人間を憎む怪獣王と人間を守る守護神、そして時々アホの子 作:木原@ウィング
前々から書いてはいたのですが色々と事情と書きたい作品やリアルでの学業での事などでやる事が多くなっており最近にメッセージを頂くまで制作の意欲が湧きませんでした。
わざわざメッセージを送っていただき、こんな作品を待っていると温かいお言葉をいただきました。
待たせてしまった分、普段より少しだけ多く書きました。
そして今回から少しだけ書き方を変えました、見やすければ今後もこのように書いて行こうかと思います。
ご期待に添えられるか分かりませんが最新話、どうぞお楽しみください
「くっだらねぇ」
「なんですって?」
「くだらねぇって、言ったんだよ。お前の言った内容に全然興味が無ぇしな」
楯無は護羅のその発言を受けて、護羅に向ける視線を鋭くした。
その目には少しばかり殺気が乗っている。
しかし、そんな殺気を受けても護羅は不快そうに顔をしかめて舌打ちするだけだった。
「……取りあえず、その程度の温い殺気を向けるんだったら止めろ。不快だ」
「悪いけど、出来ないわね」
「…………」
楯無が毅然とした態度で拒絶を示すと、護羅は視線を鋭くして面倒臭そうに頭を掻いた。
その様子は子供に何度もつっかかられてイライラしている、そんな感じだった。
「貴方が発言した今の言葉は、私が大切にしているこの学園の生徒達の安全を願った想いが込められていたの。それがくだらないなんて言われて『はい、そうですか。』なんて簡単に引き下がれないわ」
「……大切にしている生徒達、ねぇ」
楯無のその発言を聞いて護羅は暫く目を丸くして呆然としていた。
しかし、その内容を理解するととても可笑しそうに口を手で押さえながら笑い始める。
その様子を見て更に馬鹿にされたと感じた楯無は持っていた扇子を閉じて本気の殺意を滲ませ始める
「なにか可笑しいかしら?」
「いやいや、これが笑わずにいられるか? 何が可笑しい? 可笑しい事だらけなんじゃねぇの? お前……ここに居る奴らに守る価値なんて有ると本気で思っているのか?」
「……どうしてそう思うのかしら?」
ようやく笑いが引いたのか少しだけ不機嫌な顔に戻った護羅は先程の仕返しとばかりに視線にほんの少しだけ殺意を乗せて楯無を睨み返しながら、口を開いた。
「この学園に居る大多数の人間はよぉ、この腐り切った今の世界に染まりきった大バカ共ばっかだ。そんな奴らを守りたい? はっ、笑わせてくれる」
その発言を受けて楯無の眉が一瞬だけピクリと動くがそれを気にしないで護羅は自身の中に存在する怒りのままに胸の内を咆哮と共にぶちまける。
「俺はそんな奴らは全て滅べばいいと思っている。それどころか、俺自らの手で今すぐに殺してやりてぇよ!!」
護羅のその発言と同時に楯無が動く。
自身の専用機 霧纒の淑女の部分展開で蒼流旋を握り護羅の首元に突き付ける。
しかし
「なっ!?」
そんな楯無の動きよりも早く、護羅は部分展開した自分の専用機の鋭い爪を楯無の首元スレスレに突き付けていた。
楯無はその結果を信じられないと言った表情で見つめる。
ロシアの代表でもある自分が、年下の、しかもISに乗り始めたばかりの子より展開スピードが遅かった。否、この少年の展開スピードが異常に早いだけだった。
「この程度か……少しだけ期待してたが、期待して損したな」
それだけ言って護羅は楯無に対しての興味を無くしたかのように部分展開した右腕を収納し、楯無を避けて自分の部屋に戻ろうと歩き出す。
「俺は興味が無ぇ事に関してはとことん無関心なんだが……あんまりしつこいとどうなるか分からねぇぞ?」
「ま、待ちなさい!」
しかし、そこでようやく我に返った楯無が護羅の腕を咄嗟に掴む。
腕を掴まれた護羅は楯無に顔を向けずにその場に留まった。
顔を向けないで少しだけ面倒臭そうに溜息を吐くと、たった一言だけ呟いた。
「……離せ」
「いいえ、離さないわ。まだ私はッ!」
「もう一度言う」
『離せ、俺がお前を殺してしまう前に』
「ッッ!?」
その瞬間、楯無は久し振りに『死』を感じた。
こちらに顔を向けていない筈の、自分より年下の少年から発せられた本気の殺気を受け、『死』を感じたのだ。
普通に生きていたのでは有り得ないほどの殺気。それを一身に受けて楯無は思わず手を離した。
護羅はそれを一瞥もせずに、そのまま悠然と歩き出し、自分に割り当てられた部屋に戻って行った。
そして護羅を見送ることしか出来なかった楯無は廊下の壁に背中を預けてしばらく呆然としていた。
心に少しの安堵と護羅に対する罪悪感を宿しながら……
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「なるほど。で、護羅に対するファーストコンタクトが貴方が思ったような感じに行かなくて私の所に来たわけね」
「そうなのよ! もうあの子本当に何なの!?」
護羅によって蛇に睨まれたカエル状態にされた楯無はそれから何とか元に戻り護羅に対する不満を自分の友人でもある最珠羅にぶつけていた。
最珠羅からすれば、それは楯無による自業自得でしかないと思いつつも話を聞き続ける。
そうしなければ楯無の今後の仕事に関わるからだ。
「まぁ、気が立っている状態の護羅にそんな胡散臭い雰囲気で近づいたのが悪いわね」
「何よ! 私が悪かったの!?」
「うん」
「わぁ! 即答!?」
楯無のオーバーリアクションな反応を見て、呆れたようにため息をつく最珠羅。
そんな彼女を見て、少しだけ反省の色を見せる楯無。
「良い? たっちゃん。貴方が前に見たように、彼は危ういの。なんでああなったのか貴方も彼の過去に関する資料は読んだでしょう?」
「……えぇ、読んだわ」
「読んでいたし、自分で彼が危ういって言って居たのに貴方の普段の胡散臭い感じに行けば、誰だってそんな風に拒絶するに決まっているじゃない?」
真剣に楯無に対して忠告と少しの怒りを込めて話す最珠羅。その様子は弟分に対する申し訳なさからか少し、いや、とても恐ろしかった。
「こうは言っては駄目なんだけど、彼は普通じゃない。私も、ゴモラも甲芽螺もそれに他にも居る子達も特別な遺伝子が入ってしまっているの」
「私達はなんとかそれを抑えられるようにはなってるけど、護羅は違う。彼は別格なの」
「別格?」
「えぇ、別格。だって彼の遺伝子は……『王の物』なんですから」
「王? 一体何の王よ」
「……怪獣達の王よ」
「全ての怪獣の頂点に立つ。そんな凄い力を、彼は未だに完全には扱え切れてはいないの」
最珠羅は何かに思いを馳せる様に目を細めてそう口にする。
その様子は自分の弟分の事を心配している姉、そのものだった。
「護羅は、そんな呪いとも思える力に悩んでる。それだけじゃない、過去の彼の罪にも苦しんでいる。そんな彼に貴方は一体何をしようとしてるのよ」
「うん……そこに関しては本当に申し訳ございません」
最珠羅の鋭い視線に体を小さくさせて肩を落とす楯無。
その楯無の様子に溜息をつく最珠羅
「私にじゃなくて、ちゃんと護羅に謝りなさい」
「はい……」
反省した楯無を見た最珠羅は楯無に近づいて頭を撫でて慰める。
その仕草は慈愛で満ち溢れていた。
「貴方が最初に護羅の資料見た時に周りに対して怒りを抱いてくれたから、私は貴方に好印象を得たのよ?」
「それだけで?」
「勿論、普通に貴方の人柄も好ましかったからだけどね? それでも誰かの不幸に怒れる貴方だから私は貴方に協力を願ったの」
「その見返りで私は貴方にあの子との仲介を頼んだものね」
少し可笑しそうに楯無は笑い、それに釣られたように最珠羅も少しだけ笑みを浮かべる。
「そうね……そっちの方は何とかなりそうだから貴方も貴方で頑張ってね?」
「えぇ……ありがとうね? 最珠羅」
最珠羅のナデナデで少しだけ気力が回復した楯無は笑顔でそれだけ言って自分の部屋に戻っていった。
そんな楯無に軽く手を振って見送った最珠羅は少しだけ物寂しそうに手を降ろした。
(明日、久し振りにゴモラ達に会いに行こうかな?)
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「……それで? その生徒会長って人に絡まれてそんなに不機嫌なんだ?」
「一々確認するんじゃねぇよ」
「そうも言ってられないでしょ? 貴方は私と家族なんだから。家族の事を心配しての行動なんだからうっとおしい位が丁度良いのよ」
「ふん」
「もう! なんでそんな風に返事するかなぁ!!」
楯無に絡まれた日の夜、護羅の不機嫌すぎるオーラに恐怖したセシリアが涙目でゴモラに助けを求めて部屋に来て貰っていた。
その助けを求めたセシリア自身はというと、ゴモラにほとぼりが冷めるまでは代わりに自分の部屋にいるようにと言われてゴモラの部屋で自分の戦闘データを再チェックを行っていた。
「で? その楯無って人がどうしたの? 胡散臭くて嫌な事を思い出した?」
「…………」
「はぁ……しょうがないなぁ」
そう言ってゴモラは護羅の知覚によってその頭をぎゅっと抱きしめた。
普段だったらそれに抵抗するか嫌味を言う護羅だったが今はゴモラにされるがままになっていた。
「……何の真似だ?」
「貴方がそこまで弱るなんて相当でしょ? 偶にはお姉ちゃんの胸でも借りなさい」
「年は俺の方が上だろうが」
「私にとっては弟だよ?」
「……はぁ、もう勝手にしやがれ」
「うん、そうする」
それからゴモラは少しの間、護羅の頭をとても愛おしそうに撫で続けた。
撫でられながら、護羅は心の中でゴモラに対して感謝の念を抱いていた。
(最初は聞いて来ようとして……すぐに聞くのを辞めやがった)
(こういう時、貴方は誰であれ深く踏み込んで来て欲しくは無いんだよね。それが例え家族でも……)
(……ありがとうよ、姉貴)
(世話のかかる弟だね。護羅は)
普段の口ぶりからでは考えられない程に、心の中ではお互いがお互いの事を大切に思っていた。
こうして、最悪の接触をした2人の夜は更けて行った。
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「なぁ、箒……」
「なんだ、一夏」
「護羅ってさ……何であんなに千冬姉に対して攻撃的なんだろうな?」
「突然どうしたのだ?」
一夏はその日の授業の復習と放課後の鍛錬を思い出しながらふとそう口にした。
それに首をかしげながら箒は眠る支度を一度止めて一夏に向き直り答える。
「いや、最初は気のせいかなって思っていたんだけどさ。でも、他の人に対する態度と比べると明らかに千冬姉を目の仇にしてるんだよ」
「……確かに、他の人間に対しても物凄く恐ろしい殺気を向けるが千冬さんに対しては他と比べ物にならない程の殺気を向けていたな」
「だろ? 俺もあれを受けたから分かるけど……護羅は普通じゃない」
「そんな殺気を受けた原因はお前とオルコットに有ったけどな」
箒からの鋭いツッコミに心当たりが有るのか、思わず口を紡ぐ一夏。
あの時、売り言葉に買い言葉で勝手に喧嘩を買ってそれを止めようとしたゴモラ達に酷い態度を取ってしまい護羅の怒りを買ったのだ。
「あ、あの時は俺も頭に血が上っていたし……」
「それを私に言われてもな……そう言うのは護羅達に言ったらどうだ?」
「あぁ、ちゃんと謝るよ。明日の試合が終わってからな」
「そうだ、お前は明日の試合の事をまず考えておけ。相手は国家代表候補生なのだぞ?」
「そうだな……よし! それじゃあ、明日に備えて今日はもう寝よう!!」
一夏はそれで納得するとそのままベットに入り、眠る体制になっていく。
その切り替えの速さに少しだけ呆れて箒もベットに入り部屋の電気を消した。
この時、二人は忘れていた……この一週間はずっと剣道の練習ばかりしていてISに一切触れていなかった事実に!!
「……それで? こんな深夜にお前から連絡を寄こすなんて一体どういう風の吹き回しだ?」
『いや~本当はもっと速くに連絡したかったんだけどね~。話題が話題だからね~』
IS学園の寮長室、そのベランダで千冬は自分の携帯に掛かってきた番号に少しだけ驚きながらも会話を進めていく。
相手側は普段の様におちゃらけた様なふざけた口調で電話を続けている。
「お前がそんな事を気にするなど、余程の事だな?」
『うん、だって試合するんでしょう? 護羅君達』
「……今更、学園で行われる試合について何故お前が知っているかなどは問わない。問わないが……」
『いっくん、護羅君達と戦うんでしょ?』
「そうだが……待て、束。お前は護羅達を認識しているのか?」
『何言っているのさ~そんなの当たり前じゃん』
束が自分達以外に認識している人物が居る事に千冬が驚愕しているとそんな事はどうでも良いと言った風に束は話の続きをし始める。
『気を付けてね~ゴーちゃんとガっくん相手だったら手加減してくれて大丈夫だろうけど護羅君は手加減とかしてくれないと思うからさ~。いっくんも死にはしないだろうけど死にかけはすると思うからさ~』
「なんだと?」
『いっくんとあの金髪が喧嘩を売った相手はそれ位ヤバいんだよ』
そこで普段のおちゃらけた雰囲気を完全に消して束は真剣にそう口にする。
束のその変化に千冬もようやく整理が付いたのか眉間にしわを作って聞く。
「奴等は確かに専用機を持っていると聞いているが……」
『どんな専用機までかは聞いていない、でしょ?』
「あ、あぁ……」
『ここだけの話ね、彼等のISって私が作った物じゃないんだ』
「何を言って居る? そんなの当たり前だろう? 一体どこの企業が作った物か」
『ちーちゃん、違うよ。企業でもない、彼等のISはコアすらも私が作った物じゃないんだ』
「なっ!?」
束から伝えられた衝撃の事実に開いた口が塞がらない千冬。
この世に束以外にコアが制作出来る者が存在している、それを世界が知ればそれだけで混乱に陥ってしまう事態だ。
『彼等のISはそもそものコンセプトが違う。彼等のISは宇宙を目指すための物じゃない。彼等の力を最大限に引き出す事をコンセプトにしているんだよ』
「奴等の力を最大限に引き出す? 奴等の力とは何だ?」
『それに関してはまだ知らなくて良いんじゃない? どうせ近いうちに知る事になるんだしさ~』
「束、お前は一体何処まで知っているんだ?」
『ん~? 全部だよ。彼等みたいな存在が他にも居る事も、護羅君が何でちーちゃんや人間に対して凄まじい殺意を持っているのかも』
「アイツが……私に殺意を?」
『ちーちゃんだって気が付いてたでしょう? 護羅君から向けられる異常とも言える程の濃厚な殺意を』
「あぁ、初めて受けた時は巨大な怪物に睨まれている感覚だった」
『おぉ~強ち間違いではないね、それ』
「間違いでは無いだと?」
『あぁ~今日はおしゃべり楽しかったよ。ちーちゃん』
「おい待て! さっきの続きを話せ!!」
『え~ちーちゃんだって明日は速いでしょ? 早く寝たほうが良いよ~てか束さんも寝たいし』
「お前から電話をかけて来たんだろうが!!」
『あれ? そうだったっけ?』
「そうだったんだよ!!」
『あはは~、ちーちゃんや。過去を気にしていたら前に進めないぞ☆』
「お前、次会ったら覚えておけよ?」
割と本気で束に対して殺意を抱いた千冬はベランダの手すりを握り潰すほどの力を込めた。
すると石で出来ていた手すりにヒビが入り始めた。
それを電話越しで察したのか束もすぐに頭を下げまくり怒りを鎮める事にした。
『お、おおお落ち着いてちーちゃん!! 怒りを鎮めたまえ!!』
「現在進行形で怒らせている元凶がなにを言う!!」
『おっしゃる通りで!!』
「……はぁ、疲れた。今度、改めて詳しく聞くからな」
『い、YES、MAMU』
そう言って千冬は電話を切り、疲れたようにベットに倒れ込んでいった。
こうして、試合の前日の夜は更けて行ったのだった。