Fate/Eternal Piece 作:Elys_wing
――セイバーの手に現れたのは長大な剣。
それは彼女の身の丈を超えるような大きさの業物だった。
セイバーはそれを器用に振り回し、大上段に構える。
「あら、その剣、神性を持っているわね。どこかの神にまつわる物かしら?」
影はその金色の双眸を揺らめかせながらクスクスと笑みを漏らす。
「とりあえず小手調べと行きますか。」
影はこちらに向け、手のひらを翳す。
すると、その手のひらから黒い影が押し寄せてきた。
「この程度、私には効かない!!《闇を祓え》!!」
セイバーが言霊を発する。
――彼女の剣が金色に発光する。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
セイバーは裂帛の気合と共に剣を振り下ろす。
押し寄せる影とせめぎ合うことすらせずに、圧倒的な出力を持って、押し流し/すり潰し/消滅させていった。
一瞬の閃光の後、残されていたのは影の本体だけだった。
「ほう、なかなかやるじゃない。」
未だ影の本体は余裕の表情だった。
だが、私の心の中で一つの自信が生まれた。
(セイバー…すごい!これなら、勝てる!!!)
「セイバー!!!頑張って!!!!」
私にはセイバーを魔術で援護する実力も、戦略を指示する知識もない。
それなら私にできることはただ一つ。
――セイバーを信じる!!
「ありがとうマスター!!すぐに終わらせるから!」
その気持ちはセイバーにも届いた。
「私のマスターもああ言ってくれてるなら、勝たないわけにはいかないね!」
セイバーの魔力の質が上がっていく。
その場にいた誰もがそれを察知した。
今までのセイバーの魔力はそれほど大きいものではなかった。
それこそ、ただの分身である影とそう変わらないものだったはず。
影の表情に一瞬の焦燥が現れた。
「この魔力…貴女、ただのサーヴァントではないわね?それこそもっと高次の…」
「そんなこと知らない!私は、私だぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
セイバーの姿がぶれたように見えた瞬間、セイバーは影に肉薄し、高め洗練した魔力を乗せた剣で影を一瞬で切り裂いた。
「なん…ですって…?」
影は信じられないような表情で溶けるように消えていった。
「ふぅ…勝ったよマスター!」
何事もなかったかのような元気さでセイバーが飛びついてくる。
私はそれを受け止めきれずに尻もちをついた。
恐怖と緊張の糸が切れ、魔力消費の反動が一気に体に反映されたからだ。
「も…だめ…立てない…」
私はそのまま地面に仰向けに倒れた。
暗かった空は本来の色を取り戻し、日が沈もうとしている。
「マスター!マス…!」
顔の近くで私を呼ぶセイバーの声もだんだん聞こえなくなっていった。
そこで私の意識は途絶えた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
眼を覚ますと、そこは私の部屋だった。
どうやら意識を失った私をセイバーが部屋まで運んでくれたらしい。
「あ!マスター起きた!」
ベッドの横でつまらなそうな表情をしていたセイバーが満面の笑みで近づいてくる。
私はまだ重い体を少しだけ起こし、セイバーの頭を撫でてあげた。
すると、セイバーは少しだけ驚いた後、まるで猫のように自分から頭を摺り寄せてきた。
――かわいい。
こんな子がついさっきまであのようなよくわからないモノと命を懸けて戦っていたことなど想像もできない。
そこで私は思い出した。
「ねぇセイバー、あなたが使ってた剣って…何なの?」
あの長く、無骨で飾り気のない剣は何なのだろうか。
そんな疑問が私の頭をよぎる。
「あぁ、これの事?《焔を祓う竜尾の剣》“つるぎ”。」
彼女は穏やかに言霊を紡ぐ。
すると先ほどと同じように彼女の手が光り、長大な剣が現れた。
ゆっくりと近くで観察する。
その刃は刃毀れなど一切なく、モノを斬る為の機能以外すべてそぎ落とした様な剣だった。
「これはねー、《天叢雲剣》って言ったほうがわかりやすいかな?」
「あまの…むらくも…?ってあの三種の神器の!?」
「現代でもそういう扱いをしてくれてるみたいでうれしいよ!」
セイバーは相変わらずにこやかだ。
「…ちょっと待ってて…」
私は部屋の隅にあるパソコンを起動する。
魔術師の中には電子機器を嫌う家系もあるようだが、うちではそんなこと関係ない。
「えっとセイバーの真名は『言仁』…で検索…」
すると数秒もせずに一件ヒットした。
「これ…安徳…天皇…」
「そう呼ばれてたみたいだね~。あんまり覚えてないけど」
セイバーが一瞬だけ表情を暗くする。
それも仕方がないだろう。
安徳天皇は8歳で崩御している。
しかもその最期は尼に抱えられた状態で入水だった。
セイバーが三種の神器を使えるのは、この時に神器を持ったまま海に沈んだから、という事だったのか。
「そう…いうこと…」
活発な少女であるセイバーがなぜ私のような暗い女の処に召喚できたのかと考えていたが、このことで納得した。
全ては私の起源である《沈下》の影響だったのだ。
セイバーは海に《沈下》してその最期を遂げている。
今まで謎だった疑問が次々と氷解して、思考がクリアになっていく。
未だすり寄ってくるセイバーをギュッと抱きしめながら、この小さな背中に、これ以上重荷を背負わせてはいけない。
――そう決心した。
「セイバー。私、頑張るから。絶対に聖杯を手に入れよう…」
聖杯を手に入れたら、私は彼女の悲劇的な最期を、死の歴史は変えられなくとも、もっと穏やかで優しいものにして見せる—―
「うん、がんばろうね、マスター…」
私たちはベッドの上でお互いを強く抱きしめ合い、そのまま眠りに落ちていった。