雄英体育祭……それは日本のビッグイベントの一つだ。
かつてはオリンピックがスポーツの祭典と呼ばれ、全国が熱狂した。
今は個性が発現してからは規模も人口も縮小し、形骸化してしまう。
日本に於いて「かつてのオリンピック」に代わるのが、その雄英体育祭だった。
だが、敵に襲撃されたばかりなのに開催するのか? という質問に
逆に開催することで危機管理体制が盤石だと示すらしい。更に警備は例年の五倍。
そして何より体育祭は俺らにとっても最大のチャンスになる。
様々なプロヒーローがこの体育祭を見に来る。
その場で自分の個性を十分に発揮し、プロに見込まれればその場で
将来が拓けるということになる。
「年に一回……計三回だけのチャンス。ヒーロー志すなら絶対に外せないイベントだ」
そして興奮収まらぬまま、授業が過ぎていき昼休み。
皆が元気に体育祭について話し合っていた。
顔がうららかじゃない麗日は拳を天高く突き上げるなどキャラが
フワフワしてるレベルだ。やばい。
「皆燃えてンなぁ……」
「唯ちゃんは燃えてないの?」
「俺は――」
勿論燃えてるよ、と続く言葉を発することはできなかった。
何故か峰田と瀬呂が黙って俺を――いや、俺と梅雨ちゃんに目を向けている。
その姿にギョッとしつつも首を傾げた。
最近は二人で――たまに耳郎や芦戸とも食事するが、別に変ったことではないだろう。
え、マジで何なの?
「……聞きました? 瀬呂さん」
「……えぇ、聞きましたわよ、峰田さん」
まるで井戸会議をするような主婦たちのように、口元に手を当ててヒソヒソと
聞こえるように話す瀬呂と峰田。気持ち悪いからはっきり言ってくれ。
「『唯ちゃん』ですって……」
「それも呼びなれてる感じよ!」
こう話題にされると腹が立……ん?
よく見れば、二人とも凄まじい眼力で俺を睨み付けていた。
……もしかしてお前ら。
「異性に名前で呼ばれたり仲良くなかったのか?」
「ゴフッ」
「み、峰田ーーーーーー!!」
夥しい量の血をまき散らしながら倒れこむ峰田を支える瀬呂。
二人はそのまま保健室へと向かっていった。さようなら、峰田……モテるように頑張れ。
だが、さっきの一言は諸刃のブーメランだ。俺はそれに耐えたぞ……!!
そんな茶番は終わり、話を戻す。
「そりゃ燃えてるよ。たださ、皆ヒーローになってからの未来を考えてるんだなって」
皆プロになってからどうするか、という道を少なからず考えている。
飯田は兄のようなヒーローに。緑谷はオールマイトのようなヒーローに。
俺はただヒーローになりたいからという理由でここに入った。それが恥ずかしく思えた。
勿論、今は道は少し見えてきたが。
「雄英まで二週間……その間に、もっと個性を使えるよう、に……」
あれ? という思いと共に声量が小さくなっていく。
それと同時に一つの考えが思い浮かぶ。
「梅雨ちゃん。個性使ってるときってさ、使うって考えて使ってる?」
「……使ってないわ。舌を伸ばす動作も体が覚えてるって感じかしら」
そうだ。個性はもともと身体機能の一つ。
バカか俺は。毎回手を合わせる、錬成するなんてやってたら後手に回るだけだ。
身近に考えろ。個性をどういう風に体に馴染ませるか。
「ありがとう、梅雨ちゃん。少し見えてきた」
「役に立てたのならうれしいわ」
そして放課後には爆豪が大々的に宣戦布告をしてヘイトを集めたり
しちゃったがそれ以降は特に問題もなく、二週間はあっという間に過ぎていく。
そして本番の日は迎える――。
「皆準備は出来てるか!? もうじき入場だ!!」
1-A控え室で飯田は声を張り上げるが、反応する生徒は極少数。
それほどに緊張している生徒が大多数だった。
「戦闘服着たかったなー」
「公平を期す為着用不可なんだよ」
今回、全員が同じ体操服だった。
戦闘服は個性のデメリットを無くす為に作っている生徒もいる。
全員が公平に戦うためにも、体操服という事だった。
「緑谷それに神薙」
「轟くん……何?」
「ん?」
手に何度もなぞる様に指を這わせていると、轟に名を呼ばれる。
それは緑谷も同様だった。
「緑谷、客観的に見ても、実力は俺のほうが上だと思う」
「へ!? うっ、うん……」
「おまえ、オールマイトに目ぇかけられてるよな。別にそこ
詮索するつもりはねぇが……おまえには勝つぞ」
それは宣戦布告そのものだった。
轟がどんな思いでそれを言ったかはわからない。
「――それに神薙。前回の時みてえにはいかねぇぞ。
今回はあの爆炎も出せないだろ。次戦うとき、お前には負けねえ」
俺もかよ……確かに、この体育祭で俺は爆炎は出せない。
だが、それでもお前に負けるわけにはいかない。
「轟くんが何を思って僕に勝つって言ってんのかは分かんないけど。
そりゃ君のほうが上だよ。実力なんて大半の人に敵わないと思う……。
客観的に見ても……」
「緑谷もそーゆーネガティブな事言わねえ方が……」
何とか場の雰囲気を良くさせようとする切島の言葉を遮って緑谷は続ける。
「でも……!! 皆、他の科の人も本気でトップを狙ってるんだ。僕だって、遅れを
取るわけにはいかないんだ! 僕も本気で獲りに行く!」
あの入試の時の怯えたような表情はしていなかった。
正にあれは一位を取ると決意した顔だ。
『1年ステージ、生徒の入場だ!!』
その声と共に、クラス全員がステージへと向かう。
『雄英体育祭!! ヒーローの卵たちが我こそはとシノギを
削る年に一度の大バトル!! どうせてめーらアレだろこいつらだろ!!?
敵の襲撃を受けたにも拘わらず鋼の精神で乗り越えた奇跡の新星!!!
ヒーロー科!! 1年!!! A組だろぉぉ!!?』
「持ち上げんなぁプレゼント・マイク」
こんな紹介をしたのはA組だけで、他はあっさりと組と科を紹介して終わり。
それにしても人が凄いな。スタジアムのような円形の客席には、所狭しと人が詰め込まれている。
「大人数に見られる中で最大のパフォーマンスを発揮できるか……! これもまた
ヒーローとしての素養を身に着ける一環なんだな」
飯田はこれだけの人の中でも普段とあまり変わらない。
俺も緑谷ほどとは言わないが、それなりに緊張しているぞ。
「選手宣誓!!」
鞭を振るいながら現れたのは、どこから肌でどこからコスチュームなのか分からないヒーロー。
18禁ヒーローのミッドナイトだ。
「18禁なのに高校にいてもいいものか」
「いい」
常闇の素朴な疑問に即答する峰田。
エロ魔人は黙ってろ。
「静かにしなさい!! 選手代表!!
1-A、爆豪勝己!!」
「えー?」
「爆豪なの?」
緑谷と俺は同時に言葉を発した。
まぁ爆豪ならハキハキと物事を喋れるし適役ではあるか?
それに実力も1番といってもいいほどの実力者でもあるし。
ただ、不安は――
「せんせー」
相変わらず両手はポケットに突っ込んだままの姿勢で
爆豪が壇上に上がる。あれ、ちょっと待て。これ止めたほうがよくないか。
だってコイツがいう事は一つ――。
「俺が一位になる」
「絶対やると思った!!!」
見事に切島と言葉が重なる。
「調子のんなよA組オラァ!!!」
「何故品位を貶めるようなことをするんだ!!」
「ヘドロヤロー!!」
そんなブーイングの嵐、爆豪は首の前で親指をスライドさせる。
「せめて跳ねのいい踏み台になってくれ」
バカやろおおおおおおお!!
そこまでヘイト集めなくてもいいだろうが!!
大体ヘイト集めてメリットねーぞ! 妨害とかされたらどーすんだ!
「さーて、それじゃあ早速第一種目行きましょう」
「雄英って何でも早速だね」
雄英だからね。
自由が売りだからね……。
「いわゆる予選よ! 毎年ここで多くの者が涙を飲むわ!!
さて運命の第一種目!! 今年は…………」
早速と言うが、移されたモニターは延々と回転を続けており、表示されない。
早速じゃないな。
「コレ!!!」
「障害物競争……!」
同時に門が開かれ、ランプが一つ点いた。
「計11クラスでの総当たりレースよ! コースはこのスタジアムの外周約4km!
我が高は自由さが売り文句! ウフフフ……コースさえ守れば何をしたって構わないわ!
ささ位置につきまくりなさい……」
何をしてもいい……だって?
前方に立ちながら、俺は両手を合わせた。
今回、好きなだけ妨害はオッケーということか。
なら、あの入試実技にできなかったことをさせてもらおう!
「スターーーーート!!」
即座に一位を取り手を地面へと合わせる。
「てめぇら恨むんじゃねぇぞ!!!」
出てくるのは巨大な土壁。俺より後ろに出来上がる。
「んだこれ!? 壁!?」
「誰かぶっ壊せ!!」
『さーて実況してくぜ!解説アーユーレディ!? ミイラマン!!』
『無理やり呼んだんだろが』
放送に耳を向けつつ、前を走りながら後方を見る。
「――甘いわよ唯ちゃん」
1-Aのクラスのほぼ……10割が土壁が完成するまえに乗り越えてきた。
だよなぁ。俺の個性あれだけ見てりゃこういう風にするってバレてるよな。
そしてすぐさま襲ってくる氷結にも、Aクラスに引っかかる者はいなかった。
壁の後に轟が氷結をして足止めをしたようだ。
ジャンプしてそれを避け、走る。
だが、俺の速力はそこまで早いわけではない。
如何に妨害し、このまま一位を維持し――あ、轟に抜かされた。
『さぁいきなり障害物だ!! まず手始め……第一関門、ロボ・インフェルノ!!』
現れたのは数十体はいるであろう0Pの仮想敵。
所狭しと詰め込まれている。
「入試ん時の0P敵じゃねえか!!! 数が多すぎて通れねえ!!」
「一般入試の仮想敵ってやつか」
轟は大型ロボを見ても冷静に個性を使用した。
拳を向けてくる数体を瞬く間に氷結させ、動きを封じ込める。
その隙間を通り抜ける轟に続いて、追いかける生徒達。
だが、すぐにロボットが倒れその道を塞ぐ。
『1-A、轟!! 攻略と妨害を一度――おぉ!?』
「おらァ!!」
落下してきた図体に掌が触れると同時に、ロボットが崩壊を起こす。
俺じゃなかったら潰れて死んでたぞ轟め!!
『同じく1-A、神薙! 轟に追随していくー!!』
「チッ……」
「舌打ちしたよな今!!」
お互い抜いて抜かされを繰り返しつつ、先へと進んでいく。
時間稼ぎのためにも時々土壁を造り出し、障害物を造り出しておく。
『一足先行く連中、A組が多いなやっぱ!!』
他の科やB組も決して悪くはない。
高校生のなかでも飛びぬけたものばかりだろう。
ただ、A組は立ち止まる時間が短い。
各々が経験を糧とし、迷いを打ち消している。
敵襲撃が実りあるものになったということだ。
『第二関門! 落ちればアウト!! それが嫌なら這いずりな!!
ザ・フォール!!!』
これはどうやって作ったんだと突っ込みたいステージ。
一本の紐を渡って先に進めと。そんなめんどくせぇことできるかよ。
「道がなければ作ればいいじゃないってな!」
地面を錬成し、人1人が不十分なく走り抜ける程度の道を造る。
勿論渡り切った後は壊しておく。
にしても1位とはそれなりに距離が離れてしまった。
なんとしても追いつかないと。
『おーっと! 1位2位は難なく第二関門突破!!
早くも最終関門! その実態は……一面地雷原!!!
怒りのアフガンだ! 地雷の位置はよく見りゃわかる仕様になってんぞ!!
目と脚酷使しろ!! ちなみに地雷! 威力は大したことねえが
音と見た目は派手だから失禁必至だぜ!』
ただのグラウンドに見えても、目を凝らせば少し円形の何かが
埋まっているのがわかる。あれを踏むと起爆するわけだ。
飛ぶような個性があればいいんだが……まぁ、それでも妨害されて進めないか。
目を凝らして慎重に足を進めていく。轟も思ったように進めてはいない……。
何とか轟の隣に追いつき、追い抜こうとしたその時。
「俺は関係ねーー!!」
爆破による低空飛行。確かにそれならば地雷は関係ない。
二人の間を通り抜けるようにして進み、爆豪は二人を睨み付けた。
「てめェら宣戦布告する相手を間違えてんじゃねェよ!!」
『ここで先頭の争奪戦だ! 喜べマスメディア!!
お前ら好みの展開だああ!! そして後続もスパートかけてきた!!
だが引っ張り合いながらも……先頭三人がリードかあ!!?』
あと数メートルを地雷エリアを抜け切ろうとしたその時――。
後ろで大爆発が起こった。三人が同時に振り替えると、ロボの部品にのった
緑谷が爆風で俺たちに猛追している姿だった。
『A組の緑谷、爆発で猛追……っつーか!!!
抜いたあああああー!!!』
「嘘だろ、緑谷!?」
だが、俺たちを抜いただけだ。
勢いも落ちてあのままじゃ着地した時に地雷で爆破だ。
「デクぁ!!!!! 俺の前を――行くんじゃねえ!!!」
「後ろ気にしてる場合じゃねぇ……!!」
「行かせねーっての!!」
三人が駆け、緑谷を追い抜く。
明らかに失速してきてるし、追い越すのは簡単だ。
だが……抜くその時、緑谷の顔は諦めていなかった。
あの緑谷が妨害行為――ロボの部品を叩き付ける。
爆豪と轟はそれを避けるが、二人にあてることが目的じゃない!
何度も地雷が作動したような音――。そして爆発。
「完全にやられた……」
爆風から身を守り、すぐに走り出しても絶対に緑谷には追いつけねえ。
それでも上の順位を取るためには走る続けるしかない。
『さァさァ序盤の展開から誰が予想できた!?
今一番にスタジアムへ還ってきたその男――緑谷出久の存在を!!』
「はぁ、はぁ……あー、くそ……勝てると思ったのに」
乱れた息を整えながら汗を拭う。
結果は4位……クソ、絶対1位を取ろうとしたのになぁ。
でも、確実に予選は通過できただろ。
予想通り、予選通過は上位の42名。
そして次からがいよいよ本選……ここから本格的に個性を使っての
白熱した戦いが始まる。
「さーて、第二種目よ! 私はもうしってるけど……何かしら!?
言ってるそばから……コレよ!!!!」
表示されたものは……。
「騎馬戦……!」
参加者は2~4人のチームを自由に組んで騎馬を作る。
基本は普通の騎馬戦と同じルールだが、一つ違うのはさっきの結果に
従い各自にポイントが振られること。
つまり組み合わせによって騎馬のポイントが変わる、と。
42が5ポイント、41が10ポイントといった具合に割り振られていく。
「1位に与えられるポイントは1000万!!!!」
全員の視線が一人――緑谷へと移る。
1位のポイントさえ取ってしまえば、それは勝ったも同然。
「上位の奴ほど狙われちゃう下剋上サバイバルよ!!!」
……さて、誰と組むべきか。