世界一の錬金術師の養女は、ホグワーツへ入学するそうです。   作:東風吹かば

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お気に入り登録、ありがとうございます。

今まであまり無かった展開を見切り発車で頑張って行けたらなと思っております。


初めての飛行訓練と決闘

 「ララ様。ニコラス様よりお手紙です」

 

 「ありがとう、アビル」

 

 屋敷しもべ妖精(アビル)はたいてい早朝、一週間に一度くらいの頻度で手紙を届けてくれる。

 

 ふくろう便は他人に手紙が奪われたりする可能性がある以上、私たちは好んで使おうとはしていないのだ。

 

 「…………返事を書くよ。悪いがちょっと待ってて」

 

 「いえ、お気になさらず」

 

 読み終わった手紙を即刻燃やし、返信に取り掛かる。

 

 やれやれ。

 

 手紙には、ダンブルドアがヴォルデモートをおびき寄せる為に賢者の石をホグワーツに隠したこと。そして、危ないので私はダンブルドアを信用してこの事態に関わるな、といったことが書かれていた。

 

 「はい、これを頼むよ」

 

 「承りました。それでは、失礼させていただきます」

 

 返す言葉など決まっている。

 

『私は、私が思うように行動する』、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「今日の飛行訓練、よりにもよってグリフィンドールとですわ」

 

 「ああ、張り紙にあったな」

 

 談話室。私はもっぱら図書館にこもっているので、利用する機会は少ない。とは言え上級生と下級生の貴重な交流場所の一つだ。ドラコなど今年の一年生は利用率が高いらしい。

 

 で、その談話室の掲示板の張り紙にあったのだ。告知が。ドラコの自慢話がうるさかったのでよく記憶している。

 

 「はぁ……あそことの合同授業は魔法薬学だけと思っていましたのに。がっかりですわ」

 

 「まあまあ。オレが華麗な飛行を魅せてあげるよ」

 

 話は変わるが今年のスリザリン一年女子は(自分も含め)パワフルな者が多いため、典型的なお嬢様タイプであるダフネは比較的男子に人気である。女子のチェックが厳しいブレーズの御眼鏡にも適ったようだった。

 

 「ザビニは黙っていてくださいまし。そんなことを言って、箒から落ちたりでもすれば嘲笑してさしあげますわ」

 

 「いや流石に箒から落ちるやつはいないだろうよ、ダフネ。怖くて上がれない、くらいだったらいそうだが」

 

 「んっんー、ロングボトムとか怖がって上がれなそうだよな。ま、どーでもいいか。にしても、冗談抜きにこの学年で1番上手いのってやっぱマルフォイか〜?」

 

 既にスリザリン生は耳にたこができるレベルでドラコの自慢話を聞いている。

 

 誇張や脚色も含まれていたが、それでも箒の扱いが上手いことは上手いのだろう。

 

 「あら。イラだったら箒も乗りこなせる気がしますけれど」

 

 「さあ? 初体験だからわからんな」

 

 基本的に移動は「姿くらまし」だったので、空を飛ぶなど必要なかったし。

 

 「家でやんなかったのか?」

 

 「意外ですわ」

 

 「怪我したら危ないから、ということでやらせてくれんかったのだよ。その理屈だと乗馬の方が危ないと思うんだけどな」

 

 名家の子女はたいてい箒の訓練を家でして来る。私の従兄弟もそうだった。

 

 なのにどういうわけか私には箒を触らせてくれさえしなかったのだ。まったく、過保護すぎる。

 

 その割には貴族として乗馬は(たしな)むようにと教わったのだよな。おそらく乗馬の方が怪我をする確率が高いにも関わらず。

 

 「そっか。そういやあお嬢様なんだよな、イラは。なんか男友達としか思えないかんなぁ、最近は」

 

 「言葉を選びなさい、ザビニ。とは言えイラは同学年から王子様(プランス)と呼ばれるほどですしね」

 

 「いやその話、是非とも詳しく聞かせていただきたいんだが」

 

 聞き出そうとはしたものの、笑って誤魔化された。

 

 ……道理で最近、女子からの視線が熱かったわけだ。やれやれ、今日中にウィルに情報を探らせよう。

 

 あと、細かいことだが何故英語読み(プリンス)ではなくフランス語読み(プランス)なのだろうか? 謎だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ぼやぼやしない! さあ、箒のそばに立って!」

 

 青く晴れ渡る空。地を彩る緑。大量に置かれた箒。

 

 そう、飛行訓練の時間だ。

 

 マダム・フーチは短い白髪と鷹のような目が印象的な人だった。ついでに言うと、少々騒々しい。熱血タイプのようだ。

 

 「右手を突き出す。そして、『上がれ!』と言う」

 

 ほうほう。ああ、こうかな。

 

 「上がれ」

 

 箒はパシッと手に収まった。

 

 周りを見るに、一発で成功した生徒のほとんどはスリザリン生。今の所、グリフィンドール生の方が箒に不慣れなようだ。

 

 というか一般的な箒とはこんな物なのか? 随分とみすぼらしいのだが。

 

 さてはダンブルドア、予算ケチったな。

 

「さあ、私が笛を吹いたら地面を強く蹴ってください。箒はぐらつかないように押さえ、2メートルぐらい浮上し、それから少し前かがみになってすぐに降りてきてください。いいですね、笛を吹いたらですよ──1、2の────」

 

 初心者に、いきなり矢継ぎ早に言っても逆効果と思われるのだが。失礼ながらマダム・フーチは教師にあまり向いていないのではないだろうか?

 

 まあそのせいかは知らないし、どうでもいいのだが。魔法薬学の時にヘマをしたロングボトムがまたやってくれた。

 

 「こら、もどってきなさい!」

 

 ロングボトムは、マダムが笛を吹く前に見事に急上昇。空中で急旋回を繰り広げた。完全に箒に遊ばれているな。

 

 やれやれ、見ていられない。

 

 「『ウィンガーディアム・レビオーサ(浮遊せよ) 』」

 

 素早くハンカチを手に取り、地面へ降ろさせたロングボトムの襟首をつかむ。

 

 悪いが汗ダラダラで、ハンカチ越しでもないと触れたくなかったのだ。

 

 小さいので軽かったのが幸いだった。

 

 もしこれがクラッブやゴイルであれば私は襟首をつかむなんてことはできずに、押しつぶされていただろう。「クッション呪文」でも使った方がよかったのだろうが、よく知らん教職員の前で闇雲に自分の異端(優秀)さを見せたくはないのだ。

 

 その点、「浮遊呪文」なら今年、おそらくはかなり初期の授業で習うのだからまあ使えたところでそう不思議ではなかろう。

 

 「た、たびたび、ごめんなさい!!」

 

 とりあえず地面に放したロングボトムがなんか言ってきた。特に謝罪は求めてないのだが。

 そしてハンカチを返そうとしなくていい。こういう時のための安物だし、私にはもう使えない。

 

 「そのハンカチは差し上げよう」

 

 「え? こんな高そうな物を!? な、何かお礼をさせてください!!」

 

 「ロングボトム。私にとって1番の礼は、君がマダムに言って素早く授業を再開させてくれることだ」

 

 しかしあの教師、対応が遅すぎないだろうか? もう少し教える立場としての自覚を持って、迅速に行動して欲しいものだ。

 

 お陰で「王子様」という謎の呼び名がまた広まりそうだよ、まったく。

 

 やっと動き出したマダムは、ロングボトムの状態を確認していた。

 

 「よくやりました、ド・サド。

 ロングボトムは念のため私が医務室へ連れて行きます。皆さんは私が帰ってくるまでおとなしく待ってきなさい。いいですね? 絶対に飛んではなりません。もし飛んだら……冬休みを迎える前に、ホグワーツから出て行ってもらいます!」

 

 スリザリンからは嘲笑、グリフィンドールからは心配な視線を受けつつロングボトムは医務室へ消えた。

 

 「イラ」

 

 「ん。何だ、ポッター」

 

 「ネビルを助けてくれてありがとう」

 

 「礼には及ばん」

 

 本当に、ただ授業を中断させたく無かっただけだしな。結局意味がなかったけれど。

 

 「やっぱイラは凄いよ……」

 

 「おいおい、口のきき方には気をつけた方がいいぞ、ポッターちゃん。イラの家柄はなぁ、王家の血も引く名家で──────ん? これは……」

 

 ドラコが拾ったのは小さい水晶玉のような魔法具。ああ、思い出し玉か。

 

 「それはネビルのだ! 返せよ、マルフォイ」

 

 「へぇ、これがロングボトムのだという証拠はどこにあるんだ、ポッター? 名前でも書いてあるのかい?」

 

 「しらばっくれるな! 返せよ!!」

 

 「これをお前に渡す理由は1つもないよなぁ、ポッター。欲しけりゃ自分で奪うんだな!」

 

 そう言うなり箒に乗り、飛んで行ったドラコ。挑発するように(いや、挑発しているんだろうな)、手に持った思い出し玉を空へと(かか)げている。

 

 その挑発にすぐカッとなったポッターはグレンジャーに止められたにも関わらず、初心者にしては見事な飛行でドラコに(せま)った。

 

 やれやれ。人は何故、禁止されたことをやりたがるのだろうか。

 

 ドラコとポッターのお子様な喧嘩を見物しつつ思った。

 

 ドラコには悪いが、どうでもいい(どっちみち私見で生徒を退学処分にできるほどマダム・フーチが有能とは思えない)のでこの芝生の上でゆったり読書をしていよう。

 

 

 

 

 

 

 

 「……フーチ先生が戻ってきたぞ」

 

 「そうか。いい所だったのにな。知らせてくれてありがとう、セオ」

 

 読んでいたのはマグルの書いた本。探偵である主人公が謎解きに入る直前だった。

 

 マグルの()()()素晴らしいと思う。本だって魔法でもないのに科学技術によって魔法界の本と比べても遜色ないくらいにいい出来栄えだ。いやむしろ、内容面では魔法界の方が劣っているかもしれない。

 

 ロングボトムにやったハンカチだって、今下に敷いているのだってマグルの作ったものだ。ただハンカチとして使うなら、私はデザイン面ではマグル製の方が好みである。

 

 「すっごい集中力だったね、イラ。マクゴナガルが来てものんきに読書してたんだからハラハラしたわよ」

 

 「ほう、それでポッターが連れて行かれたのか?」

 

 既に終わったらしい喧嘩(イベント)の片割れ、ポッターが見当たらなかったのだ。

 

 公正なマクゴナガル教授ならドラコと共にポッターを処断するだろう。だがドラコはここにいるところから見て、クィディッチの勧誘とかか? マクゴナガル教授はクィディッチにだけは熱いらしいしな。可能性としては有り得るだろう。

 

 「そ。英雄様もご退学ってわけよ」

 

 「……そうとは限らない」

 

 「なに、ノット。まさかあの厳粛なマクゴナガルが、ポッターに何の処分もしないって言いたいの!?」

 

 「まあまあ。落ち着け、ミリー。飛行訓練が再開されるよ」

 

 短くなったが飛行訓練を行い、全員少なくとも上昇と前進はできるようになった。

 

 結局ポッターは戻ってこず、ドラコは「はっ、ポッターとはもうお別れかな」などと言っていた。が、大人の事情からしてもポッターが退学にされる可能性はほぼゼロだ。

 

 まあそれはドラコにも言えることだが。(そんなことでもしたら理事である父親が黙っていないからな)

 

 せいぜい、軽い罰を受けるくらいだろう。処罰としては。

 

 

 

 

 

 

 「ふむ……『武装解除術』は?」

 

 「習得済みです」

 

 授業後にセブルス教授に教えを()いに来たのはいいのだが……私が何の呪文を教わるか。話はそこから難航していた。

 

 というのも、私は結構な数の呪文を習得している。闇の呪文には手を出していないが、そちらを教えるのは時期尚早とみたのだろう。

 

 「『盾の呪文』の腕前は確かだったな。『守護霊の呪文』は?」

 

 「それなら未経験です。特に吸魂鬼に襲われたことはなかったので」

 

 「吸魂鬼への対策は持っておいて損では無い。熟練者になれば伝言を託すこともできるのだ。易しくはないが、きちんと習得するように」

 

 渾身のフレンチジョークは華麗にスルーされた。冷たいなあ、セブルス教授は。

 

 「はい」

 

 「『守護霊の呪文』は幸福なことを思い浮かべるのが鍵だ。家族との思い出でも何でもよい。そして──『エクスペクト・パトローナム(守護霊よ来たれ)!』」

 

 白いモヤと共に出てきたのは、鹿の守護霊だった。

 

 教授の守護霊は牝鹿か。私のは何になるんだろうな。

 

 ドラゴン等だとカッコイイはカッコイイが……目立つよな、やはり。

 

 「『エクスペクト・パトローナム(守護霊よ来たれ)!』」

 

 私が唱えても何も起きなかった。

 

 「この呪文は短くても3ヶ月はかかると言われる。1回で出来るものではない。

 ……反復練習だ」

 

 

 

 

 

 

 

 練習の後は休憩。優雅なティータイムだ。

 

 結局、私は白いモヤがちょっと出るくらいまでしかできなかった。

 

 セブルス教授はそれでも「……筋がいい方だ」と言っていたが本当だろうか?

 

 まあ、とりあえず反復練習をやるのみだな。

 

 教授が入れてくれた紅茶を飲むと、適度な渋味を伴った深い味わいが口に広がる。

 

 ウバのストレート。それも一級品だろう。

 

 初めての個人レッスンなので奮発してくれたのかもしれない。厳しさに隠れた優しい心遣いだな。……まあウバのストレートはあまり好まない人も多いのだが。(私たちの年だとミルクティーにして甘くして飲むことの方が多い)

 

 「そういえば……あの猫、ウィルといったか? ダンブルドアが並々ならぬ興味を示していたが」

 

 「ああ。ケット・シーを使い魔にしているんですよ。もうバレたか」

 

 まったく、流石はイギリス最強の魔法使いだな。

 

 校長の偵察がまた難しくなったか。

 

 「ケット・シー、とは。優秀なド・サドは使い魔も違いますな」

 

 教授の皮肉はもはや挨拶と認識しているので傷ついたりはしないが、私はド・サドと呼ばれるのはあまり好きではないのだ。自分が好いている相手なら特に、だ。

 

 「……失礼ながら。ド・サドと呼ぶのはおやめ(いただ)きたい」

 

 「ほう。ではなんとお呼びすればいいので?」

 

 「──────ララ。ララと呼んでください」

 

 微妙な顔をされた。

 

 しかしながら、二人だけのときは呼んでくれるらしい。よかった。

 

 

 

 

 

 「イラ! 父様からまた菓子が送られてきたんだけど、いるかい?」

 

 「ありがとう、ドラコ。嬉しいよ。ショコラは好きなんだ」

 

 談話室で紅茶を飲みながら読書していると、ドラコが中々高価そうなショコラ(チョコレート)をくれた。

 

 私はショコラとプレ・ロティ(ローストチキン)は大好物なので素直に嬉しい。

 

 「ねーねー、ドラコ。夕食のときの。いいの、ドラコ? 決闘の約束なんてしちゃって。もう、ドラコが怪我しないか心配だわ!!」

 

 パーキンソンは私とドラコが親しげに話すのがお気に召さないらしい。よく話に割って入ってくるのだが……決闘?

 

 「あんなの行く方が馬鹿げてる。勿論すっぽかすさ。だいたい、夜中に抜け出してフィルチにでも見つかったら大目玉をくらうだろ。ポッターにウィーズリーのしょげた顔が今からでも想像できるね」

 

 「キャッハハ。ドラコったら頭い〜い」

 

 おいおい。ドラコは、まったく。

 

 少しは貴族の矜持(きょうじ)を持たんか。決闘をすっぽかすなんて家名を(おとし)めることと同義じゃないか。

 

 「ド ラ コ?」

 

 「は、はい、何でしょう!」

 

 「ちょっと、おいで?」

 

 「え、なんで……いや、はい、了解ですぅ!!」

 

 やれやれ。貴族としての在り方、誇りについてみっちりと講義してやろう。

 

 

 

 

 

 

 「クハッ、さっきのオマエ、傑作だったぜ」

 

 「黙れザビニ。お前はイラの()()笑みに逆らえるのか? 笑っているはずなのに怖いんだぞ!?」

 

 「無理な事は無理だな!」

 

 「……2人とも。クラッブとゴイルはもう寝ている。起こさないように話せよ」

 

 「そいつらはどんなに騒がしくてもぐっすり寝てるさ。いつもベッドに入って3秒でグースカ寝てるじゃないか」

 

 「OKノット、声を潜めるよ。マルフォイも声小さくしろよ。んで、マルフォイ、決闘は結局どうすんだ?」

 

 「行くはめになった。イラが介添人(セコンド)をやってくれるから安心と言えば安心だけどな」

 

 「へぇ、見物してもいいか?」

 

 「どうぞ。ただし自己責任だからな、ザビニ」

 

 「……俺もいいか、マルフォイ?」

 

 「珍しいな、ノットもなのか? まあいいよ。僕がポッターを地べたに這いつくばらせる所をとくと見るがいい」

 

 「そうと決まれば談話室に行ったほうがよくないか? イラが待ってんだろ?」

 

 「準備があるんだ準備が。ザビニとノットも多少は身支度したらどうだ」

 

 「……杖があれば問題ない」

 

 「オレは菓子でも持ってこっかな?」

 

 「勝手にしろよ! ただ、没収されても僕は知らないからな」

 

 

 

 

 

 

 「待たせた?」

 

 「いや、読書していたのでな。時間の感覚はないよ」

 

 「おいおい。そこは『全然』とか言っておこうぜ王子様(プランス)

 

 特に持ち物はなかったし、談話室でドラコを待っていたのだが……何故ブレーズとセオまでいるんだか。

 

 まあいいや。あっちもグレンジャーとか連れて来そうだし、人数的な問題はさしてないだろう。

 

 「その呼び方はやめなさい、ブレーズ。じゃ、行こうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「今にもフィルチが来そうで怖いなぁ」

 

 「大丈夫。ウィルに前を歩かせてるから、教職員と鉢合わせすることはない」

 

 「ウィルってあの黒猫か。賢いんだな。ブルストロードのデイジーとはやっぱ違うぜ」

 

 ミリーの飼っているデイジーという猫は、少し……太り気味で、マイペースなのだ。いつもホグワーツ中を探り回っているウィルとは真逆の存在と言えるだろう。

 

 「まあ育て方は人それぞれだろう。おお、こんばんは(ボンソワール)、マダム」

 

 「あら。いい夜ね、マドモアゼル」

 

 私は肖像画に挨拶していられるほど余裕があるし、ブレーズも私と会話できる程度には余裕だ。セオも黙ってはいるが話しかけられない限りあまりしゃべらないのはいつも通り。

 

 だが、ドラコは……真っ青な顔をして歩いている。もう少しくらい、神経を図太くするべきだな。私たちくらいまでとは言わないが。

 

 「にしても、なんで決闘の介添え役なんてやろうとしたんだ? ドラコにクラッブとゴイルだけで決闘に行かせればよかっただろ。イラが夜を潰してまでグリフィンドール生のために行く意味があんのか?」

 

 「談話室でも言ったとおり、ドラコが貴族として家名を貶めないために決闘は実行して欲しかった。が、まだ魔法に慣れてないのに一般的な()()()決闘だなんて危険だろう? 双方にとって。だから、平和的な決闘を提案しようと思ってな。私が言えばグリフィンドール側も反論しにくいだろうからな」

 

 「魔法を使うのもお手の物な王子様(プランス)が言やぁ、そうだな。反論して魔法をくらいたくはない」

 

 まあそれだけではなく、ちょっとした企みもあるんだが…………黙っておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 「やっと……やっと着いた」

 

 トロフィー室には勿論様々なトロフィーがある。と言うかトロフィーを傷つけるのは避けるべきなのに何故こんな所で決闘することにしたんだか。

 

 「良かったなー、マルフォイ。無事について」

 

 「ふ、ふん。この僕が付いていたからには当然だね」

 

 「…………ありがとう、ミスター・ウィル」

 

 ウィルの返事はニャーという可愛らしい鳴き声だった。が、『主人(マスター)のためであってお前らはどうでもいいのです。まあ感謝だけは受け取っておきましょう』という、言ってることは正直とてつもなく可愛くない。

 

 よかったな、わかるのが私だけで。

 

 

 

『呪われた少年とそのお友達が来たようです』

 

『そうか。ありがとう、ウィル』

 

 今日はウィルに頼りっぱなしだな。前方の確認は勿論、あの管理人フィルチの猫、ミセス・ノリスも追っ払ってもらったし。(ケット・シーの王族であるウィルだから、あらゆる猫に対して命令を下せるのだ)

 

 

 そして、カチャリと音がしてドアが開いた。

 

 他三人はその音に激しく反応していたが、ポッターだとわかっている私としては特に問題ない。

 

 「こんばんは(ボンソワール)、ポッター。申し訳ないが介添人(セコンド)は私に変わったよ」

 

 「こ、こんばんは、イラ。全然オッケーだよ!」

 

 後ろでウィーズリーが「ほら、ちゃんと来てるじゃないか!! 罠なんかじゃなかったよ、やっぱり」とグレンジャーに言っているが……グレンジャーが正解だったよ。私が決闘のことを聞いていなければ、だがな。

 

 やはり優秀ではあるな、グレンジャーは。

 

 「ねぇ、ド・サド。あなたならわかるでしょう? こんなくだらない争いなんてやめさせて、フィルチに見つからないうちに帰りましょう!」

 

 前言撤回。貴族の誇りをまったくわかっていないよ、グレンジャーは。

 

 「確かにグレンジャー、君にとってはくだらんかもしれない。が、貴族(私たち)にとってはとても重要なことなんだよ」

 

 場の男子が皆頷く中、グレンジャーは悔しそうに、納得出来なさそうに引き下がった。

 

 「さて、杖を使った決闘は私たち(1年生)にはまだ難しいだろうから、勝負はこれでどうだ?」

 

 魔法の決闘では私とドラコが有利に決まっている。この決闘も命を奪い合うほどの怨恨のもとではなく、ただの売り言葉買い言葉だろう。

 

 だとすれば、のちのち恨まれないような決闘が望ましい。

 

 「トランプ?」

 

 「ポーカー。勝負は1回きり。

 勝った1人が何か1つ、負けた3人に軽い命令を出せる。良識の範囲内のモノを、だが」

 

 「ヒュー、いいじゃん。直接対決だろ? 楽しいねぃ」

 

 ブレーズは乗り気だが他の人々はどうかな?

 

 まあポッターたちも私の魔法を見た後では、私に魔法で勝つのは困難ということは悟っているだろう。

 

 殴り合いでもいいのだが禍根が残るし、怪我させるのもアレなのであまり好ましくない。

 

 なにせ私は護身術として武術は一通り習っている。まだ体格に差がないので、殴り合いならおそらく私の圧勝だからな。

 

 「ポーカーでいいよ、イラ。ロンもいいよね?」

 

 「はぁ、仕方ないからそれでいいよ。いいか、仕方なくだぞ!」

 

 仕方なさそうに言っているが内心安堵しているな、ウィーズリーは。

 

 兄弟とでもよくやっていたのかな?

 

 「勝負は僕とロン、イラとマルフォイでだよね?」

 

 「勿論そうだとも、ポッター。僕はポーカーをよくやっていたけど君はどうかな? ま、僕より強いなんてことはありえないけどね!」

 

 「はいはい。じゃあグレンジャー。シャッフルして配ってくれ」

 

 ドラコが何であんな奴にやらせるんだといった目で見てくるが、グレンジャーがやるのが一番文句が出ないだろう。

 

 ブレーズかセオが配るとなれば、必ずウィーズリーが不平を言うからな。

 

 

 

 

 

 結論から言おう。

 

 ウィーズリーはブタ

 

 ポッターはツーペア

 

 ドラコはストレート

 

 そして私は…………

 

 「「「フルハウス!?」」」

 

 「というわけで、私の勝ちかな」

 

 まあ、私は裏にしてあるカードも視えるので当然の結果だろう。(ずる)いかもしれんが、私は狡猾なスリザリン寮生だから仕方が無いことだ。

 

 さて、何の命令にしようか。

 

 「ウィーズリーとドラコへの命令は、できる限り喧嘩しないこと。するとしても周りの人に迷惑をかけず、また、互いに禍根が残らない程度にとどめるように」

 

 正直この二人への命令権は必要ないので警戒されぬうちにさっさと使うのが正解だろう。

 

 だが、ポッターへの命令権はこの先使えること間違いなしだ。

 

 「ハリーへの命令はまた今度、別の機会に無期限延長してもいいかな? 私が忘れればそれで終わりだし」

 

 耳元で(ささや)けば、ポッターはこくこくと(うなず)いた。

 

 馬鹿め。忘れるわけがない。きっちり、然るべきときに命令させていただくとしよう。

 

 「ありがとう、ポッター。では、命令はまたの機会にな。おやすみ(ボンヌ・ニュイ)いい夢を(フェ・ドゥ・ボー・レーヴ)

 

 一応周りの人々に聞こえるように言う。

 

 ……証人が多ければ、約束を(たが)えることなどできんからな。

 

 

 

 

 

 「すごかったな、イラ。フルハウスなんて!」

 

 「イカサマか?」

 

 「魔法使いにイカサマなんて野暮なこと言うなよ、ブレーズ」

 

 まあイカサマの部類に入るかもしれんが。

 

 「……ポッターへの命令はどうするつもりなんだ?」

 

 「まだまだ役に立ちそうだからな。もう少し後、気が熟したら使わせてもらうよ」

 

 それまでじっくり待とう。まだまだ学校生活は始まったばかりなのだから。

 

 ああ、待つといえば。

 

 「ピーブズが待ち構えてるぞとグリフィンドールの連中に言うのを忘れていたな」

 

 いやはや、うっかりしていたよ、うん。けっして睡眠時間を妨害されてイラついたとかそんな理由ではないとも、ああ。

 

 「アイツわざと言わなかったよな……?」

 「ホントにグリフィンドールを嫌ってないわけじゃないのか……」

 「…………」

 

 予想通りというか、ピーブズが騒ぎ立てる音がここまで聞こえた。

 

 見回りをしているフィルチにもさぞかしよく聞こえたことだろう。

 

 これはポッターたちとフィルチの追いかけっこになりそうだな。頑張れ、グリフィンドール生。勇敢な獅子たちよ。

 

 

 幸運を祈る(ボンヌ・シャンス)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 「ジャジャーン! さあ問題です。これは何でしょう?」

 

 「何って……ハンカチじゃないのか、フツーに」

 

 「チッチッチ。違うのだよ、ワトソン君」

 

 「俺の名はワトソンじゃねーよ!!」

 

 「そんなことどうでもいいじゃん! でね、これはね……」

 

 「愛しの王子様のハンカチとかかしら?」

 

 「ピンポンピンポーン、大正解! 流石はレイブンクロー生だね」

 

 「いやそれ関係ねぇだろ。ってか俺もレイブンクローだし。

 それよりド・サドの持ち物を何でお前が持ってんだ?」

 

 「ふっふっふ、よくぞ聞いてくれた!」

 

 「いや犯罪臭がするから聞いただけだぞ?」

 

 「違うわ。流石に犯罪行為に手を染めるような子では多分無かった……はず」

 

 「もー、2人ともひどいよ! ちゃんと合法的に手に入れたもん」

 

 「嘘くせぇぞ」

 

 「あのね、前に言ったグリフィンドールのロングボトムがいるでしょ。そいつに貰ったの」

 

 「……そもそも何故ロングボトムがド・サドのハンカチを持っていたのかしら?」

 

 「飛行訓練の時にいただいたんだって~。しかもまたまた助けてもらって。くっそ羨ましい!!」

 

 「支離滅裂すぎてわかんねぇよ。仮にもレイブンクロー生、もうちょい理知的に話せよ。まあ、大方わかったけどさ」

 

 「そうね。大方、情報を得てから医務室にいたロングボトムを(おど)して手に入れたってことね」

 

 「脅してなんかないよ~。ちょっとオハナシしただけだよ」

 

 「コイツ、手段は選ばん気だぞ……」

 

 「もう、ひどいな~。ロングボトムだって泣いて喜んでたもん」

 

 「それ絶対悲しみの涙だぞ」

 

 「違うよ! 医務室で繰り広げられた聖戦に巻き込まれたからだよ。私は悪くないもん」

 

 「聖戦って何だよ!?」

 

 「なるほどね。情報を得て集まった王子様ファンの、ハンカチ争奪戦が起こったのね」

 

 「何でわかるんだよ……ってかド・サドの情報流出し過ぎだろ!」

 

 「仕方ないんだよ。王子様の騎士団(L'ORDRE DU PRINCE)もできたしね」

 

 「何その怖い情報」

 

 「へー、面白そうね」

 

 「2人とも入るの? 今だったらまだ2桁に入れるよ~。それに王子様の貴重な私服ブロマイドがついてくる!」

 

 「もう10人以上いんのかよ!?」

 

 「まあホグワーツには約1000人が在学しているらしいし、そのうち3桁に達しても可笑しくはないわね」

 

 「そうそう! ちゃんと団員章もあるんだよ~、ほら。カッコイイでしょ!!」

 

 「ソウダネ~」

 

 「はいはい、カッコイイわよ」

 

 「ふふん、こうして組織が結成されたおかげで更に王子様の情報を得やすくなったんだよ。スリザリンにもメンバーがいるからね!」

 

 「この学校大丈夫かな……ってかプライバシーの侵害だろ!」

 

 「だいじょーぶだいじょーぶ。だって騎士団つくる許可、王子様に直接もらったし」

 

 「は?」

 

 「……え?」

 

 「団員章のデザイン案の審査もしてもらったし」

 

 「……なんて寛大なんだ、ド・サドよ」

 

 「大器だとは思っていたけれど、本物の上位者(貴族)みたいね」

 

 「まあ貴族様ってお風呂とか着替えも召使いにやらせるらしいしね~。我々、下々の者にストーキングされようが気にしないでくれてるんだよ、王子様は」

 

 「……ヨカッタナー」

 

 「そうそう。最新情報なんだけど、王子様ってホントに王族の血を引いてるらしいの。やっぱ王子様は王子様なんだよ!」

 

 「ヨカッタナー」

 

 「それは知らなかったわ」

 

 「えー? 王子様基本情報は知ってるよね?」

 

 「ヨカタ──基本情報って何だよ」

 

 「えーっと身長体重視力魔法力、趣味、好きな食べ物、嫌いな食べ物、好きなモノ、嫌いなモノ、放課後よく居る場所、飼っている猫のこと、それにぃ──」

 「わかったわかったもういい!!」

 

 「えー、まだあるのに~」

 

 「もうお腹いっぱいよ。あ、ほらあそこ王子様じゃない?」

 

 「ほんとだ! 今日はちょっと寝不足って情報ホントみたい。ああ、眠たげな王子様もいい……」

 

 「ここまでくると、もはや病気ね」

 

 「こいつがレイブンクロー生って何かの間違いだよなあ?」

 

 

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