全ての戦闘訓練が終わり、一人を除いて全員がモニター室へと集まる。
「――お疲れさん!!緑谷少年以外は大きな怪我もなし!
しかし真摯に取り組んだ!! 初めての訓練にしちゃ皆上出来だったぜ!」
「相澤先生の後でこんな真っ当な授業……なんか拍子抜けというか……」
上鳴の発言にクラス中が同意した。
今回の授業はまさにヒーローの実技と言えるだろう。
ヒーローの戦い方。敵の思惑や立ち回り。
この授業で学んだことはとても多い。
「真っ当な授業もまた私たちの自由さ! それじゃあ私は緑谷少年に講評を
聞かせねば! 着替えて教室にお戻り!!」
言うや否風のように駆け抜けていくオールマイト。
速いなぁなんて思いながらそれを見送り、俺たちも着替えるために校舎へと戻る。
そのあとの六時間はヒーローとしての制度や規則・法律などを学ぶための
ヒーロー情報学だった。だが、この時間中に緑谷が戻ることはない。
聞けばリカバリーガールにお世話になるのはこれで三回目らしい。
入試の実技・個性テスト・そして今回。
アイツの個性は怪我して当たり前だからなぁ。
なんて考えてるとチャイムが鳴り、終わりの合図を告げる。
「なぁなぁ神薙! この後さ、反省会しねぇ?」
「あ? 反省会?」
「ほら、今回の戦闘訓練でいろいろ学んだだろ?
お互い見てて思ったこととか言い合うのどーよ!!」
交流を深める点でもそれはいいかもしれない。
特に用事もないため、俺は頷いた。
「――楽しそうな話してるわね」
隣から声が……いや、一人しかいねーけど。
蛙吹が口元に手を当てて首を傾げた。
「私も参加してもいいかしら?」
「おう! 勿論いーぜ! 人が多いほうがいいしな」
反省会にゾロゾロと人が集まってゆく。
「じゃあウチもいい?」
「私も私もー!!」
「俺の電気どうだった?」
更に三人――耳郎響香に、芦戸三奈、上鳴電気が加わる。
「アンタの電気、無差別なのがねー……」
三白眼に耳たぶが特徴的の少女が呆れ気味に上鳴に言った。
「し、しょーがねーだろ!? 操れるわけじゃねーんだよ!
確か二人は訓練の時のペアだったか。
モニターから見てたが、上鳴の個性は知ってたが耳郎の個性がよく分からなかった。
そう言うと、耳郎の耳から伸びた線のような物が動く。
「ウチの個性は『イヤホンジャック』っつって。コレのプラグで音を聞いたり。
戦闘服だったら爆音を出したりそんな感じ」
「えっ、戦闘服ってそんな要望だせんの……?」
どこか打ちひしがれている上鳴は置いといて。耳郎の個性について考える。
「それだと、音を探知して敵がいるであろう場所に上鳴が放電って感じだったのか?」
「そ。ただ途中から上鳴が『馬鹿になったらわりぃ』とか意味わかんないこと言い出してさ」
何それ。電気使いすぎると馬鹿になんの?
「そのまんまだよ! 容量超えるとショートしちまうんだ。脳が」
それ結構な欠点だなー。使いすぎると役立たずになるわけか。
どんな風にショートするのか見てみたい気もする。
「大体、あの時アンタが――」
「はぁ!? だったらそん時お前が――」
言い争いを始める二人。まぁ本気で口喧嘩しているわけではないが。
仲良くなるの早いなぁなんて見ていた。
「私は私は!?」
両腕を振りながら自己主張を強める芦戸三奈。
反転目に薄紫色の肌。頭から生える二つの触角が特徴的だ。
個性テストでもそれなりに成績が良かったのを覚えている。
「えーと、芦戸の個性って?」
「酸だよ!」
元気に手を挙げて答える芦戸。
モニターで見てた時、スケートのように地面を滑ってたな。
濃度を変えればそんな芸当をすることもできるのか……。
「芦戸の個性だったら、酸で壁を溶かして隠れたり移動に使えたり結構便利だよな?」
「うん! でも、間違えちゃうと服とか溶けちゃうの」
そこらへんがデメリットか。
「それなら――」
……あれ? さっきから反省会じゃなくて戦闘時の個性の使い方言ってるだけじゃね?
反省会じゃなくていいの?
「反省する点はほとんど講評で聞いたしね。一番戦いが――個性の扱い方上手かったのって
アンタじゃん? ウチらのも分かるかなって」
上鳴との喧嘩も終わっていたのか、不思議そうに首を傾げた俺に答えを出してくれた耳郎。
「あぁ、そういう事?」
頼られるのは素直に嬉しいけど。
俺だって自分の個性完璧に使えるわけじゃねーんだよな。
俺としても誰かに教えてほしいくらいだ。
そんな時、席を立つ音――爆豪だった。
「おい、爆豪! お前も――」
「皆で話し合おうよー!」
肩に手をかけた芦戸の言葉や切島の手を払いのけ、無言で出ていく爆豪。
どうしたんだ、アイツ……? 今日――戦闘訓練の時からどこか様子がおかしかったが。
爆豪が出て行って少し、腕にギプスを付けた緑谷が入ってきた。
恐らく今最も注目を集めているのが緑谷だろう。現にほとんどのクラスメイトが緑谷へと迫っていった。
正直、中学の時とは考えられない情景だった。
馬鹿にされ、それでもめげずにヒーローを目指している緑谷。
それが報われている様子を見るのはうれしい。
口角が上がるのを抑えつつ、俺もそろそろ帰ろうとする。
慌てたように教室を出て行った緑谷を見送り、バックを片手に持つ。
「んじゃあ切島。俺もそろそろ帰るわ」
「あ、もうか? 気を付けろよー」
手を振って教室を後にした。
欠伸をしつつ、今日の事――戦闘訓練を振り返る。今回の訓練……轟は何かを隠していたような……。
少なくとも本気で取り組んではいただろう。それでも何か腑に落ちない。
轟。どこかで聞いたことが――。
「神薙ちゃん」
「うおおわぁ!?」
体が大きく跳ねる。びっくりした! 本当にびっくりした!!
すぐに気を取り直して振り返れば、見慣れた顔が映る。
「なんだよ。梅雨ちゃん」
「梅雨ちゃんと呼ん……でくれたわね。びっくりしたわ」
驚きに目を見開いた、のか?さほど変化ねーけど。
ていうか足音にも気づかないほど考え事してたか。
何の用?
視線で問いかければ、梅雨ちゃんが俺の隣に立った。
「電車で帰るのよね」
「そうだよ」
「駅まで一緒に帰らない?」
そういうことか。それくらいだったらいいぞ
……あれ? 俺って異性と帰るってもしかして初めて?
いや待て記憶を掘り返せ。俺の中学時代ってそんなに空しくないよな。
あれ、まず女子生徒の友達って――
「それじゃあ帰るか」
「そうね」
記憶を探るのは辞めた。
これ以上知ったら恐らく帰ってこれなくなる。いいんだ、過去は過去。現在は現在。
今は友達もできたし、終わりよければすべてよしだ。
……ちょっと使い方違う気がする。
梅雨ちゃんとは他愛もない世間話をしつつ、帰路についた。
そして翌日――事件は起きる。
朝。チャイムが終わり、HRが始まる。
「――昨日の戦闘訓練お疲れ。Vと成績見させてもらった」
げっ。あれ相澤先生に見られたのか。
相澤先生の目が爆豪へと移る。
「爆豪。おまえもうガキみてぇなマネするな。能力あるんだから」
「…………わかってる」
少し俯いているため、顔を伺う事は出来ない。
ただ、昨日よりは若干マシになった、か?
そして緑谷も説教。個性使うたびに体壊してたらヒーローは難しいものなぁ。
逆に調整が出来てしまえば緑谷は非常に強くなる。
「さてHRの本題だ……急で悪いが今日は君らに……」
皆言葉は出さないが、思いは同じだ。
また臨時テストなのか? また除籍処分……?
不安が教室を包み込む。
「――学級委員長を決めてもらう」
「学校っぽいの来たーーー!!!」
安心するや否ほとんどの生徒が手を――中には両手挙げてる奴もいる。
「委員長!! やりたいですソレ俺!!」
「ウチもやりたいス」
「オイラのマニフェストは女子全員膝上30cm!!」
「ボクのためにあるヤツ☆」
「リーダー!! やるやるー!!」
おめーら元気だなぁ、なんて冷めた目で俺は見ている。
勿論腕を挙げてな!! 俺にもやらせろ!!
この委員長もヒーロー科と普通科では少し違う。
普通科なら雑務。押し付けあうものだが、ヒーロー科は違う。
集団を導くための素地を鍛えられる重大な役割を持つ。
「――静粛にしたまえ!! 多をけん引する責任重大な仕事だぞ……!
『やりたい者』がやれるモノではないだろう!!」
全員が黙り、声の主――飯田へと視線を向ける。
「周囲からの信頼あってこそ勤まる聖務……!
民主主義に則り、真のリーダーを皆で決めるというのなら――これは投票で決めるべき議案!!!」
飯田……確かにお前の言葉は最もだ。だがな
「お前腕そびえ立ってんじゃねーか!! 何で発案したんだよ!?」
これでもかと天高く右腕が伸びていた。
体もプルプルしてるしどんだけやりたかったの。
「日も浅いのに信頼もクソもないわ飯田ちゃん」
女の子なのにクソとかいうんじゃありません。
「そんなん皆自分に入れらぁ!」
切島の言葉は最もだった。まだ人となりを知っているわけではない。
この中で多数を取るのは中々厳しいぞ?
「だからこそ、ここで複数票を獲った者こそが真にふさわしい
人間という事にならないか!? どうでしょう先生!!!」
「時間内に決めりゃ何でも良いよ」
そう言って寝袋にくるまって横になった相澤先生。
本当適当だな……。そして始まる投票。
まぁ自分に入れるよなー。
そして集計した結果。
「――僕三票ーーー!!?」
「……え、あ、俺二票!?」
席を立つ緑谷と俺。
「なんでデクに……!! 誰が……!!」
「まーおめぇに入るよかわかるけどな!」
爆豪が全身を震わせて緑谷の票を凝視していた。
瀬呂……そんなこというと死ぬぞ。
「――0票……わかってはいた!! さすがに聖職といったところか……!!」
「他に入れたのね……」
「おまえもやりたがってたのに……何がしたいんだ。飯田」
膝をつく飯田。
ホントなんで他人にいれたんだよ……。
つーか二票が二人か。
「――じゃあ俺は辞退するわ」
「あら、どうして?」
「他をけん引する能力なんて俺にはないよ」
梅雨ちゃんにそう言って辞退。
つまり、委員長が緑谷。副委員長が八百万だ。
「うーん、悔しい……」
「マママママジでマジでか……!!」
ガチガチに固まった緑谷……ぶっちゃけ不安だよなぁ。
八百万のことは詳しくは分からないが、個性テストでは一位だったし
実力はあるだろう。
「――緑谷、なんだかんだアツいしな!」
「八百万は講評の時のがかっこよかったし!」
そういや講評の時、的を射た発言をしていた気がする。
頭も良さそうだ。まー頑張れよ緑谷。
そして午前中はあっという間に過ぎてゆく。
昼時、財布を持って食堂へ……。
ポケットを探る。机の中。バックの中。探る。
顔を両手で覆った俺の様子に、切島が問いかけた。
「ど、どうしたよ。神薙?」
「財布……忘れた……」
「ドンマイだな」
ポン、と俺の肩を叩く上鳴。
じゃあ俺ら食ってくるわなんて言って食堂へ。
薄情者共が!!! 白米くらい奢ってくれ!
「あら、神薙ちゃん。忘れたの?」
「そうだよ。梅雨ちゃんは?」
「私は今日はお弁当よ」
梅雨ちゃんはそういって一つの袋を出した。
中からは少し小さい弁当箱が出てくる。
女の子って食べる量少ないよなぁ。そんなんでよく体保てるなぁ。
「食べたいの?」
「え? あぁ、違う。少ないなーって思ってさ」
ジッと見ていたせいで勘違いされてしまった。
慌てて否定する。
「午後は二時間使って特別授業って相澤先生が言ってたわ。
……終わるまで大丈夫?」
「たかが一食抜いたくらいじゃ死なねーよ」
僅かに腹の虫が鳴った。すぐに咳をして誤魔化す。
「――これ、あげるわ」
差し出されたのは白米の塊――オニギリだ。
「私はお弁当で足りるし、授業中に倒れたら大変だもの」
「……梅雨様!」
「梅雨ちゃんと呼んで」
感極まって様付けで呼んでしまった。
「本当にありがとう、助かる」
受け取り、口に含んで咀嚼する。空腹だからかとても美味しく感じる。
食堂のご飯とはまた違った味だ。
「美味しい?」
「あぁ、旨い。今度何か礼でも――」
直後、警報音が響き渡る。
『セキュリティ3が突破されました。生徒の皆さんはすみやかに
屋外へ避難してください』
オニギリをしっかり味わい食べ終え、放送に耳を傾ける。
「セキュリティ3って……何かしら?」
「わからない。ただ、良いことではないのは確かだな」
窓から外を見ても、ここからは良く見えない。
警報が鳴り止み、辺りを静寂が包み込む。
「…………」
お互い無言で顔を見合わせ、再び席に着く。
「何だったんだろうな」
「何だったのかしらね」
何事もなく、世間話と食事をつづけた。
後から食堂から戻ってきた切島達に聞けば、マスコミが中に入り込んだらしい。
特に問題が起きなくてよかったな。
増えるお気に入り数にニヤニヤしてしまいます。