生徒会長ゼノヴィア   作:阿修羅丸

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魔剣烈剣

 焦土と化したふれあい広場に、異質な剣戟の音が響く。

 魔聖剣ドゥレンダナと木刀『飛龍』、鋼と木のぶつかり合う音だ――が、とてもそうは聞こえなかった。大きな太鼓を打ち鳴らしたような、あるいは地面の下で爆弾が爆発したかのような、そんな重い音だ。

 そして二つの剣がぶつかり合うごとに、四方八方に衝撃波が撒き散らされる。その激しさに、リアスもソーナも連也の加勢に入れなかった。

 オルランドの眷属たちも、主君の戦いをただ見守るだけだ。しかし彼等の表情には、何の心配も不安も見られなかった。それほどまでに信頼しているのだ、(キング)の強さを。

 

「ふははははは! いいぞいいぞ! 俺とドゥレンダナを相手に十合以上打ち合えたのは、昔のお師さん以外じゃあ君が初めてだ! さぁ頑張れ頑張れ!」

 

 オルランドは無邪気に笑いながら、ドゥレンダナを振り回す。だが、決してデタラメな太刀筋ではない。わずかでも連也の構えに隙があれば、真っ直ぐ正確にそこを突いてくる。そして下手な受け方をすれば、その防御もろとも叩き潰されるような威力が、一撃一撃に込められていた。

 連也はその超重量級の連撃から生み出される衝撃を、自身の体内と『飛龍』に宿る念の力で、時に散らし、時にいなして、受け流す。

 

「なかなかやるな……なら、これはどうだ!」

 

 オルランドは少年の脳天目掛けてドゥレンダナを振り下ろした――かと思えば、剣尖が途中で翻り、左脇腹へと狙いを変えた。連也はフェイントに引っ掛かって木刀を上段に掲げたため、そこはがら空きとなっている。

 

 ガギィン!

 

 そんな音がした。

 何たる怪現象か。連也の左脇腹の辺りの空間に、円形状の陽炎が発生しており、その揺らめく空間内から木刀『飛龍』の刀身が生えて、ドゥレンダナの刃を受け止めていた!

 上段に掲げていた『飛龍』にも同様の陽炎が発生しており、刀身が半分以上もその中に呑み込まれて消えていた。

 念で作り上げた空間ゲートを通して、木刀の刀身をテレポートさせる秘技……。

 

「念道剣、水輪(みなわ)くぐり!」

「大した手品だ!」

 

 オルランドはなおも愉快そうに笑う。

 楽しいのだ。己れの力を存分に奮う事が楽しくて仕方がないのだ。

 

「うるせえ!」

 

 空間ゲートから引き抜いた木刀で、連也は反撃に出た。

 連続突きからの、相手の両肩を狙った打ち込み。どれも速く、鋭く、激しい。

 オルランドはドゥレンダナを、休む事なく繰り出される木刀に叩きつけていく。ガードするなどという消極的なものではない。迫り来る相手の得物を粉々に打ち砕こうとする積極的な意思が感じられた。木刀『飛龍』はその身に宿す歴代の念道家の念の力で、桁外れの頑丈さを誇る。だがそれでも、連也の手に強烈なしびれが伝わってきた。

 オルランドの剣質は剛剣などという生易しいものではない。相手の心も体も、その得物さえもドロドロに溶かし尽くさずにはおかぬ、坩堝(るつぼ)の剣と表現すべき苛烈さがあった。

 木刀と聖剣が何度目かの鍔迫り合いとなった。

 

「ふふん、怖い顔だな。男前が台無しだぞ? 何をそんなに怒ってるんだ?」

「何をだと……自分がたった今何をやったのかもわからねえのか!」

「――ああ、それか」

 

 この広場を焦土に変えた事を怒っているのだと、オルランドは理解した。

 

「神様がいつもおやりになっていた事じゃあないか。あのお方が一度もそれを気にした事はないんだから、君も気にする事はない。主の御業(みわざ)に比べれば俺のして来た事なんぞ、子供の悪戯みたいなもんさ」

「子供の悪戯だと……」

 

 木刀を握る連也の手に、力がこもった。

 

「何の罪もない人たちを殺しておいて……言う事はそれだけかぁぁああああっ!」

 

 連也の体から、怒気が炎のごとく噴き上がる!

 全身の力と怒りを込めて、オルランドを突き飛ばした。

 

「いぇぇええええやっ!」

 

 雷鳴を思わせる気合いと共に振り抜かれる『飛龍』。ほとばしる念が刃となって、オルランドを追いかけた。

 ドゥレンダナが吠えて、その刃を打ち払い、消滅させた。

 

「お返しだ」

 

 オルランドはドゥレンダナのパワーを解放する。

 莫大な聖なるオーラが白い光となって溢れ出す。オルランドが魔聖剣を振ると、その光が凄まじい破壊力を秘めた津波となって、地表を削りながら連也に襲い掛かった。

 連也は目を閉じた。

 戦いを放棄したのか――否。

 木刀『飛龍』を迫り来る巨大な白光の壁に突き立てると、光の侵攻がピタリと静止したのだ。そして木刀へと吸い込まれていく。

 相手の攻撃を受け止め、自身の念を上乗せして打ち返す秘技。

 

「念道剣、波濤(はとう)返し!」

 

 横一文字に振り抜かれた『飛龍』から、聖剣のオーラと破邪の念が融合した圧倒的なエネルギーが放射された!

 自らの攻撃を自ら受ける事となったオルランドだが、驚き慌てる訳でもなく、楽しげな笑みを崩さない。

 ドゥレンダナで虚空を縦に切り裂くと、その太刀筋に沿って光の激流が左右に分かれ、掻き消されていく。

 そして閃光が完全に消えた時――連也は既にオルランドの懐に飛び込んでいた。

 みぞおち目掛けて放たれる、電光石火の突き!

 オルランドはこの戦いにおいて初めて、防御に回った。ドゥレンダナの幅広い刃を盾代わりにかざす。

 だが木刀の刀身は聖剣にぶつかる寸前に消失し、その向こう側へと現れる。

 

 ズドンッ!

 

 砲弾が直撃したかのような凄まじい激突音。

 オルランドはサッカーボールのように後方へと吹っ飛ばされた。眷属たちが駆け寄って、受け止める。

 

「ぐおおおおおおおおっ!」

 

 彼等は我が目我が耳を疑った。最強無敵と信じていた(キング)が、たった一人の少年に吹っ飛ばされ、苦悶の声を上げているのだ。

 突きと共に打ち込まれた破邪の念が、オルランドの悪魔と化した肉体を(さいな)んでいた。

 

「イッセーくん、こっちだ!」

「な、何だよコレ! 広場がなくなってるじゃねえか!」

 

 そこへ、兵藤一誠と木場祐斗も駆けつけた。

 

「片付けなさい、ドルトーレ!」

 

 メテオラの命令に、長身の騎士(ナイト)が前に出る。

 

禁手化(バランスブレイク)

 

 誰にも聞こえない小さな声で、彼はそうつぶやいた。

 一誠は神器を顕現させようとした。

 祐斗は神器の力で、聖魔剣を造ろうとした。

 連也は木刀を振りかぶり、突撃していく。

 そんな彼等の周囲の景色が、突如一変した。

 青空は赤錆色の曇天となり、地面も赤茶けた土と化した。

 そして、錆び付いた空から、何十本、いや、何百本もありそうな無数の剣が、雨あられと降り注いできた。

 一誠はかろうじて禁手化(バランスブレイク)が間に合い、鎧をまとう事で防御出来た。

 祐斗は両手に創造した聖魔剣の二刀流で、頭上から落ちてくる剣を払い落としていく。

 リアスが滅びの魔力でバリアを生成し、ソーナとストラーダを守る。

 連也は落ちてきた剣の一本を、木刀で空へと打ち返した。それが別の剣に当たって弾き飛ばし、また別の剣を弾き、その連鎖反応によって、白刃の群れは少年に掠り傷すら与えられず、むなしく地面に突き刺さる。

 だが、剣の豪雨は止む気配がない。

 

「っの野郎!」

 

 一誠がドルトーレ目掛けてドラゴンショットを放つ。しかし地面から生えた複数の剣が重なりあい、盾を形成して彼を守る。

 その間に、連也は祐斗の元へ駆け寄った。

 

「十秒だけ、俺を守ってくれ」

「え? 一体何を……?」

「何かの結界っぽいこの空間を斬る」

「は?」

 

 間の抜けた声を上げながら、祐斗は自分たちに降り注ぐ剣を打ち払い、叩き落とす。

 連也は木刀を正眼に構えて、目を閉じた。

 感覚を研ぎ澄ませ、気配を探る。視覚や聴覚などではない霊的な感覚、いわゆる第六感だ。その第六感が、周囲を囲む壁のような物を感知した。

 体内に残った念を込めて、木刀『飛龍』で虚空を縦に切り裂く。

 

「何だと……?」

 

 ドルトーレが空を見上げてうめいた。

 赤錆色の曇天が二つに分かれ、そこから白い陽光が射し込んできたのだ。

 空の裂け目はぐんぐん大きさを増していき、錆び付いた色の空が完全に消え去った。

 同時に剣の雨も止んだ。

 オルランドたちの姿はない。ドルトーレも足下に展開した転移魔法陣を用いて、姿を消していた。

 

「ありがとよ」

 

 連也は祐斗の背中をポンと叩き、守ってくれた礼を言った。そして広場の外へと歩き出す。

 

「秋月くん、どこに行くの!?」

 

 リアスが駆け寄って尋ねる。連也は煩わしげに振り向いた。その顔は疲労で青ざめている。汗も凄い。

 

「奴等を探すんですよ。見つけ出して、全員ぶちのめしてやらなきゃあ気がすまない」

「で、でもあなた、今にも死にそうな顔してるわよ?」

「――今にも死にそうだよ」

 

 そこまで言って、連也は意識が遠退いていき、リアスの胸に顔面ダイブする形でぶっ倒れた。

 

 ストラーダの応急手当、そしてオルランドとの戦いで念を大幅に消耗していたのだ。加えてたった今、際限なしに剣が降り注いでくる謎の亜空間を切り裂き、連也の体内の念は完全に枯渇した。しかもわずか半日の間に二度も念を使い果たした事で、体力も精神力も限界に達してしまったのである。

 

 

 町外れの廃ホテル。

 転移魔法陣でここに避難した後もなお、オルランドの苦悶の声はやまなかった。魔力で念の侵食を防いではいるが、念そのものを消し去る事が出来ずにいるのだ。

 様々な魔術や妖術に精通するクルガンやメテオラでも、手の施しようがなかった。

 

「こうなったら、この身体は諦めるしかないな……」

 

 ベッドの上で、オルランドはそう言った。

 

「肉体が消滅すれば、このおかしなパワーも消えるだろう……その後で、肉体を再構成させる……三日もあれば何とかなるはずだ……その間の指揮はメテオラ、お前に任せる……」

「かしこまりました、(キング)

 

 メテオラは震える声で答えた。

 

「ドゥレンダナ……少しの間お別れだ……だが俺は、必ず戻ってくるからな……」

 

 そばに寄り添う聖剣の化身たる少女に優しく語りかけた時、オルランドの肉体が砂のように崩れ去った。

 眷属たちの間に、動揺が走った。主君の敗北と消滅を目の当たりにして、この世の終わりが来たかのような絶望が一同の顔に現れている。

 

「静まりなさい」

 

 しかしメテオラの態度は、毅然としたものであった。

 

「今聞いたように、三日の後に(キング)は必ずや甦ります。我々の為すべき事は、その間D×Dどもをこの場に近付けぬ事です。王の護衛はドゥレンダナ様にお任せし、我々はこれより駒王町に繰り出します。一人でも多くの人間を殺し、一つでも多くの建物を破壊すれば、奴等はその対応に追われて後手に回るでしょう。そうなればそうなった分、王は安心して復活に専念できるのです。さぁ、行きなさい! 全ては我等が(キング)オルランド様のために!」

 

 鞭打つような苛烈な声に、眷属たちはすぐに従った。

 メテオラは未だにベッドに寄り添う少女の方を振り向く。

 

「では女王(クイーン)ドゥレンダナ様。私も出陣いたします。王の護衛、何とぞお頼み申し上げますわ」

 

 見た目は十歳以上年下の少女に一礼すると、彼女もまた退室した。

 

 後には、人の形に出来上がった砂の山と、それに寄り添う少女のみ。

 静寂の中で、変化が起きた。

 かつてオルランドだった砂山の中から、チェスの駒が光を発しながら浮かび上がって来たのだ。

 これぞ悪魔の駒(イーヴィル・ピース)。他種族を悪魔へと生まれ変わらせる魔性の物体。

 しかしおかしい。

 その駒は、悪魔への転生に使われる物とは形が違っていた。

 女王(クイーン)でも戦車(ルーク)でも僧侶(ビショップ)でも兵士(ポーン)でもない。

 オルランドが手にかけた主から埋め込まれた騎士(ナイト)の駒とも違う。

 ではいったいこれは、何の駒だというのか?

 正体不明の悪魔の駒(イーヴィル・ピース)は、光の糸を無数に吐き出し、自らを中心に、繭を形作っていった……。

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