世界一の錬金術師の養女は、ホグワーツへ入学するそうです。 作:東風吹かば
物事が上手く行く人とは、物事を上手く行かせる人
アート・リンクイレター(テレビタレント)
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「ハリー・ポッターみたいな英雄になりたいな」
「ハリー・ポッターみたいな子に育つといいな」
僕は違う。
『ハリー・ポッターは確かに選ばれた特別な人間だ。
だけど
僕は更に選ばれた者だ』
僕の中ではそれは当たり前の常識で。
ハリー・ポッターなど
本物のハリー・ポッターに出会ってもそれは変わらなかった。
むしろあんな少年が英雄様だったのかと思ったし、僕の手を取らなかったことなんてまさに愚の骨頂だった。
やっぱり僕は、
そんなことを疑いもしなかったし、否定する人も、いなかった。
イラ──アイラ・ド・サドは変わっている。
失礼ながらその名前からやはりサディズムの気があるのかと思っていたけどそんな事はなく。周りのみんなに優しくて、思いやりがあって、愛されていて。何でも出来て、そのくせ
誰にでも真っ直ぐ向けるあの澄んだ目が。
どこまでも麗しく正論を吐くあの口が。
怖かった。恐ろしかった。
いつか、無機質に冷たい目で見られるんじゃないかと。あの口から「役立たず」とでも言われるんじゃないかと。
怖くて、恐くて、強くて
尊大に振舞って、仲良さげに振舞って。
それでも蓄積されていた僕の
なんで何もかもできるんだ
なんで僕に笑いかけるんだ
なんで、なんで、なんで────僕は特別な人間じゃ、ないんだよぉ
悔しいも妬ましいも怖いもあらゆる感情がごちゃまぜになったような思いがあって。それでもイラはすべてを見透かしたような瞳で笑うだけだった。
時々僕は、フッと僕を見失った。
僕の存在意義はなんだって。僕が生きてる意味はなんだって。
結局、グリフィンドールに八つ当たりして。
でもこれも僕じゃなくたってできるんだ。
いつの日の夜だったか。イラと二人きりになった。
「なんでイラはそんなに出来るの?」
ふと口に出してしまった言葉は、元には戻せない。
「出来るんじゃない。出来るまでやるんだよ」
いつも通りの優しい笑みだった。
いつも通りのかっこいい言葉だった。
「私はアイラ・ド・サドだ。由緒正しい貴族だ。
金も地位も才能も受け継いだ。だが貴族には
力は同等に義務を負うんだ。だから私は貴族らしく在らねば
────少し、わかりづらいことを言ってしまったかな?
付け足された言葉の通り、確かによくわからなかった。
貴族の義務だなんて知らない。わからない。
イラは時々難しいことを言う。
……でもなんとなくはわかった。
「僕たちが学ぶのは義務ってこと?」
「いや、そこまで強く言うつもりはない。私が学ぶのはただ好きだから、という理由もある。
……だが、恵まれた環境にいるからにはそれを活かして学ぶ事で罪悪感を薄れさせているのかもな」
「罪悪感? 何の?」
公明正大に生きていて、ゆく道には一点の曇りもない。そんなイラが罪悪感を抱く事があるなんて思えなかった。
「………………何の罪悪感、か。そうだな。
私は時々何故自分が生きているんだろうと思わされるよ。思い通りに行かないことなんて星の数ほどある。ああもっとこうしておけば、と思うこともあった。でも、それでもさ。私たちは────生きているんだよ。私は、生きていたいんだよ」
答えになっていなくて、とっても応えになっていた。
はぐらかされたのかもしれない。何の罪悪感だったか言いたくなかったのかもしれない。
でも、僕にとっては一番欲しい
「まあご高説なことを言っておいて結局私は貴族らしくありつつ、自分に忠実に楽しく生きたいんだ。生きる意味なんて後からいくらでも見つかるさ…………と、もうこんな時間か。長々と語って申し訳なかったな」
時計を見るといつもだったらベッドに入っている時間。こんなに時間が経ってたんだ。
慌てて立ち上がったら、いつもより体が軽い気がした。
「あ、あの、イラ。おやすみなさいっ!」
「ああ、おやすみ、ドラコ」
いつも通りの優しい笑みだった。
敵わないな、って思った。でも──いつかは勝ってやるって。
負けるかもしれないけど、今は負け続きだけど。僕には
そう思うと、勝ち負けなんてどうでもいい気がした。
だから僕は言ってやるんだ。明日の朝、とびっきりの笑顔で。
「おはよう」ってね。
次は、「ブレーズ・ザビニの独白」となります。