ガールズ&パンツァー GIRLS und PANZER ~西住さん家の戦車道 作:ぼっち族
西住みほ・・・・・次女、本編主人公。
西住まほ・・・・・長女、みほの姉。
西住しほ・・・・・母、この小説のヒロイン?
西住??・・・・・父。
西住みほは普通の生活を送るためにここ、大洗に引っ越してきた。
前の学校で起こした自身の失敗から逃げるように大洗女子学園へと転校した。
しかし、みほは自身の失敗を失敗とは思いたくなかったのだ。
「ケーキは・・・イチゴショコラ・・んにゃ・・」
時刻は朝、セットした目覚まし時計がけたたましくみほのアパートの部屋いっぱいに響き渡る。
「んにゃっ!?」
と急いで起きるとあわてて目覚ましを止め流れるように服を着替えようとする。
と、ここでみほは気づいた。
「ん、・・・・あっ」
脱ぎかかっていた服を力なく落とすと脱力してつぶやいた。
「・・そっか!もう家じゃないんだ!!」
ほぼ満面の笑みを浮かべて喜んでいるがこの女子、半裸である。
この少女こそが戦車道の家元である西住家の跡取りの一人である西住みほであった。
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学園へと行く道の足取りは軽やかなものだったが寂しいものでもあった。
転校してきたとういうのもありみほには通学途中連れだって歩く友達すらいなかった。
「うちのほうにはないなーサンOス」
その思考ははじめは町の様子に興味を向けやや上機嫌であったが、道行く大洗の生徒の仲睦まじい
集団登校を目の当たりにすると気分はやや下降していった。
思い浮かぶのは実家にいる父のことであった。
「お父さん、・・わたし新しい自分、見つけれるかな?」
今は知るよしもないがこの日を境に彼女の大洗の日々は変わっていくのだった。
友達も然り、因縁の戦車道も然り。
ここで、彼女はこの大洗の学園艦に独り暮らしで通っている。
先に語った前の学園でのトラウマが理由ではあるがそれだけではなかった。
同じ西住流を流派とする家元で当主である母と優秀な姉との確執も大きな要因ではあった。
母、西住しほはかなり厳格な人である、そんな母から勝手に学園を転校、ましてや
独り暮らしをするために移り住むことなど不可能に近い、保護者であればなおのこと
書類は必要であり生活のための仕送りだって必要なのである。
そんなものを戦車道から逃げた、西住流から逃げたみほに母、しほが許すはずがなかった。
そこを取り成した人物こそみほの父である 西住 伊代 である。
母、しほはみほの転校はもちろん戦車道を捨てることを断固として許しはしなかった。
西住家でもかなり優しい性格であるみほは当然意見など出せるはずもなく当時、現実の逃げ場のなさに打ちひしがれていた。
広い屋敷の片隅ですすり泣くみほに見かねて家政婦である菊代が声をかけようにもかける言葉は残念ながら彼女には見当たらなかった。
以前みほが友達と喧嘩して帰ってきた時でさえ心配し声をかけたのだが今回はことが事だけに菊代ではどうしようもなかった。
みほの心はすでに限界であった。母の厳しい責め苦にトラウマのフラッシュバック、学園の仲間たちの厳しい視線や腫物を扱うような態度、
学園に居場所すらない状況、
学園にいても家にいても彼女の逃げ場はないという思い、その事実が涙をうながし涙を流すたびにその思いが頭の中をぐわんぐわんと
反響する。 学園にもすでに数日は行ってない、母や姉を避けるように屋敷の中を泣きながら移動し過ごす日々であった。
父、伊代はこの西住の家に入り婿した身であり男なのでまほやみほの戦車道や教育にはほとんど口出しはしてこなかった。
実権は家元で当主である母、しほが握っており父はいつも屋敷の一番奥に居り滅多には外には出てこない偏屈者と言うのが
みほの父に対する最近の認識であった。両親の仲もみほはほとんど知らない、家元の跡取りとして戦車漬けの日々を送ってきたみほには
父と触れあった記憶がほとんどなかった。中学のころにはさらに本格的に戦車道に打ち込まざるえなくなったためさらに父とは触れ合わなくなり
今の彼女の心境では救いを求める選択肢からは完全に外されていた。
「・・・お父さんもお母さんに反対なんてしない・・・できないと思う。」
母のしほの厳しい一面は姉のまほにやや受け継がれており父の伊代の優しくおっとりとした一面はやや自分に受け継がれていると、
みほは思った、優しい父では厳しい母に敵うはずがない、自分がどうしようもなかったように。
みほは泣き腫らした赤ぼったい頬をこするとふと玄関の戸が開く音が聞こえてきた。
母は、今日は会合のため夜まで帰らないと盗み聞いたためこの日が傾いたこの時間帯は菊代かほかの家政婦が出かけたか帰ってきたのかと推測した。
すでに心身ともに限界がきているみほはもうそこから動く気力さえ残っていなかった。
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黒いストッキングをはいた少女が屋敷を迷いなく駆けていた。
それもそのはず彼女はここで生まれ育った西住まほその人であった、すでに何日も学園に来ない妹のみほをさすがに心配して
戻ってきたのだった。
「・・まほ!どこにいるの? いるんだったら返事をしなさい!」
まほはこの家で母に逆らっいくことが不可能なことは知っていた、しかしまほはみほがここまで粘るだなんて予想外だった。
早々に諦めて学園に出てくるものだとばかり思っていた。そうすればそうしたで、姉であり隊長である自分が彼女のそばにいるほうが
屋敷にいるよりかは幾分ましだと思っていたのである。
しかしそれは間違いだ。最後の大会であった3年生、同じ戦車道の仲間にとってはみほはチームを敗北に追いやった張本人という認識である。
当然、戦車道に力をいれている黒森峰女学園の生徒たちですらみほにいい感情はわかない状態になってしまっていた。
さらに、みほは母だけでなくまほ自身ですら避けるようになったのである。
確かに、西住流を投げだそうとしているみほに思うことがないといえば嘘になる。
実質彼女はみほの行為を快く思っていなかった。
しかし、西住みほは西住まほの妹なのである、このまま母との関係が拗れるところまでいってしまうと最悪、「勘当」までいってしまうこともありえると
思った。それに今の学園ではみほが生活していくのはあきらかに拷問に近い。
家族を失うことなど16の娘であるまほには考えられなかった。
妹を守りたいと思う姉としての矜持が今日、ここへ、西住家へ足を運ばせたのであった。
まほはみほの名を呼びながら一直線に屋敷の奥に歩を進める。
一番奥へたどり着くとそこには父の伊代の部屋がある、しかし部屋は閉め切ってある。
だがこの部屋には一部変なところがある、ほかの戸に比べ明らかに低く小さい戸が付いているのである。
人一人がしゃがんで入れるような戸だ。その奇妙な戸にまほは目を向けるとその戸だけが開いているのを確認した。
それだけを確認するとUターンし、屋敷のなかをみほを探して回った。
車庫に行かないのはみほは少しでも戦車とは離れたいと思ったからだ。
みほの部屋へは行ったが姿はない、屋敷の反対側から縁側にいるのがまほは見えた。
まほはみほの顔を見ると目を疑った。
優しそうな目からは生気が抜け落ち泣き腫らした頬は赤く腫れ髪はいいように乱れ散らしている
着ている着物も肩まではだけてみすぼらしい。
こんな妹を見るのはまほは初めてで一瞬ひるんだ。
「こ、ここまでみほを追い詰めていたなんて・・・」
唇を一回きゅっと結ぶと意を決したかのようにまほはみほの体を掴み起こさせる。
しかし、腕は力なくぐにゃっと曲がり足腰はまるで立たない。
「みほ、立ちなさい!」
お姉ちゃん、と自分を呼ぶ気配すらなくみほはどこか虚空を見ているままだった。
「っく、いいか!みほ。いつまでこんな事しててもいい事はないのはわかっているだろう!私も
お前の力にはほとんどなってやれないだろう」
それは西住の跡継ぎとしての立場でもあったし、学生という身でもあった。
何しろまほ自身でさえ母には逆らえない。
今この状況で現状の打破できる、みほを救うことができるとするなら
まほにはたった一人の人しか思い浮かばない。
「みほ、よく聞きなさい」
一変してやわらかい声で言い聞かせるようにみほにまほは語りかける。
「身なりを整えたらお父様に会いに行くんだ。」
その予想外の言葉にみほは思わずまほの顔をまじまじと見てしまった。
ようやくこっちを見たかと内心安堵したまほはさらに続けていう。
「お父様に会ってきちんと自分がどうしたいか、どうしてほしいかを言うんだ。私にできるのはここまでだ」
「お、お姉ちゃん・・・」
「これからそれとなくお父様には事情を話してくる。でも、言いたいことは自分の口から言うんだ」
そう言うとまほはみほから離れ家政婦を呼ぶとみほの身なりを整えさせるように言う。
去り際にまほはみほに向かって 出入り戸が空いているかどうか確認してから会いに行くんだぞ。
と言い残し屋敷の奥に消えて行った。
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西住の家には暗黙の掟がある。
父、伊代に会うには手順が存在しているのだ。
この偏屈者に会うためには出入り戸が開いていることを確認しなくてはならない。
西住の屋敷の住人たちは伊代の部屋を「天岩戸の間」と別称で呼ぶ。
開いている場合はその出入り戸を通って会うことが許されるのだ。
何事も例外は存在する、唯一母であるしほは正面の大きな戸を開けて入ることが許されている。
屋敷の奥にあり常に外界と断絶されいるかのような空間にみほは幼いころから怖がり
父の部屋に入ったことはなかった。
風呂にも入り菊代に身なりを整えられたみほは天岩戸の間の前までやってきていた。
「うう、お父さんの部屋わたし入ったことない・・・のに」
まほに言われた通り出入り戸を確認する、開いているようだ。
しかし、いまいち踏ん切りがつかないみほは出入り戸の前で屈んで入ろうとしたり立ったりしてオロオロとしていた。
そんな折だ、出入り戸の奥から誰かが張ってくる音が聞こえた。
その音に気付きみほはいったん戸から離れるとそこから姉のまほが這い出てきた。
「お姉ちゃん・・・わたし、やっぱり・・」
「ちょうどいい、お父様は奥に居られる。出入り戸を通って奥の扉だ、ほら」
まほに押されるように出入り戸に入れられたみほは腹を決めるしかなかった。
出入り戸の奥は人が屈んで通れるほどの通路が10メートルほど伸びておりその奥にまほの言っていた扉があった。
みほは扉に手をかけると一つ、深呼吸をしてから
「お父さん、みほです。入ってもいいですか?」
と壁1枚を隔てた向こうにいるはずの父に問うた。
「ええ、どうぞ。入ってきていいですよ」
みほさん
と返事は帰ってきた。ずいぶん懐かしく感じる声だ。
父、伊代は家族のことをさん付けで呼ぶ。
部屋に入ったみほはその初めて見た父の部屋の雰囲気に圧倒されていた。
かなり整理された部屋だ、それに年季の入った和室である。
中は意外と広く二十畳はありそうだ、襖から見える板の間には椅子とテーブルが置いてあり旅館のようだった。
そこからは中庭が一望できる造りになっており中庭はみほがこんな精神状態ではなかったら見蕩れていたほどに美しいものだった。
すでに自分の前には座布団が敷かれており、お茶とお茶請けがお盆にのせられていた。
座布団にゆっくりと腰を下ろしたみほは正面にいる父、伊代にゆっくりと目を向けた。
目の前の和服の中に襟シャツを着こんだ男は身長が高く線が細い。
髪は漆の漆器のように艶がある黒髪が若干長めに流れており随分髪を切っていないことがわかる。
眼鏡を少し下にずらしてかけている顔は糸目をしており随分整っている。
その柔和な笑みから自然とみほは心が落ち着いていくのが感じられた。
昔から不思議な雰囲気を纏う人だとみほは数少ない父との思い出から記憶を手繰り寄せた。
父と同じ空間にいるだけで木漏れ日の降り注ぐ森林にいるかのような漠然と襲い掛かるすべての不安から自由になったかのような
錯覚に陥るのだ。
まったくもって嫌いじゃなかった。むしろもっと一緒にいたかったとみほは思った。
「まほさんから概ねの事は聞きました。でもそれはまほさんが見たあなたの客観的情報です、みほさんの言葉でみほさんの今思っていること
いまの心をぼくに伝えてください。」
優しく、ゆっくりとした深い声で伊代はみほに語りかけた。
「あの、お父さん。わたし・・・」
みほは今までの経緯と心境をぽつり、ぽつりと話し始めた。
その間父、伊代はただ黙ってじっとみほの話を聞いていた。
「・・ぐすっ、それでもわたしがしたことは間違いだなんて思いたくなくて、でもお母さんはわたしが西住の名を穢したっていうし、
ううっ・・わたしのせいで黒森峰は十連覇を逃しちゃって、学園にはもうわたしの居場所がないの・・・・・・・・・・
・・・・・・それで、もう、わたし戦車道、やりたくなくなちゃって・・グス・・転校したいです。」
みほの言葉を終始黙って聞いた伊代は結論をまとめてみほに問うた。
「それでは、みほさんは戦車道のない学校に転校したいがしほさんがそれを許さないためぼくにしほさんを説得、
および転校の手続きをしてほしいということでいいですか?」
「はい、そうです。・・無茶なことも迷惑をかけているのもわかってい「迷惑なんかじゃないですよ」・・・え?」
いままで父の反応を見るのが怖くて下を向いてしゃべっていたみほは思わず伊代を見上げた。
その顔をみほは忘れることはないだろう、実にうれしそうににこにことみほにか変らない笑みを向けていたのだった。
「迷惑などではありませんよ、もっとぼくを頼っていいのです。ぼくはみほさんの父なのですから大丈夫です、しほさんにはぼくから話をしておきますから。」
「お父さん・・・」
「はい、みほさん。もう少し早く気づいてあげればよかったですね。でもぼくでは戦車道のことにはこの西住の家では手を出すことはできないのです。
そこは誤らなけれなりませんね。だから、家族として、つらいときは自分一人でどうしようもないときには ”助けて” と遠慮なく言ってください」
父はゆっくりと立ち上がるとみほのそばまで来て優しく頭を撫でた。
ダムが決壊したかのようにみほの両の目からは涙が止まらなくボロボロと流れだし口からは嗚咽が止まらない。
顔はくしゃくしゃだった。
「うっう、うぇぇぇぇあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
たまらずみほは父、伊代に頭を撫でられながら泣きついた。
「うぇぇぇっ うぐ、ぐすっえぐ、助けて、お父さん!」
「はい、大丈夫です」
「うぅっ・・・・うわぁぁぁぁぁぁん・・・もうやだよぉ・・・戦車道なんて・・もう嫌ぁ・・」
「はい、」
「クラスでもひとりぼっちで・・・・誰も助けてくれなくて・・」
「はい」
「もうお姉ちゃんに・・・迷惑かけたくなくて・・わたし足引っ張ってばっかり・・・」
「お母さんは厳しい事ばっかり・・・・西住流の恥だって・・」
「しほさんの、お母さんのこと嫌いですか?」
「・・・それでも、お母さんのこと嫌いになれなくて・・・」
「はい、わかっています。ぼくもしほさんのこと大好きですし、みほさんもまほさんのことも大好きです」
「うわぁああああん・・お父さぁああああああん」
泣き崩れるみほを臆することなく受け入れる伊代は自然と和服の袖を躊躇なくみほに貸し涙やその他いろいろなあふれ出るものを優しく
みほが泣き疲れて眠ってしまうまで拭い続けた。
高校生にもなって父親にマジ泣きして慰められている安堵感に気持ち良くていつの間にか眠りこけてしまった少女は西住みほその人であった。
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みほが泣き疲れて寝てしまう頃にはとっぷりと日が暮れていた。
袖を握って離さないように眠ってしまったわが娘を苦笑しながら、実に愛おしそうに伊代は撫でていた。
「・・・菊代さん。しほさんはいつ頃お戻りになられますか?」
暗くなった部屋の奥にいた家政婦の菊代に伊代は尋ねると同時にみほの体を抱き上げた。
「はい、旦那様。奥様はもう少しでお戻りになられるとお電話が、お食事はこちらで食べると。」
「では、食事の後にしほさんにはぼくのところに来てもらうように伝えてください」
「はい、かしこまりました。確かに伝えておきます。あの・・お嬢様は・・」
「ああ、みほさんを布団に寝させに行きましょう。みほさんの部屋まで案内をお願いします。」
「かしこまりました。」
伊代は案内のもとみほを寝かしつけるとまた天岩戸の間に戻って行ってしまった。
菊代はしほが帰ってくるまでに夕飯の支度に戻るのであった。
夜の西住家には明かりが灯っている。
その部屋には料理が並べられており西住流戦車道家元西住しほとその娘である西住まほが食事をしていた。
「まほ、あなた帰って来ていたの。学園はどうしたの」
会合帰りのしほは随分疲れたようで機嫌がよくない。
「いえ、お母様。みほの・・・」
「みほ? あの子がどうかしたの、あなたは今黒森峰でやらなければならないことがあるでしょう。あの子にかまっている暇は・・」
「ですが、お母様。みほはもう限界で・・」
まほの言葉を聞く気がないのかしほはもくもくと食事を続けていた。
「・・・で、実はみほにお父様に頼るようにと」
そこまで言うと急にしほは箸をおいた。
「まほ、・・・今なんと言いましたか?。もう一度言ってみなさい」
ぐっと部屋の気温が下がった気がした。錯覚ではないとまほは感じ取った。
肌がぴりぴりと強張る、母のあまりのプレッシャーに強制的に声が出る。
「み、みほに、お父様に、頼るように、と」
バンッ!!
衝撃音が室内を閃光のように駆け巡る。
どうやら、テーブルをしほが叩いたようだった。椀や食器が揺れている。
しほはまほに目を向ける。そのあまりに剣呑な眼差しにまほは完全に委縮していた。
「まほ、あなたまさか伊代さんを・・・利用したの?」
「お、お母様そんな、けっして!お父様を利用などと!」
「黙りなさいッ!!!」
「ッ!!」
咆えると同時に立ちあがっったしほは、まほの頬を張ろうと手を高く振り上げた。
「伊代さんに迷惑をかけるなと言ったはずです!!歯を喰いしばりなさい!!」
母の怒りの形相にまほは思わず歯を食いしばり目を瞑った。
その手が自分の頬を打ち振りぬかれるとばかり思っていたまほにその時が訪れることはなかった。
なぜか?
「奥様、旦那様がお呼びでございます。話があるとのことです。」
菊代の助け舟が出たのである。
しほは振り上げた手を下ろすと菊代を睨みつけた。しかし、はぁとため息を一つ付くと
「せっかくの料理をすまない、菊代。私の分は下げて構わないわ。」
と言い残し見送る菊代やまほを残し部屋から出て行ってしまった。
静寂の残った部屋には菊代とまほが残されていた。
「申し訳ございません。まほお嬢様、差し出がましいことをしました」
深々と頭を下げ誤る菊代にまほはとんでもないと頭を下げた。
「菊代さんそんな・・・私の方こそ・・助けてくれたのに」
「奥様は、旦那様のことを大変愛されておられますから」
「それは私も知っているよ。それにお父様もお母様を愛されている」
お母様はお父様をだしにみほをどうにかしようとした私を怒ったのだろうと
まほは思った。
前進こそが信条の西住流である、こそこそと父の力をあやかろうとしたところも
気に障ったかもしれない。
母しほは、昔から父、伊代のこととなるとどうにも過剰な人であった。
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ところ変わって伊代の部屋である天岩戸の間の前の廊下である。
しほは出入り戸を見ることもなく正面の戸を開けて中に入っていった。
部屋に明かりはついておらず中庭を一望するための障子戸から月明かりがさしこんでいるばかりであった。
それでもそれはこの部屋ではいつもの事なのでしほは迷いなくぼやっと月明かりに輪郭の照らし出された
伊代のそばまでやってきた。
「あなた・・・」
「おや、しほさん。随分早かったですね。」
「菊代から、話があると・・」
「そうですね。では・・・」
「どうせ、みほがわがままをあなたに・・・」
「違いますよ、お願いされたのですよ。みほさんに、黒森峰から転校して戦車道から離れたいと」
「・・・あの子は、自分勝手にそんなことを・・いくらこの前の試合が堪えたとしても、そのような自分勝手が・・」
と振り向くとこの部屋を出ようとする、みほの部屋に行くつもりなのだろう。
が、その手を取られ引き止められる。
すっと間合いを詰めて手を、体を伊代にしほは絡めとられた。
「みほさんは今疲れて寝ています。それに・・・話は終わってませんよ、しほさん」
「ちょ、ちょっと、伊代さん!?」
「しほさん、 ”助けて”とみほさんに言われました。ぼくはあなたと結婚するときに言いましたよね。
しほさんはこの家を、ぼくは家族を守ると。今回は、みほさん自身と心を守るためと判断しました。
一度、彼女を家から離してみてはどうですか?」
「・・・わかったわ」
それだけ言うとしほは俯いてしまう。
「そんな顔をしないでください、ぼくはいつでもしほさんに笑顔でいてほしいです」
「伊代さん、私は間違っているでしょうか・・・これではみほに嫌われてしまっても・・」
「いいえ、しほさんは西住流の家元としての義務があります、それにぼくは男で婿としてこの家に来ました。
戦車も禄に運転できないぼくにしほさんを非難することなどもってのほかです。
しほさんの背負っているものの大きさはぼくもわかっています、だから、夫婦になりました。
あなたの辛さも苦しさもうれしさも楽しさも一緒に連れて歩いていくと心に決めいています。
・・・・それに」
すでに顔から耳まで真っ赤に染めあがっているしほは それに?と聞き返した。
「それに、みほさんは優しいから、あなたを嫌いになんてなってませんよ。好きだからこそ、嫌いになれなくて余計に苦しいのでしょう」
「そう・・・かしらね、そうね。みほとは明日の朝話をつけます、みほの転校を認めればいいのでしょう?」
「そうですね、色々しほさんも忙しいでしょうから、転校、編入などの手続きはぼくがしましょう、どこに行くかもみほさんに
選ばせます。」
「それでいいわ・・・で、いい加減手を離し・・・」
「で、ここまででみほさんの話は終わりです」
きゅっとさらに伊代はしほを力強く引き寄せた。
しほに身長の高い伊代が後ろから覆いかぶさっているような状態だ。
やばい、としほの顔が引きつり伊代から逃げようといやいやしてもがいて抜け出そうとする。
「ぼくは怒ってもいるんですよ?しほ、なぜもっと早く僕に言ってくれなかったのか、忙しいのはわかっているつもりですがそれを理由に娘をほっておいていいなんていいわけないでしょう?」
しほ?
と伊代は耳元でささやいた。
「お仕置きです」と。
「ちょ、ちょっと、待って!!伊代さん私帰ってきてまだお風呂に入ってないのよ!」
ぷちっとしほの服のボタンをはずしがら伊代は言う。
「しほさん、あなたは知らないかもしれませんが、ぼくはあなたを愛しているのです。
あなたの嫌いなところなど一つもありません。あなたのすべてがぼくは好きなのです。」
「なっ!んぅ!首は!やめてってふぁ!・・・・んっ、 伊代さん!ベルトに手をかけないで!あっんぅ、自分でできるから! だめぇ!」
先の展開は読者諸君が予想する通り、この小説の趣旨を逸脱するもののためお話しできない。
なにより、夫婦の睦言とは語るに値しないものはないのだ。
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今夜は天岩戸の間には誰も近づかないだろう、誰が好き好んでみほの処遇を巡って言い争っているであろう場所へと行こうというのか。
夜が明けて朝になるとみほは母、しほに呼び出された。
内心父の説得も意味はないかもしれないと諦めムードで母、しほと対面したみほであったがその予想はいいほうに外れた。
「伊代さんと話をしたわ。あなたの好きにしなさい。手続きは伊代さんがやってくれるわ。」
「はい、ありがとうお母さん」
「礼は伊代さんに言いなさい。それと、戦車道のない学校を選ぶつもりなのでしょう?」
「・・・はい」
「では、一つ言っておきますがどこに行っても西住の名はついてくるものです、その意味は分かっているわね」
母は言っているのだ、西住流の名を穢すような行いをするなと。
「わかりました」
みほの顔はいまいち暗い、もう、お母さんには飽きられてしまったのだと落ち込んでいた。
「私は、これから用事があるので出かけます、みほはちゃんと朝食をとりなさい」
それだけ言うとしほは障子戸を開け出て行ってしまった。
「・・・ご飯食べたら、お父さんにお礼言わなくちゃ」
しかし、どうやって父はあの厳格な母を説得したのだろうと考えるほどみほは心の余裕ができていた。
みほと会った後のしほはすでに、屋敷の外門にまで来ていた。
そこには豪奢な黒塗りの車が停車していた。
車の中にはすでに夫の西住伊代と娘のまほの姿があった。
「あなた、気を付けてね。」
「大丈夫ですよ、しほさんもお仕事頑張ってくださいね」
「お母様、お父様のことはおまかせください」
ここでまほは母の肌の色つやがやけにいいと思った。心なしか機嫌もよい。
みほはそういうことに疎いせいか気づかなかったが、まほはだいぶ察しがついた、黙ってはいたが。
ドアが閉まり車は出ていくそれを見送ってからしほは違う車に乗って出かけた。
「では、行きましょうかまほさん」
「はい、お父様」
「黒森峰女学園に」
次回の西住さん家の戦車道は!!
黒森峰に降り立つ父、伊代。
大洗へ転校を決めるみほ。
「では、みほさん。新しい自分を見つけてください」
「ありがとう・・・お父さん。わたしこれからはちゃんとするから」
彼女たちの道はまだ続く!!