生徒会長ゼノヴィア   作:阿修羅丸

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電光石火作戦

 駒王神社の本殿内。

 照明器具のない室内を、かがり火が薄明かるく照らす。

 そんな中で、豊満な肢体を巫女装束で包んだ姫島朱乃が、二体の雛人形と向かい合うように座っていた。

 

 否。

 

 雛人形ではない。

 古来より駒王町とその周辺を治めていた土地神である。

 今でこそグレモリー家に管理を任せてはいるが、土地の中で起きた事ならば彼等の方がはるかに詳しい。駒王の自然の精気が凝り固まって生まれた土地神は、いわば駒王そのものなのだ。

 敵の潜伏先も、彼等なら知っているかも知れない――朱乃はそう考えてコンタクトを取ったのである。

 

「そやつ等の根城は、香車山の中腹にある廃業したホテルじゃ」

 

 甲高い声で、土地神の一柱がそう答えた。

 

「そこで恐ろしい魔物が生まれようとしておる。今すぐに向かえば、討ち取るのも容易かろう」

「感謝いたします」

 

 朱乃は三つ指をついて深々とお辞儀をした。

 

「しかし、何じゃな……姫島の。貴様等は口先だけか?」

「我等はそなた等悪魔のような力ある者が土地を守るのが最善じゃと考えた。そなた等も――『ばある』だったか『ぐれもりい』だったか――この土地を守ると約束した。故にこの土地をそなた等に任せたのじゃ」

「しかるにここ近年のそなた等の醜態は見るに耐えぬ。守るどころか厄介事を招いてばかりではないか」

「それもそなた等羽根つきどもの内輪揉めと来ておるぞ?」

 

 二柱の土地神は交互に不満を口にする。

 彼等からすれば、天使・堕天使・悪魔の三勢力は、みんな同じ『羽根つき』でしかないらしい。

 

「返す言葉もございません」

 

 朱乃は反論しなかった。

 反論出来なかった。

 

「お二方のお言葉、我が主にもしかと伝えておきます」

「くれぐれも、頼んだぞ」

「我等の判断を後悔させるような事、ゆめゆめなきようにな」

 

 土地神は本殿奥の暗がりに、溶け込むように姿を消していった。

 

 

 朱乃から報告を受けたリアス・グレモリーは、ルフェイとロスヴァイセに兵藤邸の守りを任せて、朱乃と共に香車山へと向かった。

 翼を広げて駒王町の上空を突っ切っていると、壊滅した警察署に向かう途中の連也を見付けた。

 リアスは急降下して、少年を後ろから抱き上げる。

 

「うおっ!? な、何ですか先輩!」

「かくかくしかじか!」

 

 リアスは状況を説明した。

 

「それはわかったけど、たった二人ですか? 俺入れても三人?」

「いちいちみんなを集めてたら奴等にもこちらの目論見がバレてしまうでしょう? 敵はほぼ全員が町に繰り出してるから、ホテルにいるのはオルランドとその護衛が一人か二人くらいのはずよ。いいからついてらっしゃい!」

 

 リアスはピシャリと言ってのけた。

 どの道、空高く抱えあげられている連也には、どうする事も出来なかった。

 

 

 空路だと、移動時間も短い。

 転移魔法陣を使えばもっと早いのだが、魔法陣の反応を敵に察知される恐れがあった。

 香車山がすぐに見えてきた。隣町へ続く道路沿いに、古ぼけたビジネスホテルも見える。

 そこは廃業後、解体工事中に死亡事故が発生して、それ以降は放置されている。

 そのホテルから、突如オレンジ色の光の矢が十本ほど放たれた!

 リアスと朱乃は散開してこれをかわす。

 しかし光矢は空中で弧を描いて旋回し、しつこく彼女たちをつけ狙う。

 朱乃が指先から稲妻を発射した。

 光矢の群れは、それを意志があるかのようにかわした。

 一本が不意に爆発し、まばゆい閃光を周囲に撒き散らす。

 リアスと朱乃は、その光の強烈さに、思わず閉じた眼に痛みすら感じた。

 直後、残りの矢が分裂した。

 一本の矢が、より小さな十本の矢に。

 それが九本――計九十本の光矢の弾幕と化して降り注ぐ!

 

「秋月くん!?」

 

 リアスが悲鳴にも近い声を漏らした。

 何を思ったか、連也が彼女の腕の中から飛び出して、虚空に躍り出たのだ。

 

「エヤァッ!」

 

 掛け声も勇ましく木刀『飛龍』を一閃させる。

 木刀で打たれた小光矢が、弾かれて他の光矢に当たった。

 その光矢がまた別の光矢に当たり、それが更にまた別の光矢を弾き――九十本の光矢が連鎖反応でことごとく軌道を変えられ、むなしくリアスたちの周囲を通過していくのだった。

 連也は――朱乃がキャッチしていた。

 

 光矢はなおも軌道を変えて襲ってくるが、リアスの両手から放射された滅びの魔力で消し飛ばされる。

 改めて廃ホテルへ向かおうとする彼女たちを、今度は巨大な鳥のような影が襲った。

 

 いや、鳥などという生易しいものではない。

 全長十メートルはありそうな巨体には、鱗がびっしりと生えている。

 翼はコウモリのそれに似た形をしており、尻尾の先端には鏃状のトゲが付いている。

 

「ワイバーン!?」

 

 リアスが、思わずその名を叫んだ。

 冥界に生息するモンスターの一種……それが何故、人間界の空を飛んでいるのか?

 ワイバーンは巨体からは想像もつかない速さで、リアスたちに攻撃を仕掛ける。

 脚の爪で。

 尻尾の毒針で。

 牙で。

 飛竜の猛攻に加え、ホテルからオレンジ色の光矢が飛来して来るため、リアスも朱乃も身をかわすのが精一杯だった。

 

「先輩、俺をあのドラゴン目掛けて投げてください」

 

 連也が朱乃にとんでもない事を言い出す。

 

「ええ? で、でもそんな事したら……」

「いーから早く!」

「は、はい!」

 

 声音に有無を言わさぬ迫力を感じて、朱乃はつい従ってしまった。

 放り投げられた連也に、ワイバーンの牙が迫る。

 連也は飛竜の鼻先に手をついて、そこを支点に身をひるがえして、攻撃を避ける。

 そしてワイバーンの首にまたがり、木刀の柄で鱗に覆われた脳天を打った。

 その一撃は、相手の頭部を陥没させる――などというような事はなく、それどころか傷一つ付けていない。

 ただ、ワイバーンは一瞬だけ、呆けたように動きを止めた。

 

「ほら、お前の獲物はあっちだ」

 

 連也が飛竜の角を掴んで、ホテルの方を振り向かせる。

 飛竜の眼が、ホテルの屋上でオレンジ色の光で出来た弓矢を構える一人の男の姿を捉えた。

 次の瞬間、ワイバーンは翼をはためかせて、その男目掛けて飛翔する。連也を乗せたまま。

 

「チッ!」

 

 屋上の射手は舌打ちして、ワイバーン目掛けて光矢を連射した。

 

 男の名はマンセル。

 神器(セイクリッド・ギア)橙光矢(スターリング・オレンジ)》を操る転生悪魔。

 しかし彼のかつての主は、より強力な神器(セイクリッド・ギア)の持ち主を転生させるため、彼を殺して体内の駒を回収しようとした。それに反抗したマンセルは主を射殺して逃亡。

 その後オルランド眷属の《兵士(ポーン)》となったのである。

 ふれあい広場で警官を殺害したのもこの男である。

 その彼が、何故ここにいるのだろうか?

 

 マンセルの放った矢は、三本がかわされて、四本目が額を貫き、脳を破壊した。

 連也の念で操られていたワイバーンは、哀れ屋上をかすめてホテルの向こう側の森に巨体を墜落させた。

 乗っていた連也は、いち早く飛び下りていた。

 

「念道剣、流れ星!」

 

 槍投げの要領で、マンセル目掛けて木刀を投擲する! その一投は、名前の通り流星のごとく真っ直ぐに、マンセルの胸を貫いた!

 屋上の地面に、転がるように着地する連也。

 マンセルは少年に向けて光矢をつがえ……そのまま黒い塵となって消滅した。

 連也が木刀を拾い上げるのと、リアスと朱乃が屋上に舞い降りたのは、ほぼ同時だった。

 三人はホテル内へと続くドアを開けて、中に入っていく。

 

 上空から、両手の親指と人差し指で作った枠の中に、その姿を捉える者があった。

 

 

「さて、どこから手を着けたものかしら……」

 

 入るなり、リアスはぼやいた。一口にホテルと言っても、人一人を探すにはなかなか広い。

 

「俺が探ってみます」

 

 連也はそう言うと、目を閉じた。

 二人の少女が見守る中、彼の眉間に光が灯り、徐々に大きく、強くなっていく。

 霊的な力を司るチャクラだ。

 その光点を通して宇宙の理力を吸収して充填した念を、このホテル内全域に放射する。

 力の性質故か、リアスと朱乃は、思わず身震いした。

 数秒の間を置いて、連也は目を開けた。

 眉間のチャクラは閉じられ、輝きも失せた。

 

「一階に、人の気配が一つだけあります」

「行きましょう」

 

 リアスが先頭に立って、ホテルの階段を下りていった。

 一階のロビーにたどり着くと、フロントのカウンター前にあるソファに、ケープを羽織った男が一人、座っていた。やけに大きなサングラスを掛けている。

 

「ようこそ」

 

 彼は立ち上がり、サングラスを外した。その下から、カメレオンのように隆起した両目が現れる。

 

「千里眼のクルガン……」

 

 リアスが相手の名を口にする。

 

「知っていたとは光栄だな」

「ここにいるのは、あなただけ? オルランドはどこにいるの?」

「教える義理はないが、まぁ、ここにはいないとだけ言っておこう」

 

 答えるクルガン目掛けて、朱乃が雷光を放つ。

 だが稲妻は、彼の手前の空間で、見えない壁にぶつかった。

 

「君たちが来る事はわかっていたのでね、防御結界を張らせてもらってある。もちろん、リアス・グレモリーの滅びの魔力をフルパワーで撃てば破れるだろうが、その場合、私の命も失われる」

「あら、私たちからすれば、あなたが死んでも別に困らないのだけど」

「そうかね? 我等が王の居場所を知りたくはないのか? 私が死ねば、しらみ潰しに探す事になる。少なくとも、再び居場所を特定するまでの間、駒王町で犠牲者が増えるのは確かだ」

「……なら、質問を変えましょう。あなたたちの目的は何? 駒王町を覆う結界を破壊したり、いいえ、それ以前から、あなたたちは自分の力を誇示するかのように暴れ回っていたわね」

「はぐれははぐれらしく、ゴキブリのように逃げ隠れしていろと言いたいのかね? それに、答えならすでに君が言ったではないか」

「え?」

「我々は、力を誇示するかのように暴れ回っている、と。正確には『誇示するかのように』ではなく、『誇示している』のだがね。まぁ、言ってしまえば営業パフォーマンスといったところだ」

「営、業……?」

 

 言わんとする事がわからず、リアスだけでなく朱乃も首を傾げた。

 しかし連也には、おぼろげながら理解出来た。スクラップ置き場での会話を思い出したのだ。

 

「あんたこの前、世界中の神話勢力がこの国を狙ってるみたいな事言ってたな……ひょっとして、そいつ等に自分たちの腕を売るつもりか?」

「正解」

 

 クルガンはニヤリと笑った。

 

「顧客は彼等だけではない。人間たちも候補に入れてある。ミサイルや戦闘機よりも安く、それ以上の性能を持つ戦闘集団を使えるとなれば、どこの国でも飛び付いて来るだろう。そして君たちチームD×Dは、人間たちの間でも注目を浴びている。つまり君たちは、我々の強さを知らしめるための試金石という訳だ。悪く言えば踏み台だな」

「わざわざ悪く言わなくてもいいわよ……」

 

 突っ込むリアスの声は、怒りで震えていた。

 何の理想も大義も持たない連中によって、自分の治める駒王町が荒らされているのが我慢ならなかった。

 クルガンに向けて手をかざすと、滅びの魔力が溢れ出し、禍々しい輝きを放つ。

 

「あなたと話す事などもうないわ。消えなさい!」

「仰せのままに」

 

 クルガンは胸に手を当て、嫌みたらしく大袈裟に一礼する。

 その足下に魔法陣が浮かび上がり、光を発すると、リアスが充填した滅びの魔力を撃つ前に、彼の姿はその光の中に消えていった。

 

 ポタッと、朱乃の豊満な胸元にしずくが落ちた。

 見上げると、天井からだ。しかし、結露してはいない。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 外から見る者があったなら、その奇怪な光景に声を上げていただろう。五階建てのビジネスホテルが突如液体となって、崩れ落ちて来たのだ。

 ホテルだけではない。

 香車山の頂上部までもが、ドロドロの粘液と化して、雪崩となってホテルを飲み込む!

 

 その様を上空から眺めるシェザナの隣に、クルガンは転移魔法陣で姿を現した。

 魔時眼(まじがん)で敵の襲撃を予知した彼は、駒王町からマンセルとシェザナを呼び寄せ、また、召喚術でワイバーンをも呼び出していたのである。

 

「よくやったシェザナ。あの少年は、少々惜しかったがな」

「可愛い子だったわね。私のお胸で可愛がってあげたかったけど、……《(キング)》を傷付けた罪は、万死に値するわ」

「同感だな」

 

 二人の声は冷たかった。

 それほどまでに、彼等の中でオルランドの存在は大きいのだ。

 

 山その物が粘液と化した土石流は、そのまま麓まで流れていく――()()()()()()

 

「――!?」

 

 二人のはぐれ悪魔が見守る中、土石流はホテルのあった辺りで動きを止めた。

 そして渦を巻き、巨大な水柱となって天へと昇る。その様はまさに昇り龍!

 

「な、何よこれ!」

「これはバズソーを倒した技……逃げるぞシェザナ!」

「ちょっと遅いんだよ!」

 

 クルガンが新たに転移魔法陣を開く前に、水柱の中から連也が躍り出た。

 破邪の念で白く輝く木刀がうなり、クルガンの体を幹竹割りに斬割した。

 クルガンは黒い塵となって消滅した。

 シェザナは恐怖に顔を歪め、背中の翼を広げて逃げようとするが、連也に続くように、水柱からリアスと朱乃も姿を現す。

 雷光と滅びの魔力の二重攻撃を浴びて、彼女もまた、跡形もなく消滅した。

 

 リアスは連也を抱き止める。

 

「助かったわ、連也くん」

「でも、奇襲は空振りに終わっちまいました……」

「そうね。でも、あの二人を倒せただけでも、収穫はあったわ」

「そうですわ。シェザナの能力は、町の中で使われたらもっと厄介でしたし、クルガンのあの眼も充分脅威でしたもの」

 

 朱乃もそう言って、連也を労う。

 最初は、最愛の一誠を木刀で打ち据えた相手として好きになれなかった。しかし彼がいなければ、ホテルと山の大質量からなる土石流に呑み込まれて、リアスが滅びの魔力を放つなり自分が転移魔法陣を開くなりする前に死んでいたかも知れない。死ななかったとしても、長時間行動不能になっていたのは確かだろう。

 それを見事救ってみせた少年に対する印象が、少し変わり始めていた。

 

 

 香車山から駒王町へと続く道を、一台の救急車が走っていた。

 駒王町に入ると、駒王総合病院へと向かう。

 そこはすでに、はぐれ悪魔たちの襲撃による怪我人たちが山のように運ばれていた。

 救急車は搬送口を無視して、まるでそこが本当の出入り口だと言わんばかりに、玄関へと突っ込んだ。

 多くの患者や看護師、職員等をタイヤで踏みつけ、車体で壁や柱に押し付けていく。

 後部のドアが開き、中から二人の女性が下りてきた。

 一人は《僧侶(ビショップ)》メテオラ。

 もう一人は少女だった。聖剣にして転生悪魔、《女王(クイーン)》ドゥレンダナ。

 運転席から出てきたのは、無数の車を操り警察署を襲った顎髭の男だった。

 

 《兵士(ポーン)》のルドラク。元はハーフヴァンパイアだった。

 人間との混血故か、彼には、自分の血を数滴与えるだけで、無生物すら吸血鬼に変えてしまう能力があった。車を操ったのもこの能力によるものだ。

 しかし、純血を重んじる吸血鬼社会においては、彼の能力も出生も、疎ましく汚らわしいものでしかない。

 吸血鬼の里を追放された彼は、放浪の果てにオルランドの眷属に入ったのだ。

 

 クルガンからD×Dがホテルを襲うと知らされたメテオラの命により、彼は一台の救急車を乗っ取って吸血鬼に変えて操り、オルランドとドゥレンダナをホテルから運び出していたのである。

 無論、救急車にはオルランドの繭が積まれてある。

 その繭から、細い触手が無数に伸びて、周囲の人間たちの体に突き刺さった。

 すると触手にコブが出来た。

 コブはスルスルと先端から根本へ移動し、そして繭へと吸い込まれる。

 全ての触手に、同様の現象が連続して起きた。

 コブを呑み込む度に、繭は脈打つような光を放つ。

 ドゥレンダナが繭の表面を撫でた。

 

「こんな所に運んで、どうする気だ?」

 

 ルドラクがメテオラに尋ねる。

 

「見ればわかるでしょう? 《(キング)》への捧げ物よ。人間どもの生命力を捧げれば、王の復活はそれだけ早まるというものだわ」

 

 答えるメテオラの目線は、救急車の中で脈動する繭に注がれていた。

 我が子を見守る母親のような、あるいは、恋人を見つめる少女のような、そんな優しい眼差しで……。




誤字報告感謝します。
しかし土地神様は駒王町での事件に関しては大まかな事情を知っているので、あれでOKです。
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