生徒会長ゼノヴィア   作:阿修羅丸

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落とし前

「う、うぉぉぉおおおおあああぁぁぁぁあああああッッ!!」

 

 恐怖の叫びを上げて、その自分自身の叫びで、一誠は目を覚ました。

 ハァハァと大きく息をしながら、辺りを見回す。

 どうやら自分は、寝間着に着替えさせられて、ベッドに寝かされていたようだ。

 起き上がると、その寝間着は汗でぐっしょりと濡れていた。

 

「目が覚めたようだな」

 

 太い声がしてそちらに顔を向けると、部屋の出入口のドアをくぐってサイラオーグが入室してきたところだった。手にはティーカップを乗せたトレーを持っている。

 

「リアスが手ずから入れてくれた紅茶だ」

「あ、ども」

 

 一誠は差し出されたトレーからティーカップを受け取り、紅茶を一口飲んだ。

 サイラオーグはトレーをサイドテーブルに置き、傍らの椅子に座った。

 

「体の具合はどうだ?」

「んー、まだ、体全体が重い感じですね」

「まぁ、戦いが終わったばかりだからな、無理もない」

 

 ──それでも、秋月連也に比べれば、無傷と言っても差し支えなかろう。

 サイラオーグは心の中で、そう付け加えた。

 連也は今、別棟に設けられている医務室で、アーシアの《聖母の微笑み(トワイライト・ヒーリング)》による治療を受けている。

 決闘の場となっていた疑似空間には、内部の者が戦闘不能になると外界の定められた場所に転送する術式が組み込まれている。

 連也のダメージは、その術式が作動しないギリギリのラインで踏みとどまってはいたものの、それでも予断の許されない深刻さであった。咳払い一つでもしようものなら、それだけでどこかのひび割れた骨が折れて、リタイアさせられていたかも知れない。結果論ではあるが、『あと十秒待っても立ち上がらないようなら強制リタイアさせよう』というサイラオーグの判断すらも、楽観的と言わざるを得ないほどだった。

 対する一誠は、リタイア直後こそ全身に破邪の念による火傷を負っていたが、それも先んじて医務室に向かったアーシアの見ている前で、動画の早回し再生めいてみるみる治っていったのである。元が龍のオーラだったから、一誠の肉体に吸収されて治癒力を爆発的に高めたのか、はたまた念そのものにそういう効果があるのかはわからないが、アーシアをしてこれなら自分の力は必要なさそうだと思わせるほどであった。

 そして実際、サイラオーグがこうして見舞いに来る頃には、完治してしまっていた。

 

「……サイラオーグさん。俺、負けたんですか?」

 

 そんな事とは露知らず、一誠はサイラオーグに尋ねた。

 

「ああ。文句のつけようのない負けっぷりだった」

「そう、ですか……」

 

 一誠はうなだれた。

 

「悔しいか、兵藤」

 

 サイラオーグが優しく問い掛ける。

 

「もちろんです……あそこまで追い詰めたのに……俺は九割がた勝っていたのに……あんな方法で、しかもたったの一発で逆転されて……」

「これまでお前が倒して来た連中も、同じ想いだったろうな。今度はお前に、その気持ちを味わう順番が回ってきた。それだけの事だ」

「でも俺は納得出来ません! 他のやつならともかく、あんな奴に負けるなんて! 今までずっと俺たちに守られて、平和な場所でヌクヌク暮らしてきたやつなんかに!」

「その平和な場所でヌクヌク暮らしてきたやつなんかに、お前は実力で負けたのだ──なぁ、兵藤」

 

 サイラオーグが一誠の肩に手を置く。

 

「俺もお前も、勝利の美酒だけを味わって来た訳ではあるまい。敗北の苦さもよく知っているはずだ。だが俺たちは、その苦さも受け入れ、糧とし、己の血肉に変えてきた。だからこそ、ここまで強くなれたのだ。俺たちは、二人揃って秋月連也に敗れた。逆を言えば、俺たちにはまだまだ強くなれる余地が残っているという事だ。お前とて、今日の試合で学ぶべき事はたくさんあったはずだ」

「でも、負けたんです……この三週間、レイヴェルにコーチをしてもらって、あんなに頑張ったのに……オーフィスだって力を貸してくれたのに……」

「勝敗は兵家の常だ。どんなに頑張っても負ける事はある」

 

 一誠の最後の一言がちょっと引っ掛かった。

 やはり最後に見せたあの変身は……。

 しかしサイラオーグ・バアルに死者を鞭打つ趣味はないので、敢えて何も言わなかった。

 

「やっぱり悔しいです……納得出来ません……」

「お兄様の時も、そうやってゴネて魔王様に泣きついたのですか?」

 

 鞭打つような冷徹な声は、レイヴェルだった。

 レイヴェルは先に入室していたサイラオーグに黙礼すると、大股で一誠の枕元に歩み寄った。

 

「まったく、先程から聞いていればグチグチと……試合前にも申し上げたはずです、連也さんがサイラオーグ様とストラーダ猊下に勝利したという事実を、もっと重く受け止めろと!」

 

 腰に手を当てて、前のめりに顔を突き出し、レイヴェルはきつい口調で言う。

 

「なのにあなたと来たら、何ですか最後のアレは! まだ試合が終わっていないのに、勝手に自分が勝ったと思い込んで、勝ち名乗りを上げてもらうのをボケーッと待つなどと……あそこでイッセー様が連也さんにトドメの一撃を刺しておけば良かったのです。それだけの時間も充分にありました。そんな甘ったれた根性で勝利を逃がした愚か者に、文句を言う資格などありませんわ!」

「お、俺は甘ったれてなんか……」

「なら、何故トドメを刺さなかったのですか? 絶対に勝ちたいという気持ちがあれば、そして連也さんの実力を把握していれば、あそこでトドメを刺さないという判断は有り得ません。ライザーお兄様ならば、そのような判断ミスは決してなさいませんわ……マネージャーたる私の言葉を軽んじ、結果も出てない内からもう勝ったのだと思い上がる愚か者以外は!」

 

 レイヴェルはかなり頭に来ていた。

 試合中に一誠の取った戦術は、レイヴェルの目から見ても間違ってはいなかった。

 だが最後、連也をノックダウンさせた後だけが、間違いだった。

 何も大袈裟な技を使う必要はない。馬乗りになって顔面にパンチの一つも落とせば、それで決まっていた。いや、近付く必要すらなく、ドラゴンショットを一発叩き込むだけでも良かっただろう。それだけの余力も残っていたはずだ。

 やれる事を全てやった上での敗北なら、レイヴェルも潔く受け入れる。こんなきつい言葉をぶつけたりはしない。

 彼女が怒っているのは、負けた事に対してではなく、勝てるチャンスを自らの油断でみすみす逃した、一誠の真剣勝負に対する不誠実さに対してであった。

 

「そもそも、ドライグ様もドライグ様です! あなたがついていながら、何をやっておられたのですか!」

『ああ、すまんすまん。秋月連也の戦いぶりがあんまり面白くてな。アイツがまだ戦えるのなら戦わせてみたくて、つい黙ってた』

「何が『つい』ですか、この赤トカゲッッ!! まるでダメなおっぱいドラゴン、略してマダオッッ!!」

『グハァッ!』

 

 レイヴェルの罵倒がドライグの魂にクリティカルヒットしたのか、ドライグは血を吐くような声を上げた。

 

『そ、その呼び方はやめろ……く、苦しい……ト、ト、トランキライザーを……!』

「ド、ドライグぅぅっ! しっかりしろぉぉおおっ!」

「鎮静剤なら医務室にデスノートとかいうのがあるらしいが……」

「それはデスフルランです。しかも鎮静剤ではなく、全身麻酔に使用される、沸点23.5度の揮発性麻酔薬ですわ」

「詳しいな」

「いずれ何かの戦術に応用出来るかと思いまして」

 

 その「いずれ」が来ない事を、サイラオーグは祈らずにはいられなかった。

 

「話を戻しますけれど、サイラオーグ様は先程、文句のつけようのない負けっぷりだったと仰いましたが、私の意見は逆です。文句や言い訳の余地がある、この上なく無様な敗北でしたわ。そして、そんな余地を残すような戦いをした今のイッセー様には、悔しがる資格すらありません。自分の甘ったれた思い上がりを、海よりも深く猛省なさい!」

 

 そう言い捨てると、もう一度サイラオーグに黙礼してから、後は一誠に一瞥もくれずに退室した。

 サイラオーグはその背中を見送りながら、苦笑した。

 フェニックス家の息女はなかなかの烈女のようだ。しかし、(キング)に対してあれだけはっきりと物申せるのなら、むしろ信頼出来る。

 

「元気を出せ、兵藤。今日の敗北も、必ずお前の力となる。今すぐは無理でも、時間をかけてゆっくりと飲み込んでいけばいい……そもそも、お前は今回の決闘で負けたところで、失うものなど何もあるまい? いつまでもくよくよしていても、何も始まらんぞ」

 

 一誠の背中をポンポンと叩いて慰めると、サイラオーグも退室した。

 

「失うもの、か……」

 

 残された一誠は、ポツリと呟いた。

 言われてみればその通りだ。勝負に勝って秋月連也を排除する事ばかり考えていたので、気付かなかった。

 負けたらゼノヴィアに暴言を吐いた事を謝るのが、自分に与えられたペナルティだったが、そもそも一誠自身、ちょっぴり言い過ぎたと後悔して、反省もしていて、この決闘が終わったら謝ろうと思っていたのだ。最初からやるつもりだった行為など、ペナルティでも何でもない。

 善は急げだ。

 一誠はベッドから下りて着替えると、部屋を出た。

 あちこち探し回っていると、別棟へ続く渡り廊下で、ゼノヴィアを見付けた。イリナも一緒だ。

 

「ゼノヴィア」

 

 一誠が呼び掛けると、二人は足を止めて振り向いた。

 

「イッセーくん、起き上がって大丈夫なの?」

 

 イリナが問い掛ける。

 

「ああ、まだちょっと体が重いけど、動けないってほどじゃねえし、そんなのは理由にならねえよ……」

 

 気丈に答えると、一誠はゼノヴィアの方を向いた。

 

「ゼノヴィア。この前はついカッとなって、お前にひどい事を言っちまったな。本当に悪かった!」

 

 そう言って、深々と頭を下げる。

 ゼノヴィアもイリナも、目をパチパチさせるだけだ。

 

「じゃあ、俺は部屋に戻ってもうちょい休ませてもらうわ。じゃあな」

「え? あ、ちょ……」

 

 イリナが慌てて呼び止めようとしたが、一誠には聞こえなかったようで、そのまま去っていった。

 

 

 リアスを始めとした面々は、医務室の前に集まっていた。ゼノヴィアとイリナも到着する。

 アーシアが連也の治療を始めてから、かれこれ一時間が経過している。《聖母の微笑み(トワイライト・ヒーリング)》で一人の患者を治療するのに、ここまで時間がかかるのは初めてだ。心配するなという方が無理だろう。

 更に三十分が経過して、ようやくアーシアが出てきた。

 廊下に据え付けられた長椅子に座り込み、ハァーッと大きく息をついた。

 

「大丈夫です、お手当ては終わりました。今はお医者様が検査をなさっておられるところです」

 

 そして、心配そうな視線を向ける面々にそう言った。

 皆一様に安堵する。

 少し離れた所に立つ曹操にふと目をやったアーシアは、立ち上がるなり駆け寄った。

 

「曹操さん、どうなさったんですか? 腕にお怪我をなさってますよ」

 

 神器の指輪を顕現させたアーシアは、曹操の腕に治癒の光を注ぐ。

 

「うん? ああ、どこかで引っかけでもしたのかな……すまないね」

 

 曹操は空とぼけながらも、礼を言った。

 

「……連也さんの事、本当に心配なさってたんですね」

 

 アーシアがヒソヒソ声で言う。

 

「でも、その気持ちを人に知られたくなくて、こんな傷を付けたのでしょう?」

「さて、何の事やら」

「だけど、誰かを気遣い思いやる気持ちは、隠すものではないと思いますよ」

 

 ヒソヒソ声でそう言うと、

 

「はい、もう大丈夫ですよ。お大事に」

 

 と普通の声で言って、また長椅子に戻った。

 さすがに疲れたようだ。

 

 

 検査が終わったらしく、少しして医師が面会の許可を出すと、いの一番にゼノヴィアが駆け込んだ。

 

「連也、大丈夫か?」

「お陰さんで」

 

 ベッドの上で、連也は呑気な声で返す。

 ゼノヴィアは遅れて入ってきたリアスたちの目も憚らず、彼を抱き締めた。

 

「良かった……君が無事で、本当に良かった……!」

 

 感極まって、目尻に涙の粒さえ浮かべている。

 

「心配させちゃったか、ごめんな……でも、前にも言ったろ? 俺がアイツと戦いたかったから戦っただけだよ。ゼノヴィアのためじゃない、俺自身のためにやった事だ」

「そんな事はどうでもいい。私は君に死んでほしくないし、傷付いてほしくもない……だから、こうして無事でいてくれて、本当に嬉しい……それだけだ、ただそれだけなんだ……」

 

 そう言って、連也を抱き締める腕に更に力を込め、密着する。豊かな胸が遠慮押し付けられて、知らず知らずそのボリュームと柔らかさをアピールしていた。

 連也がリアスたちに視線で助けを求めると、リアスが肩をすくめた。

 

「ほらゼノヴィア。連也くんもあれだけの激戦の後で疲れてるでしょうし、ゆっくり休ませてあげましょう」

「そうですわよゼノヴィアちゃん。お話は後でも出来ますけど、今の連也くんには何よりも休養が大事なのですから」

 

 そして朱乃と一緒に、ゼノヴィアを引き剥がして、他のみんなと共に医務室を出ていく。

 去り際にゼノヴィアは連也に向かって、小さく手を振った。

 連也も小さく振り返した。

 そして全員が退室すると、ベッドに仰向けになる。

 

「疲れた……」

 

 ポツリと呟き、目を閉じる。

 少しすると、穏やかな寝息が聞こえてきた。

 

 

 リアスたちが客間に移動して、先程の試合の感想などを語り合いながらお茶会をやっていると、そこに一誠がやって来た。

 

「あらイッセー。起きても大丈夫なの?」

「ああ。まだちょっと体が重いけどね。何か小腹が空いちゃって……これ、食べてもいいかな?」

 

 テーブルに広げられた茶菓子を指差して、一誠はリアスに尋ねる。

 

「構わないけれど、動けるようなら先にやっておく事があるのではなくて?」

「やっておく事って?」

「ゼノヴィアに暴言を吐いた事、ちゃんと謝るのでしょう?」

「ああ、それならさっき済ませたところだよ」

 

 一誠は軽く答えて、ゼノヴィアとイリナに「なぁ?」と同意を促す。

 

「そうなの?」

「軽ぅ~くですけどね」

 

 と、イリナがリアスに答える。

 

「軽く?」

「サッと来て、サッと謝って、そしてサッと部屋に戻っちゃいました」

「イリナの言った通りです」

 

 ゼノヴィアが肯定した。

 

「何だよ、ちゃんと頭だって下げただろ?」

 

 イッセーはクッキーを食べながら、不満そうに抗議した。

 

「確かに下げたけど、負けたら土下座してゼノヴィアに謝るって約束だったじゃない。ごめんなさいして、もう用は済みましたって感じでさっさと立ち去るなんて、そんなの謝ったうちには入らないわよ」

 

 イリナも口を尖らせて反論する。

 

「なんでだよ。ちゃんと頭下げて謝ったし、そもそも謝ったうちに入る入らないはイリナが決める事じゃないだろ?」

「それもそうね」

 

 と割って入ったリアスに、一誠は救いの女神を見たような顔になった。

 

「それを決めるのは──更に言うなら、一誠の謝罪を受け入れるか受け入れないかは、ゼノヴィアが判断する事よ。それでゼノヴィア。あなたはどうなの?」

「私もイリナと同じ気持ちです」

 

 ゼノヴィアははっきりと答えた。

 

「人前で土下座なんてみっともない真似をしたくないから、自分から形だけ謝って有耶無耶にしようとしてるようにしか見えません」

「そ、そんな事ねえよ! 俺は真面目に反省したんだ!」

「なら、今この場で、もう一度その気持ちを示してほしい。連也との約束通り、土下座して謝ってくれるなら、君の暴言は忘れよう」

「何言ってんだ! それはもうさっき済ませただろ!」

「私は許すとは言ってないが?」

「でも、俺はちゃんと謝っただろ!」

「だからもう一度ここで土下座して謝ってほしいと言っている。そして、そうしてくれたら許すとも言ってるんだ」

「ふざけんな! 頭下げてちゃんと謝ったのに、何が不満なんだよ!」

「だから、土下座してねえのが不満なんだろ? 許してもらいたいんならこの場で土下座すりゃいいだけじゃねえか」

 

 匙が苛ついた声で口を挟んだ。

 

「会長も指詰めろとか腹を切れとか明日までに百万円持ってこいとか言ってる訳じゃねえんだから、別にいいじゃねえか」

「そうだよイッセーくん。君の気持ちを、嘘偽りのない誠意を、あと一度だけここで示してほしいと言ってるだけなんだ。恥ずかしい事でもカッコ悪い事でも、何でもないんだよ」

 

 木場もなだめるように言う。

 

「もしもゼノヴィアが、君が土下座して謝ってもまだ難癖をつけるようなら、その時は僕が君を守るよ──もっとも、それは杞憂というやつだろうけどね」

「ふざけんな! 俺は反省して、頭下げて謝ったんだ! この上土下座までしろってのかよ! しかももう終わった事で!」

「終わってねえから言ってんだろ! だいたい、元々お前が秋月に負けたら会長に土下座して謝るって約束だったじゃねえか! それで土下座してねえから文句言ってんだろうが! なのになんでお前が被害者面してんだよ!」

 

 匙が早くも我慢の限界に達したのか、声を荒げる。

 

「お前らこそなんで寄って(たか)って土下座させようとすんだよ! 何回でも言うけど、俺はもう謝ったんだぞ! 終わった事なんだぞ! 関係ねえやつが口出しすんじゃねえよチクショウ!」

 

 そう言って、一誠は客間から走って出ていく。

 

「あの野郎……」

「おやめなさい、匙。頭に血が上ってる今のあなたが追い掛けたところで、喧嘩になって余計に話がこじれます」

 

 追い掛けようとする匙を、ソーナが止めた。

 

「ソーナの言う通りね。私が行って説得してみるわ……朱乃、アーシア、悪いけど手伝ってくれるかしら?」

「仰せのままに」

「もちろんです、リアスお姉様」

 

 快諾した二人を連れて、リアスは一誠を追って部屋を出た。

 ゼノヴィアが、崩れるように手近のソファに座り込んだ。

 生徒会メンバーやイリナが、心配そうに集まる。

 

「……見下げ果てたやつだ」

 

 ゼノヴィアは、吐き出すように呟いた。

 

 

 翌日。

 ゼノヴィアはリアスの部屋に呼び出された。

 そこには一誠もいて、

 

「ゼノヴィア。ひどい事を言って本当に悪かった! 許してくれ!」

 

 そう言って、ゼノヴィアに土下座して謝る。

 

「──わかった。この前の暴言は許してやろう」

「そうか、ありがとうゼノヴィア!」

 

 一誠はそう言うと立ち上がり、ゼノヴィアの手を握った。

 

「お前がそう言ってくれて、安心したよ。また改めて、仲良くやろうな」

「ああ。同じグレモリー眷属として、よろしく頼む」

「こっちこそ……って、んん?」

 

 何かが引っ掛かった。

 

「グレモリー眷属としてって……いや、確かに俺はリアスの眷属のままだけど、お前は俺の眷属だろ?」

「昨日まではな」

「ど、どういう事だよ」

「一誠。私は一学期に言ったはずだ。心を入れ換えて、日頃の行いを改めないと、私はリアス様の眷属に戻るとな。その言葉を実行させてもらう」

「な、何言ってんだよ! 俺何もしてないだろ!」

「すぐに夏休みに入ったから何もせずにいられただけだろう。何より、昨日のあの態度で確信した。お前は、私が主君と仰ぐには値しない男だ」

「まだ言ってんのかよ……今日、こうして土下座して謝ってやったのに、この上何が不満なんだよ!」

「お前の眷属でいる事が、だ」

 

 ゼノヴィアは一ミリ秒の間も置かずに、冷たい声で答えた。

 

「そういう訳ですので、リアス様。お手数ですが早速お願いします」

「そうね」

 

 リアスは頷くと、部屋の床に向けて手をかざした。

 掌から放射された魔力が、床に魔法陣を描き始める。

 

「リ、リアス! 俺はトレードに応じるなんて一言も……」

「ああ、そうだったわね。なら(キング)としてあなたに命じます。我が兵士(ポーン)兵藤一誠。あなたの騎士(ナイト)と私の騎士(ナイト)とを交換なさい」

 

 リアスの、初めて聞く高圧的な声に、一誠はすくみ上がった。

 昨夜リアス、朱乃、アーシアの三人から説得された時、

 

「これ以上駄々をこねるようなら、上級悪魔にふさわしくない言動多々ありとして、昇格を取り消させるわよ」

 

 と脅されたのだ。

 この突然のトレードを拒めば、リアスはそれを実行するかも知れない。そうなれば、アーシアやレイヴェルまで失ってしまう。

 

「わ、わかったよ……」

 

 一誠は渋々承諾した。

 トレードの儀式は、短時間で終わった。

 専用の魔法陣と魔力を介して、駒に登録されてある(キング)の名前を書き換えるだけだ。

 すなわち、リアスが持ってきた空白の騎士(ナイト)の駒の(キング)を一誠に、ゼノヴィアの体内にある騎士(ナイト)の駒の(キング)をリアスに書き換えるのだ。

 それも一分も掛からず終わった。

 トレードの儀式が終わると、ゼノヴィアはリアスに黙礼して、自分の部屋に戻っていった。

 

 一誠は空白の駒を手に、溜め息をつく。

 

「元気を出しなさい、イッセー。離れ離れになる訳ではないのよ?」

 

 リアスは一誠の両肩に優しく手を置いた。

 

「最初は誰だってつまずくものよ。ましてやあなたは、悪魔になってから約一年で上級悪魔に昇格してしまったのだもの。失敗するのも仕方ないわ。大事なのはそれを受け入れて次に活かす事よ。まずは、きちんとした高校生活を送りなさい。そうやって、ゼノヴィアとの関係を再構築していけばいいのよ」

 

 無理だろうけど。

 と、リアスは思わずにはいられなかったが、しかしこうでも言わねば一誠はいつまでも落ち込んだままだろう。

 

「大丈夫よイッセー。私はどんな時でもあなたの味方よ」

 

 そう言って、一誠を抱き締めて、顔を胸にうずめさせる。

 一誠はリアスの胸のボリュームと柔らかさに、早くも表情が緩んでいた……。

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