生徒会長ゼノヴィア   作:阿修羅丸

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闇に蠢く者たち

 昨年の夏に転入してから進級するまでの間、村山と片瀬は何も知らない自分に色々とアドバイスしてくれた。生徒会長就任を我が事のように喜んでくれた。ゼノヴィアにとって、別々のクラスとなった今でも、間違いなく大切な友達だ。

 その二人があられもない姿をさらして地面に転がっているのを見た瞬間、彼女の胸の内にどす黒いものが湧き上がった。

 だがしかし……だ。

 まさか一誠が、そばにいる少年に事情も聞かず、禁手化(バランスブレイク)して突っ掛かっていくとは思いもしなかった。

 相手の少年が一誠の鉄拳をかわし様、木刀でカウンターを決めて、一太刀で彼を昏倒させたのは、もっと思いもしなかった。

 しかしそんな凄腕の剣士が連也だった事は、それほど意外には感じなかった。バッティングセンターで見たあのブレイクショットからして、只者ではないとわかっていたからだろう。

 

「イッセーくん!」

 

 悲鳴に近い声を上げたのは朱乃だった。彼女はグレモリー眷属の中では、特に一誠への依存度が高い。その一誠が目の前で倒された瞬間、事の是非は頭から吹っ飛び、木刀の少年への怒りだけが心を一色に染め上げた。

 白くたおやかな手が翻り、龍を象った雷光が少年目掛けてほとばしる。

 連也は咄嗟に木刀を正面に掲げて、雷光龍を受け止めた。ミドラの炎同様、稲妻も木刀を焼き尽くす事なく絡め取られる。

 しかし、ここで彼の動きが一瞬止まった。

 いつもなら、このまま相手へ撃ち返すところだ。

 だが先程の一誠の怒号から、どうも彼等は村山と片瀬を襲ったのが自分だと勘違いしているようだ。その誤解を解くのが先決であろうと考えた。

 

「――はぁっ!」

 

 木刀から『念』を放って、雷光龍を消滅させた連也は、忍者が刀を背中の鞘に仕舞うように、木刀をトレーナーの背中側の襟口に押し込んだ。

 

「えーっとですね、とりあえずお話聞いてもらえます?」

 

 そう言って、両手を上げた。

 

 

 村山と片瀬のケアを召喚したスタッフに任せて、リアスは連也を兵藤邸へと案内した。

 未だ目を覚まさない一誠は、転送魔法陣で自室へと直接運ばれた。明日の朝には目を覚ますだろうと、連也は言う。

 リアスは眷属たちを下がらせて、彼と二人きりでリビングに入った。

 向かい合って座ると、まずはリアスの方から名を名乗り、連也も自己紹介をした。それが終わると、まずは彼の方から事情を説明した。

 

「なるほど、そういう事だったのね……確認もせずに一誠と朱乃がひどい事をしてしまったわ。本当にごめんなさい」

 

 リアスはペコリと頭を下げた。

 

「まぁ、俺は怪我がなかったからいいですけど。それより村山と片瀬は……」

「ご友人のお二人ならば心配いらないわ。服もきちんと修復させるし、記憶の方も、『野良犬に追いかけ回されていたところをあなたに助けられた』とでも変えておきましょう」

「記憶を変える、ね……そんな事出来るんなら、襲われた事を綺麗さっぱり忘れさせた方が……」

「それでも、『何か恐ろしいものに襲われた』という部分までは消せないの。それが何なのかわからないままでいさせるよりは、そこに答えと救済を与えておいた方が、彼女たちを悩ませずに済むわ」

「……じゃあ、そういう事で」

「他に何か、聞きたい事はあるかしら?」

「――先輩がこの町の管理人って事で、いいんでしょうか?」

「ええ、そうね」

「この町を去年から変な力で覆ったのも?」

「変な力とはご挨拶ねぇ」

 

 リアスは苦笑した。町を包む結界の存在にこの少年が気付いていた事に、内心驚きもしたが。

 

「私一人の力ではないわ。その結界に関しては、いろいろと事情があるの」

「事情って?」

「う~ん、そうね……どこから話せばいいかしら……」

 

 リアスは紅髪を人差し指に巻き付け始めた。思案にふける時の癖である。髪が傷むからやめなさいと母や義姉からよく注意されるのだが、依然直らない……。

 数秒の思案の後、自分達が人間ではなく悪魔である事、悪魔・天使・堕天使の三つの種族とその関係、つい最近まで繰り広げられていた戦いの事などを説明した。

 

「あなたの言う変な力というのは、その敵から町を守るための結界だったの」

「その割りには、あんまり守れてる感じがしませんけど」

 

 言外に、ついさっきクラスメート二人が襲われた事を非難していた。

 

「それについては、申し訳ないと思っているわ。だけど結界の仕様上、仕方のない部分もあるの。そうね、網に例えればいいかしら……大きな魚用の網でメダカを捕まえろというのは無理な話でしょう?」

「そんなもんですか」

「ただ、情報はすぐに入ってくるから、お友達を襲ったはぐれ悪魔のような輩は私たちが直接討伐するようになっているの……ただ、ね」

 

 リアスは思いきって、確かめてみる事にした。単刀直入に尋ねたりはせず、とりあえず話題を振って連也の反応を探ってみるが……、

 

「三年ほど前から、まれにそのはぐれ悪魔の消息が掴めなくなるケースが起きているの。件数は十件ほどだけれど、場所は全て駒王町内の桂馬川区。私たちとは別に、彼等を退治している者がいるのではないかと推測されるのだけれど……」

「あ、じゃあそれ、俺です」

 

 ……あっさりと認めた。

 

「そ、そうなの……」

「人の仕事横取りしたとか、文句言わないでくださいよ?」

「そんなつもりは毛頭ないわ。むしろ感謝しているし、無関係なあなたをこちらのゴタゴタに巻き込む形になって、申し訳ないくらいよ……だけど、気になるわね。先程といい、あなたにはいったいどんな力があるのか……」

 

 そこで、リビングのドアがノックされ、女性の声がした。

 

「リアスさん。お客様にコーヒーをお持ちしましたよ」

「ありがとうございます」

 

 リアスは立ち上がり、ドアを開ける。トレーに二人分のコーヒーを乗せて、中年の女性が立っていた。一誠の母親の兵藤静江だ。

 トレーを受け取るリアスの肩越しに、静江は客人の顔をチラリと見た。

 一瞬、何か言いたげに口を開けたが、すぐに閉じた。まるで昔の知り合いを見かけたような表情だった。

 

 再び二人きりになる。

 

「話の続きだけれど、あなたの力がどんなものなのか、見せてもらえないかしら」

「いいですよ?」

 

 連也はコーヒーカップを手に取ると、中のコーヒーにフッと強めに息を吹き掛けた。

 ブワッと湯気が立ち上る。真っ赤に焼けた金属に冷水を掛けた時のような、激しい勢いだ。

 次いで、コーヒーに人差し指を入れる。そしてカップから抜いた指には、コーヒーがゼリー状に固まってくっついていた。

 

「触ってみてください」

 

 と連也が言うので、リアスが指先でおそるおそるコーヒーの塊に触れると……ヒンヤリと冷たかった。

 

「『念』を吹き掛けて熱を奪って、そして指先から流し込んだ『念』で固定させてます」

 

 答えてる間に、コーヒーは固体から液体に変化し、カップの中に戻された。

 

「念……って、何?」

「気を高めていくと、物理法則を超越した霊的なエネルギーに変化します。思念の強さや想像力でいくらでも応用が利くこの力を『念』と呼び、武道に取り入れたのが念道で、俺はその念道の修行中なんです」

神 器(セイクリッド・ギア)ではないのね……」

「何ですか、それ」

 

 そんな単語を昨日ジャンゴが口にしていたのを思い出した。

 リアスは神 器(セイクリッド・ギア)について簡単に説明する。

 

「――人間にしか発現しない上に、使い方次第では神すら倒し得る強力な物もあるの。だけど、未だに未知の部分も多いから、私たち三種族以外にも、いろんな種族や勢力が警戒し、注目してもいるわ」

「ふぅーん……ま、俺には関係ないですけど」

「最初はてっきり、あなたが持ってるあの木刀がそうなのかと思ってたわ」

「あれは『飛龍』といって、ただの木刀ですよ。先祖伝来の逸品で、代々の念道家の『念』が宿ってはいますけど、ただの木刀です」

 

 大事な事なので二回言った。変に誤解されるのは面倒なのだ。

 

 連也の話を聞きながら、リアスは念道という技に興味を覚えた。

 一誠は一年前とは比べ物にならない、別人どころか別の生き物と呼んでも差し支えないほど強くなっている。怒りで我を忘れ、力を倍加させてなかったとはいえ、そんな一誠を一撃で昏倒させる強さ。

 それが訓練によって得られるというのならば、なかなか魅力的な話ではないだろうか?

 

「ねぇ、秋月くん」

「はい」

「私たちに、その念道を教えてもらえないかしら。もちろん、授業料はそちらの言い値でお支払いさせてもらうわ」

「お断りします」

 

 連也は断った。

 一ミリ秒の躊躇いもなく断った。

 まるで最初から答えが決まっていたかのように、淀みなく断った。

 

 

 同時刻の桂馬川公園。

 連也がジャンゴを倒した場所だ。

 そこに四人の男女が集まっていた。

 その内の一人の男が地面に屈んだ。そして大きめのサングラスを外す。その下の両目はギョロリと飛び出て、左右別々に動いている。まるでカメレオンだ。

 

「ふむ……ふむふむ……ジャンゴはここで殺されているな……グレモリー眷属でもシトリー眷属でもない……人間の小僧だ……木で出来た刀を使う……しかし、何だこの力は……ジャンゴの拳を簡単に止めて、無造作に投げ飛ばしおった……」

 

 一見、地面や夜の闇を見つめているようにしか見えない。しかし彼の目には、昨日の戦いがハッキリと映し出されていた。

 

「ジャンゴめ、黒い塵になって消え去りおった……まるで聖剣で斬られたかのようだが、聖剣ではあるまい……木刀型の聖剣など、聞いた事もない」

「じゃあ何なのよ」

 

 尋ねたのは、背広とタイトなミニスカートで肢体を包む若い女だった。インナーの類いは着ていないらしく、背広の襟から白く深い谷間があらわになっていた。スカートも「ひょっとしてサイズを間違えてるのか?」と思うくらいにピチピチで、下半身の肉感的なラインをくっきりさせている。

 

「さて、そこまではわからんが……人間どもは何かといろんなものを作る生き物だからな。新しい聖剣か、それとも我々の知らない破魔妖撃の術を生み出したのかも知れん」

「ボスが通れるよう、結界に抜け穴作っておかなきゃならねえってのに……」

 

 素肌の上から革ジャンを着た金髪の男が、唸るような声でぼやく。

 

「頭数が減るわ、訳わかんねー敵が湧いて出るわ、めんどくせぇ!」

「なぁに、ボスをお招き出来れば、この程度の小僧など恐れるに足りん……グレモリー眷属であろうと、赤龍帝であろうとも、ボスのドゥレンダナの前ではな」

 

 カメレオンの目を持つ男は不敵に笑い、サングラスを着けた。

 彼の言葉に、他の面子より頭二つ分も背の高い、コートの男がうなずく。

 背広の女がサングラスの男に声を掛けた。

 

「ミドラも先行してたんでしょ? あの馬鹿取っ捕まえて、もう少し詳しい事情を聞きましょう」

「うむ。あの馬鹿は途中でジャンゴと別れておる。おおかた女漁りでもやっとるんだろう。ついてこい」

 

 サングラスの男に先導されて、一同は闇に溶け込むように消えていった……。




一誠のお母さんの名前はWikipediaでも確認出来なかったので、こちらで考えました。
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