生徒会長ゼノヴィア   作:阿修羅丸

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王の駒

 聖剣の鞘を変化させて形作った鎧をまとい、一直線に飛翔するゼノヴィア。

 ドルトーレは彼女の頭上に無数の魔剣を生み出して、落下させる。

 しかし降り注ぐ魔剣の雨は、ことごとくが狙いを外した――否、外された。不可視の力によって、剣の軌道が彼女の体から逸れてしまうのだ。

 支配の聖剣(エクスカリバー・ルーラー)の力で、自分に向けられる全ての攻撃は狙いが外れるようにしてあるのだ。加えて、祝福の聖剣(エクスカリバー・ブレッシング)の力で、ゼノヴィアには幸運も備わっている。飛び道具に対してはほぼ完璧な防御を、この鎧は備えていた。

 そして天閃の聖剣(エクスカリバー・ラピッドリィ)によって高まったスピードは、ゼノヴィアを瞬く間にドルトーレの懐に飛び込ませていた。

 デュランダルが吼えて、横殴りの一刀がドルトーレの胴体を真っ二つにせんと唸る。

 ドルトーレは六本の腕全てに、とにかく耐久性のみをとことん重視した魔剣を生み出して、これ等をもってその一撃を防いだ――つもりだった。

 しかし、デュランダルの元々の破壊力に加えて、破壊の聖剣(エクスカリバー・デストラクション)の加護によって、ゼノヴィア自身のパワーも上がっている。六本の魔剣はガラス細工のようにたやすく砕かれた。

 だがそれでも、聖剣の刃が彼自身の肉体に届くのを、一瞬とはいえ遅らせる事は出来た。

 その一瞬の隙に、ドルトーレはゼノヴィアの足下に剣を生やしながら、自らも背中の翼を広げて飛翔して、距離を取った。

 そして攻撃の成果を確認するが、ゼノヴィアは全くの無傷だった。地面から伸びる剣と剣の間の空白のスペースに、その身を滑り込ませていたのだ。祝福の聖剣(エクスカリバー・ブレッシング)がもたらす幸運があればこそ為せる回避だった。

 

 自身を囲む魔剣の林をデュランダルで薙ぎ払い、ゼノヴィアはドルトーレと対峙する。

 両者の距離は二十メートルほど。

 元々騎士(ナイト)として転生してスピードが強化されている上に、今は聖剣の鎧がもたらす神速も得たゼノヴィアにしてみれば、一秒もかからず()()事すら可能だ。

 しかし、敵のどこからでも魔剣を無尽蔵に生成出来る能力は、油断がならない。自分の体から離れた所にも創造出来る上に、その創造のスピードもかなりのものだ。

 

(木場以上と豪語するだけの事はあるな……)

 

 迂闊に接近戦を挑むと、思わぬカウンターをくらいかねない。

 そう判断したゼノヴィアは、デュランダルを真横に振った。

 しかし、聖剣からは衝撃波や光刃の類は発射されない。

 それでも、デュランダルに対する警戒心故か、ドルトーレは手中に魔剣を創造し、十字に交差させてガードの体勢を取った。

 

「うおっ!?」

 

 直後、その魔剣に衝撃が走り、彼は後ろにもんどり打って倒れた。

 見えない刃が飛んできて、剣とぶつかった……そんな手応えだった。

 ゼノヴィアは透明の聖剣(エクスカリバー・トランスペアレンシィ)の能力で、デュランダルの光刃を透明化させて放ったのである。

 ドルトーレが防御体勢を取ったのは、防護ネットがあるとわかっていてもボールが飛んでくると思わず避けてしまうのと同じ、反射行動によるものだった。だが、それが幸運に働いたのである。

 

「ならば、これはどう対処する?」

 

 ゼノヴィアはデュランダルを縦横無尽に振り回す。

 放たれた光刃は透明化された上、支配(ルーラー)の力でその軌道を変え、ドルトーレの正面以外の全方位から襲い掛かってきた!

 

「ぐおおおおっ!」

 

 苦悶の叫びを上げて、ドルトーレは六本の腕と両足を切断され、芋虫のような姿になって地面に這いつくばった。

 ゼノヴィアはそれを見ても、冷静だった。

 彼の行った殺戮行為を考えれば、可哀想だなどとは全く思わない。

 しかし、ざまぁ見ろとばかりに勝ち誇る気持ちもなかった。

 残虐非道な敵に対する怒りは確かにあるが、思考はいたって冷静沈着。

 そんな精神状態を、鎧を構成する夢幻の聖剣(エクスカリバー・ナイトメア)が授けているのだ。対象の精神に働きかけて幻覚を見せる剣だが、その精神に働きかける力が、ゼノヴィアの思考を曇らせる過剰な怒りや敵意を鎮めて、平常心を保たせてくれていた。

 

詰み(チェックメイト)だ」

 

 ゼノヴィアはデュランダルを大上段に振り上げた。身動きの取れない敵を、フルパワーの光刃で完全に消滅させるつもりだ。

 

「ま、まだだ……まだ俺には、切り札がある!」

 

 ドルトーレが叫ぶ。

 直後、彼を中心とした半径二十メートル圏内に、無数の魔剣が創造された。

 翼を広げて宙に舞い上がったゼノヴィアが見下ろす中、魔剣は更に次々と生成されていく。そしてそれ等が集まり、重なり合って、ドルトーレを飲み込みながら、何かを形作っていった。

 

 それは、巨人だった。

 身の丈は十メートルを越すだろう。

 無数の魔剣が重なり合って出来た六本腕の巨人、鋼の阿修羅だった。

 

「ジャンヌの禁手に似ているな……」

 

 ゼノヴィアが思い出したのは、昨年に戦った『禍の団(カオス・ブリゲード)』英雄派の一員である、《聖剣創造(ブレード・ブラック・スミス)》の使い手だった。

 彼女の禁手状態(バランスブレイカー)は、創造した無数の聖剣で巨大な龍を形作るというものであり、今目の前で起こった現象は、その魔剣バージョンであり、巨人バージョンと言えるだろう。

 その巨人が、拳を振り上げて殴り掛かってきた。

 デュランダルが唸り、巨拳を打ち払った。

 今度は左右から巨大な掌が迫る。蚊やハエのようにゼノヴィアを叩き潰すつもりだ。

 しかしゼノヴィアはこれをかわした。

 六本の腕が繰り出す攻撃を蝶のようにヒラリヒラリと避けながら、間合いを詰めていく。

 右側下段の腕が放ったストレートパンチを回避して懐に飛び込むと、巨人の腹部を横一文字に切断する。

 

「何っ!」

 

 驚愕したのは、しかしゼノヴィアの方だった。

 切り裂いた胴体が、傷口から生成された魔剣によって塞がれたのだ。

 

(再生機能付きか……と、なれば……!)

 

 巨人の体内のどこかに潜んでいるであろう、ドルトーレ本人を直接狙うしかあるまい。

 神器の力で生み出された巨人ならば、その神器使いが死ねば消滅するはず……。

 だが、再生機能を持つ巨人の体内を、どうやって探す?

 

「トランスペアレンシィ!」

 

 ゼノヴィアの呼び声に応え、鎧の一部のパーツが外れて、聖剣の姿に戻った。

 

「ブレッシング! トランスペアレンシィに力を貸せ!」

 

 命令に応じ、また鎧のパーツが外れて、透明の聖剣(エクスカリバー・トランスペアレンシィ)に装着される。

 ゼノヴィアはその聖剣を掴むや否や、巨人目掛けて投擲した。

 巨人はその一投を腕でガードする。腕に刺さった聖剣は、傷口から生えた魔剣の群れに包み込まれ、哀れ巨人の腕の中に飲み込まれてしまう。

 だがゼノヴィアは落ち着いていた。

 

「トランスペアレンシィ、私に敵の急所を示せ!」

 

 瞬間、巨人の腕が消失した。

 いや、消えたのではない。透明化したのだ。

 ゼノヴィアの声が届いたのか、はたまた聖剣その物が己れに課せられた役割を最初から理解していたのか――聖剣に宿る透明化の力が発動し、更に祝福の能力によってその効果範囲が広げられたのだ。

 透明化は腕だけではなく、たちまちの内に巨人の体全体にまで広がり――ゼノヴィアの前に、ドルトーレの姿をさらけ出させた!

 

「そこか――行くぞ、デュランダル!」

 

 ゼノヴィアの呼び声に、不滅の刃は咆哮と光輝で応えた。

 聖なるオーラが、大上段に振り上げられた青い刀身からほとばしる!

 いったいどこにこれだけ溜め込まれていたのかと、見る者が疑問に思うほどの大量のエネルギーが、ゼノヴィアと蒼天を繋ぐ巨大な光の柱となった。

 

「これで終わりだぁぁあああっ!」

 

 ゼノヴィアは、その巨大な光刃を振り下ろした!

 それはたやすくドルトーレを飲み込み、透明化されたままの巨人の体を幹竹割りにした。

 敵を切り裂いた時の確かな感触。

 いわば勝利の手応え。

 それがゼノヴィアの両手に、確かに伝わったのである。

 役目を終えた透明の聖剣(エクスカリバー・トランスペアレンシィ)が、透明化を解除したようだ。

 虚空から無数の魔剣が現れて、バラバラと道路に撒き散らされていき――そして塵となって消滅した。

 

 ゼノヴィアが地上に降り立つと、鎧となって装着されていた聖剣たち、そして巨人に取り込まれた透明と祝福の聖剣も集まって、また元の鞘へと戻った。

 ゼノヴィアはその鞘にデュランダルを仕舞おうとした。

 デュランダルは唸り声を上げて抗議した。まだ暴れ足りないらしい。

 しかし、鞘から笛の音に似た音が発せられると、それも静まった。

 

(さすがに、エクスカリバーには頭が上がらないのか?)

 

 フッと微笑みを浮かべながら、今度こそゼノヴィアは相棒(デュランダル)を鞘に納めた。

 

 

 兵藤邸。

 リアスは自室で、グレイフィアと連絡を取っていた。義姉の方からコンタクトを取ってきたのだ。

 机の上に広がる小さな魔法陣。その中に、小さなメイドの姿が浮かび上がっていた。

 

「……ごめんなさい、グレイフィア。私ちょっと耳がおかしくなったみたい。もう一度言ってくれる?」

『聞き違いではありません。こちらの調査ミスでもありません。オルランドは、(キング)の駒を持っています』

 

 有り得ないわ!

 喉元まで出掛かっていた叫びを、リアスはグッと飲み込んだ。

 

 (キング)の駒とは、四大魔王の一人アジュカ・ベルゼブブが開発した悪魔の駒(イーヴィル・ピース)の一種。

 その名の通り、(キング)――すなわち、眷属を持つ事を許された上級悪魔に与えられる()()()()()駒だ。

 しかしそれは、製作者であるアジュカ自らの手で禁止された。

 危険すぎるのだ。

 駒の能力は、単純な強化。しかしその倍率は少なくとも十倍、下手をすると百倍以上にもなる。

 それだけの力を得て増長し、現魔王政権に反旗を翻す者が現れるのを防ぐため。

 また、眷属悪魔が昇級してこの駒を取り込んだ場合、既に埋め込まれた駒と重複・融合して、どんな影響を及ぼすかわからないため。

 そして、元々強すぎる力、あるいは特異な能力の持ち主が使うと、高すぎる強化倍率と相まって、オーバーフローを引き起こし、最悪の場合は命に関わるため。

 以上の理由から、アジュカは(キング)のみ登録制にして、駒の使用を禁止したのである。

 製造も止められている。そもそもアジュカ本人にしか造れない。

 それでも、製造された幾つかがレーティングゲームのトップランカーたちの手で非公式に使用されている。

 しかし、上級悪魔に昇格せぬままはぐれとなったオルランドに、それを手に入れる事など出来るはずがなかった。

 だからリアスは、有り得ないと言い掛けたのだ。

 

 ――だが、しかし。

 

 オルランドはあの規格外の戦士ストラーダを、真正面から完封してみせたのだ。

 昨夜、リアスはそのストラーダの口から、オルランドの強さには、ただ悪魔に転生しただけでは説明のつかない“何か”があると告げられていた。

 その“何か”が、(キング)の駒による超強化だったなら……?

 それならば奴の強さにも納得がいく。

 だからリアスは、有り得ないという言葉を飲み込んだのだ。

 

「いったい、オルランドはどうやって手に入れたの……?」

『彼が殺害した上級悪魔、シュターゼン伯爵から奪った物です』

「……え、ちょっと待って。シュターゼン伯爵はレーティングゲームでは下位ランカーだったでしょう? (キング)の駒を持っているなら、どうして自分に使わなかったの? そもそも彼は七十二柱でもない――失礼な言い方だけど――金の力で成り上がった田舎の成金で、駒自体手に入れられるはずが……まさか……」

『そのまさかです』

 

 グレイフィアの横に、一人の男性悪魔の顔写真が浮かび上がった。

 

『こちらは、七十二柱の一柱、ダンタリオン家の現当主クリムイン・ダンタリオン様です。ダンタリオン家は財政難に陥っていたのですが、そこへシュターゼン伯爵が経済援助を申し出て来ました。そして、その援助の条件が、(キング)の駒の譲渡でした』

 

 リアスは文字通りに頭を抱えた。

 (キング)の駒が金で売り買いされていたという事実に、ついていけなかったのだ。

 

「ま、間違いないの……?」

『アジュカ様自ら家宅捜査に赴いた際に、クリムイン様が自白いたしました。シュターゼン伯爵の居城も徹底的に調べましたが、駒は見付かっておりません。ですので……』

「オルランドしかいない、という訳ね……ありがとう」

 

 グレイフィアは一礼すると、映像通信を終わらせた。

 

 リアスは頭を抱えたまま、考え込む。

 今町で起きている事件や事故は、オルランドの仲間たちによるものだろう。

 では、その目的は何か?

 連也との戦いでオルランドが死んでしまい、自暴自棄を起こしたのか?

 それは違うだろうと、リアスは考えている。現場と現場とが離れすぎているのだ。そこに、自分たちD×Dの戦力を分散させようという意図を感じる。

 では、何故分散させようとするのか?

 

(私たちの注意を、何かから逸らすため……? だとしたら、恐らくは負傷したオルランドからよね……)

 

 昨夜、連也から聞いた限りでは、オルランドは本来ならその場で消滅してもおかしくないレベルの念を撃ち込まれたという。

 その念に耐えてあの場から撤退出来たのも、(キング)の駒の恩恵だろう。

 

(キング)の駒の能力は、十倍から百倍以上の強化……強化……筋力、感覚、魔力……)

「魔力?」

 

 思わず口に出た。

 上級悪魔ともなれば、自身の魔力で肉体年齢すら操作出来る。現に母ヴェネラナは、リアスの姉でも通じるほどの若さを保っている。

 老化した肉体を若い頃にまで再生させているとも言えるだろう。

 応用すれば、傷を治す事も出来る。

 ひょっとするとオルランドは今、(キング)の駒で強化された魔力で、連也との戦いで受けたダメージを回復させている最中なのではないだろうか?

 はぐれ悪魔たちの行動は、その時間稼ぎなのではないだろうか?

 

 そこまで思考が及んだ瞬間、リアスは出動済みの朱乃とロスヴァイセ、ルフェイの三人に通信を繋いだ。

 

「朱乃、ロスヴァイセ、ルフェイ! 超特急で戻ってきて! オルランドを探すわ! 手がかり? そんなものはないけどルーン魔術とかこっくりさんとかダウジングとかあるでしょう! とにかく何でもいいから探し出して!」

 

 まずは頭を潰す。

 町で暴れているはぐれ悪魔たちも、本丸が攻められたとあればそこへ戻ってくるだろう。そこを一網打尽にする。

 そんな作戦が、リアスの頭の中で出来上がっていた。

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