白狐+ショタ=正義! ~世界は厳しく甘ったるい~   作:星の屑鉄

14 / 25
さて、第二章もこの話をもって終了となります。

読者の皆様は、物語の中に隠された真実に気付けるでしょうか?
それはそれは残酷な話です。気づくが吉か、気づかぬが幸せか。

それでは、本編をどうぞ。


第十四話 その後

 

 深い、深い、とても深い森の中。人間の決して到達することの出来ない迷いの森の中には、一人の男の子が膝を着いて嗚咽を漏らしていた。

 立派な白と藍色を基調とした着物は所々焼け焦げて穴が開いている。白と藍色は泥水によってすっかり色が変わり、全体的に汚らしい。

 

 服装だけではない。男の子には狐耳と十本の尻尾が生えていた。元は綺麗な穢れを知らぬ純白の尻尾は、今や見る影もなく、所々固まった泥が付着しており、また毛並みも荒れているように見える。

 

「えぐっ、うっ、え、ぅ……!」

 

 男の子の名前は白という。彼は先の龍神との戦いの後、決着がつくと逃げる様に富士山の樹海に潜り込んだ。

 

 ――此処は誰も知り得ない彼が弱音を吐く場所だった。

 悲しいことがあれば、辛いことがあれば、耐えられないことがあれば、真っ先に此処に訪れて、心の傷を癒していた。

 どうして此処なのか。それは非常に簡単だ。

 

 ――長は誰かに涙を見せちゃいけない。

 

 そんな彼の理念が誰も知らぬ秘境へと駆り出したのだ。

 

「――っ! うぇ、うっ」

 

 大きな泣き声が、富士の樹海に寂しく響き渡った。

 

 思い出すだけで声が止まらない。彼が全力を出した時、誰かを守ろうと躍起になった時、いつも決まって守ろうとした者たちが彼に恐怖する。恐怖を含んだ瞳が自身を射抜く瞬間の怖気、それをどうしても忘れることが出来ない。あの視線に貫かれると、まるで自分の存在を否定されているかのような錯覚に陥る。

 

 彼はただ、大切な者を守りたかっただけだ。そんな彼の心と関係なく、大切な者たちは恐怖を抱く。それが仕方ないことだと頭では分かっていても、心まで納得させることは出来ない。

 

「っ!」

 

 今回、恐怖に震えた瞳は八つあった。それを思い出すだけで、全身に鳥肌が立ち、尻尾の毛が逆立ち、身体の震えが止まらない。あれだけ仲の良かった、付き合いの長かった者も、歴史を繰り返した。

 

「っ! ぅ――」

 

 喉元まで熱い何かが上がってきたが、白は何とかそれを飲み下す。

 

 いつものことだ。思い出したくも無い、忘れられない、数えるのも烏滸がましい瞳が恐怖を宿して彼を射抜いた時の記憶がフラッシュバックしたのだ。もう、群れの狐たちの顔も思い出せない。思い出そうとしても、恐怖の瞳ばかりが浮かんで、白を容赦なく責め立ててくる。

 

 ――怖い。

 ――近寄るな。

 ――あっちいけ。

 

 誰よりも感情に敏感だからこそ、相手の無意識の恐怖まで感じ取る彼は、その時は群れから一人去って、高天原という世界からも消え去った。

 自分が誰かを恐怖させる現実に、彼は耐え切れなかった。

 

 地上に降り立ったのは良いものの、なかなか友だちは出来なかった。誰かを怖がらせないために力を抑えていると、妖怪たちは好き勝手に白を害そうとする。下級、中級あたりの妖怪は特にその傾向があった。

 そんな中で出来た友だちが、たった一人ではあるけれど、ルーミアだった。

 ルーミアは白と一緒によく遊んでくれた。世話焼きな性格なのか、教育ママのように厳しく指導したこともあった。外敵がくればいつも守ってくれた。

 

 その後は、ツクヨミや永琳、依姫と豊姫、タヂカラオやクラウンピースなどと出逢い、良好な友だち関係を築いていったが、気づけば周りからは誰もが居なくなっていた。

 

 ルーミアの他にも、風見幽香や二ッ岩マミゾウ、諏訪子とも友だちになったが、結局最後は龍神襲来をきっかけに、白は彼女らのもとを去った。龍神の性格上、このままの関係を何とか維持しようとしても、また来襲してくることを知っていた彼は、結局その結末を選んでしまった。

 

 白は縁りを戻そうなどとは思わない。戻しても、また壊れると知ってしまっていたから。

 

 あの狐の群れのように、一度は仲直りしても、立て続けに龍神が来襲して、結局追い出されることは分かっていた。

 ならば、お互いに禍根を残さないうちに、交流を絶った方が良いに決まっている。

 

 そんな経験をしてでも彼が出逢いを求めるのは、そんな自分でも認めてくれる存在を、ただひたすら求めていただけなのだ。

 

 鉛筆で白紙に名前を書いて、消しゴムで白紙に戻して、また名前を書いて、白紙に戻す。その繰り返しこそが、彼の歴史だ。

 

「っ、あっちいけ!」

 

 ふと、彼は誰かの視線を感じた。強がりで意地っ張りで、先ほど傷付いたばかりの彼はこの時ばかりは拒絶の言葉を乱暴に投げつけて、全力で出鱈目に霊力を放出した。その力は富士の樹海を震わせ、局地的な地震を発生させる。放出した際に発生した衝撃波は周辺の大木を軒並み圧し折り、立ち上る霊力は天を貫く柱となる。

 

 これだけ力を放出すれば、龍神にはすぐに気づかれるが、あれだけ痛めつけた翌日に来るとも思えない。

 ただし、別に白にそのような合理的考えがあったわけではない。今回の力の放出ばかりは、癇癪に近かった。

 

「ゔゔゔぅぅぅ!」

 

 喉を鳴らして、涙を溜めた瞳で睨み付け、大地に両足と両手をつけて獣のように威嚇する。

 

 すると、睨み付けていた空間が横に裂けた。両端はリボンのようなもので留められて、裂け目からは趣味の悪い目玉が覗いている。中は全体的に紫色に空間が湾曲している。

 

「かえれっ!」

 

 目玉を見た瞬間、白は拒絶反応を起こしたように一歩後ろに退き、更に表情を険しく歪めた。唸り声も低くなり、霊力の放出はとうとう大地を割るほど昂った。

 

 しかし、そんな威嚇は効果を成さなかった。空間の裂け目からは、薄暗い中でもハッキリわかるほど艶めいた長い金髪とドアノブキャップのような特徴的な帽子を被った少女が現れた。

 

「そんなに唸らないで。私は、貴方の敵ではないわ」

 

 少女は開口一番に、優しい声音で白に告げた。

 

 しかし、白はその十本の尻尾のうち一本を少女に向けると、その顔のすぐ真横に向けて霊力の弾丸を撃った。すると、少女の背後にあった空間の裂け目に着弾し、それは見事に爆散して跡形もなくなってしまった。

 

 先ほどの攻撃がもしも少女に当たれば、彼女はなす術も無く死んでいただろう。それを理解していながら、少女は前に一歩、踏み出した。

 

「くるなっ!」

 

 少女の頭上を、真横を、時に首のギリギリ掠めない程度に、霊力の弾丸が豪雨のように飛んできた。しかし、それでも少女は一歩、一歩、しっかりと踏みしめて白に向けて真っ直ぐに歩いていく。

 

 白は手加減無しに弾幕をばら撒く。

 

 ――少女の目の前で彼女を避ける様に交差する霊力のレーザーを放った。

 少女はまるで動じることなく歩いている。

 

 ――少女の目の前に数千の霊力弾をばら撒いた。

 少女が真っ直ぐ歩くと、その霊力弾は全て少女を避ける様に散らばった。

 

 ――少女の真横に霊力のレーザーを撃った。そのレーザーは途中で少女に向かうように直角に曲がり、しかしまた進路を変えて、結局少女には当たらない。

 少女は意に介した様子もなく歩いている。もう、白と少女の距離はほとんどない。

 

「っ、もう!」

 

 ――数万の霊力弾がばら撒かれた。まるで壁が迫ってくるかのようだ。今度こそ、少女に直撃する弾が数多く存在した。

 少女は全てを理解して、その口に微笑みを浮かべた。歩みを止めることは無い。

 

 直後、少女に数十の霊力弾が着弾すると同時に、周囲の霊力弾も大地に着弾し、濃い砂塵を巻き起こした。

 

「っ!」

 

 白はこの場から逃げようと踵を返した。そして足に力を入れようとした時、不意に背後から手を回されて抱きしめられた。そのせいで、彼は足に力を入れることが出来なかった。

 

「私の名前は、八雲紫」

 

 先ほどの少女、八雲紫の声が聞こえてきた。当然だ。白は彼女に当たる霊力弾だけは、彼女が傷つかないように絶妙な手加減を施した。それ以外の弾の威力は、瀕死の重傷を負う程度の力加減をした。

 

 真っ直ぐ歩いてきた少女が無傷なのは当然のことだった。

 

「貴方の名前は?」

 

「……はく」

 

「そう。白、ね」

 

 こくり、と白は途端に大人しくなって、八雲紫が自分に回している手を遠慮がちに握った。すると、八雲紫はその手をギュっと握り返した。それにビックリしたのか、白の体が大きく跳ねた。

 

「私は、貴方と友だちになりたいと思って来たの」

 

「……とも、だち?」

 

「そう。友だち」

 

 白の全身が震えはじめた。まだ彼は、先日のトラウマを乗り切っていなかった。友だちという単語に思わず恐怖が渦巻き、過呼吸が起こり、苦しみだした。

 

 八雲紫は強く、優しく、白の震えを殺すように抱きしめた。彼の手を両手の温もりに包んで、彼の体を抱きとめて温もりを伝え、その恐怖を消し去ろうと慈母の様に静かにあやした。

 

「……こわがらない?」

 

「えぇ。もちろん。だって、貴方はこんなに優しいもの」

 

「……はなれていかない?」

 

「貴方がそう望んでも、私は白と一緒に居たいわ」

 

「……きらいにならない?」

 

「きっと、今まで貴方と仲良くしていた者の中でも、貴方を嫌いになった人は少ないわ。それに、私は貴方を嫌いにならない。約束するわ」

 

「……りゅうじんがくるよ?」

 

「説得をすれば良いわ。きっとそれは、私の夢の第一歩にもなる」

 

「……ゆめ?」

 

「そう。夢。妖怪と人間が共存できる世界を作ること」

 

「……そっか」

 

 震えは止まっていた。呼吸も落ち着いていた。今はすっかり紫に背を預けて、俯いてしまった。

 

「ともだち」

 

 不意に、白が消え入りそうなほど小さな声で呟いた。

 

「はくとゆかり、ともだち。ずっと、ずっと、やくそく」

 

「えぇ。約束よ。ずっと、友だち」

 

 紫の言葉を聞いて安心したのか、白はすやすやと寝息を立てた。紫は眠っている白を優しく抱きしめて、その様子を彼が起きるまで眺め続けるのであった。

 

 

 

 彼だけの秘密の場所は、もう使われることもないだろう。

 先ほど全てを曝け出しても恐怖しなかった友が居るのだから。

 白にはやっと、帰る場所が出来たのだから。

 

 

 

 寝ている間に、一滴の涙が頬を濡らした。

 嬉しさ故の涙を彼は初めて流した。

 

 その姿を見て、笑みを浮かべる者が一人。

 

 世界はとっても厳しいけれど。

 時が経てば、きっと甘ったるい時間が訪れる。

 

 ――彼は今、壁を乗り越えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方で、後に幻想郷担当の閻魔となる四季映姫・ヤマザナドゥは、後に八雲紫を見た直後に一言、こんなことを言った。

 

「黒ですね」

 

 そんな閻魔に向けて、八雲紫も真似するように言葉を手向けた。

 

「貴方も黒。そうでしょう?」

 

 そんな会話は、遠い未来の話である。そんな話はここで終わりにしてしまおう。

 

 次は、ある妖怪のエピローグだ。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 あの日、あの時、私はなんて過ちを犯してしまったのだろうか。

 

 龍神が訪れたあの日、私たちはいつものように隠れ家に居た。日がな一日、私は能天気に闇の中で寝ていた。花の妖怪はいつも通り花畑の世話をしていた。狸の妖怪はのらりくらりと何処かに出掛けて、日が沈めば此処に帰ってきた。

 

 協調性の欠片も無い集団だけれど、それが私たちだ。白を中心に回って、後はお互いに不干渉。暇な妖怪同士は杯を交わしたり、話し相手になったりと、そんな感じで暮らしていた。

 

 でも、その日の夜は全てが違った。

 全てが変わった。

 激しい怒りに包まれた。

 

 私たちは勘違いしていた。白の力は、闢なんかと比べ物にならないほど圧倒的なものだった。十尾の狐の真の力は、此処に襲来した龍神さえも上回っていた。

 

 私たちはその戦いを間近で見た。土砂と滝の様な雨に流されないように、戦闘の余波に吹き飛ばされないように、この時ばかりは力を合わせて耐え抜きながら、白と龍神の戦いを見守った。

 

 龍神は強い。一声鳴けば空が割れ、雷が地上を撃った。その体が波打てば山一つが瞬く間に崩れて、息を吐けば嵐となって全てを吹き飛ばした。本気の神力からの攻撃は形容し難い威力だった。少なくとも、私たちが狙われたら確実に死んでいた。

 対する白はそれ以上に強かった。雨も、雷も、嵐もモノともしない様子で、宙で何度も跳び跳ねながら、龍神に肉薄して尻尾で叩き落として、突き刺して、時に霊力を用いて龍神の神力を凌いで、また攻勢に回る。戦いの中で、白は一度たりとも傷付かなかった。

 

 その戦いは、力だけを見るなら理解を超越していた。まるで幻想のような感覚だった。だけど、次第にそれを自分に置き換えてみれば、途端に恐ろしくなった。でも、白が頑張っているのに、私だけが戦いから目を離すことは出来なくて、怯えながらずっと戦いを見守った。

 

 多分、花妖怪や狸の妖怪も同じ気持ちだった筈だ。この中でも、おそらく単純な力なら私が一番強い。その私が恐怖を覚えるほどの戦いを見て、あの二人が恐怖を抱かない筈がない。例え戦いが大好きだったとしても、あれだけは勘弁してほしいと思ってしまうだろう。何せ、私たちじゃ文字通り手も足も出ないから。

 

 それと、途中に諏訪の神もこっちに避難してきた。私と同様に、白の変わりっぷりと龍神との戦いを見て萎縮している様子だった。

 

「なんなのさ、これ」

 

 私と同じように握りこぶしを固めて、自分の無力さを嘆いているようだった。その気持ちは痛いくらいに分かる。

 自分で言うのもおかしな話だけど、今まで母親のように接してきた私は、白の安全をこんな時でも願っていた。龍神の攻撃一つ一つ、当たったらタダじゃすまないことは分かりきっていた。そのせいで、今度は別の恐怖、白が死んでしまうんじゃないか、っていう不安にまで駆られてしまった。

 

「あっ――」

 

 ふと空を見上げると、丸い満月が見えた。雲はすっかり無くなって、見覚えのある影が空に一つと、見覚えの無い影が空に一つ、地に伏した巨大な影が一つ、それらが鮮明に見えた。

 

「…………」

 

 見覚えのある影の顔で、不意に何かが煌めいた。それから少しずつ後退していったから、思わずその場で空に向かって手を伸ばして、必死に叫んだ。「行くな!」って。

 私の必死の声は届いたのか、それとも届かなかったのか。白は踵を返して、その姿を眩ませた。それを確認すると、途端に私の中で罪悪感と不安が渦巻いた。

 いや、それは確信に近かった。私はもう、二度と白に会えないっていう最悪の確信が心の中で芽生えた。そんな筈はない、って心の中でどれだけ叫んでも、嫌な予感ばかりが膨れていった。

 

「こんばんは。皆々様」

 

 見慣れない人影が、こっちにやって来て声を掛けてきた。私は闇の妖怪だから、特にそいつに反応して、思わず体が跳ねた。神力の量、質、そして威光、どれをとっても規格外なそいつは、間違いなく最上位の神格持ちだって、その時は容易に予想が出来た。ついでに、そいつが太陽に近しい存在だとも分かった。

 

「私はアマテラス。白ちゃんについて、一つお知らせをしようと思い、こちらに赴きました」

 

 やっぱり、太陽神。それも、最高神だ。

 誰もがその威光を前に口を開けられない様子を盾にして、そいつは勝手に話を進めていく。

 

「白ちゃんのことですが、先に宣言しておきます」

 

 胸のざわめきが最高潮に達した。思わず私はその光の前に一歩後ろに退いたけど、その透き通った声は容赦なく私の耳に届いた。

 

「貴方達の前には、もはや白ちゃんは現れないことでしょう」

 

 心臓を貫かれたような思いだった。膝から力が一気に抜けて、私はその時地面にへたり込んだ。何がいけなかったのか、その時はまだ理解していなかった。ただ、得体のしれないざわめきがあっただけだ。

 

 どうして、と聞きたくても、私の口は動いてくれなかった。それは最高神の威光のせいか、それとも私の精神が参っていたせいかは、今になっても分からない。

 

「白ちゃんは昔、高天原のほぼすべての狐の群れを率いていました。しかし、そこに八岐大蛇が襲来し、立て続けに龍神が襲来したせいで、白ちゃんは群れから離れざるを得ませんでした。何故だか分かりますか?」

 

 龍神。そう、龍神だ。今回も第一の原因は龍神が作った。アイツさえ来なければ、今頃はこんなことも起きずに、また白と会う日を楽しみに出来た筈だ。

 

「弱者の心と安寧を守るために、白ちゃんは離れざるを得なかったのです。白ちゃんは誰かを恐怖させることを、誰かに恐怖されることに恐怖していますから」

 

 ……確かに、あの戦いに私は恐怖した。

 まさかそれがいけなかったなんて、思いもしなかった。でも、こればかりはどうしようもなかった。

 

「それに、一度気づかれた集団の中に居たら、また近いうちに龍神がやってくる。ならばいっそのこと、自分が居ない方が良い」

 

 白の考えの代弁は、すんなりと納得がいくものだった。白なら考えそうなことだ、と今まで接してきた経験が言っている。

 同時に、もう会うことはないだろう、なんて答えが頭の中で出されていた。

 

「叶わぬ希望は持たない方が良いものです。それが大妖怪や神ともなれば尚更です。なので、此の度はわざわざ私の口からお伝えさせていただきました。どうか新しい目標を立てられることを願っております。それでは」

 

 最高神はそう言って、何処かへと消え去った。

 

 

 

 それからのことを話そうと思う。

 もう集まる必要も無いと思って、私は花妖怪と狸の妖怪と別れて、適当に各地を転々として、時に妖怪らしく人を襲って、食べて、襲ってくる妖怪を蹴散らして、そんな昔と同じ生活に戻っていた。

 

 花妖怪はどうやら、また新しい花畑を作るために、何処か新しい拠点を見つけるために旅に出るらしい。

 狸の妖怪は佐渡の方に本拠地を置くらしい。酒を持って来れば、たまには話し相手になってやる、なんて偉そうに言って別れたことは、少し古い記憶だ。

 

 

 

 長い時間が過ぎ去った中で。

 私の事で1つだけ変わったことがあるといえば。

 

「……いくら食べても、何をやっても、満たされない」

 

 骨の山の頂の上で溜息を吐きながら、私は憎たらしい満月を睨んだ。

 

 腹は既に満腹だ。

 だけど、心ばかりはどうしても満たされることが無かった。

 

 何を食っても、何をしても、妖怪としてどんな残虐な行為に及んでも、心の渇きはまるで満たされない。

 遠方にあると呼ばれる砂だけの土地、砂漠とやらも、もしかしたらこんな気分なのかもしれない。

 

「なぁ、あの話聞いたか?」

 

「何の話だよ」

 

 不意に、森の中から人間の声がした。かなり鮮明に聞こえてきた。おそらく、すぐ近くに居るのだろう。今回はどんな殺し方をしようか、などと私は考えながら、闇を纏って人間たちに近寄った。

 

「ほら、先日にあった九尾の騒ぎ」

 

「あぁ、知ってる。何でも、その九尾を助ける十尾の子どもが居たって話じゃないか。それも白い狐の男の子。縁起物だからねぇ。そのせいで、貴族様方も手を出せなくて、見逃したってやつだろ?」

 

「そうそう。いつか、白い狐様には会ってみてぇもんだよなぁ」

 

「ちがいね――」

 

 私はすぐさま、妖怪の身体能力を余すことなく使って、人間たちの首根っこを掴んで大地に伏せた。相手が男だったためか、私の顔をみた瞬間に「ヒィ!」と短く悲鳴を上げたり、「犯される!」などと誰がそんなことするかと吐き捨てたくなるような言葉が聞こえてきたが、そんなこと今はどうでも良かった。

 

「教えろ」

 

 私は地に伏せた男二人を見下ろしながら、首根っこをギリギリ死なない程度に掴んで言った。

 

「その白い狐について、知っていることを全て話せ」

 

 私の心は、この日、少しばかり満たされた。

 たった一滴の潤いでも、それは確かに、私の心に浸透していった。

 

 




大聖母ゆかりん誕生☆彡
???「ゆかりん大勝利☆」
さて、あなたの想像するゆかりんは、どんなゆかりんでしょう?
私はこんな大聖母が居ても良いと思います。


さて、おふざけも此処までとして、第二章までお付き合い、ご愛読の方をまことにありがとうございます!

龍神との戦闘描写? そんなものカットです。カット。はい、夢は掴めないからこそ美しいのです。いえ、実はちゃんとした理由もありますよ? 描写したらネタバレになるとか。

ちなみに、この物語の核心に触れる構造については、以上の話を以て、注意深く見て、あとはそのネタを知っていれば、しっかりと核心へ至ることが出来るようにしました。ネタの方については、基本的にほとんどの方が知っていると思います。アニメ好きの方であれば、絶対に分かるネタです。ゲーム好きの方でも知っている方は多いでしょう。ある一定の小説がお好きな方は、絶対に知っているネタです。ジャンルを言ってしまうと答えに辿り着くことが容易になってしまうので、そちらは伏せさせていただきます。


あとは、前話に示した強さグラフ的なものを見てくだされば、「ヘカーティア・ラピスラズリ(東方紺珠伝より)」の設定をある程度知っていれば、要点に置くべきことがわかるかと。



さて、それでは第三章についての話に移りますね。
第三章は、「男女あべこべ」要素が今までよりも濃く出てきます。人によってはあからさまに見えるかもしれませんし、もしかしたら要素が薄すぎるかもしれません。好みはかなり分かれると思います。

いずれにしても、皆様に満足いただけるクオリティに仕上げるため、残り一週間以内には、第三章の最終話を完成させようと思います。

それでは、感想、コメント、評価、ご指摘、などなどお待ちしております。



  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。