白狐+ショタ=正義! ~世界は厳しく甘ったるい~   作:星の屑鉄

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諏訪子の「一人称視点」で今回は描かれております。
前書きは簡潔に、本編をどうぞ。


第十話 洩矢諏訪子① 聡い子の話

 ――あーうー……。

 

 恥ずかしい。ただただ恥ずかしい。穴があったら入りたいくらい恥ずかしい。

 

 狐憑きの類が白をとり殺したのかと思っていたけど、本質的には的外れもいいところだった。あの黒い狐……名前は黒っていうけど、聞いた話と実際に視たところ、白の三つ目の人格……いや、概念? ちょっと違う。正確に言うなら……うん、魂。黒は白の三つ目の魂だった。もちろん、最初の魂は白のものだし、二番目は闢だった。

 

 調べた結果わかったけど、白ってだいぶ変わり種らしいんだよね。何が変わっているかって聞かれたら、人格が分かれているわけじゃなくて、一つの体に魂を三つも共有しているところが特別だね。

 

 あくまで私の推測だけど、本質的に白が持っていた魂は二つだけ。それが白自身と、闢だと思う。最初に白が白狐として生まれた時、白狐としての特徴から『見た者を幸運にする程度の能力』を持って生まれて、そこから白自身に信仰が集まったことで、神としての魂がその中で生まれた。闢っていうのは、きっと白から読み方を少し変えただけ。それに、幸運になることで将来を拓ける人間も居るから、そのあたりも関係しているのかな。

 

 黒は後付けの設定だね。狐の妖怪が現れてから、怖れと嫌悪を買った為に白の印象にも被害が及んで、白自身が妖怪としての一面も持った。白のもともとの種族は、ここから推測すると妖獣じゃなくて、ただの白狐、あるいは聖獣の類だね。

 

 結論だけ言うと、一匹の白狐が人間の勝手な思い込みによって後から後から設定を付け加えられた被害者、っていうことになるのかな。これだけ凄まじい風評被害はめったにないけど、逆に言えば、これは白がそれだけの影響が自身に降り注ぐほど大量の人間と触れ合ってきたことの証拠だね。信仰の量に例えれば、多分、アマテラスと同程度。狐の印象が変わるたびに、これからも注意しなくちゃいけないよ。

 

 まぁ、こういう結論に至ったから、つまり――

 

「それにしても、あの時の怒りは見事なものだったねぇ。山をも崩さんばかりの殺意に、親の仇を見る様なあの恐ろしい目は、まさに祟り神として相応しかった! ――まぁ、勘違いとあっちゃ格好もつかないけど」

 

「さっきから追い打ちかけないでよ!? あの時は貧血気味で頭もろくに回らなかったんだから!」

 

 ――こうして、宴会の席で弄られるわけだよ。

 

 しかも、よりによって敵にして協力した相手、八坂神奈子が私の隣にいるっていう最悪の位置。出席者は他にスサノオとか、アマテラスとか、タヂカラオ、スミヨシのウワツツノヲ、カムナオビ、イヅノメ、オオマガツミ、オオヤマツミ……主だった面子は、私と神奈子を含めてこんな感じだね。

 

「ぷっ、神が貧血……」

 

「あっ? イヅノメ、祟るよ」

 

「あら、怖い。しかし祟り如き、私の手に掛かれば祓うのも容易いことです。それよりも、白キュンは何処ですか?」

 

 この巫女服の女狐……私を馬鹿にするだけに飽き足らず、白にまでちょっかい掛けるなんて、よっぽど死にたいのかな。あと、キュンって何さ、キュンって。この節操無しの神崩れが……!

 

 でも、悲しいことに相性最悪なんだよね、この巫女風情とは。基本的に祟りが効きやしない。伊達に禍を正す神をやっているわけじゃないってこと。よりによって何でこいつが、白を狙おうとするのかなぁ……。

 

「ガハハハ! しかし、驚いたぞ。あの白の小僧が『やっちゃえ』などと言ったか! うむ、うむ。実に想われているではないか、諏訪子嬢」

 

「あー、うん……まぁ、それは嬉しい、けど」

 

「良い、良い。そう照れるな。あれほど器量の良い男に想われて、そなたもさぞ嬉しかろうて。どうだスサノオ! ここは一つ、白の門出を祝ってみないか!?」

 

「タヂカラオ、燥ぐな、鬱陶しい。それに、白のヤツとは勝負をつけねばならんのだ。今日来たのも、ヤツと神遊びが出来ると思って来たのに……まったく」

 

 本当に、タヂカラオは竹を割ったような性格で、どうにも憎めない。こいつの辞書には悪意という言葉が無いんだよね。

 

 そして、相変わらずスサノオはツンデレ全開だし。こいつ、此処に着くなり私に挨拶も無しに白の寝込んでいる部屋に突撃した後、大国主の薬まで使って治療までしたんだから。よくもまぁ、言い方は悪いけど、たかだか一匹の狐の為に出雲まで足を運んだね。

 

「あらあら。素直になればいいものを。白ちゃんが心配だったのでしょう? だから、わざわざ出雲まで赴いて、注連縄を引き千切って大国主の首根っこを引っ掴んで……」

 

「あっ、こら!? そんなこと指摘してる暇があったら、さっさと結婚相手くらい探せよ!」

 

「それはツクヨミに言ってあげなさい。あの子、ひどく行き遅れていて、姉としてとても心配なのです」

 

「月に引きこもったクソ兄貴のことなんか知るか!」

 

「こうは言っていますけど、実はこの子ったら、月に向けて週に一度は手紙を……」

 

「やめろバカ姉貴がぁぁぁぁぁぁ!」

 

 アマテラスも、姉弟漫才にまだ飽きていないみたいだね。ほんと、太陽みたいに良い笑顔を浮かべて……白がおひさま、なんて呼び方している理由が、少しは分かる気がするよ。

 

 でも、弟弄りはそこまでにした方が良いと思うよ。また拗ねて高天原で暴れられたら迷惑だろうし。

 

「儂ら、空気だの。どうして集まったのか、はてさて」

 

「我は同じ気配を感じてきたのだが……うぅむ、いくら探しても見当たらぬ」

 

 うん、何かごめん、オオヤマツミ。でも、近くの山にたまたま寄っていたからって、宴会にヒョイヒョイ釣られるのもどうなのさ。

 

 あと、オオマガツミ。宴会に出席する意味あったの? それと、報告くらい聞きなよ。探しているのって、きっと黒のことだよね。

 

「はて。何故我輩も呼ばれたのか。オオマガツミでも退治すればよいのか?」

 

 うん、それは多分、白に穢れが残っていた場合祓ってもらうためだと思うよ、カムナオビ。仕事のうちだと思ってあきらめた方が良いよ。

 

「アマテラスの招集には逆らえない。あと、それは絶対に違う」

 

 一番謎なのは、どうしてウワツツノヲだけ来ているのかっていうことだよ。残り二柱どうしたのよ? まぁ、私には関係ないからいいけどね。

 

 こうして改めてみてみると、どうしてこんなに濃い面子ばっかり揃ったんだろうねぇ。いや、そりゃあ戦争の事後処理とかもあるだろうけど。それにしたって、余計なのが引っ付きすぎなのよ。

 

「ガハハハ! さて、諏訪子嬢。そろそろ話のタネも無くなってきたところ。ここは一つ、白の小僧との馴れ初めを話してみては如何? そこのところ、とかく気になるのだ」

 

 タヂカラオが急にそんなことを言ってきた。いや、それ言ったら私も、どうしてスサノオやアマテラスまで白と面識があるのかすごく疑問が尽きないんだけど。

 

「……ちなみに、タヂカラオたちはどうやって出逢ったのさ?」

 

「む? そうか。話していなかったか。まぁ、大それたことは聞けないぞ。何せ、白の小僧から勝手に現れて、こちらから食事に誘って、あとは気が合ったから友だちになった、ただそれだけなのだからな!」

 

「うわっ、単純」

 

 こうもあっけらかんと言うのはタヂカラオらしいけどね。でも、もうちょっと語り方っていうものがある気がするんだけどなぁ……。

 

「私は高天原で会いました。白狐と黒狐、金狐に銀狐、仙狐、天狐、それに空狐……様々な狐を群れとして引き連れていましたね。今は尻尾が一本しかありませんが、昔は十本もありました。大きさも見事なもので、スサノオの体と同じくらいでした。ただ、それだけ成熟しているにも関わらず、白ちゃんは舌足らずで、純粋で、無垢で……とにかく愛らしかったので、たっぷりと愛でました」

 

「えっ、もともと十本なの!?」

 

 白っていつも霊力も妖力も神力もちっぽけで、尻尾も一本しかないから、てっきりあの姿だとあまり強くないと思っていたけど……え、昔そんなにとんでもない力を持っていたの? 尾が十本って、もう神様とかと同列の力を持っている筈なんだけどなぁ……。

 

 神遊びだけはやけに強いと思っていたけど、もしかして、もともと強くて資質も高かったのかな。

 

「はい。力も相当なもので、その霊力は……そう言えば、巧妙に隠していましたね。推し量ることは出来なかったのですが、少なくとも、総合的な危険度は八岐大蛇と同等以上でしょう」

 

「補足するなら、八岐大蛇は基本的にバカだ。酒をやったらヒョイヒョイ飲んで、酔っ払って、潰れる。その間に切り刻めばいいだけだから、力を持っているようで案外、危険度は低い」

 

 スサノオがそんなことを補足するように言ってくる。

 

 いや、そんなフォロー要らないよ。ますます白の凄さとか実力とかが分かりにくくなっちゃうよ。まぁ、それでも最低値が八岐大蛇の時点で、とんでもないことは分かるけど。

 

 ……うん。いや、八岐大蛇って。

 

「ちょっと冗談にしてはキツイよ?」

 

 あの白が八岐大蛇と同程度の凄い狐?

 

 うん、想像出来ないよね。どう見積もっても白単体ならちょっと長生きした狐程度だよ。神様に及ぶなんて、そんなことあるはずないよ。

 

「事実です。これは私見ですが、力で物事を見る場合、闢と黒はとっても可愛いものですよ? 底が知れていますから」

 

 ……アマテラス、とっても涼しい顔して言っているけど、さ。

 私からしてみれば、アマテラスもスサノオも、規格外なのよ? そんな規格外な存在からしたら、私や神奈子だって底知れた存在になること、理解して言っているのかな。

 

 笑顔。とってもいい笑顔で、アマテラスは言った。

 それがただただ、私には恐ろしかった。理由は分からないけど、恐ろしいとだけはしっかりと感じた。体中に鳥肌が立つくらいに、恐ろしかった。

 

「あ、でも勘違いしないでくださいね。白ちゃんは、あの純粋無垢な姿が素ですから」

 

「純粋無垢が一概に恐怖と無関係かと言えば、話は別だ。特に、友だちや仲間、部下、知り合い、周囲の繋がりと結果を考えず行動すれば、内輪からは頼りにされるが、敵にしてみれば怪物そのものに変質する。つまり、そういうことだ」

 

 スサノオがまた、要らない補足を付け加えてきた。聞きたくないことを、現実を、スサノオが必ず付け加えて、私に聞かせてくる。

 

「……じゃあ、なんで白は高天原から降りて来たのさ?」

 

 多分、これが確信を突く答えに繋がっていると思う。白が、今までどんな環境に置かれていたか、この質問の答えで分かる筈。

 

「白ちゃん曰く、『たびにでて、いろんなものをみてくる!』って、言っていました」

 

「仲間の狐はどうしたのさ?」

 

「今は稲荷大明神のところに帰属しています。白ちゃん自身は、きっと高天原に戻る気は無いでしょう。常識に疎いところもありますが、それ以上にあの子は、聡い子ですから」

 

「補足するなら、一見すれば、稲荷大明神の方が力は強く見えるだろう。……しかし、狐とはどれも聡い者ばかりだ。バカから群れを守った時から、行く末は決まっていたのだ」

 

 私は無意識のうちに立ち上がって、大広間の出口に向かって走っていた。でも、部屋から出る前に、スサノオが私の前に立ちはだかった。

 

「座れ。まだ、貴様から話を聞いてないだろう」

 

「退いて。白の、白の傍に居たいのよ」

 

 私がスサノオの顔を見上げて言うと、スサノオはギロリ、って(心臓)を貫くような鋭い視線で私を見下ろしてきた。その時、私の足は思わず後ろに退いた。

 

「要らぬ。貴様が行ったところで、何が変わる?」

 

「変わるよ! 少なくとも、もっと白に寄り添える!」

 

「阿呆。誰が、いつ、寄り添ってくれと言った? 白のヤツが言ったか? 貴様に頼んだか? そんなわけあるか。仮に、貴様が白に寄り添って何かが変わるとしよう。しかし、それは貴様の望む変化ではないと断言する。行けば、白は貴様の前に二度と現れぬぞ」

 

「どうして、そんなことが言えるのよ!?」

 

 私は声を荒げてスサノオの言葉に噛み付いた。だけど、スサノオはまるで歯牙にもかけない様子で、さも当然のように鼻を鳴らして、私を見下しながら言ってきた。

 

「哀れみ、同情、慈悲……貴様の行動原理は、大体そんなところか」

 

 また一歩、私はスサノオから退いてしまった。こちらを見透かしたような瞳が、感情の色を失った神の瞳が、私の心の隙間を掻い潜って畏怖の念を触発した。

 

「無垢、無邪気。だからこそ聡いのだ。他者の感情の動きに」

 

 あっ、と私の口から声が出た。

 

 スサノオに気づかされた。今の私の行動は、白が最も嫌う行動だ。底抜けに優しい白のことだから、白はそんな感情を持った私に対して、きっとこんなことを思っちゃう。

 

「自分が居なければ、これ以上誰も、悲しまない」

 

 ドクン、と私の心臓が図星を突かれたように飛び跳ねた。

 

「自分が居なければ、これ以上誰も、怖がらない」

 

 ドクンドクン、私の鼓動が早鐘を打つ。

 

「自分が居なければ、これ以上誰も、傷付かない」

 

 もう、耐えられなかった。

 

 スサノオの言葉に負けて、私は自分の席に戻った。スサノオは多分、そんな私を見て、何食わぬ顔で席に着いたと思う。

 

「幼子とは、総じて厄介なものだ。聡いが、考えはとても幼い。特に感情の機敏には聡い。聡い故に、自己で解決できるならば、すぐに行動してしまう」

 

 悔しいけど、その通りだと思う。きっと、白なら私が悲しんでいて、それが自分のせいだと気づいて、何も告げずにどっかに行っちゃうと思う。

 

 それくらい、白は真っ直ぐすぎるから。

 

「これ、スサノオ。場の空気を湿らせてどうする? 盛り上がりに欠けるではないか。諏訪子嬢も、気づいたのであればそれで良いではないか。幸い、過ちは犯さなかった。ならば、それを喜びながら、明るく楽しく、白の小僧との馴れ初めを話してみよ。ここで考え込んでも、得られるものは少ない。それどころか、その気持ちを引き摺って、白の小僧に悟られてしまえば、今度こそ、過ちを犯すことになる。だからこそ、今ここで明るい話をするのだ」

 

 確かに、タヂカラオの言う通りだよ。こんな風に落ち込んでいるところを白に見られたら、きっと、今度こそ白は私の前から居なくなっちゃう。

 

なら、ここで気分を入れ替えるために白との出会いの話をする方が、何倍も良いわ!

 

「そうだね。うん。じゃあ、白との出会いから今に至るまで、とことん話し尽しちゃうよ!」

 

 おおーっ! と、神々が楽しそうに杯を掲げて声を上げた。本当に、神様っていう奴は、宴会や酒の肴になる面白い話が好きだよね。私もそうだけど。

 

 さて、じゃあ私の話をしようかな。

 

 

 

 ――あれは、雪の降る、寒い、寒い日の事だった。

 

 

 




戦闘描写? 敢えてキンクリしました()

さて、次はいよいよ、諏訪子と白の出逢いについてです。

一人称視点の優秀なところは、嘘は入れられないけれど、勘違いさせることは出来る、というところにありますよね。
主眼となる人物がそうだと思えば、白でも黒になるんです。どこかの閻魔様みたいに。

あと、神遊びだけ強くて、実際に弱いなんてそんなこと普通は有り得ませんよ。神遊びの点、あとクラピーに押し倒された時に一度体勢が逆転した時、これが伏線です。分かりにくくて申し訳ないです。


先に予告しておきますと、白はへカーティア様が裸足で逃げ出すほどチートです。勝率がゼロです。
ただし、映姫様が相手をすると勝率が出現します。へカーティア様が映姫様と協力するならば、ほぼ間違いなく白に勝てます。

他にも、白に勝てる可能性のある人物はある程度存在します。ただし、勝てる可能性のある人物よりは、勝てない可能性の人物の方が大多数であることは間違いありません。


この二名だけならば比較対象にしても、流石に答えにはいきつくことは出来ないと思い、ここで判断材料、ヒントとして提示させていただきました。


さて、そんなヒントだけを大暴投しながら、今回はここまでということで。

感想、評価、コメント、ご指摘、などなどお待ちしております。
これらは全て、私のモチベーションの燃料ですから!

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