十五夜に影は蠢く   作:スフィンクス

4 / 7
今話からなるべく主観的な描写を無くしました。そのため作風が変わったと思われるかもしれません。
一から三の改編についてはまた折り合いがつけば直します。





十七夜→かなき

改めて。


夕月

 

 

——深夜

 

一人の男が歩いていた。

身長は百八十に届いたところで髪は眉にかかる程度。外から見て筋肉があるのかと問われればそれは不明だが、素人目から見てもある程度動けるのだろうと理解出来る。

そして何より、彼を見て特徴があるとするのならばそれは眼——三白眼だった。

 

「——おっとニイちゃん、ここを通るなら交通量くれよ」

 

「分かるだろ? 小遣いだよ小遣い」

 

男が歩いていた場所は目立つほど治安が悪い場所ではない。

しかし、良く町のチンピラが居ることで有名で自分から近づく者が居ないのも事実だった。

 

路地裏から出てくるように道を遮ったチンピラ二人は男を囲むように移動する。

一人は比較的長身の彼の肩に腕を回して威圧する、もう一人は目の前で金を寄越せと恐喝した。

 

一般人ならばその恐怖から、焦って金を出しただろう。

 

だが、彼は違う。

そんな事に怯えるほどヤワではない。

 

「あぁ? 何処に行こうってんだ?」

 

男は肩に回された腕を適当にふりほどきながら歩みを進める。

先程チンピラ二人が出てきたとこにである。

 

「——へへっ、態々人目につかないとこで渡すなんてわかってんじゃねえか」

 

下卑た笑みを浮かべながら搾取しようとする。

 

が、今現在彼ら二人が見たのは日本紙幣や貨幣と言った金ではなく黒色だった。

詳しく説明すると、‘‘見た’’のではなく‘‘それしか無い’’という状況だ。

 

「——ほんと、お前らみたいな奴は嫌いだ」

 

そう言ったのが誰かは分からない。

チンピラが言ったのか、それとも絡まれていた男が発したのか……はたまた見知らぬ第三者かも知れない。

 

しかし、これだけは断言出来る。

 

夜、月と太陽によって作り出された——影の世界で彼を捉えられる者は誰も居ない。

 

 

 

 

 

◯ ◯

 

 

 

 

 

武松が蓬莱山の監視と真実の見極めを始め、義経が十七夜と友人になると決めてから一週間ほどが過ぎた。既に六月は過ぎ去り、夏が迫って来たのか川神学園生は夏服へと変化している。

そんな中、二人の成果は著しく無かった。

 

「この前弁慶と水族館に行ったんだ。ペンギンくんがとても可愛くてな」

 

 

「すまない蓬莱山。授業でここが分からなかったんだが……」

 

と、話しかけても十七夜は「ああ」「うん」「俺以外にも賢い奴はいる」などとはぐらかして席を立って何処かに行くと言ったものだ。

 

そんな二人を尻目に十七夜は何処に行くのかと言うともっぱら屋上だった。

夏も近づいて来て流石に日向は暑いが日陰は現役で、このままだと気温が上がっても熱中症になる心配は無いだろう。

 

しかし、うとうと寝ようかと思っていた十七夜は屋上への来客に気付き、座り直した。

流石に他人の前で寝顔は見られたく無いのだろうか、或いは別の考えがあったのかも知れない。

 

「……」

 

「……」

 

扉の方に反射的ではなく意図的に眼を向けると視線が交差する。

 

一瞬の内にそれが知らない人物だと把握すると十七夜は目を逸らし、僅かに吹く風を感じた。

 

さしもの来客者は、そんな十七夜を眺めながら目の前のベンチに座った。

‘‘彼女’’が何故、態々十七夜の目の前のベンチに座ったのかは分からない。近かったからなのか、空を眺める十七夜を観察するためなのか。

 

「…………。よくここに来るのかしら?」

 

沈黙の中、彼女の方が口を開く。

 

「たまに」

 

それに対して十七夜が答える。

大した話も続けられない雰囲気が続くと思ったが、それを良しとしなかった彼女が言葉を発した。

 

「ここは良いわね。誰も居なくて、花がある。風も吹いていることもあれば、太陽が見えて空が広がっている。山育ちの私にとっては物足りないけれど落ち着くわ」

 

「空が好きなのか? 好きなんですか?」

 

不器用に敬語を使おうとした十七夜に彼女はクスリと笑みを浮かべた。

 

「別に無理して敬語を使おうとしなくてもいいわ。寧ろ、変な敬語だとこっちも疲れるから」

 

「そうか。ありがとう」

 

無愛想な返事に彼女は面白そうな人だと興味を持つ。

そして、先程十七夜に聞かれた質問に答える。

 

「空って、なんか曖昧でしょう? 海と空の境界が地平線なんて言われてるけれど、その地平線は触れれるわけではない。何処から何処までが空なのか、何処から空が始まっているのか。始まりと終わりがはっきりしていなくて、何故存在しているのかも理解出来ない。だから曖昧」

 

「……」

 

若干俯きながら語った彼女はふと前を向く。

すると、今改めて十七夜と眼があった。

よくみると、その眼は三白眼で倒した半月のようになっている。色は真っ黒、そこに‘‘空洞’’があるのではないかと思うほどだった。

 

それを意識した彼女は心臓が跳ね上がるのを感じた。

トクトクと拍動し、血流が激しくなるのが分かる。

暑さのせいか、とも考えるが今居るのは日陰で日向との寒暖の差で何十分と居たら寒いと感じるほどだ。なら、この胸の高鳴りは何なのか。

 

そして高鳴りを感じさせたその眼は同時に話の催促をしているようにも感じた。

 

「……それに、空は不思議。太陽が赤色に輝いているのに蒼い。何処までも果てしなく蒼が続いていて……。——自由に見える」

 

自由、そう言った彼女の言葉は一番の感情が篭っていた。

 

「昼間の、太陽が昇っている空は紛い物だ——」

 

彼女の話を聞いていた十七夜は口を開く。

 

「太陽(ひかり)が本当の空の色を奪っていて真実を見せようとしない。蒼い空には何も詰まっていないし、広がるのは虚。見れば見れば吸い込まれるような感覚だけ。それに対して夜空は詰まっている。嘘を語ろうとせずに、初めから中身を見せてくれる」

 

中身を知らないモノには初めから関わらない方が良い、最後にそう付け加えると十七夜は立ち上がった。

 

「俺はもう帰る」

 

「最後に名前を教えてくれるかしら。私の名前は‘‘最上 旭’’。三年S組、評議会議長をしているわ」

 

「蓬莱山 十七夜、二年のSだ」

 

十七夜はそう言うと屋上から出て行った。

 

 

 

 

 

◯ ◯

 

 

 

 

 

——私は夜は好きですよ? だって、お月様やお星様が見えてとても綺麗じゃないですか。それに、昼間の空と違って中身が見えますからね。

 

屋上から教室に戻る途中、十七夜は幼い頃を思い出していた。

産まれた時から一緒に居た彼女は変な名前の十七夜を疑問に思うことなく受け入れてくれた。

 

彼女は今、どうしているのだろうか。

あの十五夜から見ていない。

 

「おわっと!? すまねぇ、ぶつかるとこだった」

 

廊下の角を曲がる時に一人の男子学生が走って来た。

唐突な事で硬直するかと思われたがお互いに余裕を持って避けた。

 

誰だこいつ——まぁ良いか

 

直ぐに自問と自答を終わらせると会釈をし、歩いて行く。

 

「何だあいつ? 変な奴っぽそうだけど面白そうだな……っと、こんな事しとてる場合じゃねえ!」

 

十七夜にぶつかりそうになったバンダナの男子生徒は直ぐに切り替えて階段を降りて行った。

 

今の出来事に対して十七夜が棘を吐くことも、舌打ちをすることもない。

誰からに聞かれているかもしれないなどという考えではなくただ、‘‘どうでも良い’’‘‘間が悪かった’’と思うだけだ。

教室の戸を開ける。

一瞬何人かがこちらを向くが十七夜と分かるや否や視線を戻した。

 

自分の机へと歩いて行く数メートル、今日は珍しく武松や義経以外に絡まれる。

 

「——ちょっと待てよ」

 

「——止まれ」

 

あゝ、面倒臭い。そう思った。

チンピラなのかは分からないが十七夜は昨日もこんなことがあったなと思い返しながら相手を見据える。

 

「最近ちょっと義経ちゃんに話しかけられて調子に乗りやがって」

 

「武松に話しかけられても適当に返事して、どっかに行ってさ」

 

成る程、と十七夜は考える。

要するに彼らは嫉妬しているのだ。こちらが望んでいないにも関わらずに話しかけられている状況に。

しかし、態々最初から核心を突いて相手を怒らせるような真似を十七夜はしない。まず初めにこの二人に言うのは——

 

「お前らが誰かは知らんが、早く教室に戻れよ。もう直ぐチャイムが鳴るぞ」

 

逆撫でをするような言葉である。

Sにいる生徒たちは基本的に、一部を除いて自分が偉いと思っている。事実、九鬼英雄や天才である葵冬馬。軍人として結果を残しているマルギッテ・エーベルバッハのような実際に偉いと呼べる人間が居るのだから、その集団の中で一緒に居るだけで自分も偉いと驕ってしまうのは仕方ないことなのかもしれない。

 

「お、まえ! 俺はこのクラスだ!」

 

「ばかにしやがってぇ!」

 

「そうかどうでも良いけど。あと、源義経や武松に話しかけられて俺が適当に返事をしてるって文句を言ってくるが、それの何が悪いんだ?」

 

この質問を問う中、十七夜は一体どんな回答をして来るのか予想し、その回答全てに合う反論を考え出している。

 

「可哀想だろ! 態々お前みたいな友達が居ない奴に話しかけてやってるんだぞ!」

 

「お前みたいな奴にも声をかけてやらなければならない二人の気持ちを考えろよ!」

 

支離滅裂とはこのことだろう。

彼ら二人は当たり前のことを言っていると思っているのだが、第三者が居れば理解不能なことを口走っていると解釈するのは容易である。

だが、先程と同じく核心を矢鱈滅多ら突いていく十七夜ではない。

 

「別に頼んでなければお願いもしていない。俺は「——どうしたんだ?」……」

 

徐々に外堀を埋めて核心を突こうと十七夜が思っていると背後から声がする。

この一週間よく聞き続けた声音だ。

 

「……あぁ、武松ちゃん。別に何もないよ」

 

「う、うん。僕たちはただ話し合っていたんだ」

 

絡んで来た二人は動揺するが何事も無かったかのように取り繕う。

が、それを見逃すほど十七夜は甘く無かった。

 

「俺がお前によく話しかけられていることが気に食わないらしくて、文句を言ってきた」

 

「なっ!?」

 

「お前!」

 

十七夜にそう言われた武松は言葉全体について理解するよりも‘‘話かけられている’’という点に反応した。

 

(はぁ、良かった……一応私に話しかけられていると思われているのだな)

 

この一週間、武松は十七夜に何度も何度も話しかけた。その数は自分に話しかけてくるクラスメイトよりも多い。最初のうちはそのうち話してくれるだろうと思っていたが二、三日経ってもぼんやりとした返事ばかり。Fクラスで好きでもない男を好きだと宣言した豹子頭を考えると真面目な武松は躍起になった。

 

つまるところ、武松にとって蓬莱山 十七夜に話しかけるのは既に‘‘日常’’と化していたのだ。

 

だが、ここ最近は不安に思っていた。

幾ら何でも返事が適当過ぎないか、と。こっちが単語を詰めて文章を送っても、質問をしても最高三単語が帰ってきたくらいだ。それが昨日の出来事なのだが昨晩密かに胸の前で拳を握ったのは内緒である。

そして、まさか今文章となって話しかけられるとは武松は思わなかった。

 

「あ、ああ。そう思ってくれるのは嬉しいが……。十七夜に話しかけているのは私が話したいから話しかけているんだ。心配しないでくれ」

 

と、十七夜より前に出て行った。

 

「なんで……」

 

「あいつの何処が」

 

名前も知らない二人はどうでも良い、今やるべきことは話を切り上げて十七夜と更に話の輪を広げるだけだ。

一応十七夜がどんな内容に反応を見せやすいかはこの一週間の苦労で何となく分かった。

 

「——十七夜、昨日の……あれ?」

 

背後にいるはずの十七夜は居ない。

何処に行ったのだろうと前を向くと既に当人は机に頭を伏せていた。

 

「はぁ……」

 

また一からやり直しか。少し成果が出たかと期待した武松だったがそうはいかなかった。

蓬莱山 十七夜が心を許して話せる人物は未だに現れない。

 

 






頑張れ武松。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定