生徒会長ゼノヴィア   作:阿修羅丸

34 / 46
連也vsゼノヴィア

 駒王商店街はオルランド眷属の破壊活動の被害が少なかった事もあり、復旧作業もいち早く完了していた。

 日曜日。

 その商店街の奥にある喫茶店『青い鳥』で、リアス・グレモリーは大盛りのチョコレートパフェを、小さな子供のような満面の笑顔で食べていた。

 デスクワークが一区切り付いたので、自分へのご褒美と気分転換、そして残りの雑務への英気を養っている最中である。『休むのも仕事のうち』という言葉もあるが、彼女は今それを実践しているところだった。

 テーブルを挟んで向かいの席には、側近にして親友でもある姫島朱乃が座っており、こちらはチーズケーキを味わっていた。しかしふと目の前のリアスの顔を見るなり、コロコロと笑った。

 

「あらあら、ウフフ。リアスったらお口の周りがベトベトじゃない」

 

 手元のおしぼりでチョコクリームまみれのリアスの口許を拭いてやる。

 リアスは食べる手を止めて「ありがとう」と礼を言った。その頬はかすかに赤らんでいた。

 

「でも仕方ないわね、あなたにとっては久しぶりのお出かけだもの」

「そうね。本当に、仕事以外でお外に出たのは久しぶり……お日様の光を浴びて、生き返ったような気分ですらあるわ」

「あらあら、ウフフ。純血悪魔のあなたがそんな事を言っていいの?」

「私はいいの」

 

 リアスはキッパリと言い切って、チョコレートパフェの攻略を再開する。

 拭いてもらったばかりの口許がまたもや汚れてしまい、その度に朱乃が拭いてやった。(キング)の気分転換のためならこうやって子供のように甘えさせてやるのも女王(クイーン)たる自分の務めだと思っているので、苦にもならない。それどころか、こうしてリアスのお世話をしてあげるのがちょっぴり楽しかった。

 

 そこへカランカランとベルの音が響く。店の出入口のドアに付いてある物だ。

 リアスと朱乃が何とはなしにそちらを見やると、一誠だった。

 その隣には、二本の三つ編みと桃色のフレームの眼鏡を掛けた、同い年の少女。

 二人はリアスたちには気付かず、通りに面した大きなウインドウのある席に座った。

 リアスが口許を自分のおしぼりで拭いてから、立ち上がった。

 朱乃も立ち上がると、二人は一誠たちの方へと歩き出した──。

 

 

 時間は少し遡る。

 同じく駒王商店街。

 兵藤一誠はそこにある洋服屋から、たくさんの紙袋を手に、疲れた顔で出てきた。

 一人ではない。女の子も一緒だ。

 元クラスメートの桐生藍華であった。

 今日は家人がみんなそれぞれの用事で出掛けており、一人で家に閉じ籠っているのも馬鹿らしいので街に一人繰り出したところで彼女と鉢合わせたのだ。

 それが運のつきというやつで、桐生に口八丁で言いくるめられた一誠は、彼女の買い物に荷物持ちとして付き合わされたのである。

 

「いや~助かったわ。女の子って色々と必需品が多くってねぇ~」

「ああ、そういえば女の子だったよなお前。一応、生物分類学的には」

「ハイハイふてくされないの。ご褒美にコーヒー奢ってあげるから」

 

 桐生は一誠の減らず口を意に介さず、商店街の奥の方へトコトコと歩き出す。

 一誠もそれに続いた。

 道中、一誠は何か言いたげに桐生の方を横目でチラチラと見る。

 桐生はすぐに、その視線に気付いた。

 

「何よ、気持ち悪いわね。言いたい事あるなら言いなさいよ、気を遣うようなキャラでも関係でもないでしょ」

「あ、ああ……お前、確か秋月と同じクラスだったよな?」

「ええ」

「アイツ、どんな感じだ? なんかやたら女の子に、不自然なくらいモテたりしないか?」

「モテモテよ。何せ町を救ったヒーロー様だし」

「その前はどうだったんだ?」

「普通」

「普通って?」

「だから、普通よ。モテモテじゃなかったけど、アンタ等みたいに毛嫌いもされてなかったわ。で、それがどうかした訳?」

「……おかしいんだよ、最近」

「何が」

「黒歌が秋月を狙ってるし、ゼノヴィアも妙に仲がいいし、リアスや朱乃さんやアーシアも秋月の事よく話題にするし……そのくせ、何か俺に対しては冷たくてさ……ひょっとして秋月の奴、催眠術か何かでみんなを操ってるんじゃないかって心ぱ」

「アッハッハッハッハッハッ!」

 

 心配で、と言おうとするのを遮るように、桐生の笑い声が響いた。

 

「な、何だよ! 笑い事じゃねえぞ!」

「だって催眠術って! アンタがそれを言う訳? アンタこそ催眠術使って女の子にモテてんじゃないかとか言われてたのに!」

 

 桐生は一誠の背中をバシバシ叩きながら笑い続け、しまいには笑いすぎてむせた。

 

「あー、アホらし。あのね兵藤、男の嫉妬が許されるのは幼稚園児までよ?」

「し、嫉妬なんてしてねえ!」

「してるわよ。今のアンタ、家に泊まりに来た親戚の子とかにお母さんが優しくするもんだから『ウエーン、お母さん取られたー』って嫉妬してるガキんちょそのものだし──実際、先輩たちにしてみれば家に泊まりに来た親戚の子供程度の感じなんじゃない? それと、ゼノヴィアっちから聞いたけど、アンタ等が束になってもかなわなかった悪者のボスを一人でやっつけちゃったんでしょ? そりゃちやほやするわよ」

「…………よし、わかった。ならそういう事にしておくとして、なんで俺に対しては態度冷たくなるんだよ」

「気のせいよ、半分はね」

「残りの半分は?」

「アンタの自業自得。ゼノヴィアっちが生徒会長になってからこっち、アンタあの子に迷惑しか掛けてないじゃない。そりゃ好感度だって目減りするわよ。ゼノヴィアっちとか、もうかなりヤバいかもね~」

 

 桐生はニヤニヤ笑って言った。

 

「愛想尽かされたくなかったら、日頃の行いに気を付けなさいな。ほら、こっちこっち」

 

 そして、喫茶店『青い鳥』のドアを開けて入店したのであった。

 二人は通りに面した大きなウインドウのある席に座り、オーダーを取りに来たウェイトレスにコーヒーを注文した。

 ウェイトレスが立ち去るのと入れ替わりに、リアスと朱乃がやって来て、桐生の肩にそれぞれ手を置いた。

 

「こんにちは、桐生さん」

 

 リアスが怖いくらい朗らかに挨拶する。

 

「ど、ど~もぉ~」

 

 桐生はひきつった笑顔を返した。

 服の下で背中にじっとりと嫌な汗が浮いている。

 

「リ、リアス、こいつは俺の元クラスメートで……」

「ええ、知ってるわ。去年の生徒会選挙ではゼノヴィアがお世話になったものね」

「い、いやぁ、友達とシテ当然の事をしタマででスし?」

 

 桐生は何故か、声が所々裏返っていた。

 

「そうね、お友達なのよね、お休みの日には一緒に遊びに行くくらいのね──今朝も、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()その遊び相手のあなたがどぉおお~~して、ここにいるのかしらねぇぇええええ~~~

 

 リアスの声が、地獄の獄卒めいて不気味に、桐生の耳に響いた。

 

 

 冥界、グレモリー領。

 その内の、ゼノヴィアに与えられた一帯に、ゼノヴィアとアーシア、そして秋月連也はいた。

 見晴らしの良い草原。

 彼方に見える山々。

 程好い涼風が草を揺らしている。

 連也としても、嫌いではないロケーションだ。空がドロドロした紫色でなければだが。

 

「連也。今日は私の我が儘を聞いてくれて、本当に感謝している。いい試合にしよう」

 

 ゼノヴィアはそう言って、エクス・デュランダルを召喚した。

 同時に、魔力を使って着ていた服をエクソシストの戦闘服に変化させる。

 そして呼び寄せた愛剣の柄を握った。

 

鎧化(アムド)!」

 

 ゼノヴィアの詠唱に応じて、エクス・デュランダルの鞘が光を放って分解・変型し、鎧となって彼女の肉体に装着された。

 

「お手柔らかにな」

 

 連也はのんびりした口調で返し、右手をスッと横に伸ばした。

 その手のひらから柄巻きを施した木刀『飛龍』が現れる。

 物品引き寄せ(アポーツ)で召喚した木刀を正眼に構えつつ、連也は

 

(──カッコいいな、あれ)

 

 と、鎧に変化する鞘を有する聖剣に対して思っていた。

 同時に、曹操が聖典とまで呼んでいた漫画にも、似たような機能を持つ武器があったのを思い出す。

 

(ひょっとしてゼノヴィアも読んでるのかな……)

 

 付き合いの短い連也から見ても、ゼノヴィアは感性が割りと男の子だから、案外愛読しているかも知れない。

 そう思うと、ちょっぴり嬉しくなった。

 

「はぁああああっ!」

 

 連也が呑気にそんな事を考えていると、ゼノヴィアが雄叫びを上げ、デュランダルを振り下ろした。

 聖なるオーラが目映い光の奔流となって、連也に迫る。

 連也は木刀で、正面の空間を斬り上げた。

 太刀筋に沿って空間が歪み、相手の攻撃を逸らす防御帯となる。

 デュランダルの光波はその歪曲空間によって軌道が曲げられ、むなしく紫色の空へと消えていった。

 ゼノヴィアは──既に連也の懐に飛び込んでいた。

 何のフェイントも掛けない、清々しいほど真っ直ぐに、そして単純に、デュランダルを大上段から幹竹割りに振り下ろす。

 連也、斜めにかざした木刀でその一太刀を受け流し、そのままゼノヴィアの小手を狙って木刀を打ち込んだ。

 ──が、そこにゼノヴィアの姿は既にない。

 バックステップで離脱していたゼノヴィアは、すかさず再度接近して、横一文字に斬りつけた。

 連也はその太刀筋を遮るように、木刀をかざす。

 聖剣と木刀がぶつかり合った瞬間、デュランダルが弾き返された。

 

(サイラオーグに使った、()()か!)

 

 とわかった時には、ゼノヴィアは体勢を崩して胴体ががら空きになっていた。

 連也、その隙を逃さじと突きを放つが、ゼノヴィアはそれを咄嗟に蹴り上げた。《破壊》と《天閃》の二つの聖剣の加護を得たその蹴りで、木刀が弾き飛ばされて宙に舞う。

 ゼノヴィアは無防備になった連也の脇腹目掛けて、デュランダルを打ち込んだ。

 ここで連也は、思わぬ行動に出た。

 迫り来るデュランダルの刃に、足を掛けたのだ。

 そして刃を蹴ってジャンプして回避すると、空中で『飛龍』をキャッチして着地した。

 

(無茶をする……)

 

 デュランダルは《支配の聖剣(エクスカリバー・ルーラー)》の能力で、その切れ味のみを一時的に封印してある。切断してしまうような事だけは、絶対にない。とは言え、連也はその事を知らないはずだ。彼からすれば、掛けた足が切断されてもおかしくはなかったはずなのだ。

 しかしデュランダルには、何の手応えもなかった。まるで宙に舞う羽毛に斬りつけたようですらあった。ひょっとしたら、念道独自の体捌きによるものだったのかも知れない。

 

(連也……やはり君は、凄い奴だな……!)

 

 ゼノヴィアは、嬉しくなった。

 これまで出会ったどの剣士とも違うタイプだ。ほんの数合で、その違いが実感出来た。

 

(やはり、思いきって頼んで良かった……)

 

 これほどの剣士との試合は、間違いなく自分を剣士として高めてくれるに違いない。

 あとは、連也の方も『この試合を受けて良かった』と思ってくれれば、最早言うことはない。

 自分たちの至らなさ故に戦いに巻き込み、挙げ句マスコミの矢面に立たせてしまった少年に、どうにかして報いたいと思っていた。

 リアスや朱乃なら手料理の一つも振る舞うのだろうが、生憎と自分にはそこまでの女子力はまだない。

 いっそこの肉体(からだ)で感謝の気持ちを伝えようかとも思った。胸を触らせるくらいなら、やぶさかでもない。しかし、黒歌に迫られて辟易している連也にしてみれば、追い打ちにしかなるまい。

 ならばせめて、同じ剣士として、自分との試合がわずかなりとも彼のステップアップの一助となれば……連也に試合を申し込んだのには、そんな気持ちもあったのだ。

 

 ゼノヴィアが気持ちを新たに、攻撃に移ろうと一歩踏み出した瞬間、両者のちょうど中間地点に一条の雷光が放たれ、地をえぐった。

 

「はい、おいたはそこまでですわよ、ゼノヴィアちゃん」

 

 朱乃がいつの間にやら、上空に悪魔の翼を広げて浮かんでいた。

 

「ゼノヴィア……説明してもらうわよ」

 

 続くその声に振り向けば、アーシアの傍らにリアスが立っていた。一誠も一緒だ。

 

「リ、リアス様……何故ここに……」

「気分転換にお出掛けしたら、ちょうど桐生さんと出会したのよ。あなたたちと遊びに行く約束をしていたはずの桐生さんと、ね」

 

 しまった、とゼノヴィアは思った。桐生には口裏を合わせるだけでなく、いっそ外出自粛も要請しておくべきだったが、後の祭りだ。

 

「ゼノヴィア……連也くんが今いろいろと大変なのはわかってたはずよ。なのに、護衛を自ら買って出たあなたがこんな事をするなんて、どういうつもりかしら……」

 

 リアスは声こそ荒げないものの、表情には鋼鉄のような暗さと冷たさがあった。

 

「ゼノヴィア。悪い事は言わないから素直に謝れ。何か深い事情があったんだろ? 俺は気にしてないから、リアスに正直に謝るんだ」

 

 説得する一誠の顔が、何故か青ざめている。去年の今頃に起きたエクスカリバー事件で受けた、リアスからのお仕置きの記憶がよみがえったのだ。

 

「すいませんでしたぁぁあああっ!」

 

 すかさず、謝罪の言葉が飛んだ。

 リアスの前で、土下座までする。

 ──ゼノヴィアが、ではなく、連也が。

 

「…………ど、どうして連也くんが謝るの?」

 

 その迷いのない土下座っぷりに、リアスの中で高まっていた怒りのボルテージが、急速に下がっていった。

 

「俺、以前からゼノヴィアと手合わせしてみたいと思ってたんです! それで思いきってお願いしたんです! ゼノヴィアとアルジェントさんに、桐生と一緒に遊びに行くって嘘ついてごまかすよう指示したのも俺です! ホントにすいませんでした!」

 

 嘘だ。

 リアスはそう思った。

 短い付き合いだが、連也はそういうキャラではないという事くらいはわかる。

 

「ねえ、リアス。()()()()()()()()()()()()()()()、許してあげたら?」

 

 空から舞い降りてきた朱乃が、助け船を出す。彼女も連也の言葉が嘘なのはわかっているが、ゼノヴィアをかばって悪役を買って出る連也の男気を尊重したくなったのだ。

 

「……仕方ないわね。()()()()()()

 

 リアスは大きな溜め息の後、そう言った。連也を通して、ゼノヴィアに。

 

 連也には、協力してもらった恩がある。悪魔の事情に巻き込んだ負い目がある。

 何より、リアス個人が連也を好いていた。以前サイラオーグに言ったように、それは祐斗やギャスパー、ミリキャスに向けるのと同じ種類の好意だが、それでも連也に対してはつい甘くなってしまう。もしもお願いされたら、胸を触らせたり一緒にお風呂に入るくらいはしてあげてもいいと思ってるくらいだ。

 その連也に土下座されては、嘘とわかっていてもそれ以上強くは出られなかった。

 

「いやいや、何言ってんだよリアス! ただ戦ってみたいとか、そんな理由で憎くもない相手に勝負を挑むなんておかしいだろ!」

 

 一誠が抗議した。

 

「こいつの念道が俺たち悪魔にどれだけ危険かわかるだろ! 下手したらゼノヴィアを殺していたかも知れないんだよ!? 土下座したくらいで済ませていい問題じゃないだろ!」

「──と一誠が言ってるけど、ゼノヴィアはどうなの?」

「あ、いえ、断れば済む話をわざわざ受けた私にも、責任はありますので……軽率でした、申し訳ありません」

 

 話を振られたゼノヴィアは、しどろもどろにそう言って、ペコリと頭を下げた。

 

「いやいや、お前は何も悪くないだろゼノヴィア! 悪いのは全部こいつでぐえっ!?」

 

 更に抗議の声を上げる一誠だったが、黒い物が首に巻き付いて遮られた。朱乃のポニーテールである。魔力を使えば制服から巫女装束に一瞬で変身出来る彼女にしてみれば、髪の毛の操作など文字通り手足を動かすも同然だ。

 

「イッセーくぅん、今夜は一緒にお風呂に入ってあげますから、機嫌を直してくださいなぁ」

 

 朱乃が一誠を抱き寄せて、胸部に搭載した102cmの戦略兵器に顔をうずめさせ、甘えたような声色でささやくと、一誠はさっきまでの怒りはどこへやら、早くもだらしない顔になっていた。

 

「じゃあ喧嘩両成敗ということで、解散!」

 

 リアスがパンパンと手を叩き、宣言する。

 一誠の態度に呆れつつも、どうやら誰も怪我をせずに終われそうなので、アーシアは安堵の溜め息をついた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。