夜になって慧音先生たちと入れ違いになるように文さんが来た。疲れているように見える事から恐らく天狗の用事が面倒な内容だったのだろう。
「疲れました…あぁ、ちゃんとご飯も食べて大人しく寝ていたようですね。まぁ、慧音さんがいたのなら納得です。」
慧音さんの料理、美味しかったです。食欲不振だったので食べられないかもしれないと心配でしたが、非常に食べやすかったです。ついでに手伝おうとしたら(物理的に)布団に帰らされました。
「みんなに迷惑かけちゃいましたけどね…文さんもお勤め御苦労様でした。」
「まったく、厄介な内容で困っちゃいますよ。しかも、内容は機密なので記事にもできない。まったく…私一人がサボっても特に影響なんてなかったでしょうに…。」
「…ぼやくのは良いですけど、いきなり服を脱がし始めるのは止めません?」
濡れタオルを片手に慣れた手付きで服を脱がそうとしている文さん。実際、何度もやってもらっている事なのですが…やっぱり恥ずかしいものは恥ずかしいのです。
「あやや?今に始まったことじゃないでしょうに。それに、服着たままでどうやって体を拭くのでしょう?ま、これで終了って訳で先に布団に入って寝てて下さい。ちょっとお風呂借ります。」
そう言いながらお風呂の方へと歩いていってしまう彼女は、やっぱり相当疲れているようです。ちょっとフラフラしている気がしますし、見るからに覇気がない。
…暇だ。
天上のシミの数を数えるのも飽きてしまった。先に寝ていて良いとは言われたけれど、家主が客より前に寝るのは…なんとなくダメな気がする。
「ふぁ…。」
瞼が重たいです。大ちゃんに買って来てもらったあの薬って凄く眠くなるんですよね…もうちょっと眠くならないのはないのでしょうか。
あ、文さんが歩いてくる。
お風呂いつもより急いで上がって来たのかな。でも、どう考えてもいつもより早い。いつも、カラスの癖に行水はゆっくりなのだ。つまり、幻想郷最速って言っている癖に長風呂だということ。
その姿形は素晴らしく文さんに似ている。 しかし彼女は文さんではない気がする。〝化ける時には細部にも気をつけて化けろ〟…これは慧音先生から受けたアドバイスで対象と親しい人などを化かす時には特に重要なことだ。どこか違和感がする。
「あなた、誰ですか?文さんではないですよね?」
微かに漂う妖気…この感覚は幻術。
「あやや…わかっちゃいました?
一応、おまえも同族だからな。」
煙と共に現れる9本の尻尾。金色の尻尾と髪を持つ人物は伝説級の妖怪であり、妖弧の最終形態である九尾。
「あ…ぁああ文さぁああん!!!」
急いで布団から這い出てよろけながらも走り出す。逃げなきゃ殺られる。ただの狸ならまだよかった。
「無駄だ、おまえも知っているだろう?幻術にかかったという事は五感を支配されたということだ。つまり、おまえがここから逃げる術はない。
私の名は八雲藍。八雲紫様の式をやっている。」
「や…やぐも…スキマの妖怪の?わ、私なんかになんのようですか?」
「私は、紫様のもとに白狐をお届けしなければならないのだ。」