世界一の錬金術師の養女は、ホグワーツへ入学するそうです。 作:東風吹かば
申し訳ないです。
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「おはよう、アビル」
「おはようございます、ララ様」
いつも通り手紙を届けてくれたアビルをひと撫でして、封を切る。
今日の手紙は三通。ニックからと、お爺様からと、そして──
「ララ様?」
「悪い悪い。少し考え事をな。はい、ハロウィンの菓子。皆で分けて食べてくれ。それと、こっちの菓子は…………」
「はい、渡しておきますね。アイツも喜ぶと思いますよ」
「彼にだけ言い方が
思わず苦笑がこぼれた。
やれやれ。屋敷しもべ妖精同士、できれば仲良くして欲しいものだが。初対面での出来事を未だに根に持っているようだ。
「だってアイツはワタシと同族のくせに、ララ様を侮辱したんですよ!? 到底許されることではありません」
「仕方なかったことだよ。私がいいと言ってるのだからいいだろう? でも、私のためを思ってくれてありがとう、アビル」
「申し訳ありません、少し冷静ではありませんでした。……ありがとうございます、ララ様。勿体なきお言葉です」
アビルは笑みをつくって、そして……いつも通り、返信を携えて消えた。
「──言葉や理性では扱いきれぬが心、か。まったく、面倒なものだな」
本当に、面倒だ
「もうすぐハロウィンの夜がやってくるぜ!」
「いつになくハイテンションだな、ブレーズは」
「暑苦しいですわ。まだ朝ですのよ?」
ハロウィン。特にアメリカなどでは仮装をするという日の印象が根強いが、本来ハロウィンは豊穣を祝い、悪霊を追い出す儀式。
あの世とこの世の境の門が開かれ、死者の霊と悪霊が同時に押し寄せる日だ。
つまるところ、私にとっては……
「気疲れする日なんだよな」
「本当ですわ。甘ったるい匂いが酷いですし」
「えー、いいじゃんか。菓子を思う存分食える日だろ?」
のんきなブレーズが羨ましいことだよ、誠に。
『死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね』
『この怨み、末代まで祟らねば……』
『ああ、息子よ、すくすく育ってくれたんだね』
『裏切ったな、信じてたのに────────』
『可愛い可愛いレベッカ、ずっと見守っているよ』
『あ、死んだ後に新商品出たんだ! マジ買いてーわ、誰かお供えしてくんねぇかなあ』
『
『いやっふー、久しぶりの現世だぜ! メシ食いたいのに食えない悲しみよ……』
『殺す、殺す、殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺』
『浮気されてたんだ……死にたい、いやもう死んでるのか──』
『うおー、ライブやってるじゃん! 超見に行きた~い』
『私の首は、首はどこに行ったんでしょう──』
『気づいてくれよ! 殺されたんだ、アイツに。気づいて!』
ガンガン流れてくる声は消したいと思っても消えない。
「ご体調が
「いつもハロウィンの日は体調を崩すんだ。まあ、授業くらいは受けられる。心配してくれてありがとう、ダフネ」
「イラが体調悪いなんて珍しいなぁ。ま、お大事に!」
「ありがとう、ブレーズ」
いつもはこの日は家にこもっていたが、今日はそうはいかない。やれやれ、平和に終わるといいのだが。
「…………大丈夫か、イラ」
「問題ないとも。問題ないさ、セオ……」
めまい。軽い吐き気。頭痛。
見事なまでに体調不良だ。よく夕食まで医務室行きにならなかったものだと自分でも感心するよ、まったく。
朝の懸念は大当たり。全ての授業を受けられた事を褒めるしかない。
「あの世とこの世の境界線が曖昧になると、ここまで辛いものだったか……」
今まではニックに護られていたから気づかなかったのだろう。だが、これからのことを考えるとコレに慣れていかねば。
子孫を見守る霊ども。ケタケタ嗤う悪霊。目の裏で光が灯っては消える。情報過多。ああそう、情報過多だ。
「おいおい、イラ。大好きなチキンも食ってないじゃないか。パンプキンパイをちまちま食うだけなんて。もっとハロウィンパーティーを楽しもうぜ!」
「ザビニ。明らかにイラは体調が悪そうだし、イラを医務室に連れてった方がいいんじゃないか?」
「大丈夫よドラコ。ド・サド様ですもの。それよりほら、ハロウィンを一緒に楽しみましょ。ね?」
「いや、だけど……」
声が遠く響く。
「大丈夫? イラ」
「顔色が優れないようですわ」
フワリ、フワリと
クラリ、クラリと
意識が遠のく────
『
『いや、他人に体を診られるのは好かない。人気のない化粧室へ頼む、ウィル……』
『承りました、
だが流石に今、大広間から消えては目立つ。
「──部屋で休んでおくよ。心配をかけてすまないが、一時的なものだから気にしないでくれ」
何とかドアの外へ出ると、姿現しとは違う方式で転移したのがわかった。
めそめそ泣く声から
眼を閉じる。深呼吸する。
吐瀉物の危険性を考慮して化粧室を指定したが、幸い吐き気は収まったようだ。
いくら魔法で消せるとはいえ吐瀉物をベッドにはかけたくないものだ。
意識をシャットアウトさせ、ただ無心になる。これが私の編み出したハロウィン対処法だ。まさか化粧室で実行するとは思わなかったが。
程度に差こそあれどもハロウィンに気分を害するのは一族皆同じ。だが感受性の強い
眼を閉ざし無心になればひとまず情報過多は防げる。問題ない、いつも乗り切ってきた方法だ。
化粧室だが屋敷しもべ妖精のおかげで清潔に保たれている。自室だともしパーキンソンが戻ってきて騒々しくなったときを考慮すればこちらの方が場所としては好ましいのかもしれない。
とはいえ来年からは別の場所を探したいが。
無心、無心、無心、──────────
命の危険が迫ってきた事を知覚し、無我の境地から目覚めた。
言葉にすると陳腐かつシンプルだが、実際はのんきにしていられない状況だ、おそらく。
何故だか知らないが私の顔に迫るこん棒。
「イラっ!!」
叫ぶポッター。
目を瞑って震えるグレンジャー。
青ざめるウィーズリー。
なるほど、よくわかった。
「『
前言撤回しよう。命の危機に見舞われてなどない。
ただポッターの
「『
トロールはあっさりと失神した。やれやれ、これでしばらくは起き上がってこないな。
「え? や、やったの……?」
いや失神呪文唱えたからなあ。そりゃ失神するだろう。そんな当たり前のことはどうでもいい。それより重要なことは──
「どうしてこんな事態になっているのか。教えて貰っても構わないか?」
何故トロールが化粧室にいるのか、は大方察しがつく。
何故ポッターとウィーズリーがデリカシーの欠片もなく女子トイレにいるのか。それも、まあ、グレンジャーを助けようとしたのだろうからいいとしよう。
私のとって重要なことはただ一つ。
私がまた
とりあえず女子トイレから出てからポッターの話を聞けば、「喧嘩してしまったグレンジャーが女子トイレで泣いてるという噂を聞いて、トロールが出たことも知らないだろうから助けようとして来た」ということらしい。随分と要約したが。
なるほど、ツッコミどころは多々ある。
いや別に、ポッター達の行動を責めるわけではない。冷静であれば教師に助けを求めるといった行為もできたと思うが、グレンジャーに危険が迫っていたかもしれないと考えパニックになったのだろう。それならば、助けようとした気概は充分に褒め称えるべきものだ。
勇気と無謀は履き違えるべきでない。が、ダンブルドアの
だが…………
「あなた方はどういうつもりなのですか!? 本来なら寮に戻っているべきでしょう。どうしてここにいるのですか?」
マクゴナガル教授、セブルス教授ほか一名がやっとやって来た。
正直トロールに失神呪文をかけた経験はなかったので、いつまで効果が持続するかわからなかったため教授が来た事は喜ばしい。これで、トロールがいつ起き上がってもいいよう警戒する必要は無くなった。
「あの……その……えっと」
「マクゴ「大広間に居ずトロールが出たことを知らなかったグレンジャーをポッターとウィーズリーが探してくれていました。その際、私とグレンジャーの居た女子トイレに
言い淀んだポッターの言葉を遮ったグレンジャーの言葉を遮って私は発言した。
そもそも学校にトロールが出たこと。化粧室など大広間以外に生徒がいた可能性を考慮しなかったこと。色々と対応が遅れたこと。守るべき生徒を危険にさらしたこと。
全てにおいて教師側の責任であり、私達に非は無い。
であるからには堂々と話すべきだ。
「そうだったのですか。しかし……」
「勿論トロールに応戦したのは少々軽率な行為だったと恥じております。しかし、いつ教師の方々が来て下さるかわからなかったためこれが身を守る最善手だったと思います」
矢継ぎ早に言葉を
教師側の対応が遅かったのは事実。「どうしてもっと早く来なかった」という無言の問いには閉口するほかあるまい。
「……コホン、わかりました。私も少し冷静でなかったようですね。
よろしい、1年生にしてトロールを倒した功績をたたえて1人5点ずつ差し上げましょう。ただし! 倒せたのは運が良かったからです。これからは身の安全を考えて行動すること! いいですね?」
「「「は、はい!」」」
「寛大な御心に感謝致します」
ふと見ると、それまでただ震えていたクィレル教授がじっとこちらを見ていた。観察するような鋭い視線を感じる。
いつの間にか私の足下に来ていたウィルがフーッと威嚇するとクィレル教授はビクビク怯えていた。いつも通りの、気が弱くておどおどしているクィレル教授だ。
……気のせいか?
「ド・サド! ついてきたまえ」
「わかりました、教授」
とりあえず
「……顔色が悪い。自室に戻って早く寝ることだな」
「お気遣いありがとうございます、セブルス教授」
トロールに意識を集中させている間は感じなかったが、警戒すべき問題が解決すればまた症状がぶり返してきた。
教授の言葉に従って自室で寝るのが無難だろう。だが、なぜ自室にいなかったのか。ルームメイトに説明しなくてはならないと思われる。
ああ、頭が痛い。
「Trick or Treat!」
お菓子をくれなければイタズラしますよ!
一度くらいは行ってみたかった言葉。
セブルス教授は虚をつかれた顔をすると、いかにも苦々しいといった表情で何かを取り出した。
紙と羽根ペン。サラサラとなにやら書くと、無言で紙をこちらに突き出してきた。
何が書かれているのかと見れば、地図とわかった。
「厨房への行き方だ。屋敷しもべ妖精がいる。好きな物を作らせるといいだろう」
ただ単に菓子をくれるより教授らしいな、と思ったところで。
圧倒的な光の渦。それはまるで洪水のようで。意識が薄れていくのが知覚できた。
薄れゆく意識の中で、温かいもふもふに包まれた、気がした。
「っ、おい、ララ! アイラ・ド・サド!」
「問題ありませんよ、セブルス・スネイプ殿」
「お前は……ケット・シー、か。それが本性なのだな?」
「ええ。まあ私はまだまだ若輩者ですので、イヌ程度の大きさですが。すごいモノはゾウの大きさにまで成長することもありますよ。
それはさておき、自己紹介をば。私はウィル。猫妖精ですが
「貴様が
「違いますよ。最も近い症状で言えば、魔力酔いですね。今日はあの世とこの世の境界が曖昧となる日。なので色々と
ある程度は力のオンオフが出来るとはいえ、起きている限りは完全に力を切ることが出来ませんから」
「ふむ、成程。ではこのまま医務室に連れていった方がいいのですかな?」
「いえ、
「……わかった。まったく、変なことを言い出さずにさっさと自室に戻ればよかったものを。
仕方が無い。我輩の
「
にしても…………お優しいのですね、スネイプ殿は」
「やかましい! さっさとしろ!」
「承りました」
目覚めると見覚えのない天井だった。
様々な薬草や薬品の匂い。ここは…………
「起きたか」
慌てて起き上がると、セブルス教授の顔があった。なるほど、教授の自室かな。
どうも気を失って、教授のベッドを占領してしまったようである。ウィルが私を運んだり寝間着に着替えさせてくれたのだろう。迷惑をかけて申しわけない。
『朝の3時になります。おはようございます、
『ありがとうな、ウィル。にしてもそんなに寝てしまったのか。……もしや、君達はずっと起きていてくれたのか?』
『いいえ。人間は寝ないとダメですから、と申してスネイプ殿には睡眠をとっていただきましたよ。ご存じの通り、私は寝ずとも問題ないので
『そうだったのか。ありがとう、ウィル』
ただ、教授はどこで寝たのだろうか。同じベッドではありえないだろうからそこに見えるソファか。であれば大変申しわけない。
さぞかし寝づらかっただろうに。
「セブルス教授、ありがとうございました。そして寝台を占領してしまい申し訳ございません」
「……お前は
本当に優しいなあ、教授は。
「体の調子もいいので軽く走ってから自室に戻ろうかと思います。本当に、ありがとうございました」
「フン、さっさと帰りたまえ」
運動着に着替えても外は少し肌寒かった。
──けれども、だけど。心はじんわり温まっていた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「HAPPY HALLOWEEN!」
「馬鹿っぽいから食事の時に騒ぐのはやめろ」
「はぁ、王子様の仮想姿、見たかったな~」
「人の話を聞くことを覚えようかぁ、オマエは」
「でもなー。今日の王子様、調子がお悪そうだしなー」
「あら。そうなの?」
「うん。隠してはいるけど、確実に。顔色も悪いし」
「あ、ホントだ。大広間から出てったぞ。部屋に帰って寝るんじゃねぇか?」
「心配、王子様。大丈夫かな~?」
「体にいい物でも贈ったらどうかしら?」
「ナイスナイス! それいい考え!!」
「変なもん送んなよ?」
「ぶー、いくら差出人不明にするからってそう変なものは送んないよ!」
「怪しいなあ」
「怪しいわね」
「2人ともひどーい。もう今の私は昨日までの私じゃないんだよ! よ~し、矢でもトロールでも持ってこい!!」
「いや来たらオマエ死ぬだろ」
「瞬殺されるわね、きっと」