生徒会長ゼノヴィア   作:阿修羅丸

18 / 46
魔剣豪、再臨

 五台編成の長大な巨体が、大蛇のごとく連也たち三人に襲い掛かる。

 散開してその突撃をかわす三人。

 

「吸血鬼のくせになんでこんな明るいうちから動けるのよ!」

 

 小猫を抱え、天使の白翼を羽ばたかせて宙に逃げながら、イリナは叫ぶ。今はようやく正午になろうという辺りだ。吸血鬼にとっては最も苦手な時間帯であろう。

 ()()()()()()()()()

 

「ルドラクは父親がデイウォーカーで、奴もその特質を受け継いでいる」

 

 答えたのは、ギャスパーを抱えて飛ぶゼノヴィアだ。

 デイウォーカーとはその名の通り、昼日中でも活動可能な吸血鬼の事を指す。

 

「そしてその特質は、奴の生み出す吸血鬼にも受け継がれる。資料に書いてあっただろうが!」

「そ、そうだったかしら?」

「貴様、リアス前部長がちゃんと目を通しておけとあれほど言っただろう!」

「ご、ごめんなさ~い! 途中で眠くなっちゃって、最後まで読んでないのぉ~!」

「えぇい、なんでこんなのがオートクレールを使えるんだ! 謝れ、騎士オリヴィエに謝れッッ!!」

 

 ゼノヴィアはあきれるしかなかった。

 そんな凸凹漫才を演じながらも、吸血列車の攻撃はちゃんとかわしているのだから大したものではあるが……。

 

「えやぁっ!」

 

 連也が木刀を振るい、吸血列車の三両目の胴を打った。空中の二人を執拗に狙っていた列車は、その一撃で巨体をくの字に曲げて倒れる。

 

「今のうちにそいつ等をアルジェントさんの所に連れていけ!」

「でもこいつは!? まさか秋月くん一人で相手するつもり!?」

「そうだよ、わかったら早く行け! こうしてお喋りしてる間もそいつ等は弱っていくんだぞ!」

「そ、それもそうね……オッケー、超特急で戻るから!」

「連也、くれぐれも無理はするな!」

 

 イリナとゼノヴィアは言い残して、その場から飛び去って行った。 二人の下級生をゼノヴィアとイリナに任せ、連也は一人、吸血鬼と化した列車と対峙した。

 下段に構えた木刀『飛龍』から、念の光が溢れ出し、陽炎めいてゆらゆらと揺らめく。

 吸血列車はその白き輝きに一瞬ひるんだが、すぐに攻撃に移った。本物の蛇がそうするように自身の身体を縮めるや否や、連也目掛けて首を伸ばしたのだ。先頭の裂け目が変化した大口が、連也を噛み砕こうと牙を剥く。

 連也、これを左にかわしつつ、車体側面を斬り上げた。木刀は金属製の車体に易々と大きな裂け目を作り出す。そこから破邪の念が浸透していき、吸血列車を黒い塵へと変えて消滅させる――()()()()()()()

 なんと吸血列車は、攻撃を受けた瞬間に素早く先頭車両を切り離していた。そして二両目が新たな頭部へと変型して、再度連也に襲い掛かる。

 その噛みつき攻撃をかわした連也は、木刀に体内で練り上げた念を送り込んだ。『飛龍』は光輝を高めていき、白い炎と化す。

 

「念道剣、百歩斬り!」

 

 白炎となった木刀を真横に振り抜くと、念が光の刃となって飛翔する。

 高速で飛来した光刃をかわせず、吸血列車は二枚下ろしに両断され、黒い塵となって消滅した。

 それを確認して息をついた連也。

 その首筋に、痛みが走った! 二本の牙が頸動脈に深々と食い込んでいる!

 ルドラクが忍び寄り、襲い掛かったのだ。連也が自分の作った吸血鬼との戦いで隙を見せるのを待っていたのだ。

 ルドラクは連也から飛び退き、距離を置いて向かい合う。そして首筋を押さえる少年を見て、ニヤリと笑った。

 勝利を確信した笑みだった。

 

「終わりだ。たった今、お前の体内に俺の吸血鬼のエキスを流し込んだ。俺は自分の血を分け与える事で無機物を吸血鬼に変える事が出来る。そして他の吸血鬼と同様に、この牙から出るエキスを注入する事で生物を吸血鬼に変える事も出来るのさ」

 

 勝利を確信した余裕か、説明しながら、自分の口から伸びる二本の牙を指で指し示した。

 連也が、ガクッとその場に片膝をつき、座り込む。それを見てルドラクの顔はますます歓喜に歪んだ。

 

「ハッハッハッ! 早速変異(アルタード)ショックが始まったようだな! お前の身体は今、急速に吸血鬼へと内側から造り替えられている真っ最中だ! その苦しみは副作用さ! だがそれもすぐに治まる……そして、俺の忠実なしもべとしての新たな人生が幕を開けるって訳だ!」

 

 ルドラクが解説する中、連也は地面に手をついてうずくまる。顔からは大量の汗をかき、呼吸も荒い。

 そして、それから更に数秒もすると、ピクリとも動かなくなってしまった……。

 

「終わったようだな」

 

 ルドラクは連也のそばに歩み寄る。

 

「立て。これから町の人間どもを片っ端から捕まえにいくぞ。そして(キング)復活のための生け贄として捧げる」

「はい、ルドラ、ク、様……」

 

 ああ、連也は完全に吸血鬼と化したのか? ルドラクの命令に、たどたどしくも答える。

 

「捕まえ、た、人間は、どこに、運べ、ば……」

「駒王総合病院だ。そこで(キング)は復活の時を待ち続けている」

「――ありがとさん」

 

 不意に返ってきた軽い返事にルドラクが耳を疑う前に、連也の木刀がその名のごとくひるがえった! 下から上へと稲妻めいて走る一刀が、ルドラクの身体を真っ二つに斬割する!

 事態が飲み込めず、呆けた顔のまま、ルドラクは黒い塵となって消えた。

 

 連也は、近くに潜むルドラクの気配にとっくに気付いていたのだ。

 彼が吸血鬼である事はリアスから渡された資料でわかっていた。だから吸血鬼対策を、自身の肉体に施していたのだ。

 それは練り上げた破邪の念を、自身の血液に宿らせて全身に循環させる事だ。吸血鬼が彼の血を吸えば、宿った念で自らの身を焼かれる。吸血鬼のエキスとやらも、注入されたその瞬間には浄化されてしまっていた。

 それっぽい芝居で相手を油断させる作戦だったが、それが予想以上の収穫をもたらしてくれた。

 

「総合病院、か……」

 

 連也はジャージのポケットから携帯電話を取り出すと、今得た情報をリアスにメールで伝えた。

 そして自分も駒王総合病院へ向かった。

 

 

「レイヴェル!」

 

 一誠は倒れたレイヴェルに駆け寄る。

 金髪の少女は、自らの体から噴き出した炎に包まれたかと思うと、胸の穴がたちどころに塞がり、何事もなかったかのように起き上がった。

 

「ほぉー。噂には聞いてたが、こうして目の当たりにすると、何とも凄いな」

 

 その再生シーンを見て、キルカーンは戦闘中とは思えない呑気な声を上げる。

 その余裕綽々の態度に、一誠は苛立ちを覚えた。

 

『《護法輪(タリスマン・ホイール)》……持ち主が変わっても、その防御力は健在か』

 

 そんな彼の左腕から、声がした。神器に宿る赤龍帝ドライグだ。

 

「ドライグ、お前あの輪っかの事知ってるのか?」

『ああ。四百年前、別の所有者が使うあの神器(セイクリッド・ギア)と戦った事がある。その時の赤龍帝の覇龍(ジャガーノート・ドライブ)での攻撃すら防ぎきった……俺の、数少ない敗北の記憶の一つだ』

「……じゃあ、その時の先輩の仇、ここで取らせてもらうとするか!」

 

 一誠は鎧の背部に備わる推進器官から噴炎を上げながら、キルカーン目掛けて突撃していく。

 キルカーンは自らの神器(セイクリッド・ギア)を回転させ、防御の姿勢を取った。 

 

「無駄だぁっ!」

penetrate(ペネトレイト)!』

 

 一誠が放つ右ストレートに合わせて、ドライグが詠唱する。

 ドライグには複数の能力がある。神器(セイクリッド・ギア)の機能としても作用する《倍加》と《譲渡》。

 そしてこれは、それとは別の能力である《透過》。あらゆる防御も障害も、この能力ならすり抜けられる。

 四百年前は使えなかったが、一誠との絆の果てに取り戻したこの能力ならば雪辱も果たせる――はずだった。

 

「なっ!?」

 

 一誠が間の抜けた声を上げる。

 右拳は高速回転する車輪をすり抜け、キルカーンの肉体に突き刺さるはずだった。

 だが、《透過》の力を宿したはずの一撃は、車輪に触れた瞬間、それまでの攻撃と同様に弾かれ、軌道を逸らしたのだ!

 パンチを左に受け流され、一誠は突撃の勢いそのままに吹っ飛んで、その先の建物の壁に頭から突き刺さった。

 

「確かに無駄だったな」

 

 キルカーンはクスクスと笑った。

 

「俺の神器の名は『御守り(タリスマン)()車輪(ホイール)』。ただ回転して弾くだけじゃない。おおかた何でもすり抜ける《透過》とかいう能力でも使ったんだろうが、この車輪はそういった力だけでなく、目に見えない呪いだって弾く。外からの干渉に対してなら、絶対無敵なのさ……我が王以外にはな」

「く、調子に乗りやがって……さっきも言ったけどな、それって結局、一度は破られてるって事じゃねーか!」

「そうさ」

 

 一誠の指摘を、キルカーンはあっさりと肯定した。

 

「王はこの車輪と車輪のわずかな隙間を正確に狙って、一太刀浴びせた。動きの速さと無駄のなさに、俺は何の反応も出来ず、気が付くとやられていた。

 豪快無比なパワーと、それをミリ単位でコントロールする精妙な技術。それをあのお方は持っておられる。

 ただデカい力をぶつけるだけのお前たちとは、鍛え方が違う、格が違う、ものが違う」

 

 その時の事を思い出したのか、彼の声には陶酔にも似た色がにじみ出ていた。

 だがそれも束の間、スッと手を振ると、周辺の瓦礫や石、ガラス片等が一斉に宙に浮き上がる。魔力による物体操作だ。そしてそうやって浮かび上がらせた様々な物を、未だ回転し続ける己れの車輪へと引き寄せる。

 

「――っ! レイヴェル、伏せろぉーっ!」

 

 一誠は顔の前で両腕を交差させて防御体勢を取りつつ叫んだ。

 レイヴェルも敵の意図を察して、伏せながら全身を超高熱の炎で包み、バリアとする。

 車輪の回転に弾かれて、瓦礫が、石が、ガラス片が、高速弾となって飛んできた。

 ただデタラメにばらまいているのではない。一誠とレイヴェルの二人に向けて、正確に飛ばしている。鎧に防がれ、炎で蒸発させられ、ダメージこそ与えられなかったが……。

 

「王と出会う前もかなり練習してたが、あのお方の眷属に迎えられてからは更に精進してな。こういう事も出来るようになった。

 お前はどうだ、赤龍帝。その鎧にはヒーロー番組のビックリどっきりメカ並みにいろんな機能があるようだが、果たしてこの俺の絶対防御を破るような都合のいい能力はあるか?

 ――言っておくが俺は、まだ禁手化(バランス・ブレイク)していないぞ?」

 

 キルカーンの最後の言葉に、一誠とレイヴェルは言葉を失った。

 通常形態で()()なら、禁手化(バランス・ブレイク)したらどうなってしまうのか……過去の所有者が覇龍(ジャガーノート・ドライブ)での攻撃にも耐えたというドライグの言葉に、嫌でも説得力が出てくる。

 

「ど、ドライグ……何か方法はないのかよ?」

『――あるけどない』

「どっちだよ!」

『クリムゾン・ブラスターやロンギヌス・スマッシャーなら、あるいは奴の防御の上から潰せるだろう。だが、それではお前たちも困るだろう?』

 

 相棒の言葉に、一誠は黙るしかなかった。

 どう控えめに考えても、駒王町の半分以上が更地となってしまう……。

 

「打つ手なしだって言うのかよ……」

 

 ドラゴンショットは弾かれるどころか打ち返される。

 《透過》の力を使っての格闘戦も、《透過》自体が弾かれる。龍星の騎士(ウェルシュ・ソニックブースト・ナイト)にプロモーションして攻撃しても、奴の車輪の操作技術をもってすれば、恐らく防がれる。

 

「どうした赤龍帝。やる事がないならお家に帰って宿題でもするか?」

 

 攻略法が思い浮かばず立ち尽くす一誠たちを、キルカーンは挑発する。

 不意にその肩がポンポンと叩かれた。

 思わず振り返ると、いたのは一人の女。

 

 黒い髪と豊満な胸、白い肌をした、金色の目をした女だ。黒い着物をだらしなく着崩して、胸の谷間を強調している。

 頭頂部からは、黒い猫耳が生えていた。

 

 その女の事をキルカーンが思い出す前に、女の顔がグッと近付いて、彼の唇に自分の唇を重ねてきた。

 

「――っ!」

 

 キルカーンはビクッと身をすくませる。

 集中力を欠いたのか、《護法輪(タリスマン・ホイール)》が消えた。

 

「あんた、運がいいわね。人生最後のキスの相手が私だなんてさ」

 

 女はそう言い残し、一誠の方へトコトコと歩き出す。

 

「く、黒歌……?」

「スイッチ姫から連絡あったわよ。オルランドは駒王総合病院。大至急向かうようにだってさ」

「で、でも、アイツは」

「もう死んだわ」

 

 黒歌が言い終わらぬ内に、キルカーンの上半身が突然、270度近くねじ曲がった。

 手足の関節の一つ一つが、デタラメな方向に曲がり、可動域を越えて骨が折れる音や靭帯のちぎれる音が、生々しく一誠たちの耳に響く。

 腰が180度折れ曲がり、キルカーンは身体を支えきれず倒れる。

 首が360度回転した。

 バキバキと胸骨を突き破って心臓が飛び出る。鼓動のリズムはメチャクチャで、すぐに自身のその激しい動きに耐えきれずに張り裂け、吹き出た鮮血がキルカーンの死体を赤く染めた。

 

「な、何だあれ……」

「気配を消して近付いて――あの輪っかは危ないからその下をくぐって――で、口づけを介して仙術で気脈を操作して、アイツの筋力を暴走させたのよ」

 

 黒歌は何て事なさそうに、普通に解説した。

 

「外からの干渉には強いけど、内側からの干渉には弱かったみたいね」

「で、でも、何もあそこまでなさる事もなかったのでは……」

「そーお?」

 

 レイヴェルに言われて、黒歌はクルリとキルカーンの方を振り向いた。

 巨人の手で捏ね繰り回されたような、無惨な死体だ。

 黒歌はそれを見て、興味なさげに肩をすくめた。

 

「今までアイツが仲間と一緒に殺した数を考えれば、ま、あんなもんでしょ?」

 

 

 駒王総合病院。

 リアスと朱乃、ロスヴァイセとルフェイ、そしてアーシアの《聖母の微笑み(トワイライト・ヒーリング)》で回復した木場祐斗が、そこにたどり着いていた。

 

「……遅かったようね」

 

 到着するや否や、リアスはつぶやいた。

 静かすぎる。

 無人の静けさだ。それも、ただ院内の全ての人間が避難したからというような感じではない。

 リアスは眼前の病院から、死だけがもたらす事の出来る冷たい静寂を感じ取っていた。

 たおやかな白い手の中に、滅びの魔力を充填し始める。

 

「朱乃、ロスヴァイセ。フルパワーで攻撃するわ。祐斗とルフェイは周囲の警戒。病院から何か出て来たら、それも逃さないようにね――生死は問わないわ」

「ですがリアス様。匙くんたちがここに捕らえられている可能性も……」

 

 祐斗は聖魔剣を創造しながら言う。匙たち三人と連絡が取れなくなったと、ここに向かう前にソーナから報告を受けていたのだ。

 普段は『リアス姉さん』と呼ぶよう心掛けてるが、今はグレモリー眷属としての任務中だ。故に『リアス様』呼びである。

 

「わかってるわよ」

 

 答えるリアスの声は、かすかに震えていた。

 

「だけど、オルランドを逃せば被害は広がる一方よ。町に散らばった眷属たちはイッセーたちがやっつけてくれるでしょうけれど、肝心のオルランドを逃してしまったら、奴は新たな仲間を引き連れて復讐にやって来るに違いないわ。

 何よりも、奴は私たち悪魔の最大の天敵である聖剣使い……それも、剣士・聖剣どちらも最強クラスのね」

 

 リアスはストラーダの言葉と、彼が昨日受けた傷を思い出していた。

 あの規格外の戦士をして『最高の剣士』と言わしめ、実際に死んでもおかしくない重傷を負わせた男。

 それだけで、危険視するのには充分過ぎた。

 たとえ祐斗の危惧した通りだったとしても、それでも確実に倒しておかなくてはならない。

 ソーナには一生恨まれ、憎まれるだろう。しかし――、

 

(それも仕事の内よね……)

 

 駒王町を預かる身として、受け入れるしかないと、リアスは半ば諦めていた。

 

「朱乃、ロスヴァイセ、やるわよ。少しでも手加減したら、私が許さないわ!」

 

 二人に発破を掛け、リアスは病院に向けて、滅びの魔力を全開で放った。

 朱乃とロスヴァイセも、彼女の意を汲み、全力で攻撃した。

 雷光龍と各種攻撃魔法の一斉射。

 しかし三人の攻撃は、建物全体を覆う魔力の壁に防がれた。防御結界が張られているのだ。

 

「構わず撃ち続けて! いつまでも耐えられるものではないはずよ!」

 

 リアスは命令しながら、魔力を放射し続けた。

 果敢な攻撃は、病院の中に振動を響かせる。

 メテオラは眉根を寄せた。

 

「……使えないクズどもね」

 

 院内の最後の人間である、足の怪我で入院中だった小学生の男の子に向かって、憎々しげに言い捨てた。

 その男の子は、繭から伸びる触手に生命力を根こそぎ吸い取られて、すでに息絶え、ロビーの絨毯の上に倒れている。

 病院内の全ての人間の生気を吸い取らせても、それでもオルランドは復活の気配を見せない。

 ルドラクに生け贄の補充を命じたものの、どうやらチームD×Dが攻めてきたらしい。これでは無意味だ。

 

「あと一人、せめてあと一人分の命さえあれば……」

 

 振動は少しずつ大きくなっている。結界が破られつつあるのだ。このままD×Dの突入を許せばどうなるか、考えるまでもない。

 メテオラは、繭に寄り添うドゥレンダナの方をチラリと見た。

 目線に気付いて、ドゥレンダナも見返す。

 

「……女王(クイーン)(キング)の事、何とぞお頼み申し上げます」

 

 言うや否や、繭から伸びる触手を自分の胸に突き刺した。

 繭はそれを己れの眷属と知ってか、知らずか……その生命力をどんどん吸収していく。

 

「ああ……私の命が、(キング)と一つに……う……嬉しい……!」

 

 メテオラの顔に、しかし恐怖は全くなかった。頬は赤く染まり、恍惚としている。

 

 ロビーの壁に亀裂が走った。結界はもはや崩壊寸前だ。

 

 その時、繭が光り始めた。

 ロビーの中が光輝に満たされていく中、一本の腕がドゥレンダナに差し出される。

 ドゥレンダナはその大きくたくましい手を、両手で握った。

 

 そして次の瞬間、病院内部から巨大な閃光がほとばしり、結界もろともに建物を吹き飛ばした。

 真ん前にいたリアスたちは、爆風で吹き飛ばされる。

 起き上がったリアスは、目の前の光景に総毛立った。

 

 オルランドが、そこにいた。

 

 天を指す右手には、魔聖剣ドゥレンダナ。

 左腕で、メテオラを抱き抱えている。

 

「お帰りなさいませ……オルランド様……」

 

 メテオラの声はかすれていた。

 

「……お前たちのおかげだ。メテオラ、お前は最高の女だった」

 

 オルランドは眷属に優しくささやき、口づけを交わす。

 王の腕の中で、生命力を捧げ尽くしたメテオラは灰になって消え、後には僧侶(ビショップ)の駒だけが残った。

 その駒を握り締め、ズボンのポケットにしまうと、オルランドはリアスたちに鋭い眼差しを向ける。

 

「さて、始めるか……皆殺しだ」

 

 完全なる殺意は、もはや感情と呼べるものではない、それ以上の冷徹なる意思。

 オルランドは静かに、その完全なる殺意に燃えていた――。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。