あるモニター室があった。
そこには大多数のA組が揃っており、全員がモニターを凝視している。
モニターにはビル内の様々な部屋が映し出されており、その中の一室には
二人の生徒がいた。
「――あいつ等が何やってっか全然わかんねぇ……」
一人の生徒――
今行われているのは、ヒーロー科のみにある科目である『ヒーロー基礎学』であった。
基礎学の最初に行われたのは、ヒーローと敵に分かれての屋内戦。
ヒーローは敵を捕まえるかビル内のどこかにある核の回収。
敵はヒーローから核を守り切ること。
ヒーローが核に触れた時点で回収したことになり、ヒーローの勝ちとなる。
制限時間を過ぎれば敵が勝ったこととなる。
本来2対2で行われるはずの今回の授業だが、今年度のA組は21人。
よってデモンストレーションの形で1対1が今行われていた。
モニター室にはカメラに音声がついていないため、音は聞こえてこないが
もし聞こえていたら今も様々な戦闘音が部屋中に響き渡っただろう。
片や氷で辺り一面を凍らしたかと思えば、その氷はすぐさま爆炎に包まれ溶かされる。
片や爆風と共に炎を出してもそれはすぐさま氷によって封じ込められ、崩れ去る。
その様子を、爆豪は目を見開いて見つめていた。
時間は数刻ほど前に遡る。
昼食を終えて午後の時間。クラスの空気は微妙に異なっていた。
午前中の授業はごく普通の五教科が行われたが、午後は違う。
ヒーローのための授業、つまり基礎学の授業だった。
期待や不安。もし、昨日のように除籍処分するなどと言い出したりはしないか。
どのような授業を行うのか。
流石に俺も緊張していた。隣の蛙吹の顔はいつも通りなんだけど。
クラスの皆顔強張ってる中お前だけだぞ?
余裕だったりするの?
「今更緊張したってしょうがないわ。神薙ちゃん。
いつも通りにやるだけよ?」
「そりゃそうだけども」
そのいつも通りが難しいんだよな。
あの爆豪ですらただジッと授業を待ってるというのに。
そして、授業開始のチャイムが鳴り響いた。
と同時に――
「わーたーしーがー!! 普通にドアから来た!!!」
HAHAHAと笑いながら教卓の前へとズンズン歩いていくオールマイト。
金髪に触角のような尖った髪型。巨体の一言だ。
まさにヒーローという言葉を具現化したようなコスチュームを着込んで彼は現れた。
No1ヒーロー。平和の象徴 オールマイト。
「オールマイトだ……!! すげえや、本当に先生やってるんだな……!!!」
「
「画風違いすぎて鳥肌が……」
本当に画風が違う。あの筋肉でぶん殴られたらどんな敵も一撃粉砕だろうなぁ。
「ヒーロー基礎学! ヒーローの素地をつくる為、様々な訓練を行う科目だ!!
単位数も1番多いぞ。そして早速だが、今日の内容は、――コレ!!」
ためるようにして突き出したのは一つのプレート。
『BATTLE』――バトル。
「戦闘訓練!!!」
「ほんとに早速だな」
戦闘訓練という言葉に、クラスが騒然となる。
てっきり最初の授業は講義か何かの単純なものだと思っていた。
そう考えていたのはたぶん俺だけじゃないはず。
「そしてそいつに伴って……こちら!!!
オールマイトが指を指すと同時に、壁から棚のようなものが迫り出してくる。
中には番号が振られたアタッシュケースのようなものが入っていた。
「入学前に送ってもらった個性届けと、要望に沿ってあつらえた――
「おおお!!!!」
興奮を抑えきれず、何人かの生徒――切島などが立ち上がった。
勿論俺も身を乗り出してしまったが。
「着替えたら、順次グラウンド・βに集まるんだ!!」
「はーい!!!」
生徒達は威勢よく返事をして、ケースを取りに行く。
俺も着替えてグラウンドへと向かおう。
俺が頼んだ戦闘服――ぶっちゃけ、詳しい要望は書いていない。
単純に言えば黒を主体とした長袖にポケットの多いズボン。
要望通りなら手袋が入っている筈。俺が書いたのはそれだけだった。
それと片腕に籠手が一つに、ポケットには様々な金属が入っている筈。
非常時用にいつでも錬金を可能にするためにそれを頼んだ。
手袋は別の戦闘手段で使う。
それらを着込んでβへ。
「――恰好から入るってのも大切なことだぜ少年少女!!
自覚するのだ!!!! 今日から自分は――ヒーローなんだと!!」
その言葉と共に最後の一人――緑谷が駆け込んでくる。
「さあ!! 始めようか有精卵共!! 戦闘訓練のお時間だ!!!」
全員が揃っているのを確かめると、オールマイトは満足げに頷いた。
「良いじゃないか皆、カッコイイぜ!!」
オールマイトの視線が緑谷で止まったかと思えば、視線をそらして口元を抑えていた。
……本人が見ればそうなるよなぁ。明らかにあれオールマイトを真似してるし。
「先生! ここは入試の演習場ですが、また市街地演習を行うのでしょうか!?」
ガシャン、と戦隊モノに出てきそうな恰好のコスチュームを着た飯田が手を挙げる。
ああいうのもカッコいいな。
オールマイトは飯田の発言を笑顔で否定した。
「いいや!もう二歩先に踏み込む! 屋内での対人戦闘訓練さ!!」
屋内か。それなら有利に動けるな。
中であれば資源が豊富にあるし、様々なことに錬成を生かすことができる。
「敵退治は主に屋外で見られるが、統計で言えば屋内の方が凶悪敵出現率は高いんだ。
監禁・軟禁・裏商売……このヒーロー飽和社会、ゲフン……真に賢しい敵は、屋内に潜む!!
――君らにはこれから「
さっきも言ったが、本当に早速だな。
まだ高校生になったばっかの俺らに戦闘をやらせるのか?
「基礎訓練も無しに?」
蛙吹が首を傾げてオールマイトに問う。
「その基礎を知るための実践さ! ただし、今度はぶっ壊せば
オッケーなロボじゃないのがミソだ」
2対2の対人……? A組は21人だ。確実に一人消えるぞ。
「勝敗のシステムはどうなります?」
「ブッ飛ばしてもいいんスか」
「また相澤先生みたいな除籍とかあるんですか……?」
「分かれるとはどのような分かれ方をすればよろしいですか」
「このマント、ヤバくない?」
「んんん~~~聖徳太子ィィ!!!」
肩を震わせるオールマイト。
お前ら気になるのはわかるが落ち着け。特に爆豪落ち着け。
お前殺気出しすぎ。
オールマイトは一つの小さな紙――所詮カンペを取り出してそれを読み上げる。
「いいかい!? 状況設定は『敵』がアジトに『核兵器』を隠していて、
『ヒーロー』はそれを処理しようとしている!
『ヒーロー』は制限時間内に『敵』を捕まえるか、『核兵器』を回収する事。
『敵』は制限時間まで『核兵器』を守るか、『ヒーロー』を捕まえる事。それが勝利条件だ」
随分アメリカンな設定だな。
問題は人数だ。
「だが! 今年のA組は21人! この方法でやると1人余ってしまう。
よって、デモンストレーションの形で1対1の戦闘訓練を行う!
すまないが、その二人はすでに決まっていてね。まずヒーローは……君だ!」
ビシッと最初に指さされたのは、体の半分が凍ったような戦闘服を着た生徒。
次いで向けられたのは……俺だった。
「君は敵! 指名された二人以外はモニター室へ!」
他の生徒達はぞろぞろとモニター室へ向かっていく。
オールマイトが俺の肩を叩く。
「敵は先に入ってセッティングを! 五分後にヒーローが潜入で
スタートになる。神薙少年は敵の思考をよく学ぶように! これはほぼ実戦!
ケガを恐れず思いっきりな! 度が過ぎたら中断するけど……」
もう一人の生徒を置いて、俺はビルの中へと入っていく。
そして……一回目の戦闘が始まる。
「……神薙ちゃん。どうするのかしら」
「あの二人の個性って何なんだ?」
蛙吹と切島がモニターを眺めながら呟いた。
ヒーロー……轟は推薦で入学するほどの実力者。だが個性を知るものはいない。
そして敵の神薙の個性を詳しく見たものは数少ない。
この二人の――クラス全員の個性を知っているのはオールマイトや教師だけ。
だからこそこの二人が選ばれた。
モニターには核のある部屋が映し出された。神薙が腕を組んで考えている姿が映し出される。
核のある部屋には三か所の扉があり、その一つに神薙が向かってゆく。
手を合わせて地面に触れると、地面がせりあがり壁が出来上がっていた。
それを他の扉にもう一度やる。これでヒーローは一方向から来ざるを得ない。
「彼はどんな個性だ……? 造形を変える個性か?」
飯田が顎に手を当てて思考する。まだこれだけでは分からない。
そして五分が経ち、ヒーロー――轟が入る。
彼が壁に手を触れると同時に、ビル内が一瞬で凍結する。
「うわ、すっげぇ……もう勝負決まったんじゃねーの?」
醤油顔の生徒――瀬呂が呟く。核を傷つけずに敵を無力化。
凍らされてしまえば戦えやしない。
氷は核のある部屋にも到達し、神薙の足を凍てつかせた。
モニターからは声は聞こえないが僅かに動揺したような素振りをみせるが
手を合わせて地面へと触れる。すると部屋全ての氷が溶け出し、水となり拘束力を無くす。
彼は手袋をして構えた。
「――彼の個性は『錬金術』。あらゆるものを理解・分解して再構築する。
多分、氷を分解して水に変えたのかな……」
緑谷が独り言のように呟いた台詞が、全員が聞き取る。
モニターには、核のある部屋に轟がついた様子を映し出していた。
「――お前、何をした?」
凍り付いていない部屋を見て、訝しげに
「おいおい、敵が素直に答えると思ってんのか?」
様子を伺う。
彼は氷を作り出す個性とみて間違いない、か?
「……そりゃあそうだな」
一歩、踏み出すと同時に氷が周囲に広がる。
「やらせるかよ!!」
手を合わせて指を鳴らす。すると、爆炎が氷を一気に溶かしつくす。
流石に実戦ではないからそれを彼には使わない。
全て防衛に回させてもらう。
「チッ……炎熱系の個性持ちか」
「相性最悪だろ? さっさと諦めるんだな」
こういわれて諦めるような人間は雄英にはいなかった。
そして時間は最初に戻る。
油断も隙もできない。
コイツ、確実に隙を突いて氷を出してくる。
俺が炎を出すときに必ず手を合わせるともうバレてるとみていい。
今回持ってきた手袋は特別性で、発火布という材質で作られている。
摩擦すれば少ない火花を出す特殊な材質だ。
氷を燃焼物とし、錬成で酸素濃度を調節して手袋を使って点火を引き起こす。
錬成だけでは決定打に欠けると思い、頼んで作ってもらった特別性だ。
残り時間はあと少し……勝負を仕掛けてくるだろう。
手を合わせて錬成。その直後、氷が俺の両腕を凍らせる。
「両腕を凍らせた。これで炎は出せねぇよ」
確かに手を封じられたら何もできない。だが、最後に錬成したのは炎じゃない。
ゆっくりと核へと向かってゆくヒーロー。核に触れるその瞬間、消えた。
「なっ……!?」
核の足場が崩れ落下していく核。
数秒後、ゴトンと落下した音が響き渡った。
「ほら、速く下まで取りに行けよ。まぁそんな時間ねーと思うけど」
鳴り響いた終了の合図。
『敵チーム……WIIN!!』
「ぶっちゃけアレ駄目だけどな神薙少年!!」
「ですよね」
モニター室での講評、オールマイトからお叱りを受ける。
そりゃあ核なんておとしたら駄目ですよね。
今回はハリボテだったからこの作戦が通用したってだけで。
「あそこは核じゃなくてヒーローを落とすべきだったね」
「いや、だって……」
口ごもる神薙に首を傾げるオールマイト。
「訓練とはいえケガさせんの嫌だったし……」
その発現にポカンとした後、オールマイトは大きく笑った。
「はっはっは! 敵の思考を完璧に真似することはできなかったな神薙少年!」
確かに今回、ヒーロー役の轟は一切傷を負っていなかった。
あの炎と氷の戦いの中でも相手の身を案じることなど中々出来ることではない。
「中々素晴らしい戦闘訓練だったよ二人とも。では次の戦闘に進もうか!!」
次は――と言われて指名されたのは、緑谷・麗日のヒーローチーム。
爆豪・飯田の敵チーム。
四人が出ていく中、蛙吹と一人の生徒が近寄ってきた。
「凄かったわね」
「ほぼ蒸気とか爆炎で全然見えなかったぜ?」
切島……だったか。
一応全員の名前は覚えたつもりだが、まだ顔と一致してないな。
「アイツ――轟も強かった。時間制限が無かったら負けてたと思う」
「いやいや、俺なんか一瞬で凍らされて終わりだぜ?
つーかあんな戦い魅せられて俺ら全員やる気まんまんになっちったよ」
腕を打ち鳴らして鼻を鳴らす切島。見れば腕がガチガチに固まっている。
そういう個性か。
「……少しいいか」
振り返れば先ほどの相手である轟がいる。
「あぁ。なんだ?」
「お前の個性、何だ?」
そりゃあ不思議に思うよな。炎出したと思ったら地面脆くしてたもんな。
隠すようなことでもないし簡単に掻い摘んで説明をする。
「……次は負けねぇ」
そう言って彼は離れて行ってしまった。
……あれ、変な対抗意識持たれた?