超能力者は勝ち組じゃない 作:サイコ0%
「影山くんは、あの女性がもう人格が無いとわかっていたのか?」
帰り道。あの屋敷から帰るその道。オレはそう影山くんにそう問いかけていた。
オレは霊幻さんの記憶からとこっくりの様子から予想はしていたが、まさか影山くんもわかっているとは思ってなかった。
「うん、なんとなくだけど」
「そっか……」
こくりと頷き苦笑する影山くん。一目ではわからないその変化をオレはちゃんと見て理解して、オレも苦笑した。
あの後、こっくりが静かに涙を流した後、オレ達は老人の悪霊を連れて帰った。途中、騒動を給仕室から覗き込んでいた執事長が正門まで案内してくれた。臆病だが良いご老人であった。
「お前ら、良くやったな。たこ焼き奢ってやる」
前を歩いていた霊幻さんがそう言った。たこ焼き!やったぜ。最近値段が高くなってきているたこ焼き。それを奢ってくれるとなると、結構得じゃないだろうか。
同じようにたこ焼き、と呟いた影山くんだったが、急にハッとした様に霊幻さんへと声をかけた。どうしたというのだろうか。
「ししょう。あの悪霊はどうするんですか?」
ちょいちょいと指を差した方向にはあの青緑色の老人の悪霊がいた。立派な髭を携えながら、ふよふよと仕方がなさそうに付いてきている。別に此方としては消しても良いのだが、この時点での上司は霊幻さんだ。部下の影山くんは判断を仰いだのだろう。自分じゃどうすればいいのかわからないから。
「あ?あ、あーっ……」
霊幻さんは最初、怪訝しそうな視線を影山くんへと向けていたが、影山くんが指差した方向にいたあの悪霊を見て、バツが悪そうに頭を掻き悩んでいる様な顔をしていた。腕を組み、暫くじっと考え込んでいた霊幻さんだが、やがて決意した様に影山くんに言う。
「よし、溶かせ」
「あ、はい」
その言葉を聞いた影山くんは躊躇なく左手を上げる。その動作を見たあの悪霊は、仕方が無いように笑い、その小さな両手を上げた。所謂、降参のポーズだ。そんな行動をした悪霊にオレと影山くん、霊幻さんはきょとりと瞬きをした。潔いな、なんて思いながら。
「潔いな、もうちょっと渋るかと思ってたんだが」
『フッ、何を言う。儂の目的はもう達した。此処に留まる理由が無いのだから、潔く消えても何ら不思議は無いと思わんか?』
霊幻さんの言葉に悪霊はそう答える。ニヤリと意味深に笑いながらも、その眼にはどこか諦めが見えた。留まる理由が無い?本当にそうなのだろうか。
霊というモノは現世に強い未練があって留まっていられるモノ達の事だ。逆に言えば、強い未練が無ければこの世に留まっていられない。勝手に成仏する、という事だ。しかし、目の前のコイツはどうだろう?まだふよふよと漂っている。という事は、まだやり残した事があるのでは無いか。
悪霊の未練はあのこっくりを倒せなかった事だという。生前は今と比べ、人よりは強く人ならざるモノよりは弱かった。だからこそ、人ならざる霊になった時、あのこっくりを倒そうとした。しかし、こっくりもこっくりで、人に取り憑き、この人の息子を誑かした理由があった。それは、この悪霊にとって許せる理由。だからこそ、もうこの世には留まる理由がないと言った。
改めて悪霊を見る。やはり、瞳の奥に後悔の様なモノが見えた。この人はまだ、消えてはいけない。
「オマエ、まだ」
『何を言う、超能力者よ。儂はもうこの世に未練など---』
その時だった。
此処にいる誰でもない声が聞こえたのは。
「父さん……?」
オレを含めた四人共が声をした方を向く。そこには眼鏡を掛けた青年がいた。いや、男性か。
見覚えがない人だったが、此処はまだ山の中。あの屋敷の主人の敷地外ではあるが、こんなあの屋敷以外何もない山に訪れる人なんて限られてくる。となると、消去法であの男性がこっくりの旦那で、屋敷の主人だ。
「……やっぱり、父さんだ。その姿、除霊されかけてるんだね」
クルリと振り向いた悪霊の側まで寄り、その顔を確かめてから、男性はうんと頷きそう言った。悪霊の状況からそう察したらしいが、普通の人はそうは思わない。そもそも霊との接点が無いはずなのに、この人は冷静に見ていた。
『そ、それは』
「いいよ、わかってる。彼女が除霊業者を呼んだんでしょ?そこにいる彼らがそうだよね?」
『あ、あぁ、そうだ』
息子を前に吃る悪霊。その姿はクスリと笑いが込み上げてくるモノがあるが、それよりもその旦那さんの容姿に目が行ってしまう。
存在感の無さそうである様な姿。眼鏡の奥の半開きの眼。そして切り揃えられた前髪。そう、何処かの誰かさんにそっくりなのである。詳しくいうと、近くにいる一瞬ぽけっとしている様な顔をしている少年に。決して、オレの事では無い。
そそそっと霊幻さんの側により、顔を近寄せる。目線は旦那さんに、たまにチラリと影山くんを見た。
「……似てません?」
「あぁ、似てるな。瓜二つだ。眼鏡を外したらそのまま成長したモブの様だな」
「世界にはそっくりさんが三人いるとか言いますけど……」
「これ程とはな……」
本人達はハテナマークを浮かべ、首を傾げている。その姿もそっくりすぎて、思わず吹き出しそうになるが何とか堪えた。ここで吹き出してしまえば、失礼に当たる。それだけは避けたかった。
「えっと、貴方達が妻が呼んだ霊能力者さん達ですか?」
オレと霊幻さんの視線に気づいた旦那さんが、気まずそうに此方を向き、そう言ってきた。
「いかにも。この霊幻新隆が引き受けました」
霊幻さんが一歩出て、答える。一応上司の霊幻さんはこの中で代表的な存在だ。それに、彼は口が上手い。オレ達が下手に話すよりはマシだし、影山くんに任せると空気読めずにズバズバ言うので、それはダメだ。それに、オレだと、空気読めないんではなく、読まない事もあるし。
「……妻と父さんがご迷惑をお掛けしました」
「いえいえ、霊能力者として依頼を受けた身として当然の事をしたまでです」
ペコリと頭を下げた旦那さんに、霊幻さんは手を振りながら下手に出る。しかし、頭を上げる様に言われた旦那さんの表情は優れず、申し訳無さそうにしていた。そして、此方を見た瞬間にハッと息を飲んだ様な顔をして、オレに詰め寄ってきた。えっ……?
「あ、あの!君、その耳っ!」
「え?あ、あー。大丈夫ですよ。もう止血はしてありますし、あとは治るのを待つだけですから」
耳、という言葉に内心首を傾げたが、すぐに思い出した。そういや、こっくりにやられてパックリといっていたのだった。断崖絶壁ができた耳は見ていて痛々しいのだろう。旦那さんの顔が青ざめていた。
「本当?それなら良かったけど……それ妻がやったの?」
止血というのは本当だ。念動力で血を操り、これ以上出ない様にしたため、あとは瘡蓋ができて皮膚ができるのを待つだけだ。出血多量というほどでもないし、命に別状がないので、大した事ではない。
「えっ、はい、そうですが、まぁ避けきれなかった自分が悪いので……貴方が気に病む必要はありませんよ」
そう言うとまた申し訳無さそうな顔をしていた。影山くんより表情が豊かだなー、と思っていると、霊幻さんが声をかけてきた。
「こう言ってるので、大丈夫ですよ。ところで、ご主人」
「はい、何でしょう?」
「そこの霊。この霊幻新隆にお任せ頂ければ、すぐにでも除霊致しますが?どうしましょうか?」
そこ、と言いながら指差した方向は勿論、あの悪霊である。旦那さんの父親である彼は、ピクリと体全体を揺らして反応した。恐る恐るという風に旦那さんを盗み見ている。怖いのだろうか?先程までたった数分とは言え、威厳を見していたあの悪霊がこんな弱々しく実の息子を伺っている。
オレは彼の言葉を振り返る。〝女狐〟〝息子を誑かした〟という言葉。そこから分かる事は彼が自分の子供が好きだったという事。愛すべき存在であり、守る存在であった。だからこそ、あのこっくりを倒そうとしたし、今もこうして伺っている。彼はただ、子供第一の親バカだったのだ。
だとすれば、彼のこの世にある未練は〝息子を見守る〟事。こっくりが旦那さんに惚れているとわかり、手を出さないと理解したとは言え、やはり心配なのだろう。コレが親心というモノなのだろうか?大人じゃない子供なオレにはわからない事だ。
暫く考え込んだ旦那さんは、ゆるゆると首を振ってへらりと笑った。……影山くんも笑えばこんな感じなのだろうか?
「遠慮しておきます」
「……そうですか。今なら特別サービスで無料、と言いたい所でしたが、それなら仕方がないですね」
「すみません。やはり、死んでも父さんは父さんなので」
苦笑する旦那さん。
そんな旦那さんを見て笑う霊幻さん。
「では、また霊の相談がありましたら、霊とか相談所をご利用下さい。二回目以降の方には割引仕様がございますので」
「はい、困った時は頼らせていただきます」
互いが互いにペコリと挨拶をして、別れる。あの悪霊……お爺様とやらは、やはり旦那さんについて行く様だ。こっくりと喧嘩にならなきゃいいけど、それは彼次第だろう。
旦那さん達と別れたオレ達は再び並んで歩き出す。霊幻さんの左右にオレと影山くんが配置される仕様だが、当然の如く右側は影山くんであった。うん、何だかこの二人、コンビとしてはいい線行っていると、今日一日見ていて思ったしな。
そういや、あの悪霊が部屋に呼び出す時、自身の敵の霊能力者である霊幻さんだけでなく、影山くんまで呼び出したのは、彼の息子が影山くんそっくりだったからなのだろうか?それとも、彼と同じ様な雰囲気を感じ取って、コイツなら理解してくれる、と思ったのだろうか?人の考える事はやはり、教えてくれなきゃ理解は出来なさそうだ。まぁ、オレの場合触ったら終わりなんだけどな。
太陽がもうすぐ顔を隠す様な時間帯。深い蒼と綺麗な橙が複雑なコントラストを描いて、とても幻想的で綺麗だ。そんな景色を歩きながらも楽しんでいたら、一緒に歩いていた影山くんが急に止まった。振り返ると何やら少し悩んでいる様な素振りを見せていて、霊幻さんがどうした?モブ、と話しかけると顔を上げてこう言った。
「あの人、ぼくにすごいそっくりでした」
世紀の大発見の様な表情でそう言うモノだから、オレは無表情で盛大に吹き出してしまった。
いつもより倍増しでお送りしました。