白狐+ショタ=正義! ~世界は厳しく甘ったるい~   作:星の屑鉄

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第二十四話 最初で最後の悲鳴

 

 九尾の狐の彼女を助けるために、幾つかのハッタリと証拠となる黒自身の左耳を差し出した。

 

 ハッタリとは九尾の彼女が人の世を見定めるために派遣された、という点だ。真偽のほどは当然人間たちには分からないが、黒狐が「王者の政治が世の中をよく治めて平和な時に現れる」という記述にもあるとおり、非常に縁起の良い存在である。だからこそ、人間は黒狐の言葉を疑うわけにはいかない。この黒狐を疑うということは即ち、王者の政治を疑うことと同義である。九尾の彼女が派遣された理由が人の世を見定めるためともなれば、尚の事、政治的な意味合いが強くなる。これを攻撃するなどもっての外だ。それは今を治める王への反逆、ないし批判とも取られかねない。その上、神の遣いとされる白狐のような白い尻尾も生えているとなれば、そんな選択を出来るわけがない。

 

 しかし、その言葉を鵜呑みにして都へと帰還することは人間たちにとっても都合が悪い。せめて黒狐の現れた証拠がなければ、九尾の狐を退治するように言われた彼らは討伐失敗の叱責を逃れられない。

 

 そんな人間側の都合に最低限の折り合いをつけるために、黒は左耳を証拠として渡した。尻尾の毛数本では証拠としては弱い。しかし、体の一部分であるならば、例え王であってもこれを責めることは出来ない。自らが治めているこの時代を、自身で否定するわけにはいかないのだ。確たる証拠がある以上、納得がいかないにしても、溜飲を下げる他に道はない。

 

 交渉事は初めから、平和的解決の出来るように考えられていたのである。

 

「そう、か。そうだったのか」

 

 自分を助け出すプランを黒から聞いた九尾の彼女は脱力してため息をついた。

 

「どうして、私のことがわかった?」

 

 しかし、彼がどうして自分を都合よく助けに来たのか、その偶然というにはあまりに出来すぎた現実を理解することは出来なかった。そんな都合の良い事など、現実には有り得ないのだ。何せ、情報がない。

 

「それについては、白から聞くといいだろう。私はただ、黒狐という姿を貸したに過ぎないのだから」

 

 しかし、黒は質問に答えることなく、眠るように目を閉じた。

 再び目を開いた時、そこには空のように明るい瞳が彼女を見つめた。焦点は合っている。寝惚けている様子はどこにもない。

 

「ひさしぶり、たまも」

 

 そして屈託のない笑顔が、九尾の彼女こと玉藻の前の瞳に焼き付いた。過ぎ去った時間を思い起こさせる白い太陽に、彼女の頬は自然と緩んでいく。

 

「あぁ、久しぶりだな。それで、どうして此処に?」

「そういう ちから だから」

 

 白はそう言うと西を見た。そこには黄昏を彩る日が、今まさに落ちようとしているところ。

 

「……白、やはりか」

 

 彼女もまた白と同じく黄昏色を見ながら言う。

 

「私は偶然などというものは信じない。だから、ようやくわかったよ。高天原に居た時から、不思議に思っていたことが」

 

 白の横顔に語りかけるように、彼女は言う。

 

「都合がいい、都合がいい、とはずっと思っていた。龍神、八岐大蛇、どちらの襲来であろうとも、お前はつつがなく対応してみせた。仲間を一人も失わずに。確か、『異変を予見する程度の能力』だったか」

「まえに そう いったね」

「違うだろう? お前の本当の力は、さらに上位である筈だ。確か、大陸の方だったか。この国にある陰陽師などとは違う力を行使するそうだ。そこでひとつ。聞いた話によると、至った者は全てを知り得るらしいな」

 

 彼女は一息吸い込むと、白に向き直って言う。

 

「お前は至ったのだな。いや、お前自身がそうらしい」

「……うん。やっぱり、ここはちょっと、ちがうね」

 

 変わらず、いや、今まで以上に輝いた笑顔を浮かべていた。しかし、輝いているというのに、その姿は押せば崩れてしまいそうなほど弱々しい。

 

「だから、おねがい」

 

 白は彼女の手を取って、真摯な瞳で彼女を見上げた。

 

「あのこ と いっしょに、たすけて」

 

 瞳に涙を溜めて、ついにはそれをボロボロと零しながら、白は彼女に言った。涙には悔しさが滲んでいる。顔には悲愴が浮かんでいる。それでも、瞳だけは希望を見据えて、彼は今を生きている。

 

「まだみてない 21せいき に たどりついて」

「その頼み、確かに聞き届けたよ」

 

 白の尻尾から光の粒が天に昇る。よく見てみれば、白の体全体から天に昇り、徐々に、徐々にその体を薄くしていっている。

 

「強制送還か」

「だいじょうぶ。みんな、ばれてないから。ぜんぶ、おねがいね」

「任されたよ。全てが終わったら、また一緒に遊ぼう」

「うん」

 

 白は全身を光の粒に変えて消え去った。後に残したのはお願いと、母親に抱かれた赤子のような笑顔。

 

「裏切るわけにはいかないな」

 

 失敗は許されない。覚悟を決めた彼女は、オレンジ色を背にした。そしていざ立ち去ろうとしたとき、その目の前に空間の裂け目が現れた。

 

「こんばんは」

 

 どこまでも胡散臭い妖怪が空間の裂け目から挨拶をひとつ。

 

「はぁ」

 

 それに対して、彼女は思わずため息を吐いた。

 

 ――雰囲気も後味も台無しだ、と。

 

 

 




まえがきは無しということで進ませていただきました。

※この二次創作における八雲藍の扱いについては、八雲藍=玉藻の前、という原作の設定とは違ったものを採用しております。そのため、この話に出てくる「九尾の彼女」は八雲藍で間違いありません。



物語はようやくフィナーレに向けて発車しました。
ここから最後の展開まで一直線! といければいいのですが、筆の遅さが玉に瑕、どころの騒ぎではない始末。

完結させようと現在は躍起になっていますが、クオリティの方はまだまだ未熟。
……もうちょっとキャラクターを立てていきたいです(切実)。

それでは、また来週!
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