあんな雰囲気で言われたし自由が売りとかいうし……ねぇ?
「当たり前でしょう……」
「そゆこと。これにて終わりだ。教室にカリキュラム等の書類あるから目ぇ通しとけ」
相澤先生はそういって踵を返した。
いやいやまってくれ。まだ聞きたいことあるんだけど。
いやでも一安心か? あのモニターの最下位は――緑谷だった。
あれが嘘だったのなら、緑谷は除籍処分にはならない。
「――緑谷。
試練の目白押しだ」
緑谷が先生から渡されたのは保健室利用書だった。
なんなの、といった様子でそれを受け取る緑谷。
まだ大多数がボケっとしている。
いや、まぁそうなるよね。
今回のテストで分かったが、俺にできないことは多々ある。
これからこの学校で、できることを増やしていきたいとそう思った。