白狐+ショタ=正義! ~世界は厳しく甘ったるい~ 作:星の屑鉄
さて、諏訪子視点は今回の話で終了です。
それでは、本編をどうぞ。
雪解けはとっくに終わり、既に木々は桜のつぼみを付けている。ちらほらと、花開いたつぼみもあれば、まだつぼみのままの桜もある。花は咲き誇り、散る姿はほとんど見られない。その代わり、神社の周りには桜によって程良く色づいた景観が映し出されていた。満開ではないが、たまには三分咲き程度の木々を見るのも一興というものだ。
春の陽光に照らされながら、二人は縁側に居た。だらーっ、と寝転びながら、日向ぼっこの真っ最中だった。
そんな中、不意に縁側に寝転ぶ一人、白が提案をしてきた。隠れ家に友だちが居るけど、一緒に来てみないか、と。
「……友だち?」
「うんっ! るーみあ、ゆーか、まみぞう、みんなとなかよし!」
当然ながら聞いたことの無い名前だった。けれども、人間の名前にしては珍しい。もしかして同じ狐の友だちかな、などと思いながら、縁側のもう一人は起き上がって答えた。
「それじゃあ、今すぐ行こっか。案内よろしく」
「うん! びゃく、おねがい!」
――あの時は本当に驚いたよ。だって、白が九尾の狐神になったんだから。本当にあの時はポカーンっていう風に呆然としちゃって。闢の力も相当のものだから、白の印象が一気に変わったよ。
白は闢という、大きな九尾の狐に変わって大地を一度鳴らした。すると、目の前の空間に裂け目が出来た。闢は一度縁側の方を見た後、すぐに裂け目に向き直ってその中に入って行った。
――あの時は呆然としたけど、すぐに白を追わなくちゃ、って思って、裂け目の中に入って行ったよ。あれが底知れたなんて、私にはとても思えないわ。
そして空間の裂け目を真っ直ぐ抜けた先に見えたものは――
「あのクソ野郎ォ! また白の服脱ぎ散らかしやがって!」
ただの闇の世界であった。目の前は瞼を開けているのに真っ暗で、何も見えない。しかし、そんな世界が目の前に広がっているというのに、敵意や殺意というものは周囲からまるで感じられなかった。女性が怒声を発しているが、少なくとも自分に矛先が向いているわけではなかった。
「あっ、またびゃく! う~、こんどおしおきする!」
今度は白の声が聞こえてきた。何処となく焦っているような、ちょっと怒っているような雰囲気だ。その言葉の後には、すぐに衣擦れの音が聞こえてきた。しかし、それもすぐに収まり、「もうだいじょーぶ!」という白の声と共に、目の前の闇が跡形もなく消えた。
「……えっ、誰?」
すると、目の前には金髪と白黒の洋服が特徴的な女性が立っていた。そのすぐ傍には白が両手を広げて、服をお披露目するように立っていた。
「いや、そりゃ私の台詞だよ。……まぁ、白が連れて来たってことは、友だちだろ?」
「うん。……貴方も?」
「そう。私はルーミア。分かっていると思うけど、妖怪だよ」
「そっか。私は洩矢諏訪子。分かっていると思うけど、神様よ」
「……あぁ、諏訪の神様か。また随分と遠くから。ここは大和の国にある、白と私たちの隠れ家だよ。くれぐれも、密告なんてしないでくれよ? 神軍になんて攻められちゃ堪んないからね」
「そんなことするつもりは初めから無いよ。それよりも……」
そこで一度、言葉を濁した。金髪の女性、ルーミアの後ろに居る二名が、余りにも怪し過ぎた。一人は愉悦の笑みを浮かべる緑色の髪の女性で、もう一人はカラカラと面白そうに笑いながら昼間から酒を飲む茶髪の女性だ。ルーミアの後ろに控えながら、我関せずの構えを貫く姿が、妙に緊張感を刺激する。
「あぁ、後ろの二人? 緑が風見幽香。茶色が二ッ岩マミゾウ。どっちも妖怪だよ。隙あれば白を食べようとする、ね」
「あら、人聞きの悪い。ただちょっと、物事を教えるだけよ」
「儂は気分次第といったところじゃ」
警戒度がより上向きに傾いた。油断ならない相手だと、ルーミアの後ろの二人を鋭く視線で射抜いた。
「……退治した方が良いのかしら?」
「あら、やる気? この土地で、十全に力を発揮出来るのかしら?」
「これでも私は神様。土着神でも、貴方くらいの妖怪の退治、土地柄関係なく出来るわ」
「そう」
直後、緑こと風見幽香は手に持っていた日傘の先端を向けると、そのまま特大の光が真っ直ぐに奔る。ほとんど溜めも無く撃ってきたが、ルーミアは白を抱えてそれを無事に避けた。
――いやぁ、あの時は危なかったよ。あんなに素早く魔力砲撃するなんて予想外だったし。まぁ、何とか紙一重で横に避けたわ。
「あら、意外と素早いのね」
「っ、いきなり白も巻き込む形で砲撃するなんて馬鹿なの!?」
「白なら平気よ。少なくとも、あの妖怪が付いている間は安心ね」
「だからって、いきなりぶっ放すなよ! あんた、もう少し自重してくれ!」
「嫌よ。面白味がないわ」
「言うに事欠いてそれか! 白が怪我をしたらどうするんだ!?」
「その時は、私がたっぷり、ねっとり、手厚い看病をするわ」
風見幽香はそんなことを言って、唇を舌で舐めて濡らした。濡らした唇が妙な光沢を得たせいで、その姿が背中に寒気が奔るほど艶めかしく見える。
――その時、私は悟ったのよ。こいつ、隙があれば白を性的にペロッと食べようとしている、ってね。だから、ルーミアの方に目配せして、一緒に倒そうって提案したわ。
「……よし。私も参戦する。流石に白に怪我させると聞いたら、黙っちゃおけない」
「あら、なら私は降りるわ。蹂躙されるのは嫌いなの」
ルーミアの一声で、風見幽香はあっさりと勝負の舞台から降りた。意外にも、相手は素直に戦いを放棄した。二人相手でも戦うと思われるほど好戦的かと思えば、引き際はしっかりと見極めているらしい。
「ちっ。今度やったら本気で制裁するよ」
「あら、貴方一人なら大歓迎よ。貴方を倒せば、白は私の自由に出来るもの」
「……やっぱ、ここで退治するか」
「冗談よ。半分くらい」
「私も退治するに賛成。ルーミアだっけ。あの緑色、ヤルよ」
「あぁ、そうしよう」
じり、と土着神の頂点とルーミアが風見幽香に近づいた。しかし、風見幽香は驚くほど穏やかな笑みを浮かべて、白の方を見て言った。
「血の気が多いわね。白、こっちで花の世話でもしましょう」
「うん!」
とてとて、とルーミアの近くに居た白が、風見幽香のたった一言に釣られてしまった。風見幽香は白の手を握ると、対峙していた二人に背を向けて歩き始めた。
「………」
ニヤリ、と風見幽香は勝負しようとした二人に対して、嘲るような、馬鹿にするような笑みを浮かべて振り返った。しかし、それも一瞬で、また前を向いて歩きだすものだから、戦おうとしていた二人は立ち尽くすことしか出来なかった。
「――しまった! 白とアイツが二人きりに!?」
ふと、我に返ったルーミアは泡を食って風見幽香を追いかけた。
――私もその一言に今の状況を気づかされて、本当に急いで追い掛けたよ。結果的に、あの風見幽香ってやつの一人勝ちだったね。まぁ、その後は特に大事も無く、マミゾウとやらも含めて、そいつの花畑の手入れをやったよ。意外と楽しかったね、神と妖怪の交流ってやつも。
――そしてこれは、最近の事。神奈子が送ってきた文を見た後のこと。
もう戦争は明日だって言うのに、夕焼けの空の下で二人は遊んでいた。狐の耳と尻尾をつけた影が逃げて、帽子を被った影が追う。じゃれ合いみたいな鬼ごっこだったけど、それがとても心地よくて、楽しかった。
制限時間は日が沈むまで。
――あぁ、もう日が沈んじゃう。白と遊ぶのも、これで最後になるかもしれない。なんて、柄にもなく感傷に浸っちゃって。鬼はずっと私のまま日は沈んで、日の沈んだ場所を名残惜しく見つめていた。
「すわこ……?」
「あっ、ううん。何でもないよ、白」
――そんなこと言って平気なフリしちゃって、私は夕飯の用意をして、白とそれを一緒に食べて、一緒の部屋で寝て。
「すわこ」
――あの日、私の決心は固まった。絶対に、この土地を守り通すんだ、ってね。
「やくそく! あしたもあそぼうね!」
――でも、結局遊べなかったから、約束も土地も守れなかった。それはちょっと悲しいけど、今は白が無事で良かったってことで一杯かな。
――これが、私と白の馴れ初めと、先日までの出来事。所々端折ったけど、酒の肴にはなったでしょ?
◆
宴会の席は今も賑やかだ。諏訪子が話し終わってから、誰もが遠慮無用に様々な神と話をしている。
終わりをみせる気配はなく、終わらせるためには神々が酔い潰れなければならないだろう。
ふと、雨音が聞こえて来た。最初は小雨程度かと思えば、次の瞬間には豪雨となって神社を殴りつける。諏訪子はその雨に露骨に嫌な顔をしながら、天井を睨み付けた。同様に、他の神々も上を向いた。
「あら、珍しい方ですね」
アマテラスが呟いた。その顔は微笑みながらも、穏やかなものではなかった。いつの間にか髪を解いて
スサノオの様子も変わった。その手に十拳剣を握り、全身の毛を逆立たせて顔を怒りに染め上げていた。
諏訪子は天を睨み付けたまま、仏頂面を顔に張り付けている。
神奈子は「面倒だねぇ」と頭を掻きながらも、酒を飲んで宴会を満喫している。
タヂカラオは特に何をするでもなく、マイペースに徳利を仰いでいる。
同様に、これら以外の神々も宴会を楽しんでいる。
「…………?」
雨音が少しずつ止んでいく。豪雨から大雨に、大雨から普通の雨に、そして小雨に、最後には音が無くなり、外を見れば月の光が差していた。
「方向は大和の方ですね。申し訳ありませんが、私は一度、大和の国に帰ります。……スサノオ、貴方は此処に残りなさい」
「わかった。……白の様子を見てくる。お前たちはいつも通り騒いでおけ」
貴き二柱は短く言うと、アマテラスはそのまま宴会会場から姿を消した。スサノオは白の居る部屋に足早に向かっていった。
「私も行くよ」
「……好きにしろ」
諏訪子も宴会会場を抜け出して、スサノオについていく。スサノオは早足のつもりだが、諏訪子にとっては走らなければ追いつけないほどの速さだ。
「白、開けるぞ」
障子を開けると、暗い部屋の中に月の光が差し込んだ。畳の敷かれた見事な和室だ。中央には寝床が用意されているが、そこには誰も居なかった。
「……ちっ。挑発などに乗らなければ良いものを」
苛立ったように、また足早にスサノオが来た道を逆走する。スサノオはあっさりとした反応だったが、諏訪子はこの不意打ちに、ただ頭が混乱していた。
「白……? あれ、何処いったの?」
「宴会の場に戻れ。いずれ戻ってくる」
スサノオは律儀に諏訪子に言葉を返した。
しかし、諏訪子は凄まじい混乱の渦に突き落とされていた。そのせいで、言葉を返された直後に、意味も無くスサノオの言葉に噛み付いた。
「どうなっているのよ! 知っているの!? 白が何処に居るか、知っているの!?」
「……大方、妖怪の友の所にでも行ったのだろう。故に、貴様の出番は無い。おとなしく、宴会の場に戻れ」
「白ッ!」
諏訪子は神社を飛び出して、アマテラスと同じ方角に走り去った。彼女の頭の中では、白が何者かに誘導されたと考えていた。それを、アマテラスが一人で追っていったのだと。
突然の大雨に、それがアマテラスの赴く場所と同じ方角に去っていく。これだけしか状況証拠は無いが、逆にこれだけしかないからこそ、諏訪子は安直にその答えに一切の疑いを持たず、すぐさま行動した。
「……警告はしたぞ。それが、貴様の選んだ未来だ」
諏訪子が去った後、スサノオはふん、と鼻を鳴らして宴会の場に戻る。戻れば後のことは気にしないとばかりに、酔い潰れるまで酒を浴びるように飲んだという。
運命は今、水面に波紋を広げて決定した。
だからこそ、この言葉が相応しいだろう。
「ごめんね。」
――あのときあわなければ、きっと……。
そうして歴史は、いつも白紙に戻る。
ただ真っ白な、”白”色にリセットされる。
それでも歴史はまた、同じ物語を刻み続けるのだ。
諏訪編もそろそろ終盤に掛かってきました。
何が起こっているのか、皆様は先が分かるでしょうか。
シリアスは近い(白目)
感想、コメント、評価、ご指摘などなど、お待ちしております。