今回は息抜き回です。ホラーというよりギャグです。あとオリ提督のような何かが生息しています。そういうのが嫌だという方はブラウザバックをした後に本編に戻ることを推奨します。
それと息抜き小話だけあって短いです。
「くっくっく……」
夜の静かな鎮守府の廊下を一人の男が歩いていた。、いったいお前はどこの何の黒幕なんだ、と誰かから突っ込まれそうな笑い声を出しながら、その男は歩いていた。
「さぁて、次はどうしてくれようかぁ」
くけけけと、気持ちの悪い笑みを浮かべながら男は思案に暮れていた。
「尻目はなかなかインパクトがあった、なら次は定番としてろくろ首か? いや待て、体中に目を描いて全裸で百目鬼を演じるのも一興か?」
ぶつぶつと声に出しながら次の悪戯を考案しているその男は変態であった。
違う、変態ではなく提督であった。全裸で艦娘を驚かそうとしている時点で提督ではなく変態と呼ぶほうがやはり正しいかもしれない、しかしそれでも彼は提督であった。こんな変態を鎮守府に着任させた大馬鹿野郎はいったいどこのどいつか、問い詰めて思い直すように言ってやりたいと思っても彼が提督である事実に変わりない。
「やはり全裸であるべきか……」
そんな提督の姿を背後から誰かが見つめていた。
その誰かは提督の呟きを聞き、呆れたような蔑むような視線でその背中を眺めながら迷いなく廊下の電灯のスイッチに手を掛けた。
「それとも……ん? 停電か?」
誰かがスイッチを落としたことにより、廊下は一時的に闇に包まれる。生憎と月明りも今は雲の向こう、目が慣れるまでは殆ど何も見えない状態であった。
「しかし停電であれば非常電源に切り替わる筈。 もしかして誰か間違ってスイッチを落としたか?」
急に灯りがなくなっても取り乱さない所を見ると、やはり彼はただの阿呆ではなく鎮守府を一つ預かる提督なのだと実感させられる。
その提督の足元を何かが走った。
―――すりすり
「誰だ!?」
暗闇の中で得体の知れない何かの気配を感じ警戒態勢をとる提督。闇に向かって問いかけるが応えはない。
するとまた何かが、提督の足の間を走り抜けた。
―――すりすり
「何だ!? 何がいる!?」
何かは繰り返し提督の足元を駆けまわる。
―――すりすり
―――すりすり
繰り返し何かが足に擦りついてくる事に提督は気味の悪さを感じていた。
「くぅ!? なんだこのむず痒い感じは!? 正々堂々正面から掛かってこないか!」
―――すりすり
―――すりすり
提督の声に何かは応えることなく、ただその声だけが闇に吸い込まれていく。
応えぬならば応えさせるまで、そう考えた提督は覚悟を決めた。そして初めに目を閉じた、僅かな視覚をシャットアウトし、触覚のみを研ぎ澄ませる。次に足をピタリと閉じ、壁を背にし相手の接触出来る範囲を制限した。最後に腰を直角に曲げ自らの足元まで手を伸ばし、何かの接触を感じた瞬間に捕らえられるように構えた。
提督の今の姿を想像することが難しいならば、実際にやってみるとよいだろう。そしてその姿を鏡で見ると尚更グッドである。そこには真面目な顔で可笑しなポーズを取っている変人がいる筈である。
「さあ、どこからでもかかってこい!」
なんとも珍妙な姿勢のまま提督は意気込んでいるが、悲しいかな、提督の足元にいた何かはとうの昔に走り去っていた。更に言えば廊下の電気もとっくに灯っているが、目を閉じている提督はその事に気が付かない。
どれ程の時間が経ったか、感覚を足元に集中している提督は時間の感覚すらも曖昧にしていた。
そしてそんな提督のいる廊下を鎮守府のパパラッチこと青葉が通ったことにも勿論提督は気が付かない。
やがて提督は目を開け異常がないことを確認すると首を傾げながらその場を去った。
次の日の鎮守府の広報誌の一面に自分の珍妙な姿勢の写真が『提督ご乱心!?謎の宗教にのめりこむ!?』といった見出しと一緒に掲載されるなど、今の提督には知る由は無かった。
そして、提督の足元を走り回っていた何か、もとい軽巡洋艦多摩は提督へのお仕置きを依頼された加賀から報酬であるカツオブシを頂きご機嫌であった。
「多摩だにゃ、猫じゃないにゃ」
すねこすり:雨の降る夜に現れる妖怪。人の足に擦りついてきて歩き難くするだけの妖怪。これといって危害を加えられるわけでない。可愛い。すねこすりであってネコではない。なんとなくネコっぽい印象を受ける妖怪だがネコではない。断じてネコではない。実際に伝承等ではイヌの形をしているとされている。それ人懐っこい野良犬なんじゃ…とか考えてはいけない、すねこすりは妖怪なのだ。ただ水木しげる先生はこの妖怪を丸まったネコのように描いている。それでもすねこすりはネコではない。
「すねこすりじゃないにゃ、多摩だにゃ」
多摩もネコのようだがネコでないのと同じように、すねこすりもネコのようでネコでないのだ。