十五夜に影は蠢く 作:スフィンクス
鬱系主人公、怠惰系主人公は基本帰っても家かコンビニに行ってるだけ(偏見)なんで物語進めないと絡み辛いです。申し訳ないです。
朝一番に武松との一件があってから、その日の昼休みは少し面倒くさい奴に絡まれた。
普段は自分の席で作ってきたか持ってきている昼飯を食べて寝るか、適当に散歩するかなのだがその日常に今日は例外が入る。
「——お弁当、一緒に食べないか?」
「……」
何だこいつは、いきなり。
人が好んで一人で食べているのに、対した会話もしたことが無いのにも関わらず弁当を一緒に食えなんて。
「それは手作りの弁当なのか? 少し机を借りても良いだろうか?」
俺の返事も聞かずに話を進める彼女に少しの苛立ちを覚えるが、それを表に出すことはしない。
彼女との関係が悪化すれば、先ほどのようにクラスから悪目立ちするだろう。
つまり、今俺がすべきは適当な理由を付けて彼女から離れること。
「悪いな、今日は腹が減ってなくて食べるつもりは無いんだ」
弁当を出してるくせに何を言ってるんだと思うが、そこを突かれた時の補足説明は後で付け加えれば良い。
「そうなのか、残念だ……じゃあ少しお話をしないか?」
こいつは、頭は大丈夫なのか……
弁当を出してる状態で昼飯は食わないと言ってるんだ、普通は避けられてると考えるだろう。
「悪いな、頭が痛いから保健室に行くんだ」
頭に浮かんだ理由を咄嗟に言った。
「大丈夫かっ!? 義経も付き添いとして……」
「あー、別に良いよ。そこまでじゃないから……じゃ」
本気で心配してくれているのだろう。手をわなわなさせてこちらを見てくる。
しかし、別段と関わるつもりも無いので俺は逃げるように教室から出た。
◯ ◯
「あ、う。行ってしまった……」
「あちゃー、あれは完全に避けられてるだろうね」
先ほどまで十七夜と関わろうとしていた少女——源義経は家臣である武蔵坊弁慶の言葉を聞いて更に肩を落とした。
「義経は何か悪いことをしただろうか……?」
「悪いことまで行かないだろうけど、ちょっとずかずか入り過ぎたのかもしれないね。お弁当置いた時あいつは返事してなかったし」
「次は気を付ける……」
しゅんと子犬のように項垂れる義経を見て弁慶は心中で可愛い可愛いと連呼しまくる。
それと同時に気になるのは義経が接触を試みようとした青年、蓬莱山 十七夜のことである。
「あらあら、彼は義経でも関わるのは難しいですか」
「……葵君か」
「ふふ、今の落ち込んでいる義経なら慰めるついでに——おっと、冗談ですよ弁慶。怖いからその殺気は抑えて下さい」
主の身に不穏な気配を感じ取った弁慶はその主である葵冬馬に殺気を当てた。
「そのお詫びとして、彼のことを少し話しましょうか。と言っても私が知っているのはこの学園にいた一年と少しの間だけですけど……」
「葵君、話してくれ。義経は十七夜君がどんな人か気になるんだ!」
「そうですねぇ、じゃあ——
彼の名前は蓬莱山 十七夜。十七夜で‘‘かなき’’と読むのも彼だけしか居ないと言えるほど珍しいですが、もっと目立つのはその苗字——蓬莱山でしょう。この学園には学園長の趣味なのか様々な生徒が集まってきます。その中でも一番多いのは武将の血を引いた名前です。このクラスにも何人か居ますが特別有名ではありません。まあその点義経の‘‘源’’や弁慶の‘‘武蔵坊’’は目を引く方です。Fクラスには大和君の‘‘直江’’や‘‘椎名’’、‘‘島津’’に‘‘甘粕’’、さらに義経と同じ忠勝君の‘‘源’’。そしてこれだけの有名どころを並べても尚目立つのは彼の名前です。本人が男となれば私は更に興味が湧きました」
「……?」
「義経は知らなくとも良い世界だから気にしちゃダメ」
「入学式から接点も無く、周りの環境に合わせていくのに必死でしたから当初は彼のことを把握出来ませんけど一年の体育祭が来ると改めて彼のことに注意を向けました」
「——トーマー、何の話してるのー?」
「ユキ、蓬莱山君のことですよ」
「ああ、かなっきーのことか」
「話を戻しますが、彼は人との接触を避けているのではないのかと思ったのは体育祭とそれが終わってからです。体育祭が終わってクラスに纏まりが出来、初めの友人から更に輪を広げようとまだ知らない人に話しかけようとする時期に、何人かの生徒が蓬莱山君に目を付けたのです。名前も目立ちますから仲良くしようと思ったのでしょうね……ですが結果よろしくなく、蓬莱山君が面倒くさそうに対処してそれ以上は何もありませんでした」
「あ、トーマこれお弁当持ってきたよ」
「ありがとうございます。続きはお昼ご飯を食べながらでも話しましょう」
冬馬がそう言うと義経の席を中心に周りの椅子を幾つか借りてきて囲む。
途中まで聞いたからなのだろうか、あまり他人に興味を持たない弁慶も同席していた。
「私も何度か話したんですけど結果は似たようなものでして……。それで彼が人を避けていると疑念から確信に変わったのは二年の初めにあった遠足の目的地が日光に決まった時です。彼は遠足中見かけると必ず一人で居ました」
「そりゃあ一人で居たい奴なんだから普通じゃないの?」
「そうですね。普通ならばそう考えますが私が医者の息子と言う視点から考えればまた違ってきます。高校の遠足とは小中学とは違い、殆どの場合は全く知らない地に行きます。旅行などで行ったことがある場合もありますが、その地で単独行動出来るほど慣れていないでしょう。予め一人で行けば関係無いですが、人間の心理上知識の無い地に放り出されれば、仲良くなくても顔馴染みが居る場所に一人きりの時は寄って行ってしまうものです」
私が考えすぎなんでしょうけど、と付け加えると冬馬は続ける。
「ですが確信だと思っていた疑念も先ほどの様子で改めて確信になりましたね。義経があそこまでアピールして避けるのは、彼が一人で居たいよっぽどの理由があるのでしょう」
「うーん……」
冬馬の話を聞いて義経は頭を傾げながら唸る。
九鬼と言う財閥によって生まれた義経は常に那須与一と武蔵坊弁慶、一つ上の葉桜清楚と一緒に暮らしていた。清楚の方は教育カリキュラムが若干違うと言うこともあり偶に時間が合わない時もあったが、それでも弁慶達二人が居た。
そんな恵まれた環境だからこそ、義経は‘‘一人で居たい’’と言う考えは真の意味で理解出来なかった。
「一人で居たい、などと言う気持ちは大抵の場合過去に何かあったことが多いです。だから彼も、何かを抱えているのでしょうね」
「それってボクみたいな?」
「ユキは少し特殊ですからね…….」
「でもねー、かなっきーからもボクと同じような匂いがするんだー」
二人が話すのを義経と弁慶は眺めている。
特殊と聞いて何だろうと思い、声に出そうとしたがそれは不躾なため止めた。ただ、二人の様子から少し人と違っているのは予想出来た。
「一人で居たいと思う時もあるかもしれないが、義経はずっとそれじゃあダメだと思うんだ」
「人は一人で生きていくことはまず不可能ですからね」
「だから義経は十七夜君と仲良くなれるように頑張りたいと思う」
両手を握り締めながら決意する。
その様子を見ながら弁慶はふと思う。
(義経が人のためを思って動くことはあるけど、ここまでは初めてだねぇ……。それに最初から名前呼びだし)
クローンである二人は、それを肯定としない者達に狙われる。
実際に狙われたことは——九鬼が対処しているため——無いが、保護者であるマープルからは学校に行くにあたって仲良くする人物は選べ。感情移入し過ぎないために最初から名前呼びではなく、苗字から呼んで見定めろと言われた。
(偶々かなぁ、義経が忘れてるだけって可能性もあるけど)
「——葵君! 教えてくれてありがとう!」
(杞憂に終われば良いけど……)
「ただ……一度だけ、彼の名前をどこかで見た気もするんですよね」
冬馬の言葉を弁慶はぼんやりと聞いていた。
◯ ◯
「蓬莱山か……聞いたことはあるか?」
「わっちは聞いたこと無いな」
「同じく」
「蓬莱山とかスゲーカッコ良い名前だな。西方プロジェクトかよ」
川神学園の校舎裏、と表すのが正しいのかは分からないが余り人目に付かない場所で武松含む梁山泊五人は昼食を取っていた。
「あいつが昨日史文恭と闘ってた奴かは分からないが、兎に角同じ匂いがしたんだ」
「武松の鼻は何だかんだ言って頼りになるからな」
任務リーダーである林冲は、一度箸を置いて考える。
今回の任務はあくまでも虜俊義の可能性がある‘‘直江 大和’’の護衛。
曹一族の任務も人員確保による直江 大和の誘拐だ。だが、昨日史文恭は目的ではなく武松と同じクラスの男子生徒を襲った。
これから考えられることは二つ、梁山泊が掴んでいた曹一族の情報が嘘で最初からそちらが目的の場合。次に史文恭は直江 大和と共にそっちにも目を付けたと言う可能性だ。
曹一族の目的が直江 大和の誘拐ではなく、人員確保だったら二人とも狙われる可能性は高くなる……。でも、それだと川神市民の殆どに該当するぞ……?
「取り敢えず私は同じクラスだ。監視をしておく」
「分かった。来週辺りから史文恭も本格的に動くと内偵者から連絡があった。各々しっかり働くようにしてくれ。それと武松の監視は気を付けてくれ。史文恭相手でも引けを取らない相手だ、監視されているのがバレたら警戒されてこちらに何かしてくるかもしれない」
「了解だ」
梁山泊は思案に暮れ、曹一族は動き出そうとしていた。
◯ ◯
源義経から逃げ出すように教室を出た十七夜は人知れず屋上へと行った。
今時屋上が解放されている学校も珍しいが、太陽が照りつける中態々屋上に来る者も居らず一人きりである。
そんな中、十七夜は貯水槽によって影が差しているベンチで項垂れていた。
「腹減った、弁当食べたい」
育ち盛りの男子高校生だ、一番栄養補給出来る昼を抜いてしまえば中々代償としては大きい。
まあ、それも俺が人と関わるのが苦手——ではなく嫌い、嫌と言った考え方だから仕方が無い。既に自分では治せない部分まで来てしまっている。
「取りに帰ってまた会うのも面倒くさいし……」
夏の日陰場は周りの温度差もあって心地良い。そのため眠くなってくる。
「てか何で源義経が話しかけてきたんだろ」
無意識に寝ようとしている頭を動かすように考える。
どうでも良いか……
関係無いし、怠い。
蓬莱山 十七夜は昨日と今日の出来事を忘却するために眠る。
次起きたらいつも通りの生活に、誰とも関わらない日常があると信じて。
ギャルゲーが原作の二次小説って難しいですよね。
ギャルゲーは背景があるから多少早くても十分理解できるけど、小説の場合は背景描写+その他多数って感じで文字数が増えて……
私はうまくバランスを取れてるか分かりませんけど、他の作者さんは凄いと思います。