超能力者は勝ち組じゃない 作:サイコ0%
依頼内容はこうだ。
最近、視線を感じるやら、私物が無くなるやら、更衣室でブラジャーが浮いていたやらの心霊現象が多発しているのでそれを調査、原因を突き止め、もし本当に悪霊の仕業ならば除霊して欲しいという事だった。
「というか君達、その格好で来たの?何で?」
「師匠が、許可が取れなかったって……」
「師匠……?」
「けど、そうなのよね。校長に言っても、何を馬鹿な事言ってるー!って言われて」
「あの時、ほんと腹が立ったよ」
心霊現象なので校長に掛け合っても戯言と言われ相手にしてくれず、近くにある安い霊能業者である霊とか相談所に電話したんだそうな。確かに、学生にも払える値段だもんな。他じゃぼったくりとかザラであるし、ちゃんと祓ってくれない。それに、先払いだ。
霊幻さんの威厳の為に言っておくが、霊とか相談所は優良物件と言っていい。語彙力がないのでそんな例え方をしてしまったが、所長である霊幻さんは口が達者でお客の憂いを祓ってくれるし、影山くんがいるお陰でホンモノの依頼にも対応できる。そして、安い。これに尽きる。とにかく安いのだ。最低で二千円。これが安くないという奴は頭が可笑しいと思え。
たぷたぷと親指を動かして、スマホのメモ帳に依頼内容を書き込む。相談された時の話とほぼ変わっていない内容だが、念の為だ。当事者というわけではないが、依頼者の話をメモするのは調査の上で基本だろう。ボイスレコーダーというものを後から思いついたのはこの際、なかった事にして欲しい。
「依頼内容はわかりました。これから調査しますので、お付き合いお願いできますか?」
「うん。場所わかんないもんね、案内するよ」
「正直不安だけどさ、頼れるのあんた等しかいないからね」
年下だからってその態度はどうにかならんのかよ。いや、相手はお客様だ。お客様は神様だと言うしな。平常心、平常心。だからって、顔に出ないけど。オレの表情筋は今日も死んでいた。
調査を開始して校舎中を周る。放課後だからか人は殆どいないが、居残りの人や部活の人、ただ駄弁ってるだけの人がちらほらいた。
懐かしいな。オレも昔はあぁやって、友達と駄弁って放課後を無駄に消費していた。今でこそ、霊とか相談所や第八支部があるが、前世じゃ超能力なんか持たない極々普通の少年だった。因みに今は学校の友達少ないので、放課後駄弁るなんて事はできない。別に悲しくはない。放課後にやる事ができる、それは結構充実した日々ではないだろうかと最近思うのだ。思考がジジ臭いとか言うなよ、そこ。
事件が発生したという場所を辿る。霊の気配と言うべきなのだろうか、ふよふよと見える何か青白いモノがあちこちにある。それを辿っているのだが、影山くんはその青白いモノが見えていないようだ。影山くんについて行くと分かる事、偶に首を左右に動かしていたりして、しっかりとそれを目に捉えていない事がわかる。オレにしか見えないモノか。よくはわからないが、多分オレが精神感応をできるからだと思われる。
精神感応はオレが生まれた時からできた事だ。念動力も瞬間移動もそうだが、昔はそれ程強くはなかった。最初は対象に触れて、大体の事しかわからなかったが、今は対象に触れずともわかるし、遠くの人の事もわかる。つまりだな、オレの周りの奴らの心覗き放題というプライバシーの侵害も関係ない事ができるのだが、何も精神感応は人だけにも作用するものではない。物にだって使える。精神があるのか謎だが、まぁできちゃったのだから深くは考えていないようにしている。なので、霊の跡の様なモノが見えるのはその所為だとオレは推測した。
物についた、つまり霊が触れた時についた僅かな霊力や、漏れて大気中に漂う霊力を感知する事ができる、という事なのだろう。自分で言っててよくわからないが、まぁそんなモノだと受け入れておく。だって見えてしまってるのだから。楽観的思考だとか言わないでくれ。
影山くんが右往左往している中、オレはある一点を見つめる。あの青白いモノ、霊の残り香は僅かに真新しかった。その事から影山くんが察知して追いかけている中、霊は逃げる様にして校舎中をあっちこっちしている。警戒しているのか、仕掛けてくる事はないが……これでは無限ループだ。
「(ちょっと、細工するか)」
概念がわからないのだが、霊には超能力が効く。それは影山くんやオレがこうして除霊をしている事からして最早わかりきった事だが、少し不思議に思う自分もいる。
一般的に超能力は脳の異変が生み出した能力とも言われる。詳しくは知らないが、脳の誤作動や正常に機能しないとか、超能力を使えるヤツと使えないヤツの脳の形が違うとか、聞いた事がある。あやふやなのでハッキリとは知らないけど、そういう事なのだろう。つまりだ、超能力は科学に準ずる。しかし、霊はどうだろう。オカルト、非科学的だ。墓などで見る人魂は化学反応で青く見えるとか何とか言っていたが、じゃぁ目の前の霊はなんだろう。理解不明だ。非科学的なのに、何で超能力で除霊できて、見えるのか。うむ、謎だ。
結構話が脱線したが、オレは右手を上げて遠くにある次に霊が向かうであろう場所にバリアを張った。それは人が通れて霊が通れないモノ。どうして作れるのかは、オレの想像力が豊かだと言っておこうか。
『いたっ……何だこの壁は』
少し低い声が聞こえた。状況からして十中八九、霊。
引っかかったな?
ニヤリと笑って、オレは次々にバリアを張っていく。先程までに霊が通った場所、教室、職員室、更衣室、部室や、準備室。それだけに飽き足らず全教室や部屋にバリアを仕掛ける。精神感応と念動力の応用で透視もどきを発動し、霊の動向を探る。どうやらオレの張ったバリアのお陰で行ける場所がなくなったらしい。焦ったような雰囲気を感じ取り、そしてそこからいなくなった。
「(校舎からは出て行ったか……)」
けど、流石に学園からは出て行かないとオレは予想している。だとすれば、行ける場所は人一人いなくなったグラウンド除いてただ一つ。
「「体育館」」
ん?
振り返ると戸惑った影山くんがいた。どうやら、彼と声が被ったらしい。依頼主と一緒に行動していた影山くんとは別行動していたオレだが、結局の所彼も霊の気配を追ってここまで来たらしい。まぁ、前にいたはずの影山くんが後ろから来たとなればそうだろうな。一周してきたのだと思われる。
「日向くんも?」
「あぁ、同意見だ。どうやら霊は体育館に入って行ったらしいな」
「うん。霊も相当怒ってる。逃げ場のない体育館だからこそ、そこに行ったのかも知れない」
十中八九、オレの所為なんだけどな。追いかけ回すよりタチの悪い妨害。多分だが、このまま追いかけていたら夕暮れ頃にあの霊は怒っていただろう。しかし今はまだ空が青い。こんなに早く怒らしたのには、今後用事があるからで。今から行ってもギリギリだろうなぁ。
追いかけ回した事より妨害された事の方に怒った霊は体育館に立て籠もったのを見計らって、すかさず影山くんが右手を上げて超能力で閉じ込める。
「今、逃げられない様に結界を張りました」
「あそこにいるの……?でも、今……」
「やだ!あたし、怖くなってきたんだけど」
影山くんの報告に女子高生二人が怯える。確かに霊とは無縁の生活してそうだもんな、女子高生って。けれど、殆どの人はそういうモノで、こうやって関わっている方が稀である。霊能業者が詐欺るわけだ。数が少ないんだからな。
ジャリッと土と細かな石を踏みしめる。感触はローファーの底から伝わってきて、思わず動かない顔を顰めた。このローファーの靴底が薄い事から、安物だと確信する。因みに顔はあまり動いていない。
体育館に近づくにつれて、霊の気配と複数人の気配が濃くなってくる。掛け声や、体育靴の滑る音がするので、部活中なのだろう。ボールの跳ねる音からして、バレーボール部。ガチャリ、と重たい鉄鋼扉を開けた。
「あ、違った」
「え?」
扉を開けて見えたのはユニホームを着込む女子達。バンバン!というボールの音、キュっというターン時に鳴る摩擦音が耳に届いた。しかし、その跳ねるボールの色は茶色。一般的なバスケットボールであった。
……どう見ても、バスケですね。ありがとうございました。
無表情ながら目を瞑り、手をあわせるオレに隣から怪訝そうな視線が刺さる。後ろにいる女子高生二人に至っては、何してんだコイツ?というような冷めた目線だ。
しかしどうして、バレーボール部だと判断したのだろうか。バレーボールは基本的に上にボールを上げて落とさないようにするゲームである。バスケは対照的に床にボールを打ち付けて移動したりするゲーム。間違えようがないね、すみません。耳鼻科にでも行って難聴じゃないか聞いてこようかな。多分精神年齢に身体が引きつられたんだ……そんなわけないけどな。
体育館の中にいたバスケットボール部達は声を掛け合って練習試合をしていた。短パンから覗くスラッとした脚がとても眩しいが、オレの脚より逞しそうだ。アレに蹴られた時には青痣ができる気がした。
こっちー!やらパス!などの声を聞き流しながら、霊はドコにいるのかと探せば意外な所にいた。なんと、悪霊さんはバスケットボールのゴールの上にいました。何であんな所にいるんだよ、というツッコミは置いておいて、さて仕事と行きましょうか。
『俺は、おれはただっ!』
隣にいた影山くんが、見つけたと呟いてから高速移動したので、オレはその進化バージョンである瞬間移動で悲鳴を上げて恐怖に震えている女子高生達の前に移動する。
ゴールへ入るはずだったボールは悪霊に受け止められて破裂させられる。そこから相当な握力があると分かるが、オレ達の前ではそれも無力だ。実体のあるものでオレ達超能力者にも敵うほどの腕力や握力の持ち主ならば、どうにかなるのかもしれないが、相手は霊である。何故か超能力が効果抜群な霊である。この世にもういてはいけない存在でもある。そんな相手が生きている者、しかも超能力者に敵うのか、いや否だ。
オレはバリアを張り後ろの女子高生達を守り、影山くんは悪霊の右腕を飛ばした。青い学ランを着込んでいる事から、その悪霊は生前中高生だったのだろう。同じ学ランって所に親近感が湧くが、生憎今はブレザーだ。しかも女物。すまない、悪霊よ。同情はしない、ただはやく成仏しろ。学ランが羨ましいんだけど!
右腕付近に風の刃ならぬ、空気を刃の形にして固めたモノを念動力で作り出す。それを操り悪霊の元へと投げた。その時バリアに当たりそうになったので急いで解き、張り直した。たぶんコレに当たったら攻撃にならず、ただ透明な壁に透明な刃が突き刺さるという妙な図ができてしまうので、防げてよかったと思う。
『ぐぅ……っ!!』
影山くんが飛ばした右腕のみならず、いきなり飛んできた空気の刃によって左腕も切断される。両腕を失った悪霊はよろけるが、しっかりとした足で身体を支えた。倒れるまでは行かずとも、よろけさせる事は出来たようだ。満足。
『くそっ!くそ!霊能力者めっ……!おまえらなんか来なければ!おれはっまだ!』
「この生活を送れたのに、か?嫌だな、そういう考えをする悪霊は」
「日向くんの言う通り、僕も嫌いだ。他人に迷惑をかけるものじゃない」
感性が違うとかそういうんじゃねぇんだよな。ただ迷惑、それだけだ。
死んでいる者が生きてる者に迷惑かけるモノではない。そうなれば、除霊は確実だ。しかも今回は女子達とイチャイチャしたかったという欲求。多分だが彼は、オレ達に似たような奴だったのだろう。クラスの端で誰とも話さずいつも一人でいるヤツ。自分から必要以上に話しかけず、それでいて話しかけられても吃るしかないような……気が強い子がいたなら多分いじめの対象にされていそうな、そんなヤツ。
オレは大抵自分から話しかける事はないし、話しかけるとしても律くんと影山くんぐらいだろう。クラスメイトとは、まぁそれなりに上手くやっていっているつもりだが、特定の相手とつるむなん事はない。因みに影山くんはオレと律くん以外に話しかけられる対象がいないんだとか。
ともかく、オレ達が来た時点で観念するんだな。霊能界で霊とか相談所以上に良い所オレは知らないし。影山くんやオレという例え強い霊であろうともほぼ除霊できる能力者、そして口では多分誰にも負けないであろう霊幻さんがいるんだからな。分担わけが偏っているが、まぁ完璧に近い。
「そもそも、優柔不断すぎる」
『は?』
突然の言葉に戸惑う霊。オレはそんな悪霊を気にせずに続けた。
「一般人にはわからない程に姿を消していながら、故意的な心霊現象を起こした。興味を持って欲しかったんだろうが、それなら姿を見せればいいだけ」
そしたら除霊まっしぐらコースだが、結果的にこうして除霊できるオレ達が来たのだから、まぁ時間の問題だったのだろう。
「姿を見せれば除霊は確実。嫌だ、けれど彼女達に気づかれたい。ほら、優柔不断にどっちつかず。姿を人に近づけるとか、イケメンに憑依するとか、色々やり方はあった筈なのにそれもしなかった。つまりだ、オマエのやった事はほぼ唯の八つ当たり、それか欲求不満によるモノ。ブラジャーの件がそれだな」
まぁ、姿を変えるとか憑依は悪霊によって使えないらしいけどな。
ブラジャーの言葉で少し顔を赤くする影山くんに、初々しいなというおっさんのような感想を抱きながら、オレは怒ったのか襲ってきた悪霊の左足を吹き飛ばす。そして、次に右足も吹き飛ばした。ふらふらしていた悪霊は完全に支えを無くして倒れる。再生しようとしても無駄だ。できないように念動力でその傷口を覆って止めてるからな。現に影山くんに吹き飛ばされた腕は戻っているが、オレが飛ばした方はまだ再生していない。
「つーことで、来世に期待しろ」
オレが親指を下に向けて突き出し、そう言った瞬間、影山くんが悪霊の全てを吹き飛ばした。
言いたい事は全部言った。スッキリだ。
実は言うと優柔不断な所に少しだけイラッとしたのは事実だ。いつも以上に喋った気がするし、何処か疲れた。
「(というかオレって自己嫌悪激しいな、おい)」
悪霊に対してあれだけ喋ったのは、その優柔不断さが自分に似ていたからだ。どっちつかずというのは寧ろオレの方で、幽霊の様にふらふらしていると思われる。
爪という超能力者の組織に所属していながら、その目標である世界征服には賛成していないし、けれど抜ける様な事はない。ほら、どっちつかずだ。そもそもだ、オレは前世から優柔不断だった。日本人の特徴と言えば良いんだろうが、それでも他の人に比べると酷い方だ。選べないじゃない、選ばない。他人に選ばせ、それに賛同する。とにかく否定する事も無く、自分の意見も言わない。ふむ、典型的なコミュ障である。グループ学習とかホント嫌だった記憶があるな。
今世、というか今はまだマシな方だろう。組織の事は置いておいて、普通に考えて意見言える様になったしな。年月というモノはゆったりと問題を解決してくれる。いやはや、転生してから解決するって何だよって感じだな。
「珍しいね」
内心ため息を吐いていると、一安心した影山くんがそう言った。オレは首を傾げる。
「日向くんが感情を出すの」
あぁ、そういう事。
「そうでもない。今も内心じゃ、大嵐の様に感情が乱れてるからな」
肩を竦めてそう言ってやると、影山くんは小さく笑う。一体何だろうか?影山くんの不思議ぶりは今に始まった事ではないが、気になる。
首を傾げながら、頭を捻っているとドン!と誰かがぶつかってきた。思わず倒れ込みそうになるが、念動力と瞬発力を振る利用して何とか持ち堪える。一体誰だよ!と文句を言ってやろうと顔を見ると、依頼人の一人だった。何か笑顔で凄い凄い!と言っているが、耳がキンキンさるのでやめて欲しい。
だからだろうか、影山くんが女子高生達に囲まれる前にボソリと呟いた言葉が、あまり聞き取れなかったのは。聞こえたのは、うらやまという単語。オレでも裏山の方だとは思わない。なら、そうするとこの言葉になる。
---羨ましい。
違う女子高生がドン!とまたもや抱きついてくる。今度は鳩尾にクリーンヒットし、嗚咽を漏らした。そして意識を失いかけながら、オレは思う。
女子高生に抱きつかれてるのに嫉妬するって、影山くんもやっぱり普通の男子中学生だなぁ。
影山クンは超能力全開放イコール感情爆発だからね。