生徒会長ゼノヴィア   作:阿修羅丸

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今回はちょい短めです。


生徒会長の決意

 放課後。

 ゼノヴィアは単身、新聞部の部室を訪れた。

 一昨日新聞部から送られた、校内新聞『駒王通信』の最新号の原稿を携えて。

 記事の内容に問題がないかどうかをチェックしたので、その回答を伝えに来たのだ。

 

羽黒(はぐろ)、私だ。生徒会長だ」

 

 ドアをノックして呼び掛けると、中から「どうぞ~」と声がした。

 入室すると、部室内には女子生徒が一人いた。彼女が新聞部の部長の羽黒だ。

 長方形に並べた長机の端に着席している。

 机の上には購買部で買った缶コーヒーとお菓子が置かれてあった。

 

「原稿のチェックが終わったので、結果を報せに来た」

 

 ゼノヴィアはそう言って、羽黒の隣に座る。

 

「二つだけ、承認出来ない記事があった。それ以外はオーケーだ……まずは、これだな」

 

 ゼノヴィアはそう言って、原稿の一部を机に広げた。

 女子陸上部の着替えを覗こうとしたところを生徒会に見付かり連行される、一誠・松田・元浜の三人の姿を捉えた写真が、大きく載っていた。

 

「彼等を糾弾するのはいいが、イジメに発展する危険性が考慮される」

「いいんじゃない? 自業自得でしょ」

「まったくもってその通りなのだが、許せない相手になら何をしても良いという訳でもないだろう?」

「そりゃそーだけどさぁー」

 

 羽黒は不服そうだ。

 

「もう一つは、これだ」

 

 次にゼノヴィアが広げたのは、彼女と連也の写真を並べた記事だった。

 写真の横には、『みんなが選んだ、校内ベストカップル!』という見出しがあった。

 

「生徒会でも話題になっていたぞ──『そんなアンケート、いつやったんだ?』とな」

「あ、あははははは……」

 

 羽黒は目をそらし、引きつった笑みを浮かべてごまかす。

 

「やはり捏造か」

「いやいやいやいや、百パー捏造って訳でもないんたよ? あたしもタツミンもお似合いだなーって思ってるし」

 

 タツミンとは、新聞部の写真担当の辰巳という女子部員である。

 

「他には誰が言っているんだ?」

「え、えーっと……」

 

 羽黒の目はこれ見よがしに泳いでいた。

 ゼノヴィアは大きく溜め息をつく。

 

「いずれにせよ、君の周辺のごく一部という事だな? それを全校生徒の総意のように言うのは問題だ。ましてや、連也は今マスコミにも追われて大変なんだ。これ以上彼の平穏を脅かすような行為は、友人としても生徒会長としても見過ごせないな」

「ごめんなさぁい」

 

 観念した羽黒は、素直に謝った。

 

「わかればいい。だが、この二つ以外は、相変わらず面白い記事ばかりだ。来月号も楽しみにしてるぞ」

「はぁーい──ねえねえ、これはオフレコだけどさ」

「ん?」

「実際にゼノヴィアさんは、秋月くんの事どう思ってるの?」

 

 羽黒は鼻息荒く質問してきた。

 ゼノヴィアは「ふむ……」と少し考えてから、

 

「友人としての好意ならある。尊敬出来る部分もある。彼とはこれからも友達でいたいと思ってるよ」

 

 

 下校中の秋月連也は、通学路の途中にあるコンビニでスナック菓子を買うと、店を出た。

 道行く人の好奇の視線や黄色い声を掻い潜り、自宅へは向かわずに、町から離れていく。

 スナック菓子を頬張りながら、しばらく歩き、町外れの森へと向かった。

 森の中を突っ切る石畳の道を抜けると、古ぼけた寺があった。住む者も訪れる者もない、廃寺である。

 連也は空になった菓子の袋をクシャクシャに丸めると、敷地の片隅にある錆びだらけの屑カゴに無造作に放り投げた。丸まった袋は、吸い込まれるようにカゴの中に入っていった。

 

「──もういいよ。そろそろ出てきなよ」

 

 どこにともなく呼び掛けると、連也の背後の木陰から一人の男が出てきた。

 眼鏡を掛けた金髪の、スーツ姿の美丈夫である。

 連也は彼の顔をマジマジと見てから、首を捻った。

 

「うーん……どっかで見た事があるような……ないような……」

「初めまして、アーサー・ペンドラゴンといいます」

 

 金髪の美丈夫は、静かに名乗った。

 

「チームD×Dのルフェイ・ペンドラゴンは、私の妹です」

「おお、それでか!」

 

 連也は納得した。

 

「そっかそっか、ルフェイさんのお兄さんか。兄妹ならそりゃあ似てるに決まってるわ──んで、そのお兄さんがどんなご用で?」

「最近、この駒王町で派手な祭りがあったそうですね……そしてその祭りの主催者たる聖剣使いオルランドを倒したのが、あなただと聞いています」

「祭り、ね……」

 

 連也の好むところではなかった。

 そのような表現も、そのような表現を使う者も。

 

「そのオルランドを倒したあなたの腕前、是非とも見せていただきたい」

「ごめん、今日はNOVAの日だから」

 

 冗談混じりに拒否する連也の目の前で、アーサーの足下に光が生まれた。

 その光の中から、一振りの長剣が柄を上にして現れる。

 これこそが聖王剣コールブランドであった。

 

「嫌だとおっしゃるなら構いません。どうぞご自由に。こちらも自由に斬りかかるだけですので」

 

 言い終える頃には、アーサーは一足一刀の間境を越えていた。

 光が、走った。

 コールブランドの白刃が連也の首筋を狙う。

 その太刀筋の上に、いつの間にか木刀が置かれてあり、斬擊を防いだ。

 

 いつ出した?

 どこから出した?

 

 そんな疑問を浮かべつつも、アーサーはそこで一旦間合いを広げる──などという事はせず、立て続けに攻撃を加えた。

 様々な方向から神速で迫る聖王剣を、しかし柄巻きを施した木刀は難なく受け止め、受け流していく。

 アーサーは連也の足目掛けて聖王剣を振るった。

 かと思いきや、剣尖が跳ね上がり喉を狙う。

 が、これもフェイント。

 アーサーは体を独楽のように一回転させて、胴を狙って斬りつけた。

 回転によって勢いを増した一刀は──むなしく空を切った。

 そこにあったはずの連也の姿は、ない。

 彼は、振り抜かれたコールブランドの刀身の上に立っていた。

 人一人が乗っているのにも関わらず、アーサーの右手には愛剣の重さ以外、全く感じない。

 

「さぁ、どうする? ここらでお開きにしないか?」

「そんなもったいない事は出来ませんよ」

 

 アーサーは落ち着き払って、答えた。

 

 彼が手中の聖王剣を離すのと、連也が刀身を蹴って宙に飛んだのは、ほぼ同時だった。

 

 アーサーは聖王剣を靴で蹴り上げる。

 剣は回転しながら空中の連也を襲った。

 連也、これを木刀で打ち払い、着地する。

 着地した時、アーサーの手にはコールブランドが舞い戻っていた。

 

(あれ?)

 

 連也はいぶかしんだ。

 コールブランドは、アーサーのいる方とは真反対に弾き飛ばしたつもりだった。

 アーサーの位置は変わっていない。

 なのに、何故?

 

 コールブランドは空間すら切り裂く力を有する。その能力で、離れた場所と場所をつなぐゲートのようなものも生成可能だ。

 そのゲートを通って、主の手中に戻ったのである。

 

 そしてこの能力は、当然、攻撃にも応用可能だった。

 アーサーが眼前の空間を聖王剣で切り裂き、その裂け目に剣を差し込んだ。

 直後、連也は真横に跳んだ!

 直前まで彼のいた場所に、空中から聖王剣の刃が生えてきたのだ!

 回避が遅れていれば、心臓を串刺しにされている位置であった。

 

「お見事。いつまでかわせるか、見せてもらいましょうか」

 

 アーサーは口許に酷薄な笑みを浮かべて、矢継ぎ早に空間の裂け目に突きを入れる。

 連也の足下から、真横から、頭上から、正面から──四方八方どころか、全方位360度から、コールブランドが空間を越えて襲い掛かる。

 アーサーの動き自体は、正面の裂け目に対して剣を突き入れるだけなので、どこから刃が出てくるかは全く予測不可能だった。

 連也は念によって高めた直感だけを頼りに、この魔性の転移攻撃をかわしていた。

 かわしつつ、木刀の切っ先を左手で握る。

 左の握り拳を柄の方へと滑らせると、刀身が消えた。

 

「エヤアッ!」

 

 柄だけになった木刀を連也が横一文字に振り抜いた瞬間、アーサーは後ろに吹き飛んだ!

 空間の裂け目を通して、聖王剣が押し返されたのだ。

 

(空間移動中のコールブランドを、打ち払ったというのか……!)

 

 たたらを踏みつつも、尻餅をつく無様だけは回避したアーサーは、そう理解した。

 口角が、更に大きく上がった。

 

「なるほど……念道とはこれほどのものなのですね……」

「帰って宿題やんなきゃだから、今日はこの辺で勘弁してくれないか?」

「いえいえ、そんな不粋を言わず、もっと楽しもうではありませんか」

 

 アーサーはにこやかに、しかし頑なに、戦闘続行を申し出た。

 不意に、彼の足下に広がる影が面積を増した。

 かと思いきや、アーサーは自身の影の中にその身を沈ませてしまう。一瞬にして、全身が影の中に沈み、影もまた消えてしまった。

 己れの影に呑み込まれる瞬間、アーサーは木陰に立つ妹の、怖いくらい朗らかな笑顔を見た。

 

「……あれ?」

 

 木刀を正眼に構えていた連也が、間の抜けた声を漏らした。てっきり、アーサーの新たな技が発動したのかと思ったのだ。

 

「お怪我はありませんか、連也様」

 

 木陰からルフェイが現れ、トコトコと歩み寄る。

 

「あ、ああ……大丈夫……今のは、ルフェイさんが?」

「はい。私が魔術で創った疑似空間内に閉じ込めておきました。狂暴な魔物をいくつも閉じ込めてありますから、きっと兄も気に入ると思いますわ」

「助けてもらっといて何だけど、いいのか? お兄さん、だよな?」

「ええ。可愛い妹にも会わずに、よその殿方の元へ決闘を挑みに行くような不出来な兄ですもの。これくらいの悪戯はさせてもらわなくては業腹というものです」

 

 ルフェイはあくまでも、ニコニコと微笑んだままだ。

 しかしその愛らしい笑顔の奥に、何やら怖いものを、連也は感じた。

 

「さぁ連也様、帰りましょう。お近くまでお送りいたしますわ」

「アッハイ」

 

 そんな訳だから、ルフェイの言われるがままに、彼女にエスコートされて家路につくのだった。

 

 

 その日の夜。

 リアス・グレモリーは自室でルフェイからの報告を受けて、大きく溜め息をついた。

 デスクの上には、依然として書類の山が要塞めいて鎮座している。

 

「そういえば、いたわね……強い相手と戦えれば何でもいいってタイプが、D×D(うち)にも……」

「兄が本当に申し訳ございません」

「あなたが謝る事ではないわよ、ルフェイ」

 

 リアスは平謝りするルフェイに、優しく答えた。

 

「それより、アーサーが戻ってきているという事は、ヴァーリも駒王町に来ている可能性が高いわね……何とかしないと」

 

 何せ連也は、オルランドを倒して駒王町を救った恩人である。自分たちの存在を秘匿するため、敢えてマスコミの矢面に立たせた負い目もある。

 リアスとしては、可能な限り援助してやりたいのだ。

 

「とはいえ、迷惑だからやめてくれなんて言ったら、彼等の事だからますます連也くんに絡もうとするでしょうし……当面は、連也くんに護衛を付ける事にしましょう」

 

 そこへ、ドアをノックする音がした。

 

「リアス様、ゼノヴィアです」

「どうぞ、開いてるわ」

 

 リアスの返事に、パジャマ姿のゼノヴィアが「失礼します」と言って入室した。手にはコーヒーカップを乗せたトレイを持っている。

 

「母上から、これを届けるようにと言われまして」

 

 カップの中身は、一誠の母静江が入れてくれたアイスココアだった。

 

「ありがとうゼノヴィア」

 

 リアスはトレイを受け取ると、ココアを早速一口飲む。

 

「今、廊下でそれとなく聞いてしまったのですが、連也に護衛を付けるとはどういう事でしょう。彼の身に、何か?」

「かくかくしかじか」

「まるまるうまうまで、連也を狙ってアーサーが……そういう事でしたら、護衛には是非私を。アーサーは聖剣使いです。他の者ではやはり分が悪いでしょう」

「それもそうねぇ……それじゃあ、お願い出来るかしら?」

「喜んで」

 

 ゼノヴィアは意気揚々と答えた。

 

(私が連也を守護(まも)らねば……生徒会長としても、友人としても……!)

 

 少女の胸の内では、そんな使命感が炎と燃えていた。

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