白狐+ショタ=正義! ~世界は厳しく甘ったるい~   作:星の屑鉄

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この章もそろそろ終盤。
それでは、本編をどうぞ!


第十八話 再会とご対面

 

 なんと愛らしい男か、と一目見た時に彼女は思った。

 

 何やら怪しい動きをしていた霍青娥が突然連れて来たのは、物部布都の話と合致する男の子であった。白と藍色を基調とする服を着ているのは、きっとお忍びか何かだろう。身分を偽って民に扮し実情を把握することは、良き為政者の務めである。この歳からそれが行えるとなれば、将来に掛かる期待は非常に大きい。

 

「……青娥、その方は?」

「食事にお招きしたのよ。名前は」

「はく。よろしくね」

「私は豊聡耳神子と申します。こちらこそ、よろしく」

 

 軽い握手を交わした。白とは父母から与えられた名ではなく、呼称みたいなものなのだろう。そうでなければ、見ず知らずの異性に軽々しく教える筈もない。この時、彼女は教えられた名に関して、重くは考えていなかった。

 

「食事ということでしたが……お時間の方、あと半刻ほどは必要になるでしょう。ご都合の方はよろしいですか?」

「だいじょーぶ。このあと、やることもないから」

 

 見た目よりも舌足らずな様子が見受けられたが、おそらくそれが素顔なのだろうと彼女は気に留めない。

 

「それでしたら、私の部屋で話をしましょう。手持無沙汰で半刻は長いものです」

 

 少しの下心と好奇心のもと誘うと、白は警戒することなく頷いた。これを受けて彼女は先頭に立って歩きはじめる。白はそのあとに続く。

 

「青娥。白との関係は?」

「師弟関係、ということに」

「あぁ……。青娥がご迷惑をお掛けして申し訳ありません」

「ん、もうおしえたから、だいじょうぶ」

「えっ」

「……んにゅ?」

 

 白が絶妙なタイミングであざとく首を傾げてみせた。彼女は胸の内に湧き出した衝動をぐっと抑え込み、一度息を吐いて思考をクリーンにする。

 

(強敵です。青娥が居なければ襲っていましたね)

 

 ストッパー役となった霍青娥にこの時ばかりは感謝しつつ、彼女は改めて白を見た。

 

 ――なるほど、美男子だ。そして幼い。好みど真ん中である。

 

 違う、そうじゃない、と彼女は頭を振って雑念を振り払う。

 今問題としていることは、白の容姿ではない。物部布都との関係でもない。

 真に問題となっていることは……。

 

「あっ!」

 

 何かに気が付いたように、白が声を上げた。そしてすぐに彼女の方を見ると、花が綻んだかのような笑みを浮かべた。

 

「みこって、えらいの?」

「えぇ。それはもちろん。大陸の進んだ文化や制度を取り入れたのは、私の政策ですから」

 

 いつの間にか声が口から飛び出ていた。ほとんど無意識のうちの行動であったが、彼女がそれを気にした様子はない。むしろどことなく誇らしげである。白はそんな彼女に「おーっ」という声と共に惜しみない拍手を送った。

 

 見事に乗せられている彼女だが、霍青娥はそれに気付いて尚指摘することはない。その方が面白そうだったのだから、自己本位の考えを持つ仙人が注意をする素振りなど見せる筈もない。

 

「そうなんだ! あっ、からだにはきをつけてね!」

「……? 当然、気を付けてはいますが……」

「へんなものたべちゃだめだよ?」

「拾い食いをするほど餓えてはいませんよ」

「うん。きをつけてね」

 

 もう……と、白が何か呟いたように聞こえたが、それは思いの外小さなもので、彼女の耳を以てしても聞き取ることは出来なかった。

 

「あっ、それとね」

 

 積み重なるものに気付くことなく、彼女は目の前の男の言葉に耳を傾けた。

 

 

 

 ――やっぱりかわらない。

 誰かがそう、呟いたそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 なにかが あたまを

 ふとよぎる

 しってる なきがら

 よこにはおさら

 しってる なきがら

 よこにはつるぎ

 くちる どうりを

 しらないからだ

 きっと おそらく

 もくろみどおり

 ちのけがひいて そうけだち

 すべてすべてが まっしろけっけ

 

 きょうも あしたも

 そのとおり

 たのしい じかんは

 あとちょっと

 わをなして うたげのせきに

 ひとつの まきもの

 かみちぎる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 物部布都は混乱の真っただ中に停滞していた。贈り物の簪を買った後、政策の準備やら書類仕事やらと仕事に励んでいれば、気が付けば飯時になっていた。呼びに来た太子様こと豊聡耳神子には感謝が尽きないが、その後が問題だ。

 

 食事の席まで赴いてみれば、その部屋には先に席に着いていた婚約相手が居るではないか。次にいつ会えるかもわからなかった相手が、突然目の前に現れて、物部布都は大いに焦った。驚きすぎて尻もちをついた時は悶絶した。羞恥と痛みによって。

 

 たっぷり自分の行いを反省すると、今度こそと彼女は顔を上げた。すると、目の前には婚約者の顔がすぐ近くまで迫っていた。鼻に息が当たってくすぐったい。間近で見る白の目は心配そうに細められていた。そして一言、「だいじょうぶ?」と舌足らずな見た目以上に幼い声が響けば、物部布都の思考回路はとうとう爆発した。脱兎のごとくその場から走り去り、気づけば仕事部屋の中で、今日購入したばかりの簪の入った木箱を目に映していた。

 

 

 

 白のための贈り物の前で、物部布都は混乱に包まれていた。今渡すべきか、それとも日を改めて然るべき状況で渡してしまうか。目の前から逃げ出してしまったことをすっかり忘れて、簪をどうするかばかり考えていた。

 

「どうすればぁぁぁ……!」

 

 妙案浮かばぬことに頭を抱えながらも考える。出来るだけそれらしい雰囲気の中で物を贈る方が、印象が良いことは間違いない。しかし、渡せる機会というものがそもそも少ない中で、そんな贅沢を言っていられるかと問われれば、彼女も贈り物がお蔵入りにする可能性を否めない。

 葛藤した。長く、深く、考え続けた。

 

 倒れてしまいそうなほどの高熱が頭を帯びた時、彼女の頭の中で電流が弾けた。

起死回生、逆転の一手を思いついた。これならば、望んでいる条件全てを満たせると確信した。

 

 男は愛嬌だ。

 女は度胸だ。

 

 なれば、女である物部布都が度胸を示さずどうするというのか。

 意を決して、彼女は簪の入った箱を懐に仕舞った。それからの足取りは実に軽やかなものだった。先ほど脱兎のごとく離れた食事の席に、彼女はすぐさま入り、しかし静かに自分の席に着いた。

 

「んっ、もうだいじょうぶ?」

「当然だ! 心配を掛けてしまったな。もう大丈夫であるぞ!」

「よかった。うん、けんこうにはきをつけてね?」

「それこそ心配無用というもの。健康に気を遣うのはいつものことである故な!」

 

 自信満々に言った後、物部布都は箸をとる。そして目の前の食事に手を付けようとしたところで、ふと白が幸せそうに巻物を頬張っているところを見た。

 

「白殿。巻物が好物なのであるか?」

「んっ。げんかつぎ」

「ゲン担ぎ?」

 

 そんな風水があっただろうか、と物部布都は考えてみるが、思いつかなかった。

 

「まるいもの、きらいだから」

 

 幸せそうに巻物を食べる白を見ながら、物部布都は首を傾げるしかなかった。

 

 

 




最近、スランプというか執筆に時間をとることが難しくなっている頃合い。

用事を済ませるために、あとがきはここまでということで。

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