白狐+ショタ=正義! ~世界は厳しく甘ったるい~   作:星の屑鉄

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 土曜日なのに出掛ける用事があったのが少し辛かったです。
 日曜日も所用ががが……。

 それでは、本編をどうぞ。


第十六話 市場の簪売り

 

 

 それはふとした好奇心から生まれた出来事であった。

 

 霍青娥は道教を勧めて見事に言いくるめた相手、豊聡耳神子とその協力者である物部布都との会話を偶然にも壁越しに聞いていた。

 何でも、物部布都に夫となる相手が出来たという。相手の特徴は白髪の男児で、歳のころはギリギリ二桁かそのあたりで、大変な美男子だという。身分も非常に高いらしい。その上、自分の失敗(突然の求婚)を気にせず、まるで運命の如く話がとんとん拍子に進んで、名前を教えてくれたという。

 

 これは面白い、と霍青娥はすぐに行動に移った。白髪のそれほどの身分の高い男児ともなれば、探すのに一日も掛からない。名前が分からずとも、身分さえ特定しているのであれば、その身分の者の屋敷に侵入して確かめるだけでいい。

 当然、身分の高い家の者ほどその屋敷の警備は厳しいだろう。しかし、霍青娥は邪仙である。人智を越えた者であり、力もあれば術にも長けている。更に、彼女には『壁をすり抜けられる程度の能力』がある。この力さえあれば、どんな屋敷であろうと侵入は容易である。

 

 かくして、霍青娥は都にある特定の身分の者の屋敷を徹底的に調べ尽した。それも、半日でその作業を終えていた。

 

「おかしいわね」

 

 霍青娥は自身の青色の髪を弄りながら、改めて情報を整理していた。身分、見た目、年齢、この三つの条件に一致する男児の姿は、()()()()()()()()()()()存在しなかった。

 

 当然、行きつく先は外部犯という可能性であるが、物部布都の話を聞く限りそれは有り得ない。遠方の地より男児をたった一人で小間使いのように走らせるなんて、昨今の親のやることではない。お供の一人や二人くらいは必ずつける。それすら居なかったということは、考えられる可能性は1つだけだ。

 

「妖怪……いえ、神霊の類かしら」

 

 都には少なくない手練れの陰陽師たちが妖怪の侵入を阻むために結界を張っている。気づかれずに潜ってくるなど、例え大妖怪だとしても不可能だ。ならば、人型としてその若さを保つ者は神霊か、あるいは史上例を見ない天才的な仙人が最も有力な説だ。

 霊獣や半獣などの類も考えられるが、どちらにしてもまともな人間でないことは確かである。

 

「ふふっ」

 

 ――面白いわね。

 霍青娥は確信の笑みを浮かべた。彼女の読みでは、件の男児は間違いなく強者である。ある特徴の一致から、もしかすれば大金星かもしれない。

 

 中国には妲己の伝説がある。紀元前十一世紀頃、妲己は帝辛に寵愛され、彼女のいうことなら、帝辛は何でも聞いたという。妲己は周によって攻められた際に武王により殺されたとされる。

 しかし、この話には続きがある。

 

 ――曰く、妲己の上に立つ狐の化け物が居た、と。

 ――曰く、その力は龍の神を退けるほどである、と。

 ――曰く、その者も今は地上に降り立っている、と。妲己は己の長を捜すために地上に降り立っていたのだ、と。

 

 ――曰く、その姿形は二桁にいかないほど幼い男児である、と。

 ――曰く、十の狐の尾を持つ白い狐の男児である、と。

 ――曰く、力を抑えれば人と見分けはつかぬ、と。

 

 一連の話を思い出して、霍青娥はその身を大きく震わせた。もしもそんな伝説が存在するならば、それはもはや彼女の想像の枠組みとは異次元の位置に立っているに違いない。龍の神を退けたともなれば、それは下手な最高神よりも力強く狡猾に違いない。

 

 多芸に秀でているのだろう。

 隠蔽の術は史上例を見ない練度なのだろう。

 その技術全てを体得するためには、今まで生きてきた時間よりも長い鍛錬が必要なのだろう。

 

 そして。

 なにより。

 それだけの逸材に会える機会を逃すなんてとんでもない!

 

「あの子をだしにしましょうか」

 

 何でも、再会の約束というものをしたらしい。

 ならば、無暗に探すよりも、再会を取り付けている人物に貼り付く方がずっと効率的である。

 

 霍青娥は目的のためならば、どこまでも自己中心的になれる。

 例えそれが計画を進めるための協力者の恋路の邪魔になるとしても。

 強者に果てしなく盲目的である彼女は、もはや二度と訪れない機会に食いついた。

 

「そうと決まればさっそく」

 

 ――張り込みね。

 鼻歌まじりに、屈託のない笑顔で、彼女は大きな一歩を踏み出した。

 

 

 

 

 

 

 物部布都を陰から観察して、既に十日が過ぎた。しかし、一度たりとも彼女の周辺に白髪の男児が現れたことはない。流石に気になって、それとなく豊聡耳神子に話を聞いてみれば、何と別に日を決めて約束をしているわけではないらしい。

 

 そうと分かれば、困るのはずっと張り込みをしていた霍青娥だ。いくら再会の約束をしているといっても、日にち不明瞭であれば当てが外れたとしか言えない。だからと言って、霍青娥が探している相手は、能動的に動いたとしても見つかるとは思えない。

 

 こうなれば、もうお手上げの状態だ。何時になるかは知らないが、再会の約束をしたのであれば、とりあえず年内には会うだろう。

 

 そんな見通しのもと、今日も霍青娥は物部布都(撒き餌)の様子を見るために、その陰へと足繁く通った。どうやら今日は市で買い物をするらしい。何でも、あの白髪の男児への贈り物を買うのだとか。

 

「どうして、専門の店で買わないのかしら」

 

 これも風水というやつなのだろうか。霍青娥は納得のいかないまま、その買い物風景を見守った。露天商の出している品物は、どれも個性的だが、故にゲテモノや安物が大半だ。男児への贈り物としては雅さに欠ける。

 

 無数にある露店の中、ふと物部布都が立ち止まり、興味深そうにそこの商品を見始めた。見てみれば、そこは簪の店だった。都の中にある有数の貴族御用達にあるものと違って、飾りは非常に簡素で、素材も金や銀ではなく、鉄に色を塗っただけのものだ。

 物部布都が手に取ったのは、先が二股に分かれているものだ。相変わらず鉄製だが、染色のために上等な漆を使っている店の中の逸品だ。細工は黒色の蝶が施されており、それの意味するところは間違いなく”胡蝶の夢”だと、霍青娥は確信を持った。

 

 その簪を見ると、それを店に出している店主にも興味が湧いた。一体どんな人物なのかと見てみれば、華人服とチャイナドレスを足して2で割ったような淡い緑色を主体とした衣装を身に着けた、赤い髪を腰まで伸ばした女性だった。見た目から間違いなく、大陸出身の者だ。

 

「店主! これは良いモノであるな! 幾らなのだ?」

 

「その簪ですね! えっと、それでしたら……」

 

「なんと、そんなに安いとは。では、釣りは要らぬから、これに合った入れ物を貰えぬか。ある御方に贈ろうと思っていたのだ」

 

「わっ、こんなに……。わかりました。腕によりをかけて、外箱を選びますね!」

 

 商品の質にも関わらず、余分に貰った金が多かったからか、店主は店の奥から上等な檜の箱を引っ張り出して、その中に簪を丁寧に入れてから商品を手渡した。それに満足そうに頷いた物部布都は一つ頷いて、良い買い物であった! と笑顔で言った。そして大切そうに両手で箱を持って帰路に立った。

 

「……私も買おうかしら」

 

 今まで使ってきた簪に触れながら、霍青娥は陰から出て、先ほど物部布都が買い物をした簪の露店の前まで行き、改めて近くから簪を見て、どれにしようかしら、と真剣に考え始める。

 

「めーりん!」

 

「あっ、白さん!」

 

 簪を選んでいる最中、店主に話しかける者が居た。それも名前呼びということは、よっぽど親しいのか、それとも家族なのだろうか。興味が湧いた。簪選びを中断して横の店主に話しかける者を見てみれば……物部布都が話していた男児の特徴を生き写しにしたかのような者が居た。いや、間違いなく本人だ。

 

「わざわざ此処まで来るなんて……何かありましたか?」

 

「きょうはどうする?」

 

「……あっ、鍛錬のことですね。陽が沈む前にいつもの場所に行きますね」

 

「うん。まってるね!」

 

 短い会話の後、本人はそよかぜの如く人ごみに紛れて何処かに行ってしまった。それは邪仙である霍青娥の目に映った光景だ。

 

「……同郷の方ですよね?」

 

 ふと、霍青娥は店主に話しかけられた。突然のことだったが、霍青娥はやわらかい笑みを共に、当たり障りなく答えて言った。

 

「えぇ」

 

 見たところ、店主からはあまり力が感じられない。微量に「気」が漏れ出ているが、それも微々たるもので、まだ才能の開花していない武闘家を思わせる。

 一方、先ほどの白い男児は力をまったく感じなかった。まるで一般人の如く、人畜無害な様子だった。男児が果たして黒か白か、まったく判別がつかなかった。

 

 故に、この二者はどちらかが、圧倒的強者だ。先ほどの鍛錬という言葉からも、その様子からも、いつも鍛えているということがわかった。問題は、彼と彼女、そのどちらが師であるかということ、ただそれだけ。

 

「ああっ、やっぱりそうでしたか! 良かったです」

 

(……何が良かったのかしら)

 

 店主からの謎の言葉に、霍青娥は首を傾げた。

 その様子を見ていた店主は人当たりの良い笑みを浮かべて、ちょいちょい、と手招きをしてきた。近寄れ、ということだろうか。同郷の好ということもあり、霍青娥は素直に指示に従って、店主に顔を近づけた。

 

「白さんに手を出さないでくださいね?」

 

 耳元で囁かれ、ゾワッ、と全身が粟立った。蛇に睨まれた蛙の如く、動くことが出来なかった。この店主、間違いなく黒だ。顔を上げてみてみれば、その瞳は爬虫類のようにギョロっとしていた。加えて、覇気はまるで龍の如し。

 

 店主が元の位置に戻った。改めて見てみると、その瞳は人間味溢れており、恐怖など微塵も感じない。力強いとも思わない。しかし、粟立った肌が確かに、先ほどのことは現実だと主張している。

 

「っ……、ひどいわね。私はただ、強ければ師事したいと思っただけだもん。強い相手に師事したい。当然のことでしょ?」

 

 ニコリ、と店主は営業スマイルを浮かべた。そして極めて平坦な声で告げた。

 

「本当にそれだけならいいです。ですが、憎悪、悪意、あるいは害を向けるというのであれば―」

 

 店主はそこで言葉を切り、それ以上は語らなかった。ただ、知っている者からすれば寒気を催す笑みを浮かべている。その顔はまるで、獲物を待ち構える蛇のようだった。幸いなのは、霍青娥はまだ蛇の狩場に入っていないことだ。

 

 当然、その領域に踏み入るつもりは端からなかった。結局、蛇の狩場とは無縁なことに、霍青娥は「ほっ」と溜息を吐いた。

 

「……そうね、これを買うわ」

 

「はい。ありがとうございます!」

 

 お金を渡して簪を受け取る。スイレンの細工が施されている黒い簪だ。簡素だが丁寧な作りだ。その上、この簪においては非常に微弱だが、気配を悟られにくくする術が込められている。

 

「そろそろお暇するわね。また会いましょう」

 

「はい。ご縁があれば、また」

 

 短く別れを告げて、霍青娥は店主と衝突することなく、簪と情報を手にその場を後にした。

 

 

 




さて、ついに過去の話もある程度見えてきましたね。

そしてここで出てくるのか、なんていう御方もEXバージョンで登場。
少し考えた結果、平安時代はかなり簡潔にまとめて書こうと決定。一話一話に話を凝縮していくスタイルにします。

それでは、また来襲!
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