窓は無く、鉄の扉は硬く閉ざされ、その小部屋の中央には机があり、残り僅かな珈琲が入っているカップが二つある。そこはお世辞でも居心地が良いとは言えない。
その独房の様な部屋では、かすかな笑みを浮かべた男二人が談笑している。しかし、その笑みとは裏腹に、会話には何処か形容し難い緊張感があった。
「今回もまた凪沙頼りになりますね」
「俺にしたら月葉頼りさ、今回も」
ここで、凪沙、月葉という二人によってこの会話が構成されている事が分かる。
「私はただ貴方の留守を任されるだけですので褒められる事では無いです」
月葉は淡々と、感情を読み取られない様に言う。
「いやいや、こんな重大な仕事は月葉にしかこなせないさ」
「それ遠回しに自画自賛してますね」
「ああ、俺は自分に自身を持ってるからな。だから月葉は凄い」
凪沙の一切悪びれない答えに、貴方らしいです、と肩の力を抜き月葉は返した。
ポタッと雫が落ちる音がすると、月葉は少し寂しげに言葉を発する。
「それにしても...」
感情が込み上げて来たのか言葉を区切り、月葉は一息つき続ける。
「ここまでの道のりは長かったんですかね、それとも短かったんですかね」
凪沙は呟きの様なその言葉を聞き終えると、カップの残り僅かな珈琲を一気に飲み干し、月葉の言葉に答える。
「長かった。少なくとも俺はな」
凪沙の声は、これまでの談笑の様な雰囲気では無く、強い感情がこもっていた。
哀しみとも怒りとも取れないそれは、形容する事さえ烏滸がましいとさえ感じさせる。
「俺はもっと怠けたいんだ。疲れる事は時間が長く感じ過ぎていかん」
「それにしてはここ最近随分働いてたじゃないですか」
「今後怠ける為の貯金さ」
月葉はクスッと笑うと、懐から手の平サイズの機器を取り出した。
「ラジオです。持って行ってください」
「こういう時に渡すのは普通御守りとかだろ」
「貴方の場合身の心配をするより暇の心配をしたほうが良いと思いまして」
「大正解」
ラジオを手渡すと、月葉も残り僅かな珈琲を一気に飲み干し、少し勢いよく机の上に置いた。
「凪沙がいてくれて良かった」
「何だ急に気持ち悪い」
「いや、本当は凪......いえ何でもありません」
「そうか」
月葉は何かを言いかけようとしたがそれを呑み込む。
暫し沈黙が続く。雫の音が時の流れを刻む中、両者一瞬たりとも逸らさず、瞬きもせず、万感の思いがこもる視線が交差する。
「頼みました」
「ああ、頼まれた」
部屋から、二人の会話と雫の音が消える。
残るは空のカップと緊張感から解放され、増して静寂な小部屋のみ
次回はお待ちかね()の幻想入りです。